~ 松下、ソニー、シャープの店頭展示に見る、各社の年末向け戦略の差異とは? ~ |
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一方、低価格化については、今年は、いよいよ40インチ台の製品が1インチ1万円を切る世界に入ってくる。昨年の年末商戦に比べて、20%以上もの価格下落が見られており、40インチ台の大画面薄型テレビが、徐々に購入しやすい価格帯にまで入ってきている。
冬季オリンピック、ワールドクラシックベースボール、サッカーワールドカップというビックイベントを迎えた今年の薄型テレビ市場は、年間750万台を超える出荷台数が見込まれており、その勢いは、この年末商戦でピークを迎えることになる。メーカー各社にとって最後の勝負となる年末商戦を牽引するのが、「フルハイビジョン」、「大画面化」、「低価格化」という3つのキーワードというわけだ。
■ 5年ぶりに店頭展示を一新したシャープ
量販店店頭では、徐々に年末商戦向けの展示へと衣替えが始まっているところだ。一部メーカーの製品展示は、すでに年末商戦向けに変更されているが、10月上旬には、各社の主力新製品が、ほとんどの店舗に展示され、年末商戦向けの展示へと完全に切り替わることになる。
その店頭展示のコンセプトが、今年は各社ごとに明確になっている。言い換えれば、各社ごとの戦略が、鮮明ともいえるぐらいに店頭展示に反映されているのである。
なかでも特筆できるのがシャープだ。
シャープは、2001年1月に「AQUOS」を市場投入して以来、5年目にして初めてとなる店頭展示の大幅なリニューアルに乗り出した。
AQUOSの店頭展示といえば、青を基調としたものだったが、この年末商戦では白を基調とした展示とした。これを社内では、「店頭みちがえり計画」と題し、展示イメージの一新に挑む。
「白を基調とすることで、女性でも入りやすい展示とした。また、年末商戦における当社の目玉である大画面フルハイビジョン液晶テレビの展示を前面に打ち出した売り場づくりへとリニューアルした」とシャープの大塚雅章専務取締役は語る。
これまでのAQUOSコーナーは青を基調にしていた | シャープ大塚雅章専務取締役 |
大画面フルハイビジョンの製品強化は、今年8月から稼働した亀山第2工場の影響が大きい。第8世代の生産ラインによって、大画面テレビを効率的に生産できるからだ。
今回の店頭展示でも、52/46/42/37インチを主力商品に位置づけ、大型フルハイビジョン製品の展示とともに、コントラスト、動画応答速度、視野角といった液晶の技術的課題と指摘されていた部分が解決されていることを強調。また、ファミリンクによる使い勝手の訴求も行なう考えだ。
さらに、リビング空間の演出を考え、「AQUOS INTERIOR」という新たなリンビング向け提案も開始する。
AQUOS INTERIORは、AQUOSのデザインも手がけたインダストリアルデザイナーの喜多俊之氏が中心となり提案する、液晶テレビ向けの家具製品で、インテリアメーカー6社が参加。年末には、各社から25種類の製品が用意される。これをシャープが仕入れて、店頭で販売するという仕組みだ。
「大画面テレビを主軸に据えることにより、リビングにおけるインテリア性を考慮したいという顧客への対応が必須となってきた。AQUOS INTERIAは、こうしたユーザーに対するシャープからの提案になる」(シャープ ブランド戦略推進本部販促部 天川幹典部長)。
これがシャープが提案する店頭展示の新コンセプト | AQUOS販促パース |
調査によると、40インチ台の大画面テレビ購入者のうち、壁掛けをやってみたいという人は、約4割を占めるという。だがその一方で、「部屋の改造や工事が面倒」(26%)、「壁が丈夫ではない」(16%)、「壁掛けにすると模様替えに困る」(16%)といったことで断念している人が多い。
シャープでは、AQUOS INTERIAによって、「壁寄せ」という設置方法を提案。壁掛けに関する各種課題を解決しながら、見た目は壁掛けのような設置を可能にした。
全国約150店舗の大型店舗では、AQUOS INTERIAが、年末向け店頭展示の目玉のひとつとなる。シャープは、こうした設置部分にまで手を広げることで、大画面テレビの販売にも弾みをつける考えだ。
■ ハイビジョン製品の連携型展示を前面に打ち出すソニー
ソニーは、これまで通り、「Sony Hi-Vision Quality」をキーワードにした展開を行なうが、今年の店頭展示では、これまで以上に製品連携が前面に出ているのが特徴だ。
これまでにもソニーは、「HD World」という切り口で、「見る、録る、撮る、編集する」といった領域で、ハイビジョン対応製品の連携提案をしてきたが、一部製品が高価であったり、マニア向けであったりといったことで、決してその提案が、万人に受け入れられるものではなかった。
だが、この年末商戦では、2年目を迎えた薄型テレビの「BRAVIA」や、ハイビジョンハンディカムの事業拡大といった実績に加えて、「VAIO」でのBlu-ray Discドライブ搭載機種の拡大、デジタルカメラも一眼レフの「α」を投入、さらに新たに年末向けにBlu-ray Discレコーダを投入することを発表するなど、徐々にハイビジョンを身近なものとする製品群が出揃ってきた。そして、11月にはBlu-ray Discドライブを搭載した「PLAYSTATION 3」の発売や、年内には全国規模で地上デジタル放送が開始されるといった、ハイビジョンに関する動きが加速することも追い風となりそうだ。
ソニーマーケティングの鹿野清取締役執行役員常務は、「今年は、いよいよ言葉に商品がついてきた」と前置きし、「Sony Hi-Vision Qualityを打ち出してきたものの、正直なところ、これまで製品が揃っているとはいえなかった反省がある。だが、今年は違う。一部の人だけがハイビジョンを『見る』という使い方から、多くの人がハイビジョンを『体験』するといった使い方が可能になる。これぞ、ソニーのHi-Vision Qualityだといえる製品が揃ってきた」と語る。
ソニー鹿野清取締役執行役員常務 | ソニーではハイビジョンコンサルティングを標榜する |
店頭展示では、「ハイヒジョンコンサルティング」をキーワードとし、主要な大型店舗においては、ハイビジョン製品を組み合わせた用途提案を行なう一方、リビングを模したハイビジョン利用の具体的な提案展示も行なう予定だ。
「リビングを模した展示は、一部の大型店舗でしかできないが、コンサルティング型の店頭展示は多くの店舗でやっていきたい。当社の調査によると、ハイビジョンという言葉を知ってはいるが、内容を知らないという人が大半。こうした人たちに対して、プラスワンのコンサルティングとして、ソニー製品同士の組み合わせによって、ハイビジョンをこんな風に利用できるといった新たな提案をしていく」と語る。
さらに、銀座のソニービルではハイビジョンに関する購入前から購入後までの各種顧客支援を行なう体制を構築するほか、問い合わせ窓口であるソニーお客様ご相談センターでも、「製品目線の対応だけでなく、個々のライフスタイルにあわせた購入前の相談も行なうといった、相談窓口の新たな形態も模索したい」(同)としている。
ソニーでは、これを「新たなハイビジジョン時代の幕開け」と位置づける。
■ 今年も一夜城を敢行した松下電器
7月19日に製品発表を行ない、9月1日から、いち早く年末展示へと移行した松下電器は、今回も「一夜城作戦」と呼ばれる展示手法を展開した。
一夜城作戦とは、わずか1~2日間で、全国の店舗の店頭展示を一気に変更するもので、3,000店舗以上が対象になる。一夜にして店頭展示が全国一斉に変化することから、こう呼ばれるのだ。
この一夜城作戦は、プレス向けの新製品告知、テレビCM、キャンペーン、店員向け新製品教育などと連動したもので、事業部、生産拠点、マーケティング本部、営業部門の一糸乱れぬ連携によって実現する。
製品告知を行ない、出荷までの間に店員教育を行なう一方、出荷開始を前後した時期に大規模なテレビCMを展開。それを見た顧客が、店頭に来ても、必ず新製品を見ることができるという仕組みだ。このサイクルに乗っているからこそ、一夜城作戦が効果を発揮する。
松下電器が1社だけ、1カ月半近くも、他社に先駆けて年末向けの新製品を発表したのは、店員教育や告知などの準備に、十分な時間をとることが目的だった、というわけだ。
そして、その一夜城作戦によって築かれたのが、「地上のビエラ」のキャッチコピーとともに、プラズマテレビから液晶テレビまでのフルラインアップによる展示強化である。
これまで松下電器といえば、プラズマテレビの展示が前面に来るような形で店頭展示を仕掛けていたが、この年末商戦向けの告知では、テレビCMでも明らかなように、103インチの世界最大のプラズマテレビから、15インチの液晶テレビに至るまでの幅広いラインアップを強調。店頭展示も、それに準じたものとしている。
VIERA販促パース |
もちろん、103インチの店頭展示は基本的には予定されておらず、店頭では40、50インチ台の製品が中心となるが、店頭を補完するように、9月23日から10月15日まで、六本木ヒルズには103インチのプラズマテレビを展示する予定だ。
こうしたフルラインアップ展示の背景には、松下電器が、プラズマテレビでは圧倒的シェアを獲得しているという事情がある。8月までは、国内プラズマテレビ市場で約65%のシェアを獲得していたが、一夜城作戦を敢行した9月上旬には、松下電器のシェアが80%を突破するという異常事態になったほどだ。
プラズマテレビのシェアを維持しながら、液晶テレビにも精力的に打って出るというのが、今回の展示の狙い。プラズマテレビが得意とするリビングだけでなく、液晶テレビが得意とする書斎にもVIERAを浸透させていこうという狙いも見られる。
こうした各社の店頭展示の違いを見ると、各社の戦略が明確に反映されているのがわかる。とくに、今年の年末商戦の場合、それが各社の戦略の違いを浮き彫りにするものとなっている。
こうした背景を知って、店頭展示を比べてみると、また違った視点で展示を楽しめるかもしれない。
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□松下電器のホームページ
http://panasonic.co.jp/
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(2006年9月29日)
= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
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