大画面マニアCEATEC2005特別編として前回は、SEDやプラズマを取り上げたが、二回目のレポートは、フロントプロジェクタやリアプロジェクションテレビなどに関してレポートする。
■ 3LCDブース
「3LCD」は、RGB3原色分の液晶パネルを映像コア・エンジンにした投写型の液晶機器を推進するグループ。CES 2005で発足を表明し、今回のCEATECでは3LCDの先進性を訴えるブースを構えている。 ブース内は、2005年の3LCDベースの各社の最新製品の展示が中心であったが、2005年5月に発表された、無機配向膜を使った垂直配向液晶パネル「クリスタルクリアファイン(C2FINE)」を採用したリアプロジェクションテレビの試作機が展示されていた。 大画面マニアで「C2FINE」パネルを扱うのは初めてなので、簡単に解説すると、特徴は「無機配向膜」と「垂直配向液晶」の2ポイントに集約される。「無機配向膜」とは読んで字のごとく「無機物質でできた配向膜」のこと。配向膜とは液晶分子を規則正しく整列させるために必要なもので、透過型液晶パネルの液晶画素では、この配向膜で液晶分子をサンドイッチのように挟む構造になっている。 この配向膜に従来では有機物質を用いており、最終的なパネルとして形成したときに液晶分子を整列させるための事前工程として「ラビング工程」と呼ばれる、配向膜に傷を付ける処理をしていた。液晶分子はこの傷に沿った形で「寝る」ようにして整列する。 この配向膜を無機物質とした無機配向膜では、ガラス基板面に無機物質を髭を生やすように積層していくことで、ラビングが行なわれた後のような状態を最初から形成する。ラビング工程が不要となり、コスト的に優位となる。
無機配向膜は画質面においても優位性がある。有機配向膜ではラビング工程の傷が規則的なパターンとして映像に映り込んでしまうことがあるのだ。これは縦方向に薄いシミのようなノイズとして現れ、中明色以下の階調で目立つ。これが一時期、エントリークラスのプロジェクタ機器で話題となった縦縞ノイズの原因の一因とされている。無機配向膜ではラビング工程がないのでこの縦縞ノイズが出ない。 また、無機配向膜は劣化に強いという特徴もある。高輝度な光源に晒されるプロジェクタ機器では、光に含まれる紫外線が容赦なく液晶パネルの配向膜を攻撃し、これが配向膜に経年劣化をもたらす。配向膜が劣化すると画質を維持できなくなる。無機配向膜は有機配向膜の約10倍の耐性があって長寿命とされ、長くその画質を維持できるというわけだ。
さて、ラビングにより傷つけられた配向膜に液晶分子が「寝る」と表現したが、これが「水平配向」という液晶配向方式になる。この水平配向液晶を、偏光板とラビングの方向を互いに90度ずつずらした板挟み込んでやると、液晶分子がねじれながら寝ている状態を形成する(TN型:Twisted Nematic型)。電圧オフ時には寝ながらねじれているが、電圧をかけていくにつれて液晶分子は起きあがっていき、このねじれが崩され、電圧を最大にすると液晶分子はピンと直立する。 電圧をかけていない状態では光は液晶のねじれに導かれ(旋光性)、偏光板を飛び抜けて白色として発色する。電圧をかけていくとこの旋光性が低下しどんどん暗くなり、液晶がピンと直立した時には黒となる。 電圧オフ時(ノーマル)状態で白色発色となるので「ノーマリーホワイト」と呼ばれる。これが今までのエプソンの液晶パネルの仕組みだ。
C2FINEパネルでは、無機配向膜を用いて液晶分子を垂直配向させる。垂直配向でも90度位相をずらした偏光板で液晶分子を挟み込むのは同じ。ただし、電圧オフ時から液晶分子が最初からピンと直立しているので光は通らない(VA型:Vertical Alignment型)。つまりノーマル状態で黒色発色となるから「ノーマリーブラック」と呼ばれる。
ただし、電圧をかけていっても、垂直配向では、水平配向の時のように液晶分子がねじれを形成していくことはない。電圧を強くしていくにつれて液晶が単純に寝ていくのだ。この寝ていく液晶に光が衝突すると複屈折と呼ばれる光学現象が起き、せっかく光の入り口の偏光板で整えられていた光の位相が変化してしまう(楕円偏光状態)。この位相の変化具合により出口の偏光板から光が漏れてくるようになり、かける電圧を最大にした(液晶が一番寝た)状態では光の漏れが最大となって白色発色になる。 これだけでは「結局、白黒逆になっただけ」になってしまうが、ノーマリーホワイトの水平配向で電圧最大にしても100%の液晶分子が立つわけではなく、配向膜付近の液晶はやはり寝たままになる。この寝たままの液晶分子が複屈折を起こし、本来真っ黒となるはずの最大電圧で光が漏れてきてしまうのである。 ノーマリーブラックの垂直配向では通常時様態で、ほぼ100%の液晶分子が最初から立っており理論値に近い形で黒になる。電圧をかけていくと液晶分子寝ることになり複屈折が起こることになるが、全ての光が偏光板を抜けてこられるわけではない。つまり白色のピークはノーマリーホワイトに劣ることになるのだ。 整理すると、以下のようになる。
●透過型液晶でコントラスト比1万:1を実現 「ホームシアター用途では、最大輝度よりも黒表現や暗部階調のリニアリティが重視される。我々もホームシアター製品に最適化した液晶パネルの必要性を強く感じることとなり、これがC2FINEパネルを登場させた直接の原動力であった」(TFT事業部 TFT営業戦略部主任 原恒氏)とする。 長らく、ノーマリーホワイト方式を採用し続けたきたのは、エプソンが最大輝度を重んじていたからだ。それは、エプソンにとって最大輝度スペックが最重要視される業務用プロジェクタやデータプロジェクタビジネスが主要なマーケットであったからだ。
今後、ホームシアター向けプロジェクタでは、このC2FINEパネルが積極的に採用されることになるだろうが、コスト的にはどうなのだろうか。原氏によれば「製造プロセスに大きな変化はないため、大幅に製造コストが上がることはない。LCOSが高価なのはどうしても製造コストが高くなるためであり、この点で我々のC2FINEは圧倒的に有利」だという。 ブース内には57V型のフルHD(1,920×1,080ドット)のC2FINEパネルを採用した、リアプロTV試作機が展示されており、来場者からの熱い視線が注がれていた。あくまで参考出品とのことだが、筐体はセイコーエプソンの現行液晶リアプロTV「リビングステーション」シリーズに近いものが使われており、パッと見た感じではすぐにでも発売されそうな面持ちであった。 しかし、C2FINEパネルの本格量産は「2006年度を目指している」とのことで、実際の製品について、セットメーカーが決めることなので、全くの未定だという。 では、実際にこの試作機の映像をみてのインプレッションを述べておこう。暗い中の展示でありながら、黒浮きはかなり厳重に抑えられているという印象で、階調表現も液晶ならではのアナログチックな柔らかさがあった。DVD映画ソフトなどの相性はかなり良さそうだ。 コントラスト性能は、動的な光源制御やリアルタイムガンマの効果を適用して10,000:1を実現したとのこと。こうした特殊エンジンの効果を外しても、従来パネルの4~5倍のコントラスト性能を達成しているという。 実際の表示映像で10,000:1が実感できるかというと微妙なところだが、それでも黒の沈み込みはリアプロTVとしてはかなり優秀。絶対的な輝度はおそらくは現行リビングステーションに及ばないのかも知れないが、暗部の沈み込みが深いので相対的な明暗のダイナミックレンジは広く感じられ、明部からは強いまばゆさすら感じられる。 画素格子は透過型液晶特有のものとして確認できるのだが、フルHDの高解像度パネルであることと、57インチサイズという画面サイズであることに助けられ、見ていて粒状感を感じるということは全く無い。実際問題として、C2FINEパネルでは配向膜や配向モードの液晶原理的変更こそあるが、透過型液晶という根本的なデバイスの種類に違いはないので、画素間格子の幅は同解像度の従来パネルと変わらないとされている。 今回の展示はフルHD解像度のリアプロTVであったわけだが、1,280×720ドットのC2FINEパネル登場の可能性もあるとのこと。リアプロだけでなく、フロントプロジェクタの実現に際しても「何の問題もない」という。
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■ ビクター、D-ILAを本格民生展開も
これまでD-ILAは、業務用プロジェクタやハイエンドプロジェクタ向けのデバイスとして利用されてきたが、2005年からは民生機向けへの応用を強化、その最たる結果がD-ILAベースのリアプロTV「EXE」(エグゼ)シリーズの展開だ。 ブースの最も目立つところには、発表されたばかりのフルHDのEXEシリーズを配しており、日本ビクターブースへ立ち寄ると否応が無しにEXEシリーズを目にすることになる。
70V型の「HD-70MH700」は10月中旬発売で、価格は126万円。61V型の「HD-61MH700」は11月上旬発売で、価格は89万2,500円、56V型の「HD-56MH700」は10月中旬で、価格は84万円。
注目度が高いのは画面サイズ155×87cm(横×縦)という、民生テレビとしては最大級の70V型を実現した「HD-70MH700」だ。業務用リアプロディスプレイでしかあり得なかったサイズで、フルHDを実現して、デジタルチューナも同梱して実勢販売価格126万円という価格は、非常に戦略的と言えるだろう。
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もう一つの目玉は、9月末に発表され、今回が一般初公開となるD-ILAフロントプロジェクタ「DLA-HD11K/12K」だ。2004年に発表されたフルHD D-ILAプロジェクタ「DLA-HD2K」の後継機で、コア映像エンジンはDLA-HD2Kと同じ0.8型フルHD D-ILA素子を採用している。 本連載第48回で先代モデルの評価を行なっているが、あの素性の良い高画質を洗練させたのが今回のモデルということになる。マイナーモデルチェンジということになるが、気になる点がかなり解消されており、「ビッグ」マイナーチェンジと呼べるもの。 まず、一目見てわかるのがプロジェクションヘッド本体のデザイン。データプロジェクタ「DLA-SX21」のホディを転用して塗り替えただけのDLA-HD2Kとは異なり、アルミ押し出しの専用デザインボディを採用。このボディに専用の静音エアフローデザインを組み合わせることで、27dBの静音性も実現した。実際に動作中の実機直下に立ってみたが、動作音は全く聞こえない。DLA-HD2Kがうなり声を上げていたことを考えると各段の改善だ。
内部的にもかなりの改良が施されている。特に光学系には大幅に手が入れられている。特徴的な矩形絞りは継承しつつ投射光学を完全新設計とした。DLA-HD2Kでは固定だった投射角は、上方向60%のレンズシフト機能を搭載して設置性を向上させている。レンズシフト機能が搭載された事による、フォーカス性能や色収差性能の低下は最低限としており、解像感に直結する緑のフォーカス性能はレンズシフトを利用した状態でも、レンズシフト機能のないDLA-HD2K以上だという。
実際ブース内のシアタールームでは、投射距離4m程度にてレンズシフト50%仕様での設置が行なわれていたが、スクリーンに投射されたD-ILA画素の間には色ブレが無く非常に細い格子線がキッチリと見える。画素の中心に配された電極の窪みまでが目を凝らすと見えるほどだ。
光源ランプはDLA-HD2Kと同じ超高圧水銀系ランプだが、光源ランプ内の発光サイズを小型化して、D-ILA素子に導く光の線光源化の最適化をさらに進め、光の利用効率を劇的に向上させた。このためDLA-HD2Kでは250Wランプで500ルーメンだった輝度性能が、DLA-HD11K/HD12Kでは200Wランプで600ルーメンへと向上している。
「今回もランニングコストの低さと発色バランスの良さの両立にこだわった」(ILAセンター プロジェクション技術部 プロジェクションシステムグループ長 木村秩氏)とのことで、光源直後に組み込まれる光源色補正光学系の「Optimum Color Illumination」システムは、DLA-HD11K/12Kにも採用。超高圧水銀系ランプの純色バランスを補正し最適化し、キセノンランプと同等以上の色バランスを引き出している。 実際の映像を見ても赤が朱色によらず、純色としての赤が感じられ、青や緑のパワーに負けていないことが感じられる。なお、光源ランプは、DLA-HD2Kの42,000円からさらに下がって26,250円となり、ローエンドクラスプロジェクタ並のランニングコストを実現しているのも特筆すべき点だろう。
今回もDLA-HD2K同様のプロジェクションヘッドと映像プロセッサとが分離されたシステム構成となっており、組み合わせられる映像プロセッサが2種類に増え、投射レンズも短焦点と長焦点の2種類となり、これらの組み合わせで4種類の製品ラインナップとなった。DLA-HD11KがABT社のAVハブプロセッサを組み合わせたモデルで、お馴染みファロージャ製のデジタルビデオプロセッサと組み合わせたモデルがDLA-HD12Kになる。
ブース内のシアタープレゼンテーションを2回も見てしまった筆者だが、さらに磨きのかかった発色と階調力に圧倒されるばかりであった。特に黒から始まる暗部階調が素晴らしく、600ルーメンのピーク輝度とのバランスもいい。 動的な光源制御や動的な絞り調整を用いず、ネイティブコントラストで2,500:1という、DLPプロジェクタ並みのコントラストを実現している。これも実射映像を見ていると強く実感できる。映像中に日向の白い壁のまばゆい輝きがあっても、この輝度に引っ張られて黒が浮かずにグッと沈み込んだ木陰の表現がそのまま維持できている様は、まさしくこのネイティヴコントラスト性能の高さを証明するものだ。
この他、D-ILA関連の展示では「D-ILA DOME THEATER」と名付けられた半球型ドームスクリーンのプレゼンテーションがあった。新開発の1.7型4,096×2,160ドット(4K2K)解像度の885万画素D-ILAパネルを用いたプロジェクタ2台からの映像をプリズムで合成し、魚眼レンズの投射系でドームスクリーンに投射する仕組み。ドームスクリーンに映し出された映像は二重映りしており、4K2Kの解像感が全く得られておらず、まだまだ調整が必要という印象であった。
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■ デルタ電子ブース
DLPプロジェクションシステムの有力OEM/ODMメーカーであるデルタ電子のブースでは、「Smooth Picture」技術を採用したリアプロTVの展示を行なっていた。
SmoothPicture技術は、960×1,080ドットの100万画素DMDチップで、1,920×1,080ドットのフルHDスペックの200万画素映像を描き出す画期的なもの。SmoothPictureに関する詳しい解説は本連載第45回で行なっているのでそちらを参照して欲しいが、1080pスペックの映像機器を格安に実現するシステムとして熱い視線が注がれている。
ブースに展示されていたのは、DMDチップ開発元のTIとデルタ電子が共同開発した70V型のSmoothPicture技術搭載のDLPリアプロTV。SmoothPictureのほか、Dynamic Black技術(リアルタイムガンマ補正的な処理をDMD素子の駆動と連携させることで見かけ上のコントラストを劇的に向上させる仕組み)を併用することで実効コントラストは12,000:1を達成している。全くの試作機ということで発売時期や価格は未定。 ブースでは、この試作機に実際に1080p映像を表示するデモを行なっていた。実際に映像を見てみると静止画表示では確かに1,920×1,080ドットを実感させる解像感が得られていることを確認。SmoothPictureパネルでは画素配列がハニカム構造になるのだが、画素密度が高いこともあり、この特性に関する違和感はほとんど感じない。 12,000:1という数字上のコントラスト性能が本当に出ているのかのかどうかはともかくとして、DLPらしい非常にクリスピーで、立体感に富んだ画作りになっていることは実感できた。ピーク輝度は1,000cd/m2あるそうで、実際、とても明るい。 画素描画すら時分割方式を取り入れたSmoothPictureを疑問視する声も多い。個人差はあると思うのだが、筆者は画面全体が縦横無尽に動き回るシーンではコーミングノイズにも似たズレを知覚することがあった。また、細かい模様が動くシーンでは、通常の単板式DLPシステムよりもざわつき感を強く感じた。もしかするとこれはSmoothPictureの弱点なのかも知れない。 ただし、格安にフルHD 1080pシステムを提供できる意義は大きく、価格と性能のバランスが取れていれば、ヒット商品となることは間違いない。PDP、液晶、リアプロといった各方式のフルHD解像度製品が続々と登場するなか、バーチャル1,920×1,080ドットシステムであるSmoothPictureのDLPシステムがどういう戦いを見せてくるのか、注目していきたい。
□CEATECのホームページ □関連記事 (2005年10月6日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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