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第217回:980円で買える脱獄劇
24 TWENTY FOURを超えるか!?「プリズン・ブレイク」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 24 TWENTY FOURを超えられるか!?

プリズン・ブレイク
第1巻

(C)2006 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
All Rights Reserved.
価格:980円
発売日:2006年5月11日
品番:FXBA-32205
仕様:1枚
収録時間:本編約88分
画面サイズ:16:9(ビスタ)
音声:1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   2.日本語(ドルビーデジタル2.0ch)
発売元:20世紀フォックス
     ホーム エンターテイメント ジャパン

 「X-ファイル」や「ER 緊急救命室」、「フレンズ」など、定期的に話題作が登場する海外ドラマ。最近では「24 TWENTY FOUR」の大ヒットが記憶に新しい。1話60分が現実と同じように進行し、1シリーズで24時間を描く「リアルタイム・ドラマ」という斬新なコンセプトと、たたみかけるように発生する事件、絡み合うストーリーが心拍数を上げ、「先が気になって仕方がない」、「途中でやめられなくて寝ていない」など、中毒症状に悩まされた人も多いだろう。

 そんな「24 TWENTY FOUR」をリリースしている20世紀FOXから、“24 TWENTY FOURファン必見”と銘打った新しいサスペンスドラマシリーズが発売された。タイトルは「プリズン・ブレイク」。最近CMでキャイ~ンの天野ひろゆきが「24 TWENTY FOURの先が気になる面白さがさらにパワーアップしている」とか、鈴木紗理奈が「主役の男の子がメチャクチャ好み」などとお勧めしているので、目にした人も多いだろう。

 ネットで検索してみると、2005年秋から米国でテレビ放送されおり、TWENTY FOURを凌ぐ人気などという言葉もチラホラ。そうなると、TWENTY FOURを楽しんだ人も、TWENTY FOURブームに乗り遅れた人も「観てみようかな」、「今度のドラマはチェックしてみようかな」という気になる。そんなわけで、5月11日の発売から約1週間後の5月19日に秋葉原のヨドバシカメラに向かった。

 売り場では特設ブースが設けられ、大画面テレビで繰り返し映像が流されるなど、大々的にフィーチャー。ついでに覗いた新宿の家電量販店でも同様の展開が行なわれていたので、おそらく大型店舗なら探さずとも見つけられるだろう。第1巻の価格は驚きの980円。店頭では880円で販売されていた。再販キャンペーンでもないDVDの価格としては異例とも言える低価格。しかも「予告編しか入っていない」とか「1話しか入っていない」などのケチな話ではなく、ドーンと2話分、計88分も収録と、映画1本分のボリュームだ。

 第1巻だけを低価格でリリースし、視聴者を作品の虜にして、第2巻からいきなり5,980円などに跳ね上がるのは国内アニメでよくあるパターンだが、まさにそれと同じだ。プリズン・ブレイクの場合は第2巻(3/4話収録)からは単品リリースは今のところ予定されておらず、第2巻から第7巻までをセットにしたDVD-BOXのみが6月16日にリリース予定。価格は6枚組で10,290円だ。1枚あたりは1,700円程度なので別段高価というわけでもないが、「第1巻を観たら、絶対に一気に続きが観たくなってDVD-BOXを買うハズだ!」という20世紀FOXの強気な姿勢が見えて興味深い。それだけ自信があると言うことなのだろう。

 ちなみに、以前レビューした「ファンタスティック・フォー 超能力ユニット」のレンタル版DVDと、同じく「イン・ハー・シューズ」のレンタル版に、「プリズン・ブレイク」の第1話がまるまるオマケとして収録されているそうだ。「とりあえず観て!!」という声が聞こえてくるようなプロモーション・パワーだ。なお、「プリズン・ブレイク」のレンタル版DVDは5月11日にスタートしており、こちらは単品展開中。第1/2/3巻が既にレンタルされており、6月2日に4/5巻、6月16日に6/7巻というスケジュールだ。またレンタル店での争奪戦が繰り広げられるのだろうか?



■ お願いだから刑務所に入れてください

 主人公のマイケルは、シカゴのロヨラ大学を次席で卒業し、IQ 200とも言われる頭脳明晰な男。建築技師の仕事は順調で、正義感に溢れ、顔立ちも端正と非の打ち所のない男だ。しかし、唯一の肉親である最愛の兄・リンカーンが副大統領の兄弟を銃殺した罪で逮捕され、死刑判決を受けたことで人生が一変してしまう。

 異例のスピード判決に疑問を抱き、兄の無実を信じて冤罪を主張するマイケル。だが死刑は後1カ月に迫る。もはや合法的な手段では兄を助けられないと悟ったマイケルは、何を思ったか銃を手に銀行を襲撃。当然のように逮捕されてしまう。自分を弁護すらせず、懲役5年の有罪判決を受けるマイケル。そして、彼が送り込まれたのは兄リンカーンと同じ刑務所だった。

 塀の中で再会した兄弟。当然兄リンカーンは驚いたが、彼をもっと驚愕させたのは弟の上半身に彫られた迷路のような、暗号ような複雑な模様のタトゥー。「刑務所に入ったのは計画済みのこと。僕は兄さんを脱獄させ、兄さんを罠にハメた黒幕を暴く」と宣言するマイケル。道具も何もなく、不可能に思われる脱獄。だがマイケルは自信に満ちた顔で「この刑務所の改装工事で設計を担当したのは僕だ」と告げるのだった。

 TWENTY FOUR的に時間に注目するならば、タイムリミットは死刑が執行されるまでの30日間。その間に、兄を連れて脱獄する物語と、兄をハメた黒幕を暴く物語が同時進行する。もちろん兄弟は塀の中なので、黒幕を暴くのはリンカーンの元恋人で、弁護士であるベロニカの役目。リンカーンの死刑の障害となる人物が消されていく状況に疑問を感じた彼女は調べを進め、次第に政府の影がチラつくことになる。おそらく脱獄を境に、塀の中と外の物語が統合されるのだろう。だが、マイケル達は脱獄犯として逃げながら事件の真相を暴かねばならないのだろうか? 続きが気になるところだ。

 設定として面白いのは、主人公の脱獄計画が視聴者に知らされないことだ。死刑を巡る陰謀の物語と同時に、「どうやって脱獄するのか?」という謎解きも楽しめる。さらに、IQ 200の天才とはいえ、マイケルが完璧な人間でない所が面白い。脱獄をするためには物資の調達などで囚人達の協力が必要であり、彼らの素性などもマイケルは下調べしてから入所している。だが、インテリな彼の計画は良くも悪くも「机上の空論」であり、必ずしも計画通りには進まない。だいいちIQ 200の天才が、筋肉モリモリの囚人達に好かれるわけがない。「頼んであったブツを渡してくれ」と迫っても、「おまえ偉そうでムカツクんだよ」でゲンコツをボカン。計画も何もあったものではない。

 刑務所の中では黒人と白人が対立し、様々なグループの思惑が渦巻いている。計画を計画通り進めるためには、囚人達から信頼を得て、仲間を作らなくてはならない。ここに人間ドラマの要素が生まれる。また、鉄壁と思われた計画が崩れるたびに、視聴者は「おいおい、大丈夫かよ、兄貴の死刑まで時間がないのに」とハラハラ。計画の全貌を知らされないため、心配が主人公への親近感に変化する。面白い要素をこれでもかと詰め込む手法は、TWENTY FOURのライバルと呼ぶに相応しい巧みなものだ。

 また、主人公マイケルを演じるウェントワース・ミラーも魅力の1つ。俳優としてあまり知られておらず、このドラマがブレイクのキッカケになると言われているが、彼の顔立ちや演技が素晴らしい。個人的にはV6の岡田准一に良く似ていると思うのだが、少年っぽい可愛さを残した顔立ちながら、目つきは鋭く、黙っているだけで「難しいことを考えていそうな」雰囲気が漂う。かといって嫌みな感じではなく、不思議な清涼感がある。鈴木紗理奈が騒ぐのもうなずけるほど“良い男”だ。ハプニングが発生すると視聴者は彼の表情を伺い、「あっ、よかった、これは計画済みのことなんだ」と安心。だが、子供のように不安げな表情になる時もあり「ああーやばい!! これは想定外なんだ!!」とテレビの前で頭を抱えてしまう。男の私が言うのも妙な感じだが、ほっとけない感じのする青年なのだ。

 シーンの切れ目で時間を表示し、時間というものを強く意識させたTWENTY FOURと比べると、30日間を丁寧に描くプリズン・ブレイクはスローな印象を受ける。そういった意味で、前のめりで鑑賞してしまう中毒性は薄めだ。だが、これでもかと観客を引き付けようとする演出/物語のあざとさは少ないため、「TWENTY FOURより自然で面白い」と感じる人もいるだろう。また、ビルや飛行機、潜水艦など、閉鎖空間を舞台にした作品には名作が多いが、そうした“閉鎖空間サスペンス”が好きな人もハマるシリーズになりそうだ。また、前述の様に主人公が魅力的なので女性ならより楽しめそうだ。

 ただし、1つだけ気になる点がある。それはバイオレンス描写だ。刑務所を舞台にしているため、人種間の抗争や制裁などでかなり目をそむけたくなるような“痛い”シーンが幾つかあった。そういった描写がダメな人には注意が必要。描写自体は淡泊だがラブシーンも少しあるので小さな子供と一緒に、家族で楽しむドラマ……とはいかなそうだ。


■ 見ないほうがいい特典映像?

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは第1話が5.76Mbps、第2話が5.75Mbpsでほぼ同じ。本編の合計収録時間は88分、特典が約30分含まれているが、低めのビットレートと言えるだろう。色調は刑務所のシーンでは青みが強く、寒々しさが良く出ている。その対比として塀の外の世界は赤みが強く、暖かさを感じる映像になっている。刑務所のシーンが多いため、必然的に冷たいトーンの映像が多い。ビットレートの低さからくる輪郭の甘さや解像度不足は散見され、暗部の描写も今ひとつだが、色味のおかげで清涼感のある、抜けの良い映像と錯覚してしまう。それゆえ鑑賞していて不快になることはなかった。

 テレビドラマだが、音声は英語、日本語ともにドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートはどちらも448kbpsだ。爆発やカーチェイスなど、派手なシーンがないので低音は控えめだが、音質そのものは解像感は高く、定位も良い。低音が少ないことが幸いし、細かい音まで聞き取れる。環境音とセリフのマッチングも違和感はない。リアチャンネルは間接音で利用される程度なのでサラウンド的な驚きは少ないが、時折挿入される重厚なBGMは、作品を盛り上げる役目はキッチリ果たしている。

 なお、日本語吹き替え音声も聞いてみた。主人公のアレンは俳優/声優の東地宏樹が演じている。アニメでは「トリニティ・ブラッド」のアベル・ナイトロード役、最近では「.hack//Roots」のオーヴァン役でもお馴染み。どちらかというと渋くて男くさい声なので、個人的には線の細いマイケルには合わないイメージだった。まあ、長いドラマシリーズを見続ければ慣れてしまうのかもしれないが。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート
【第1話】
DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート
【第2話】

 特典は出演者が交互に、自らが演じるキャラクターを解説していくというありがちなスタイル。しかし、本編の情報量が膨大であり、描かれていない情報も多いため、生い立ちや刑務所に入った理由など「なるほど、そうなのか」と初めて知る話が多い。鑑賞後に必ず観ておきたいコンテンツだ。

 ただし、気になるのはチョコチョコと“これから先の話”が語られることだ。ご丁寧に、まだ視聴者が観ていない第2話以降の映像も挿入される。「なるほど」と思いながら、「ちょっと、そんな事まで教えてくれないくていいよ」というポイントが幾つかあり、作品について詳しくなれて嬉しい反面、先が気になる身としては「見なきゃよかったな」とも思えた。第2巻、第3巻あたりを観たあとで、第1巻の特典に戻ることをお勧めしたい。


■ 続きが気になるならBOXを買うしか?

 物語が完結していないため、作品としての評価は下せない。しかし、880円で購入した88分のドラマDVDとして考えると、第1話~第2話だけでも十分面白く、コストパフォーマンスは非常に高い。さらに第2話がかなり凄まじいシーンでブツリと終わってしまうので続編が腹が立つほど気になる。ある意味で“まんまと乗せられる”作品と言っていいだろう。

 だが、980円の続きが10,290円のDVD-BOXしか無いというのはハードルが高い。たとえ、最終的に全巻購入することになったとしても、やはり各巻1,500円くらいで単品発売もして欲しいところだ。TWENTY FOURも結局単品発売されているので、プリズン・ブレイクもいつかは単品リリースされるとは思うのだが。そういった意味では、定期的に単品の新巻が登場するレンタル版の方がメインと考えられているのかもしれない。

 ともかく、また寝不足になりそうなシリーズがスタートしたなという印象だ。おそらくレンタル店での争奪戦が勃発するだろう。休日にしかレンタル店に行けないという人は「続きが観たくても観られない」という状況が続いてしまうため、やはり一気にDVD-BOXを買ってしまったほうがスッキリするかもしれない。そう考えると、880円という価格は良心的に見えつつ、非常に危険な誘惑プライスだと言えそうだ。

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□20世紀FOXのホームページ
http://www.foxjapan.com/
□作品の情報ページ
http://www.foxjapan.com/dvd-video/tv/prisonbreak/index_frames.html

(2006年5月23日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp
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