【バックナンバーインデックス】



初の“殻無し”Blu-ray Discレコーダ
ムーブ対応した地デジパソコン
ソニー 「VAIO type R(VGC-RC72DPL9)」
6月17日発売
標準価格:オープンプライス
実売価格:44万円前後



■ “初”のベアディスク対応Blu-rayレコーダ?

 2003年12月1日の地上デジタル放送開始以来、家電の世界では、ハイビジョン対応が急速に進んできた。コンテンツの高精細化を受け、テレビやレコーダでもハイビジョン対応製品が急拡大。デジタルAV市場の中心製品となっている。

 しかし、そうした波に乗り遅れたのがパソコン。著作権保護の仕組み作りの遅れや、PCIバスの帯域の制限などの問題点から対応が遅れていた。ようやく、今夏モデルから各社のラインナップに、地上デジタル対応モデルが並び始めたところだ。

 ハイビジョンの最初の波には乗り遅れたパソコンだが、ここへきて状況が変わりつつある。というのも、今夏の新モデルではHD DVDやBlu-ray Disc(BD)ドライブを搭載したモデルが増えている。

 民生機では3月31日に、ようやく初のHD DVDプレーヤー東芝「HD-XA1」が発売されたばかり。録画機については、HD DVDが「願望としてはワールドカップ前」とするものの、まだ未発表。さらに、BDについてはプレーヤーの北米発売が6月にずれ込むなど遅れを見せており、レコーダに関しては「年内目標」という声ぐらいしか聞こえてこない。

 もちろんBDの民生用レコーダは、2003年よりソニー/松下/シャープの3社からレコーダが発売されているわけだが、BD-RE Ver.1.0という古い規格の製品。書換型のBD-RE/BD-Rともに、新規格ではカートリッジ無しのベアディスクとなっており、ファイルシステムも一新されている。つまり、全く互換性は無いディスクとなっている。現時点で、新規格に対応したBDレコーダは存在していない。

デル「24」とVGC-RC72DPL9

 しかし、ソニーが6月19日に発売するデスクトップPC「VAIO type R(VGC-RC72DPL9)」は、地上/BS/110度CSデジタルチューナを搭載したほか、BD-REへのムーブに対応。新規格のBlu-ray録画に初めて対応する「レコーダ」と言える。民生用レコーダに先駆けてデジタル放送録画に対応する新VAIO type R。さっそく、レコーダとしての使い勝手を検証してみた。

 なお、PCにおけるデジタル放送録画/再生や、BD-ROMの再生については、CPUなどのスペックの要求に加え、対応のソフトウェアや、ビデオカードとディスプレイ側で、HDCPによる著作権保護が行なわれている必要がある。VAIO Type Rでも19インチ「SDM-HS95P/RV」などを用意しているが、今回はデルのフルHD液晶ディスプレイ「2407WFP」を利用し、DVI接続(HDCP)でVAIOの実力を検証した。



■ VAIO最上位モデルらしい重量感

スピーカーやUSBジョグコントローラも同梱される

 本体のほか、スピーカーやジョグコントローラ、リモコン、リモコン受光部、キーボード、マウスなど付属品も多い。

 本体は従来のType Rシリーズを踏襲したブラックボディを採用。重量も14.5kgとかなり重い。側面の見ると一部がくり貫かれており、放熱口などを設けているが、微妙に従来モデルからは穴の場所が変わっている。外形寸法は195×456×399mm(幅×奥行き×高さ)。

 本体前面にBlu-ray Discドライブを搭載。ドライブは松下電器製。その下にもトレーが用意されているが、こちらはダミーとなっている。

 チューナは地上/BS/110度CSデジタルと、地上アナログを各1系統装備。ビデオカードはGeForce 7600 GTでDVI-IとDVI-D(HCDP対応)の2系統の出力を備える。デジタル放送やBDドライブを活用する際には当然HDCP対応のDVI-Dに接続する。

 i.LINKも装備し、HDV/DVのキャプチャに対応。そのほか、S映像入力×2、コンポジット入力×2、S映像出力(コンポジット兼用)×1、光デジタル音声出力×1、アナログ5.1ch出力×1なども装備。メモリースティックスロットや、CF/SD/xDピクチャーカードスロットも装備するなど、充実したインターフェイス構成となっている。


本体前面。上部にBDドライブを備える 側面。VAIOロゴを刻んでいる。冷却用に一部がくり貫かれた独特のデザイン 背面。デジタルチューナや、i.LINK、光デジタル出力などを装備
チューナカードはデジタル放送とアナログ放送で分かれている。2系統のDVI端子を装備。HDCP対応はDVI-D端子のみ 背面にB-CASカードスロットを装備 松下製のBDドライブを装備。カートリッジ型ディスクには非対応



■ シンプルなデジタル放送録画機能

・デジタル放送録画機能はピクセラ系

Station TV Digital

 まずは、デジタル放送録画とBlu-rayへのムーブを試してみた。VAIOではマルチメディア統合ソフトとして、リモコン操作が可能なUIを備えた「Do VAIO」が用意されるが、デジタル放送録画の場合は、「Station TV Digital」を利用する。ムーブについてはStation TV DigitalのBD録画エクステンションを用いる。

 マウスでの操作も可能だが、付属の赤外線受光部とリモコンを組み合わせて、リモコン操作に対応。基本操作であれば、リモコン利用のほうが使い勝手はいい。

 リモコンの[デジタルTV]ボタンを押すだけで、Station TV Digitalが起動。地上/BS/110度CSデジタル放送を視聴可能となる。放送の切替やチャンネル切替ボタンもリモコン上に備えているので、一度Station TV Digitalを起動してしまえば、テレビと同等の操作感で利用できる。

 もちろんEPG録画予約に対応しており、[番組表]ボタンからEPGを呼び出し可能。後は放送方式を選び、番組を選択、録画予約を押すだけ。EPGデータを元にした録画追従機能も装備。EPGのほかタイマー予約も可能で、もちろん、手動の録画/停止もリモコン/マウス操作で行なえる。

付属のリモコン デジタル放送用のボタンなどを装備

 デジタル放送の2番組同時録画はできず、番組が重なる場合は警告される。録画はHDDのみで、BD-REへの直接記録はできない。BD-REに残すためにはHDDに録画した後、ムーブ作業を行なう必要がある。また、ライトワンスのBD-Rメディアへのムーブにも現状対応していない。ただし、SD解像度にダウンコンバートし、DVD-RAM/RWへムーブすることは可能。

 録画予約や再生番組選択などの基本操作はむしろリモコンを利用したほうが使いやすい。チャンネルや放送切替のレスポンスも非常に良い。

Station TV Digitalの番組表 シンプルな予約録画操作

 なお、デジタル放送の録画中のチャンネル切替や録画リスト表示はできない。また、追いかけ再生も非対応となっている。このあたりは専用レコーダなどと比べると劣っていると感じる。ただし、EPGによる録画予約は録画中でも可能。

 デジタル放送録画番組の編集には非対応。部分削除などだけでなく番組分割などもできない。アナログ放送番組においては、専用機に対するPCのメリットとして柔軟な編集性が挙げられるが、このあたりはムーブ先の環境作りも含め、まだまだ時間がかかりそうだ。

 基本的な録画機能はピクセラのプラットフォームを利用した各社製品と共通で、機能的にはシンプルながら、操作性もしっかりとまとまっている。EPGの使い勝手やレスポンスなど、民生レコーダと比較して上回っていると感じる点もある。

 ただし、編集や設定キーワードによる自動録画機能など、アナログ放送録画では当たり前の機能は省かれている。また、アナログ放送用のDoVAIOと操作性がかなり異なっていることもあり、デジタル/アナログの録画環境をシンプルにまとめたい人は戸惑うかもしれない。

録画番組リストを表示 録画画面

・BD-REへのムーブは簡単

録画番組リストから[BD作成を選択]

 BD-REへのムーブはStation TV Digitalの[録画番組]からムーブしたい番組を選択する。すると[BD作成]というボタンが現れ、ここで確認画面でOKを押すとムーブにかかる時間が表示され、BDムーブ用のツールが起動する。

 後はディスクのフォーマット後に録画番組をムーブするだけというシンプルなもの。追記の場合は、そのまま[タイトル]として追加される。なお、現在のところ、BD-Rへのムーブには対応していない。


ムーブ時の注意を促すダイアログが現れる ムーブを開始。初回にフォーマットを行なえば、次回以降チェックボックスをONにしない限り追記を行なう

 ムーブにかかった時間は、30分番組で9分25秒、54分の番組で13分となった。ムーブ前の確認画面では、30分番組で約1時間など、実時間の2倍の終了予想時間が表示されていたので、思いのほか高速で驚いた。もちろん、BD-REにムーブした番組はHDD上から消去される。

 できることが単純なので、ムーブ操作自体で戸惑うことはほとんどないだろう。ただし、複数の番組を選択して、一括してムーブといった動作は行なえないなど、使い勝手をもう一歩向上させて欲しい点もある。また、実行時間が迫っている録画予約がある場合は、BDへのムーブが優先されるため、録画予約を実行してくれない。運用時には注意したいポイントだ。

Station TV DigitalとWinDVD BDの同時起動はできない

 作成されたBD-REの再生には、Station TV Digitalでなく、付属のWinDVD BD for VAIOで視聴可能となっている。

 なお、Station TV DigitalとWinDVD BDの同時起動はできない。CPUパワーなどの問題もあるだろうが、例えばWinDVD BD起動中に録画予約を試みて、失敗してしまうこともあるので、両アプリケーションを使い終わったら必ず終了するよう心がけたい。アナログ録画と比べると、まだまだ様々な使い勝手の整備はこれからという印象だ。



■ ユニークなハイビジョン体験。ディスプレイの性能向上が待たれる

・WinDVD BDでBD-REを再生

WinDVD BD for VAIO」

 録画したBD-REや、付属ソフト「BD Disc Recorder」で作成したBD-R/REディスク、今後発売予定の市販のBD-ROMビデオソフトの再生は、「WinDVD BD for VAIO」を利用する。DVD再生向けには別途「WinDVD for VAIO」を搭載しており、全く別のアプリケーションという扱いだ。

 WinDVD BD for VAIOでは、これらのディスク再生が可能で、BD-Jのインタラクティブ機能も内蔵。コーデックについても、BD-ROMで必須となるMPEG-2、H.264、VC-1の全てをサポートしている。まだBD-ROMディスクが発売されていないため、市販ディスクでのチェックはできないが、まずは録画したデジタル放送番組を再生してみた。

 BD-REにデジタル放送のMPEG-2 TS映像をそのまま記録しているため、HDD再生時の印象とあまり変わらない。フルHD液晶で見るデジタル放送番組の精細感は、さすがにインパクト十分。パソコンでは、テレビより視聴距離が近くなることもあり、シャープでクリアな映像を楽しめる。

 とはいえ、今回テストに利用した「デル 2407WFP」では、市販の国産フルHD液晶テレビと同等の画質を実現しているとはいえない。特に応答速度の遅さが気になり、スポーツなど動きの激しい番組では明確なコーミングが見え、2m以上離れてテレビ的に使おうとすると、かなり不満を感じる。

 PC用液晶ディスプレイにおいて、フルHDクラスでHCDPに対応している製品は少なく、その中で満足な画質や応答速度を有している製品はあまり無い。コンテンツに合わせた画質調整モードなどが豊富なテレビなどと組み合わせて利用してみたいところだが、DVI-HDMI変換ケーブルなどが必要になってしまう。ディスプレイ環境の整備も待たれるところだ。

 とはいえ、主にディスプレイ側の問題であり、今回初めて殻無しBlu-rayのムーブに対応したことで、今後発売されるより高品位なプレーヤーやディスプレイ環境でも再生可能となる。デジタル放送をBDで残して、後日楽しむことができるので、環境さえ整えば、より高画質な映像鑑賞も可能となるだろう。そうした意味で初のムーブ対応のメリットは非常に大きい。

 Station TV Digitalでのライブ/録画番組視聴時と、WinDVD BD再生時のクオリティに大きな差は見られないが、画質面でのカスタマイズ性という点では、柔軟なWinDVD BDのほうが使い勝手は向上する。ただし、Station TV Digitalではリモコン操作が便利という特徴もあり、これはこれで捨てがたいところ。

 なお、BDの再生はCPUによるソフトウェアデコードとなる。そのため、ソニーではMPEG-2以外のMPEG-4 AVC(H.264)やVC-1のコンテンツ再生時にはコマ落ちが発生することがあると告知している。今回はMPEG-2のHDコンテンツのみのテストとなったが、ウイルスチェック時以外に、フレーム落ちなどが感じられたことはなかった。

 なお、デジタル放送録画番組にはチャプタ設定などが行なえないため、基本的に早送り/戻しで、任意の箇所まで移動する必要がある。スキップ速度自体はDVDとほとんど変わらない印象だ。また、追記した番組はタイトルとして認識されるため、任意の番組をタイトルとして選択できる。ただし、メニューなどは一切作られていない。再生しないと内容を確認できないので、パッケージにしっかり番組名を書き込みむなど、ディスク管理の面でも気遣いが必要となりそうだ。

WinDVD BDの画質設定機能。液晶などのディスプレイタイプも選択できる 追記した番組をタイトルとしてスキップできる ディスク情報。リージョンNoneのBD-REと表示。地上デジタル放送録画ディスクのビデオ情報は1,440×1,080ドット/20Mbps MPEG-2と表示された


リージョン設定画面。米国と日本が同一のリージョンに

 なお、リージョンコード無しで登場したHD DVDと異なり、BD(BD-ROM)では、リージョンコードの設定が行なわれる。WinDVD BDのプロパティを確認すると3つのリージョンが用意されているようで、日本と米国、カナダが同一リージョンとなることが確認できる。

 実際のソフト発売まではわからないこともあるが、米国版をいち早く視聴したいユーザーなどには期待が持てそうだ。ただし、従来のDVDリージョンコードと地域情報が一致していないため、DVDでは問題なく利用できたのに、BD世代では使えなくなる、という国同士の組み合わせもでてくるだろう。


・HDVソースからのBDAVディスク作成も可能

Ulead BD DiscRecorder for VAIO

 HDVカメラで録画した映像の編集などは、「Ulead BD DiscRecorder for VAIO」を利用する。先週レポートしているアイ・オー・データの外付け型BDドライブ「BRD-UM2」でもバンドルされていた製品で、詳しくはそちらでレビューしている

 BD DiscRecorderで作成できるのはBDAVと呼ばれるシンプルな、ビデオ/オーディオストリームの記録のみ。DVDビデオのようなメニュー作成や、チャプタ設定などは行なえない。これは、BD-R/REなどの記録型Blu-ray Disc向けのオーサリング用アプリケーションフォーマットの策定が終わっていないためだ。

 メニューやチャプタ設定などの機能がないため、オーサリング作業は非常にシンプル。テンプレートでプロジェクトの動画形式を決め、HDVやファイルから動画を追加するだけで、ディスク作成が行なえる。

 チャプタ設定はできないが、ビデオファイルを分割し、タイトルとして登録。タイトルごとに再生することは可能となっている。どうしても、スキップポイントを設定したい場合はこちらの方法を利用する。なお、「Station TV Digital」で録画したMPEG-2 TS番組は、BD Disc Recorderに取り込んで編集することはできない。

 キャプチャした1分24秒(約290MB)のHDVサンプルを、テンプレートから[HD BDAV-高画質]を選択、BD-REに書き出したところ、約4分15秒でディスクが作成が完了した。なお、HDVカメラ「HDR-HC1」で撮影し、PowerDirectorで取り込んだ映像をBD Disc RecorderでBD書き出しを試みたが、分析/変換中のダイアログが出たまま停止してしまうなど、不安定な面もあった。

タイトルを追加。ファイル分割し、タイトルとして登録できる テンプレートで、HD BDAVを選択 ディスク作成画面

 また、Premiere Pro 2.0が付属し、HDV編集などに対応。「TMPGEnc 4.0 XPress for VAIO」もバンドルしている。


■ 次世代への大きな一歩

 パソコンとしてのスペックは、メーカー製PCとしては最高クラス。機能やバンドルソフトも充実しているが、“レコーダ”として考えた場合は、いち早くBlu-ray Discへの録画番組保存に対応したという点が最大の特徴だろう。

 デジタル放送やBlu-ray関連の機能としては、できることがシンプルなだけに、操作性もまとまっており、使いやすい。編集機能などはアプリケーションフォーマットの課題もあり、“本格的”にライブラリを作るには不満を感じる点もあるが、それでも初のムーブ対応というメリットは、現状唯一のもの。

 価格は44万円前後。さらに、HDCP対応ディスプレイが必要となるなど、かなり高価な製品ではあるが、将来的に活用できるHD録画環境という意味では、他にない選択肢。Blu-ray支持各社のレコーダ開発状況などを見ても、しばらくはパソコンがBD保存用機器として先行しそうだ。6月19日という発売日から見ても、世界初の“カートリッジ無しBlu-rayレコーダ”となるだろう。

 また、BD-ROMプレーヤー機能も備えているため、さまざまな活用もできる。“パソコンならでは”、という視点でも、今後の展開を期待したいが、まずは、“録画したハイビジョン番組を、ハイビジョンでディスクに残せる”という、最初の大きな一歩を踏み出したことを歓迎したい。

ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□VAIOのホームページ
http://www.vaio.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200605/06-0516A/
□製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/RC3/
□関連記事
【5月16日】ソニー、Blu-rayドライブ搭載「VAIO type R」
-デジタルチューナ搭載/BDムーブ対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060516/sony1.htm
【2004年10月15日】【デバ】VAIOフラッグシップモデルがデジタル放送録画対応
ソニー「VAIO type R(VGC-RA71P)」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041015/dev088.htm
【5月17日】【本田】VAIOに実装されたBlu-ray関連機能をテスト(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0517/mobile337.htm
【2005年5月20日】PCで初のデジタル放送のHD録画/再生に対応
富士通 「FMV-DESKPOWER TX90L/D」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050520/dev112.htm

(2006年5月26日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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AV Watch編集部

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