~ MP3エンコーダにまつわる噂を検証 ~ |
6月28日発売のカラー液晶搭載/Podcast対応iPod |
何をどうすれば、iPodでMP3をいい音で聞けるようになるのか、いろいろと試行錯誤をしながら、ベストな方法を模索していきたい。
iTunes 4.9 |
鵜呑みにはできない話だが、以前このDigital Audio Laboratoryでの実験でも、同じビットレートならAACのほうが高音質という結果が出ていた。AACと比較してそう感じているだけ、という可能性もあるが、iTunesでのMP3エンコーダのデフォルトの設定がよくないという可能性だってある。これは試して見る価値がありそうだ。
一方で、最近気になっているのが、先日取り上げたエイベックスの動き。つまり、単にCDからエンコードするのではなく、ミックスダウンしたマスターからポータブルプレーヤー専用にエンコードすることで、音質を向上させるという内容だ。現状では、@MUSIC HD Soundのサイトで実験的に行なわれているだけだし、ロスレス圧縮なのでオリジナルからの劣化はないわけだが、今後、音楽配信用にマスタリングを行なうということなので、どんな方法を使うのかなどは興味のあるところだ。
さらに、「音楽配信メモ」においては、「iPodの音質は悪いのか?」というタイトルで、iPodの音質に関して論じられており、「AACでもMP3でもiTunesでリッピングする際に192kbpsに設定するとともに、イコライザ設定をJAZZに固定させると、ロックの聴き心地がよくなる」と展開されている。半信半疑に感じつつも、なんらかの検証をしてみたくなった。
「音楽配信メモ」の津田大介氏に問い合わせると、最も主張していたのは、「iPodのイコライザ設定をRockにすると、低音が強調されすぎて、音が割れてしまう。これは製品として問題である」という点だった。個人的には、イコライザは基本的にいじらない主義なので、気にしていなかったが、周りの人に聞いてみると、「低音と高音をブーストさせて聴くのが好き」という人が結構多い。
せっかくマスタリングエンジニアが「これだ!」という音に調整しても、結局はリスナーの好みで変えられてしまって、やるせなく思う一方、イヤフォンという再生環境や、圧縮された音に不満があるため、イコライザをいじりたいという衝動に駆られているのでは、とも感じた。
これら色々な情報が集まってきて、ふと思いついたのは、「ユーザー自身でよりいい音質のMP3を生成できないだろうか」ということ。もちろん、一般のリスナーが、レコード会社やミュージシャンが持っているミックスダウンしたマスターを入手することは不可能だから、エイベックスがやろうとしているようなことまではできない。ただ、手元のCDをベースにリマスタリングして、最適なエンコードを行なうということはできるのではないだろうか?
そこで、これから何回かに渡って実験していこうと考えているのが、「iPodに最適なMP3を作る」というものだ。別にiPodに限定しなくてもいいのだが、ひとつの素材としてiPodを例に考えてみようと思う。
このDigital Audio Laboratoryでは、これまでもMP3をはじめとする圧縮オーディオの音質性能を検証したり、オーディオプレイヤーの音質に関する検証を行なってきたが、再度現状に即した検証をするとともに、iPodに最適化した「MP3リマスタリング」を考えいきたい。
どちらのバージョンもデフォルトのエンコーダはAACになっているが、これをMP3に変更したときの設定では160kbpsになっている。ビットレートの設定しか変更できないようにも見えるが、カスタムにすると多少の設定はできるようになっている。ここでは、128kbpsのジョイントステレオでエンコードした。
一見、ビットレートしか変更できないようにも見える | カスタムで多少の設定は行なえる |
ここではWindows版のiTunesを利用。Windows版もMac版もiTunesに搭載されているMP3エンコーダはアップルオリジナルのものらしいとのことだが、とりあえず4.8と4.9のエンコード結果の違いを比較してみたが、まったく同じになった。
ちなみに、これはCDからリッピングしたWAVファイルをMP3化し、その結果を別のソフトで、WAVへ変換し、さらにefu氏のWaveCompareというフリーウェアの比較ソフトで調べた。
CDからリッピングしたWAVファイルをMP3に変換 | iTunes 4.8と4.9のエンコード結果はまったく同じだった |
さて、このiTunesのMP3エンコーダと比較してみようと思うのが、Fraunhofer-IISのエンコーダを搭載しているWindows Media Player 10と、LAME系の日本のフリーウェア、午後のこ~だVer3.13a。いずれもデフォルトが128kbpsの設定となっていたので、このまま実験を進めた。
それぞれのエンコーダで楽曲をエンコードしたものを、先ほどと同様に一旦WAVファイルに変換。これらをefu氏の周波数分析ソフト、WaveSpectraで表示させて比較した。このグラフにおいて赤い線がピーク値、青い線が平均を表しているのだが、それぞれの結果に違いがあることがわかる。
WMP10のものと午後のこ~だの結果は非常によく似ているが、iTunesだけ大きく異なる。その違いはiTunesのみ高域部分にも音が出ているということだ。
iTunes | WMP10 | 午後のこ~だ |
時々妙な高域成分が出るという結果に |
実際にそれぞれの音を聴き比べて、その違いをハッキリ感じられるというほどではないが、このようなノイズともいえる高域成分が存在することが、「iTunesのMP3の音が悪い」と評価される一因となっているのかもしれない。こうした点からいえば、やはり噂どおり、MP3ファイルを作るのならiTunesで行なうのではなく、別のツールを使ったほうが無難といえそうだ。
音質の良し悪しは、16kHz以上の高域がオリジナルに近い形で出ているかが決め手のひとつとなっていたが、128kbps以上に設定しても、あまり大きく変わりがないので、こうした結論を出したのだ。確かに、192kbpsさらには256kbpsとビットレートを上げていくと、より高い音が出るのだが、必ずしもオリジナルに忠実な音が出ているわけではない。まあ、先ほどのiTunesほどではないが、やや変形された形での音となる。
試しに、午後のこ~だを使って128kbps、192kbps、256kbpsで試した結果をグラフにしてみた。これを見ると、ビットレートを上げるほど、いい結果にはなっているが、黒い線を見ると、ピーク値から想像するほどのものではない。ただし、デタラメな音が出ているというほどではないから、気になる人は高ビットレートでエンコードしておくというのも悪くはない。
128kbps | 192kbps | 256kbps |
以上が、従来出していた結論の確認と再検証の結果だが、次回からは、もうちょっと踏み込んでMP3ファイルの作りこみを行なっていく。単純にビットレートを上げていくというだけではない方法で、いろいろなツールを利用しながら音作りの実験をしていく予定だ。
□アップルコンピュータのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□「iTunes 4.9」ダウンロードページ
http://www.apple.com/jp/itunes/download/
□「Windows Media Player 10」ダウンロードページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/mp10/default.aspx
□「午後のこ~だ」ダウンロードページ
http://www.marinecat.net/free/windows/mct_free.htm
□関連記事
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050704/apple.htm
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【2003年11月10日】【DAL】第121回:ポータブルHDDオーディオの音質をチェックする
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031110/dal121.htm
【2002年4月8日】【DAL】第50回:圧縮音楽フォーマットを比較する
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(2005年7月11日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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