■ 帰ってきた「DVDウォークマン」
今回テストするのは6月1日に発売されるDVDウォークマン「D-VE7000S」。DVDウォークマンといえば、2001年11月に発売された液晶/DVD部分離型の「D-VM1」というユニークな製品があったが、新DVDウォークマンもはやりデザイン面では相当ユニーク。 上蓋を開くと液晶が現れるオーソドックスなプレーヤーではなく、前面が7V型液晶、背面がDVDプレーヤ部という珍しいレイアウト。しかも、D-VM1が実売10万円と高価だったのに対し、D-VE7000Sの実売価格は約35,000円と、この5年でDVDプレーヤーのコモディティ化が急速に進んだとはいえ、“ウォークマン”ブランド分のプレミアは、ほとんどかかっていない事になる。 D-VM1以後の“ウォークマン”ブランドが苦しい状況にあったとはいえ、D-VM1の10万円というプレミア価格を思うと隔世の感すらある。
■ ユニークなデザインが「ウォークマン」の証?
本体のほか、スピーカースタンドや、カード型リモコン、ヘッドフォン、キャリングケース、ACアダプタも付属する。本体にはスピーカーを内蔵していないが、スタンドと組み合わせることで、簡単なシアターシステムとして利用できるほか、充電ドックとしても活用できる。 ユニークなのは本体部のデザインだろう。通常のポータブルDVDプレーヤーでは、液晶部とDVDプレーヤー部が分かれており、液晶部を開くとDVDトレーが現れるのだが、D-VE7000Sでは背面にDVDトレーを配置し、前面に液晶を備えるというスタイル。そのため、前面のほぼ全てが液晶というユニーク形状で、上部にトレーのオープンボタンや、操作ボタン、右上に画質や輝度調整が可能なLCD MODEボタンと、十字キーを備えている。 左側面にはビデオ出力と、光デジタル音声出力、ライン入出力を装備。ヘッドフォン出力も2系統備えているため、2人で同じDVDを見ながら音声を聞くこともできる。なお、本体にはスピーカーを備えていないので、イヤフォン以外で音声を聞く場合は付属のクレードルを利用する必要がある。 右側面にはボリュームボタンとHOLDスイッチを装備。外形寸法は193.7×32.7×136.3mm(幅×奥行き×高さ)と小型で、重量は775g。35,000円という価格にしては、本体の仕上げはかなり高級感がある。 多くのポータブルDVDプレーヤーは、本体に加え、付属バッテリなどを装着する必要があるが、「D-VE7000S」はバッテリ内蔵型となっている。内蔵バッテリでの連続再生時間は約3時間(液晶OFF時約7時間)。
■ 一風変わっているが、使い易いプレーヤー
電源投入は本体上部のPOWERボタンを利用。起動時間は6~7秒程度だが、ディスクのローディングにさらに約10秒かかる。本体上部のボタンは、電源の他、再生/一時停止、スキップ/バック、TOPMENU、MENU。ポータブルDVDらしからぬ独特なデザインだが、なんとなくMicrosoftの提唱する小型PC“Origami”こと「UMPC」にも見える……。 手に持ってみると、多くのポータブルDVDプレーヤーより軽量なハズなのに、ずっしりとした重量感がある。PSP(170×23×74mm/280g)と比較すると、大きさとともに、厚みがかなり気になる。基本的には両手で支持しながら見るという形になると思うが、電車で立ちながら持ち続けると、疲れてしまうそうな重さ。満員電車で見るのはかなり無理がある。
重量があるため、落としたらそのまま壊れそうだ。落下防止のためにストラップホールを設けて欲しかったところだ。座りながら、膝に抱えて右手で保持して見る、という利用スタイルが結構しっくり来た。 電車内で利用したところ、特に立ちながらの視聴では他の乗客からの視線をかなり感じた。最近は、電車内でPSPやニンテンドーDSなどの携帯ゲーム機を使っているユーザーも多いが、それらとは異質の物量感があり、DVDプレーヤーでもPCでも無い、独特のデザインだけに注目を集めてしまう。このあたりをどう取るかは個人の好みだが、“ウォークマン”ブランドを冠した製品の独自性と言えなくもないところ。 DVDビデオのほか、DVD±R/RW、DVD-R/+RW DLの再生に対応。8cmディスクもサポートしている。また、音楽CD、DVD±R/RWやCD-R/RWに記録したMP3/JPEGの再生にも対応する。トレーの開放音がやや安っぽいが、価格を考えると納得できる。 再生が始まってしまえば、至って普通のDVDプレーヤー。本体上部のスキップ/バックボタンで、チャプタ送り/戻しや、早送り/戻しが行なえるほか、メニューを呼び出して、音声や字幕の変更が可能。両手で保持している場合は、片手を離して操作しないといけないが、特に市販の映画DVDの場合は一度再生を始めてしまえば、トリックプレイなどはあまり行なわないので、問題とは感じない。
むしろ、ボリュームを右脇に備えることで、手を離すことなくボリューム調節ができるほか、十字キーボタンとLCD MODEボタンを組み合わせて画質調整が行なえるなど、実際のDVD視聴時の利用頻度がしっかり検証され、ボタン配置されていると感じる。基本操作系は良くまとまっている。 ただし、静かな環境で使っていると、耳障りな接触音やドライブの駆動音を感じることもあった。スピーカースタンドやヘッドフォンを使っていれば意識しなくて済むとはいえ、手に持っていると細かな振動とともに音を感じるので、少し気になった。 また、本体の操作ボタンのほか、カード型リモコンでも操作可能となっており、付属のスピーカースタンドを利用することで、据え置き型のDVDプレーヤーとしても利用できる。 リモコンはかなりボタン数の多いカード型で、音声切替や字幕切り替え用のダイレクトボタンも備えている。据え置き型プレーヤーとして利用する場合は重宝する。
スピーカースタンドの質感は、いかにも“プラスチック”という感じで、安っぽい。出力は450mW×2chとさほど大きくないが、据え置き型プレーヤーとして考えれば他製品のプレーヤー内蔵スピーカーよりはしっかりした音が出る。ドルビーデジタル/DTSのデコーダを内蔵するほか、バーチャルサラウンドや、イコライザ機能も装備している。 ACアダプタを接続し、充電用クレードルとしても利用可能。ただ、トレーが背面のため、DVDを交換する際に一度スタンドから外さなければ行けないのは面倒と感じた。また、ビデオ/音声外部出力も備えており、音声はドルビーデジタル/DTSのパススルー出力にも対応する。
■ 再生画質はおおむね満足
DVDビデオ再生時の画質はポータブルDVDプレーヤーとしては充分満足できる。色再現はしっかりしており、応答速度が気になることも無い。ノイズもかなりしっかり抑えられており、好印象だ。 ただし、じっくり見ると解像度が480×234ドットとあまり高くないこともあり、ドットが見えてしまう。特に字幕の表現などに不満を感じることもある。DVD(HD DVD/DVDツィンフォーマット)「夜桜」を見たところ、桜の木を俯瞰で撮影している映像が、ピンク色のドットがざわざわしているだけに見えてしまう。 また、複数の光源が混じる夜景の微妙なグラデーションが表現できずに、マッハバンド状の筋ができてしまうこともあった。視野角は左右がかなり広く、2人並んで視聴しても全く問題無い。ただ、左右に比べると上下の視野角がかなり狭く感じる。その他、気になった点は、電車内など蛍光灯下での映り込みがかなりあること。突然暗いシーンになって、自分の顔が映りこむと、ストーリーへの集中力が切れてしまうので残念だ。
レジューム機能も搭載。アスペクト切替は、LCD MODEボタンで行なう。また、十字キーの中央を長押しすることで、各種設定画面が呼び出せる。 画質モードは特に用意されておらず、画質の調整はLCD MODEボタンを長押しし、BRIGHTNESS(輝度)、CONTRAST(コントラスト)、HUE(色合い)の各項目を調整するという形式。標準設定でもさほど大きな不満は感じない。 細かく見ると幾つか不満点もあるが、映画を楽しむという点では満足できる画質という印象だ。今回、D-VE7000Sを使って初めて「実写版 鉄人28号」を見たが、画質をあまり気にせず、本編を最後まで楽しむことができた。
パネル解像度があまり無く、液晶サイズは7型と大きいので、精細感はPSP(480×272ドット/4.3型液晶)の方が上。しかし、UMDビデオをいちいち購入したり、録画番組をPSP用ファイルに変換するという手間がいらず、「DVDを買ってすぐに再生できる」、「家庭内でも楽しむことができる」、という点は、PSPとは違った価値を有していると言えるだろう。 同時に発売される、「DVP-FX810」と比較してみると、基本スペックはほとんど同じだが、デザインの違いと、それに伴う印象の差異はかなりのもの。このユニークなデザインと使用感というのは、他のDVDプレーヤーでは得られない。
日本のユーザーとして残念なのは、DVD-R/RWのVRモードはサポートするものの、CPRMに非対応ということだろう。つまり、デジタル放送を録画して、DVD-R/RW化したディスクの再生はできないわけで、「出張時にデジタル録画したドラマをまとめてみたい」といったニーズには応えられない。基本的に米国市場向けのモデルで、市販DVDを念頭にしているのだと思われるが、アナログ放送停波を5年後に控えた2006年の新製品としては残念だ。 また、MPEG-2ファイルや、DivXを記録したCDも、トレーに挿入してみたが、ファイルとして認識されない。こうした点からも基本的には市販のDVDタイトル視聴用と考えた方がいいだろう。
また、バーチャルサラウンド機能やイコライザ機能も搭載。イコライザはソフト/アクティブ/ヘビー/MEGABASS1/MEGABASS2の5モードを用意、バーチャルサラウンド機能は、オフ/ライブ/ホール/アリーナの各モードを用意する。 各モードともかなり効果が強く、特徴的な音になるが、映画再生時には低音強調のためにMEGABASS1に設定してもいいかもしれない。
■ DVDウォークマンを使いこなせるか バッテリ駆動時間は約3時間30分。114分のDVDを見終わっても、バッテリインジケータは半分以上残っており、その後しばらく再生できた。ただし、拡張バッテリが用意されないので、内蔵バッテリが終わったら、ACアダプタによる充電が必要になる。 そう考えると、利用シーンはなかなか限られるようにも感じる。例えば、海外出張などで飛行機に乗るケースを考えてみると、3時間30分という再生時間はやや物足りない。ACアダプタも別途持って行くことを考えると、かなりの重量となってしまう。ノートPCを持参する出張であれば、PCで見てしまった方が手っ取り早い。 また、通勤電車で使うには大きすぎるようにも感じる。特に、立ちながらの利用は疲れるだけでなく、落下/破損という点からも、あまりお勧めできない。そうした意味では、東京-大阪間(約2時間30分~3時間)で、DVDを一本見たいといったシチュエーションが一番フィットするように思える。新幹線通勤している、という人の暇つぶしという点でも面白いだろう。独特なプラットフォーム形態だけに、使いこなしにも工夫が必要だ。このあたりが購入を左右する最大のポイントとなるだろう。 ともあれ、比較的低価格で登場した、ウォークマンブランドのユニークなDVDプレーヤー。HD DVDが発売され、PLAYSTATION 3の発表など“次世代”がリアルになりつつある今、あえて「DVD」の可能性の追求する面白い試みだ。 □ソニーのホームページ (2006年5月12日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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