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第196回:WMAロスレスの音楽配信サイト「@MUSIC HD Sound」
〜 小室氏とavexが提唱するHDサウンドとは? 〜




@MUSIC HD Sound

 既報の通りエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社は4月11日、音楽配信の高音質化を目的とした機関「High Definition Sound laboratory」(HD Sound Lab.)を設立し、通信キャリアやハードウェアメーカーと協調して、高音質環境の構築を推進していくことを発表した。

 その第一弾として、エイベックス ネットワーク株式会社は6月15日より、高音質な音楽配信サイト「@MUSIC HD Sound」を開設し、配信を開始した。まだ、実験の場といった位置づけのため、大々的なプロモーション活動などは行なわれていない。

 しかし、16bit/44.1kHzのサウンドをWMA形式のロスレスでの配信したのを皮切りに、globeの新曲CDリリースを前に、CDマスタリング前の24bit/96kHzミックスダウンをそのままWMAロスレスで配信するなど、これまでにない非常にユニークなサービスが展開されている。

 HD Sound Lab.設立のニュースを聞いた時から、プロジェクト名が「High Definition Sound with TK」で、あの小室哲哉氏とのパートナーシップのもと、音楽配信時代の高音質のあり方を研究・実験し、将来のあるべき姿を模索する、とあったのが気になっていた。

パネルディスカッション

 すると、ひょんなことから6月20日に「@MUSIC HD Sound」のオープニングについて通信キャリアやハードウェアメーカー向けに行なった説明会に、パネルディスカンションのパネラーとして呼ばれることになった。そこで、小室哲哉氏と、そのプロジェクトについて直接話しをする機会を得た。

 このパネルディスカッションは私自身のほか、小室氏を中心に、エイベックス ネットワーク取締役の前田治昌氏、サウンド&レコーディングマガジンの國崎晋氏、そしてDTMマガジンの編集長である寺島明人氏がコーディネーターという形で行なわれた。

 今回のDigital Audio Laboratoryでは、パネルディスカッションの内容とともに、エイベックス ネットワークの前田氏にインタビューした、HD Sound Lab.での具体的な手法などを紹介する。(以下、敬称略)


■ −アナログからデジタルへ− メディア変遷の時代

小室哲哉氏
「High Definition Sound with TK」プロジェクトのエグゼクティブ・アドバイザーを務める小室哲哉氏

小室:ぼくは'84年デビューなので、当然アナログレコードの時代でした。革新的だったのはやはり途中でCDに変わったこと。アナログ時代から、PC-9801にカモンミュージックのソフトを使って音楽を作っていたこともあり、音的にはCDの時代にうまく乗れたかなとは思っています。

 その後、MDが出てきたりいろいろありましたが、'98年だったかに、MP3を使い通信でやりとりができるのを知ったのは画期的だと思った。当時は結構時間はかかりましたけど。その後Napsterみたいのが出てきたり……。

寺島:現在、いちばん音がいいメディアをCDと捉えられている人が多いと思いますが、果たしてCDがベストなのでしょうか?

小室:だいぶ以前から、ぼくたちが最終的にマスターとして納品するのはDATであり、その時代が長く続きました。DATは48kHzですから、CDの44.1kHzよりもいい音でした。そういう意味では当初からCDが一番いいとは思っていませんでした。一方、難しかったのがCCCD。いくら理論的に音は変わりませんよと説明されても、ぼくでさえ、何かマスキングされているような感覚が否めなかった。

寺島:昨今のDSP技術の向上によって、レコーディング環境はよくなっていると思いますが、CDの規格自体は16bit/44.1kHzでとどまっています。実際のスタジオの現場ではどのような変化がありますか?

國崎:先ほど小室さんもおっしゃっていたように昔からDATというものがあり、48kHzであったため、CDを超えたものとなっていました。もちろん、この10年でものすごい技術の進展があり、現在は24bit/96kHzでミュージシャンは音楽を作っています。つまり、もはやCDでは収まらない音を作っているということは断言していいと思います。


■ −32ビット/384kHzの夢− 高品質フォーマットの影響

寺島:果たして高音質でレコーディングはミュージシャン、リスナーにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

前田:今、DATの16bit/48kHzという数字が出ていましたが、実際エイベックスで立ち上げた@MUSIC HD Soundというサイトでは、CDよりいい16bit/48kHzでの音の試聴とダウンロードを始めています。いきなりこれでビジネスをして大もうけしようというわけではなく、まずはみなさんへの投げかけだと捉えていただけたらと思います。つまり、日常でDATを使っている人はいないけど、こんなにいい音がネットできけますよ、という投げかけです。

※注:CDではなくDATをマスターにロスレスエンコードしたデータが、6月15日(その後6月22日に一部訂正版をアップ)に公開されているが、WMAのフォーマットの関係から16bit/44.1kHzにダウンコンバートされてしまっている。

寺島:アーティストから見て、高音質になることのメリットとはどんなことですか?

小室:現在はほぼ24bitでのレコーディングしており、コギと歌だけでもProToolsを使って24bit/48kHzとか96kHzを使う時代です。こうしたレコーディングを行ない、プレイバックすると「いいね、ブレスの感じが聴こえているね。悲しい感じ、むなしい感じが出ているね」なんて満足する。でも、それがCDになるとどうか。マスタリングには事情があって行けなかったりすると、納品されて、サンプルが届いたとき、アーティストや、ミュージシャンは「アレ? 」と思うんじゃないか? 「あのときのオレのため息、ブレスみたいなのが聴こえていない」と。

 ぼく自身のちょっとしたエピソードもあります。'90年代にシンクラビアというものを使っていた時期があり、これは最高100kHzでのサンプリングでレコーディングできたんです。当然最終的には44.1kHzに落とすということはわかっていたけれど、興味本位で使っていたんです。そのときハードロックに凝っていたので、'92年ごろナイトレンジャーのギタリストをアメリカから呼んで、参加してもらい、レコーディングを行なってみた。

 当時、彼は速弾きで正確ということで売っていて、確かにすごく正確な音、リズムを持っていたんです。ところが、シンクラビアの音をプレイバックした途端、本人は憤慨。「これは本当にオレの音か?」。ぼくたちはほとんど気にならなかったんだけど、ピッキングノイズとか、ズレとかが再現されてしまって……。ちょっともめたんで、再度レコーディングしたけど、結局同じ。「でもこれで出すんじゃないんだろ」って急にポジティブになって、彼、練習しだしちゃったんですよ。その後、結構時間がかかったんだけど……。

 つまり、高音質になるとわかってしまうミスやノイズをCDの質に落とすことで、マスキングできるメリットもあるんです。ビートルズ、ストーンズみたいな、もっといえばドアーズやジミヘンみたいな音がいいという人は後からいくらでも好きなだけローファイにすればいいんです。でも録るときは、できるだけいい音にしておき、素材として持っていても悪くはないだろう、と思います。

寺島:実際に高音質で録音したオーディオをユーザーが聞く環境はどうなってきていますか?

藤本:一般の人たちにはまったくそうした環境がないに近いと思います。オーディオであれば、DVD-AudioやSACDはありますが、ほとんど普及していないのが実情。24bit/96kHz、24bit/192kHzはDTMをしている人たち、またレコーディングしているアマチュアの人たちの間にはかなり普及してきており、すでに無視できない数にはなっています。そのための機材も安くなってきている。もちろん、これらを再生用のデバイスとして生かすことも可能ですから、ソフトコンテンツが、高音質になっていることをもっと訴えれば、さらに普及するのではないでしょうか。

寺島:ところで、このパネルのタイトルともなっている32bit/384kHzというのは現実的なものなのでしょうか?

國崎:またプロのレコーディングの世界でも32bit/384kHzというところまではきていません。24bit/96kHzというのがようやく普及してきたところで、人によっては24bit/192kHzを使っているという程度なのが実情です。ただ、思い返してみればDATの16bit/48kHzのところから、96kHzになるところまでわりとすぐだったと思います。

 まだまだ夢のようなことと思っていたら、あっという間に96kHzの時代になった。普通のアマチュアが買えるオーディオインターフェイスでも96k、192kHzに対応している製品がいろいろあります。それを考えると、プロが384kHzを使う時代は意外にすぐ来るのかもしれません。

寺島:では、高音質フォーマットのロスレス配信で届けられるようになったとき、アーティストの立場としてどんなメリットがありますか?

小室:選択できるようになる、ということが最大のポイントでしょう。一番いい音から、ローファイまでどれにするかを個人個人が選べる。とくにクラシック、ジャズ、インストといった曲、また声質を売りにしている作品などでは、高音質フォーマットによって大きな恩恵が得られます。このように、選択肢が広がるということはいいです。

前田:レコードメーカー、コンテンツプロバイダは単純にエンコードして、届ければいいという流れがありました。でも音楽を聴く場所が、家や車の中だったり、通勤通学中だったりと多様化し、持ち歩きたい楽曲数も選択できるようになるなど、ユーザーが選べる環境が整ってきました。でも。ぼくらが提供してきたのは、1つもしくは2つでしかなく、ユーザーのほうが先に行ってしまっています。こうした環境にマッチした選択肢を示せるようにならなくてはいけないと考えています。


■ −圧縮音楽の台頭− 現代の音楽を取り巻く環境

寺島:エイベックスでは、6月15日より@MUSIC HD Soundをスタートさせました。これについて、簡単に教えてください。

前田:CODECとかDRMという部分では、これまでWMA、ATRAC3など現在存在する方式で配信してきました。しかし現在使っている128kbpsとか132kbpsというのは、ナローバンドの時代に決められたファイルサイズで、1曲あたり5、6MBくらいです。それに対して、@MUSIC HDではその7倍くらい。つまり35MB程度のファイルサイズのものを配信しています。昔からしたらトンでもないサイズですが、今の光ファイバ、ADSLならストレスなくダウンロードできるでしょう。インフラが整ったのにもかかわらず、いい音で届けるということを、あまりしていなかったと思います。逆にDRMなどばかりに目が行き過ぎていたな、という反省もあります。

寺島:アーティストは少しでも音が劣化するということに抵抗があるのではないかと思うのですが、小室さんとして圧縮オーディオに対する意見、イメージはどんなものでしょう?

小室:実際、メリットを実感しています。先日アトランダムに携帯の着うたをダウンロードして聴いてみたんです。キャリア、携帯端末の種類、サービスなどさまざまなものを試しましたが、全部音が違うんです。歌が非常によく聞こえるように作られているな、など。確かに圧縮されて、劣化はしていると思うですが、それで気持ちいいと思える状況にはなっている。やはり圧縮がダメということではなく、悪いことだけではないでしょう。それよりも早く聞きたいとか、先取り感が嬉しいかもしれない。これはひとえに、マスターを預かって、実際に配信する人たちの努力の賜物。その努力が感じられます。

寺島:圧縮方式というのはいろいろあります。でもCDからリッピングするから音が悪く、元がハイビット、ハイサンプリングのものであれば、同じビットレートでも高音質化するというような話を以前、藤本さんがしていたと思いますが、この辺を改めて教えてもらえませんか?

藤本:iPodなどの携帯型プレイヤーを使うとき、普通はCDをハードウェアに添付されるツールを使ってエンコードします。一方で、音楽配信サイトから買ってくるものも、結局CDからエンコードしているわけで、自分でエンコードした結果とほとんど変わらないのが実情です。もし、買った音が自分でエンコードするものよりもいいのならば、あまり嬉しくないと思います。

 そもそも圧縮された音はCDと比較して音質が悪いのは間違いない事実です。一方で、24bit/96kHzなどの音から別のマスタリング処理をしてエンコードするともっといい音になるという事実もあります。やはり買う立場から言えば、少しでもいい音のデータを配信してもらいたいですね。そんな中、エイベックスが@MUSIC HDで面白い展開をされるという話を聞いて非常に興味を持っています。

前田:1ユーザーとしてもそう感じるし、先ほどの反省に立っていうと、単なる反省だけでなく、環境が整ってきたので、そっちに行かなくちゃいけないだろうな、と考えています。


■ −高音質と圧縮音楽− ブレイクする両極端との整合

國崎:現状、レコーディングスタジオでは、ミュージシャンはミキシングエンジニアとともに24bit/96kHzでミックスダウンします。ここまでがレコーディングスタジオの仕事で、そこからは場所を移してマスタリングスタジオで、マスタリングエンジニアが行います。そして現時点ではCDというメディアしかないことを前提にマスタリングが行われていて、16bit/44.1kHzへ変換するにあたり、できるだけいい音になるように作業しています。それが選択の幅が広がりに応じて、iPodならこう、携帯の着うたではこうと、別々にマスタリングすることで、音質は大きく向上することを、うちの雑誌で一度実験をして確認しました。まだ誰もやっていないだけですから、チャンスはこれからだと思います。

前田:エイベックスでもCDからではなく、マスターからという考え方は当初からあったんです。しかしスピードの問題や配信用のマスタリングを、現場の運用でどうスムーズにこなすのかといった課題がありました。これらの課題はHD Sound Lab.の研究テーマとしても取り組み、レコーディングから配信までの効率的なフローを構築しているところです。

寺島:今後、圧縮の形態はどうなっていくんでしょうか?

藤本:MP3が普及してきたのはここ7、8年。その後WMAができたり、AACが出たりしたが、どれもそれほど音は変わっていません。一方で、最近話題になっているのがロスレス。先ほど、@MUSIC HD SOUNDではロスレス配信を開始したということでしたが、やはり嬉しいことです。さらに欲をいえば、24bit/96kHzのロスレスなんかも出して欲しいですね。先ほど前田さんもおっしゃっていたように、現行の128kbpsや132kbpsといったのはナローバンドをベースに規定したもの。でも、さらにブロードバンド化が進み、高速になれば、24bit/96kHzを非圧縮で送れる時代も近いかもしれません。


■ −音楽環境とアーティスト− HD soundで目指すべき未来

小室:音質の向上について、一貫していえるのは、ミュージシャン、アーティストの向上というのにつながっていくということです。進歩した技術の使い方を、「走っているけど、編集してズラせばいいや」とか「音がはずれちゃったけどピッチクォンタイズを掛けて合わせておこう」、「最後トータルコンプでまとめちゃえばなんとかなるよ」、といった考えが先行した時期がありました。しかし、ここにきて、一番元を出す人間がしっかりしないと伝わっちゃうよ、という状況へと変わってきました。16bitが24bitになると伝わるものがある。今後は、ミュージシャンがクオリティーをあげる、そういう雰囲気が出てきたように思います。

前田:携帯やポータブルプレイヤーを含めて、音楽配信によって持ち運べる気持ちよさを提供してきましたし、これからもやっていきます。でも、これからは耳を奪われるような感動できる音質の追及も必要。このHD Soundの方では、もう一度音楽や音質にこだわって、エイベックスらしいやりかたで挑戦していきたいと思います。


■ HD Sound Lab.での圧縮手法とは?

 今回のパネルディスカッション中では、globeの曲の24bit/96kHzのミックスダウンデータや、マスタリング後の16bit/44.1kHzのサウンド、またそれを128kHzのWMAに圧縮した音などを聴き比べながら、音に対する論議も繰り広げられた。

 なお、前田氏の発言内容に注を入れたが、この実験段階といえる@MUSIC HD Soundでは、ちょっとしたトラブル(?)も発生している。パネルディスカッションの中では、DATをマスターにした16bit/48kHzをロスレスで配信していると説明しており、エイベックスの現場担当者からも同様の説明をもらっていたのだが、15日にアップされていたロスレスのデータは16bit/48kHzではなく、16bit/44.1kHzだった。

 わかりにくいという声があったのか、15日にアップされたデータが22日に書き換えられ、16bit/44.1kHzという表記がされるようになった。個人的には、ロスレスでの配信が国内でスタートしたということだけでも、音楽配信の大きな前進だし、大々的にアピールすべきことだと思うが、「たかがCDクオリティーをHD Soundと呼ぶのか」という声がBLOGなどに上がっていたのも事実。

 それへの反論というわけではないと思うが22日に、ついに24bit/96kHzのWMAロスレスのデータも、「Here I am」1曲という限定ではあるが、リリースされた。しかも、CDのリリース前のネット上での高音質販売となったのだが、その後、2002年にリリースされたglobeのアルバム「8 YERS 〜Many Classic Moments〜」がすべて24bit版として追加された。

WMAのフォーマットの関係から16bit/44.1kHzにダウンコンバートされたページ 「8 YERS 〜Many Classic Moments〜」の配信曲はすべて24bit版に

 この実験サイト、まだまだいろいろな動きがあって面白いので、こまめにチェックしてみるといいだろう。


前田治昌氏
エイベックス ネットワーク株式会社 取締役COO兼デジタル・ディストリビューション事業本部長 カスタマサポート部長兼システム部長の前田治昌氏

 パネルディスカッションに先立ち、エイベックス ネットワーク株式会社 取締役COO兼デジタル・ディストリビューション事業本部長 カスタマサポート部長兼システム部長である前田治昌氏に、HD Sound Lab.での圧縮手法などについて聞いた。

藤本:HD Sound Lab.っていうのは、具体的に何をするんですか?

前田:第一弾として、いろいろなマスタリングをするスタジオを作ろうと思っています。今夏のオープンを目指しており、DAWとしてProTools HD-1やSonic Studio HDはもちろん、Audio Cube、Pyramixなども導入していく予定です。これらの機材を利用し、携帯電話をはじめさまざまな音楽配信のためのデータ制作を行っていきます。非常識かもしれませんが、圧縮音楽のためのマスタリングがあってもいいじゃないかと考えています。


HD Sound Laboratory Studio導入予定機材。今後変更の可能性もある

藤本:CDとはまったく別にマスタリングするということですね?

前田:そうです。実際、携帯電話で着うたを聴いてみればわかりますが、再生する機種によって音がぜんぜん違います。本当にいい音を出そうと設計している機器があれば、何も考えていないようなものもある。だから、本来なら、すべての機種用に別々のマスタリングを行ないたいところなんです。もっとも、そこまでやる余裕はないので、優先順位をつけて行なうつもりですが。

藤本:具体的にはどんなことを行なうんですか?

前田:マスタリングですから、機器の特性によってEQを調整したりしていきます。CDのマスタリングはとにかくコンプを使ってつぶす方向にあります。確かにこれで音圧を稼ぐことはできるのですが、コンプを掛けることによって、圧縮しにくくなるという事実があるんです。まあ、コンプで圧縮しているのですから、当然のことかもしれません。

藤本:確かに、圧縮は聴こえにくい音、影に隠れた音を消していくため、予めコンプを掛けてしまうと、そうした成分が少なくなりますから、圧縮はしづらいかもしれませんね。

前田:だから、ここではコンプでつぶすのをやめて、ダイナミックレンジを生かす方向でマスタリングしようと思っているんです。

藤本:なるほど、ただ、その結果、音は高音質になるけれど、音圧が足りないと感じる人が出てくるかもしれませんね。まあ、これはトレードオフの関係にあるので、どこか妥協点を探すかないかもしれませんが。ちなみに、このマスタリング、どの圧縮CODECでも同様に通用するものなのでしょうか?

前田:本来は機種ごと、CODECごとに違うのかもしれませんが、この辺は現在研究中です。ただ、実際には比較的汎用的に扱える圧縮音楽用のマスターを作るといったことになるかもしれません。


■ 24bit/96kHzデータから直接エンコード

藤本:では、もう少し、そのマスタリングの流れを教えてもらえますか?

前田:従来はCDもしくは、CDの元になったマスタリング後のSonicのデータをもらってエンコード作業を行なうのですが、ここはあくまでもマスタリングなので、ProToolsのデータをもらうことからスタートします。実際、小室さんからはglobeのProToolsデータを4、5カ月前にもらっていて、それを使っていろいろと試しているところです。

藤本:つまり24bit/96kHzなどの2chミックスダウンのデータを直接もらい、これにコンプをあまりかけずにEQで調整していくということですね。

前田:その通りです。小室さんの場合、24bit/96kHzとともに24bit/192kHzのものも結構あるようですよ。

藤本:このEQをいじったデータを一旦16bit/44.1kHzへ変換して、各フォーマットへエンコードするわけですか?

前田:いいえ、この24bit/96kHzのデータから直接エンコードするんです。

藤本:そんなことでできるんですか?

前田:フォーマットにもよりますが、できるようですよ。実際WMAなどは、直接24bit/96kHzなどがサポートされていますから。

藤本:大変そうな作業ですね。EQをいじっても、ProTools上の音を聴いてもほとんど意味はなく、それをエンコードさせたものをポータブルプレイヤーで聴いて初めてどうなのかが分わり、再度パラメータを変更させるわけでしょ?

前田:リアルタイム処理でないために、手間はかかりますが、これによってノウハウはたまっていくと思います。

藤本:でも、これで本当にいい音になるのであれば、配信された音楽を買う価値が出てきますよね。結局CDから自分でリッピング、エンコードしても同じだとしたら、あまりにもつまらないですから。CDと比較すると、それを上回るわけにはいかないでしょうが……。一方で、これは市販されていない音源ということになりますから、まさにリマスタリングバージョン。そのアーティストのファンならぜひ欲しいと思います。

前田:そんなことがキッカケでもいいので、音楽配信がもっと浸透してくれると嬉しいところです。単なるデータをダウンロードする行為としての音楽配信ではなく、良い音楽に良い音で出会う「場」としての音楽配信を目指したいと思います。


□エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社のホームページ
http://www.avex.co.jp/
□エイベックス ネットワーク株式会社のホームページ
http://cavex.avexnet.or.jp/
□@MUSIC HD Soundのホームページ
http://hd.atmusic.jp/
□関連記事
【6月23日】USEN、globeの新曲をLosslessのHD 24bit形式で配信
−16bit Losslessも22曲用意。価格は各210円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050623/usen.htm
【6月20日】エイベックス、高音質音楽配信「@MUSIC HD Sound」開設
−WMA9 Lossless形式。試聴も可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050620/avex.htm

(2005年6月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp
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