■ CREATIVEの新しい顔 前世紀からパソコンをいじってた人にしてみれば、「CREATIVE」と言えば「SoundBlaster」だったのが、今はもう遠い昔の話のように思える。最近はすっかりポータブルプレーヤーのメーカーとして定着し、新製品や価格改定などのニュースが相次ぎ、AV Watchをみてると毎月新製品が出てるんじゃないかと思えるほど、CREATIVE関連のニュースは多い。 そんなCREATIVEのポータブルプレーヤーとしては小型のメモリ型が思い浮かぶが、大型液晶を使ったビデオ系のポータブルプレーヤーも、早くから参入している。最初はWindows PMC(Windows Mobile software for Portable Media Centers)採用のポータブルAVプレーヤーで、Windowsの看板を背負っての登場だったが、お目見えが早かった割には発売が遅れたため、日本ではほとんど話題にならなかった。 しばらくCREATIVE製品から遠ざかっていたのだが、ワイド液晶を採用した「ZEN VISION W」はルックスもなかなか良さそうだ。30GB版と60GB版の2モデルがあり、価格は直販サイト「クリエイティブストア」でそれぞれ39,800円、44,800円となっている。 日本では火が付いているのか付いていないのか微妙によくわからないポータブルAVプレーヤー市場だが、その中でもっともメジャーと思われる製品はどのようになっているのだろうか。さっそくチェックしてみよう。
■ 破綻のないすっきりしたデザイン まず最初に、全体的なスペックを把握しておこう。基本的には映像、音楽、写真の「なんでもプレーヤー」でFMラジオやボイスレコーダ機能も付いている。対応ファイルを表にして見てみよう。
映像でWMVのスペックが極端に見劣りするのは、マイクロソフトがWindows MTP(Media Transfer Protocols)として解像度やビットレートを規定してしまったからだ。これは転送時に圧縮するものとして、割り切るべきだろう。 全体的に見て、MPEG-4系の再生が優れている。一方MPEG-2で最高ビットレートが2.5Mbpsでは、画像面積を縮小しない限り満足する絵は出ないだろう。 音楽ファイルの再生では、かなり高いビットレートまで再生をサポートしているが、最近株が上がっているAACがないのは残念だ。ただWMAはDRM 10対応ということで、10月3日22時にサービスインしたナップスターの音楽配信サービスの対応プレーヤーとなる可能性もある。 本体のルックスだが、液晶画面周りは黒で、背面は濃いメタリックグレーとなっている。4.3型のワイド画面をフィーチャーするだけあって、従来のポータブル機にはない広々とした液晶画面が次世代の雰囲気を漂わせる。もっともデザイン的には、ワイドではない前モデル「Zen Vision」のイメージを踏襲しており、これのワイド版という位置付けになっているのがわかる。
肝心の液晶のスペックだが、4.3型/480×272ドット/アスペクト比16:9。前モデルでは4:3ながらも3.7型/640×480ドットだったので、解像度としては後退しているのが微妙だ。ただサイズも解像度も、ソニーのPSPと同等であることを考えれば、それほどガッカリしたものでもない。 操作ボタン類はすべて右側に集中しており、メニューの表示には一番上の「戻る」ボタンを長押しするという、変わった操作性だ。その下はオプションボタンで、ショートカットメニューのような働きである。
ボタン類はクリック感がかなりしっかりしており、むしろ若干堅めといった感じ。下部にはモノラルのスピーカーも備える。 上部は電源とボリュームボタン、底部にはUSBコネクタとクレードル用のコネクタがある。また本体左側にはCFカードスロットがあり、デジカメの写真を吸い出すことも可能。別売の「CFアダプター」を使えば、各種メディアにも対応できるようだ。 本体右側には、イヤホン、AV出力、電源端子がある。イヤホン端子だけはそのままだが、そのほかはゴム製のカバーで隠れるようになっている。
米国製品の常として、ACアダプタが巨大というのが半ばオキテのようになっている。ZEN VISION Wのアダプタはそれほど大型ではないが、ワールドワイド仕様になっているため、日本のコンセント用プラグをここにはめ込んで使用することになる。 あいにく貸出機には日本用プラグが付属していなかったため、別プラグをセットしてみたが、トータルでやっぱり大きめになる。プラグの接続部は一般的なメガネ型コネクタなので、別途適当な電源ケーブルで延長して使った方が便利かもしれない。 付属イヤホンはCREATIVEロゴの入った、取っ手部の細長いタイプ。音質的にはかなり中低域寄りで、もっこりした音だ。高域の抜けにかなり物足りなさを感じる。
■ 連携するアプリケーション群 続いて転送ソフトウェアを見てみよう。転送・管理のベースとなるのは、「Zen Visionメディア エクスプローラ」というソフト。ここで「メディアの追加」を選ぶと、ウィザード形式でファイルを指定して、転送できる。映像、音楽、写真など単に選ぶだけで、ZEN VISION W内の適切なフォルダに転送される。ただZEN本体を接続しないと、機能が使えないという作りになっている。
ZENで再生できないフォーマットは、「Creativeビデオコンバータ」で変換して転送を行なう。だがこのコンバータではWMVにしか変換できないため、画質面ではやや厳しい。品質を求めるならば、事前にDivXなどに変換しておくといいだろう。
ただDivX 6以降に登場したDivX Converterは、変換後のファイルに「divx」という拡張子を付ける。この拡張子では、メディア エクスプローラが非対応ファイルと判断してWMVに変換しようとしてしまうのが難点だ。同じファイルでも拡張子を「avi」にすれば、そのまま転送される。 一方音楽用の転送・管理ソフトとして、「Creative MediaSourceオーガナイザ」というソフトウェアもある。Zen Visionメディア エクスプローラが映像まで含めたソフトウェアであるのに対し、こちらは音楽の転送管理専門といった形だ。おそらく同社の音楽再生のみのプレーヤーに付属するソフトウェアだろう。機能的に両者ダブっている部分もあり、利用法が混乱するところだ。 手動でいろいろやるときには、これらのソフトのお世話になるわけだが、フォルダをあらかじめ指定しておいて自動更新することもできる。「シンクマネージャ」というソフトウェアが常駐して、ZENを接続しただけで各メディアほか、Outlookのスケジュールなども同期できる。
そのほか興味深いのは、「ZENcastオーガナイザ」だ。あらかじめビデオブログのサイトを登録しておくと、コンテンツを自動ダウンロードしてZENに転送してくれる。ネット上では、「ZEN CAST」というポータルサイトがあり、そこからポッドキャストやビデオブログが登録できるようだ。
オーガナイザ上には海外のサイトしか候補にないが、自分でURLを入力して追加することもできる。新聞社などが配信しているビデオニュースを転送して見るというのも、なかなか面白そうだ。 もちろんビデオ配信にはいろいろなフォーマットがあり、ZENで再生できないものもあるわけだが、対応できないファイルは「Creativeビデオコンバータ」が連動して立ち上がり、フォーマット変換したのち転送される。全自動とはいかずいくつかボタンをクリックする必要はあるものの、なかなかよくできている。
■ MPEG-4系にベストな再生機能 では実際に再生してみよう。本体のメインメニューは、文字のみで構成されている。大型液晶を搭載したAVプレーヤーでは、アイコンなどに凝ったものも少なくないため、非常にシンプルに感じる。 まずは動画再生からだ。事前に変換しておいたVGAサイズのDivXファイルは、コマ落ちもなくかなりスムーズに再生できる。液晶パネルの解像度はそれほど高くはないが、ドットが目立つほどではない。 特に映画などレターボックスで放送されたコンテンツは、画面内に綺麗に収まるため、満足度が高い。発色も十分で、ちゃんと鑑賞に集中できるレベルだ。視野角も上下左右のバランスが良い。ただモニタ面が平滑で反射率が高いので、光源の位置によっては見にくいこともあるだろう。 ファイルの早送り/巻き戻しは、十字キーの左右か、スキップボタンを押し続ける。最初はゆっくりだが、ずっと押し続けると加速していくなど、細かいところだが使い勝手はいい。ただ映像自体が早送りで進むわけではなく、タイムライン上の数字が進むだけである。
再生のレジュームにも対応しており、長尺のコンテンツを途中で中断しても、続きから再生できる。ただし別の動画ファイルを再生してしまうと、忘れてしまうようだ。 一方WMVにコンバートされたコンテンツでは、激しいアクションの部分で再生がコマ落ちするなど、あまり良好とは言えない。画質に関係しないものの視聴、あるいはファイル容量を節約したい場合は有効だが、WMVは変換速度がそれほど速くないのも難点だ。 CREATIVEとマイクロソフトは政治的な関係もあってか、変換ソフト上ではWMV標準になっているが、再生面ではほとんどメリットがない。CREATIVEとしても、そのあたりは痛し痒しだろう。 ビデオブログの再生は、元々それほど映像品質が高くないこともあって、WMV変換後のファイルでもそれほど喪失感はない。日本でもiPod以外でこのようなコンテンツ視聴が可能というアピールに繋がれば、もう少しビデオブログもメディアとして芽が出るような気がするのだが。 音楽の再生は画面が横に長いだけあって、長いタイトルも文字が切れず、見通しがいい。また画面の右側にアルファベットが出て、アーティスト名などが頭文字選択ですぐジャンプできるなど、新しい工夫も見られる。
またDJ機能として、「本日のお勧めアルバム」や「よく再生するトラック」などがある。iPodの場合は、「そういうプレイリスト」をiTunesから転送しているに過ぎないが、ZEN VISION Wの場合は、本体内でどんどん更新していくため、転送しっぱなしでも楽しめるのはポイントだろう。 フォト機能についても言及しておこう。まあ大抵のプレーヤーは転送した写真をスライドショーにして見る機能が付いている。ZEN VISION Wにもその機能が付いているが、写真の入れ替わり時にフッとモノクロになりながらブラックアウトするという、なかなか心憎い演出が成されている。入れ替わりの演出は変更も可能だ。 本体ではただ写真が入れ替わるだけだが、メディアエクスプローラで事前にスライドショーファイルを作っておくと、音楽もそこに登録することができる。スライドショーと音楽の関係は不思議なもので、泣ける音楽を入れておけば、どんな写真でも泣ける思い出に変化するのが面白い。
■ 総論 ZEN VISION Wは、デザイン的に落ち着いているので若干地味な製品だが、最初のポータブルAVプレーヤーから2年の歳月を経て、シンプルながら使いやすいスタイルに落ち着いてきた感じだ。実際にこの手のプレーヤーは、韓国メーカーから中味は同じじゃないのと思われるほどいろんな種類が出てきているわけだが、機能の切り分けや付属アプリのコーディネートなど、CREATIVEなりのセンスが出ている。 動画の変換に関しては、デフォルトが画質的にも速度的にもメリットが少ないWindows MTPに押し込められているのが難点だ。DivXではかなり良好な表示が得られるだけに、時代遅れのWindows MTPがこの製品の魅力をスポイルしているのであれば、残念である。 30GBモデルで4万円弱と値段的には微妙だが、液晶モニタの品質を考えると妥当な価格だろう。ケータイでもゲーム機でも似たようなことはできるわけだが、潤沢なストレージ容量を使って高品質な再生が楽しめるのが、ポータブルAVプレーヤーのメリットである。 あいにく日本ではデジタル放送がこの手のプレーヤーに転送できないこともあって、市場がシュリンクしつつある。せっかく製品の質も落ち着いてきたところなのに、このままにしておくにはあまりにも勿体ないジャンルだ。 東芝gigabeat V30Tはワンセグに活路を求めたわけだが、ZEN VISIONシリーズにも何らかのブレイクスルーが必要かもしれない。音楽はワールドワイドでなんとかなるが、放送が絡むと日本は事情がかなり特殊なので、ワールドワイド仕様のままで押し切ろうとすると無理がある。 モノとしては良くできているので、きちんとわかっている人に使って欲しい一品である。
□クリエイティブメディアのホームページ (2006年10月3日)
[Reported by 小寺信良]
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