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PS3とXbox 360の「ネットワークAV家電」としての可能性


PLAYSTATION 3とXbox 360

 「PLAYSTATION 3(PS3)」が発売されて、もうすぐ3週間。その後の検証で、謎の多かったPS3の中身も、ようやく見え始めてきている。また、「Xbox 360 HD DVDプレーヤー」も発売になり、「ゲーム機を次世代メディア戦略の軸とする」姿が、明らかとなってきた。

 そこで今回は、PS3とXbox 360の構造、そしてネットワークサービスを比較することで、「ネットワークAV機器としてのゲーム機」の姿を分析した。



■ PSXの息子、PSPの兄弟だったPS3

 結論からいえば、PS3は、ソフトウエアアーキテクチャ的に見ると、おどろくほどPSXやPSPの設計思想を継承した製品だった。

PLAYSTATION 3 PSX

 AVファンにとっては「失敗したビデオレコーダ」程度の認識にとどまっているPSXだが、デジタル家電のアーキテクチャを語る上では、非常に重要な製品である。

 PSXの狙いとは「コンピュータのアプローチで家電を作る」ことだ。汎用のプロセッサを使って多くの機能をソフトウエアで実装することで、柔軟な機能拡張と、幅広いメディアへの対応を実現したい、というのが本来の目的であり、「DVDレコーダ」という製品形態はその応用例の一つであった。これは、現在のパソコンが多くの人にとって「万能AV機器」となっていることを考えれば、ごく自然な発想である。

PS3の「XMB」

 この思想は、ユーザーインターフェイスである「XMB」によく現れている。写真/映像/ゲーム/ネットワークが、どれかを優先することなく、並列に並んでいる。これはゲーム機のユーザーインターフェイスというより、「メディアブラウザ」という性質が強いものだ。

 SCE関係者によると、後のPSXに続く構想がSCE内で産まれたのは、PS2の開発が完了した直後の2000年前半のこと。久夛良木氏を含めたブレインストーミングの中で発生したコンセプトだという。その後この構想は、PS2用ネットワークサービス「Playstation BB」、幻に終わったPS2用テレビチューナユニットを経て、ソニー本体からDVDレコーダとして登場することになる。

 だがPSXは、「汎用AVコンピュータ」を目指すSCEにとっても、「競争力のあるDVDレコーダ」を目指すソニーにとっても力不足なものであった。SCEの理想を実現するにはCPUパワーもメモリ容量も足りず、ソニー側にとっては時間とノウハウの不足から、家電機器としての完成度を上げることができなかった。

 そのため、PSPとPS3は、PSXの欠点を解消するところからスタートしている。例えば、PSXはなにかというと再起動が必要な機械であった。メイン・アプリケーションであるDVDプレーヤー機能やゲーム機能を呼び出す場合、メモリと処理速度を確保するために、XMBを含めたOS部がメインメモリから排除されてしまうからだ。再度XMBに戻るには、改めてOSの読み込みから始める必要があった。

 だがPSP/PS3ではその必要がない。ハードウエアリソースに余裕ができ、OS側でもXMBと平行してアプリケーションを走らせる機構が準備されたため、ゲームからXMBに戻るのが容易になった。

 PS3の場合、コアとなるCell OSの上ではまずXMBが動く。これはWindowsでいうところのExplorerとInternet Explorer、そしてWindows Media Playerを一つにしたような存在と考えていい。

 さらに、XMBから呼び出せるアプリケーションとして、ゲームやBlu-ray Disc/DVDプレーヤーが存在する。これらがXMBと区別される理由は、PS3のリソースを最大限に使えるよう配慮されているためだ。

 実は、MPEG-4などの動画ファイルを再生しているときとBDを再生しているときでは、パッド中央の「PSボタン」を押した時の挙動が異なる。前者ではXMBを表示して「タスク切り替え」を行なう動作となるが、後者では実行中のアプリケーション(この場合はBDビデオ再生)を「終了」する画面となる。使う側にとってはどうでも良いことなのだが、ここにPS3の特徴が現れている、といってもいい。

PS3のHDD上のビデオ再生時にPSボタンを押すと、タスク切り替え動作になる BDビデオ再生時はPSボタンを押すと再生停止を確認

 様々な機能を備えた「汎用機」として動作することもできれば、全機能を1つの仕事に注力する「専用機」としても働き、しかも「専用機」モードからも再起動することなく「汎用機」モードに戻れる、と考えれば良いだろうか。このようなアーキテクチャを採った結果、ゲーム実行時にもXMBがメインメモリーを占有することとなったが、その分操作性は向上することとなった。

 既報の通り、PS3のBD再生クオリティは、BDレコーダーなどと比較しても見劣りしないほどに高い。EMI(電磁波障害)対策などにやりすぎとも思えるほどのコストを割いていることに加え、「ソフトウエアデコード」の強みを最大限に生かした結果といっていい。PS2の時は、限られたパワーのハードを使い、「低価格化のためにソフトデコード」している、という側面が強かったが、PS3の場合には、演算力は有り余るほどある。その力は、今後のアップデートでさらに発揮されることとなるだろう。

 なお、MPEG-4プレーヤーとして見ても、PS3はなかなかの性能を備えている。PCユーザーから見ると、WMVやDivXに対応していない点が不満ではあるが、発色などは、PCでのダイレクト再生や各種ポータブルプレーヤーと比較しても優秀だ。


□関連記事
【11月30日】【本田】Another Story of PS3 #2(PC Watch)
成長するビデオプレーヤーを目指すPS3
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1130/mobile358.htm


■ クライアントに特化するXbox 360

Xbox 360とHD DVDプレーヤー

 ではライバルであるXbox 360はどうだろう? こちらも、WMVやDVD、そしてHD DVDの再生に対応しており、AVプレーヤー的な側面を持っている。

 だが、PS3とXbox 360には埋めることのできない大きな違いがある。それは、Xbox 360が「クライアント」であり、サーバーにはなれないということだ。

 PS3は、内蔵HDDに写真や映像を蓄積することができる。USB接続したHDDなども利用できるが、メインはやはり内蔵ドライブ。内蔵ドライブでは、静止画や動画にサムネイルがつき、よりわかりやすく管理ができる。


Xbox 360のインターフェイス。メディアやゲームなどの項目ごとにメニューが分かれている

 だが、Xbox 360では、CDからリッピングした音楽データを例外として、ゲームのセーブデータ以外は保存できない。この理由をマイクロソフトは、「PCをサーバーとすることを前提に、Xbox 360はクライアントに特化しているため」と説明している。USB経由で各種デバイスを接続することで、PCを介さずに映像や音楽を再生することはできるものの、それはあくまで「おまけ」であり、Xbox 360内にデータが蓄積されないようになっている。

 この方針は、メニュー構造を見ればすぐに理解できる。Xbox 360で全面に出ているのはあくまで「ゲーム」とそれに付随するネットワークサービスであり、音楽や映像の再生機能は、いくつかページをめくった先にしかない。PS3のXMBが「並列」に扱っているのとは、少々趣が異なる。HD DVD再生機能も、Xbox 360の中では付加機能扱いであり、プライオリティはさほど高くないようだ。

 だが、「AVファイル再生」をマイクロソフトが軽視しているわけではない。中心に置いているのが、Xbox 360単体での再生ではない、というだけの話である。

 では、マイクロソフトが重視するのはなにか? それは、メディアセンター機能との連携である。Xbox 360は、LAN内にあるWindows XP Media Center Edition(MCE)やWindows Vista Home Professional 以上に搭載されたメディアセンター機能と連携し、それらの画面をそのままテレビに映し出し、リモコンで操作する「Media Center Extender」機能を持っている。PCをサーバーとし、PCのストレージと処理能力をリビングから使えるようにしよう、という狙いである。もちろん、マイクロソフトにとってはPCがメインビジネスであり、ユーザーには最大限PCを使ってもらいたい、という思惑があるのも事実だろう。

 初期出荷分のXbox 360に付属の「メディアリモコン」には、中央に緑色のボタンがついている。これは、ダイレクトにMedia Center Extender機能を呼び出すためのもの。わざわざコストをかけてこのボタンを作るくらい、同社はこの機能に期待をかけているだ。

Xbox 360 HD DVDプレーヤー メディアリモコン


■ 「PC産まれ」のXbox OSと「家電産まれ」のCell OS

 実際には、Xbox 360にはもう一つのネットワーク機能がある。Universal Plug & Play/AV技術を元にした「Windows Media Connect」(WMC)を使ったPC連携だ。これは、マイクロソフトより無償公開されている、すべてのWindows XP/Vista搭載PCで利用可能な機能。Media Center Extenderのようにリッチなユーザーインターフェイスは利用できないが、より多くの人が利用できる。実際、Windows Vistaならば、LAN内のXbox 360を自動検出して設定を行なうようになっている。

Windows Media Connectの設定画面

 WMCに関しては、面白い事実がある。Xbox 360では、HDD内にリッピングしたCDの音楽データを、ゲーム内のBGM代わりに使う機能があるが、実はこの時、再生対象になるのはHDD内のデータだけではない。WMCでつながれたLAN内のパソコンにある音楽データまでも、再生対象となるのである。これは、Xbox 360のOSに、ローカルファイルもネットワーク上のファイルも透過的に扱える機能が搭載されているからだ。パソコンならば当たり前の機能であるが、ゲーム機や家電では珍しい。

 Xbox 360 OSは、Windows 2000のアーキテクチャをベースにした、家電用としてはかなりモダンな構造を持つOSである。Xbox用ネットワークサービス「Xbox Live」は、強固なセキュリティとユーザー間を結ぶメッセージング・サービスの優秀さで定評がある。ゲームを動かしつつ高度なネットワークサービスを利用できるのは、OSメーカーらしい「リッチなOS」をゲーム機に搭載しているから、といっていい。

 それに対しPS3のOSは、どうやらXbox 360のそれほどモダンな構造とはいえないようだ。XMB上に実装されたWebブラウザのメモリ管理がPCのそれほど洗練されておらず、メモリ不足で動作不良に陥ることが少なくないこと、ゲームとネットワークサービスの切り替えがXboxほどスムーズではないことがその理由だ。Cell OSは家電・ゲーム機由来のリアルタイムOSを起源としており、PC系OSよりも即応性に優れる。Xboxとの「お里の違い」が、このような形で現れているのだと考えると興味深い。


■ Xboxの映像配信は「Zune」との連携も?

 すでに述べたように、ネットワーク戦略においては、現状ではXbox 360に一日の長がある。PS3では、Webブラウザとインスタント・メッセージングが実装されているに過ぎないが、Xbox 360ではLAN系サービスに加え、各種ダウンロードサービスなど、きわめてリッチな機能が用意されている。マイクロソフトは初代Xboxの頃より同様のサービスを行なっており、すでに4年の実績をもっている。この間、大規模なシステムトラブルがほとんどないこと、初期よりリッチなサービスを展開し続けてきたことは、日本国内でももう少し評価されていいように思う。

 AV的に注目なのは、米国で開始されている、映画およびドラマの映像配信だろう。あまり話題とならなかったが、5月に開催されたE3の段階で、Xbox Liveを使った映像配信については、ワーナー、20世紀フォックス、パラマウント、ディズニー、ライオンズゲート、タッチストーンピクチャーズといった、大手との提携が発表されており、これは既定路線である。

 重要なのは、これがマイクロソフト全体で運営中の「Live」戦略に則ったものである、という点だ。現在同社は、パソコンや携帯電話からもXbox Liveにアクセスする「Live Anyware」という技術を開発中だ。パソコンや携帯電話のゲームでもXbox Liveのアカウントを使い、コミュニケーション機能や決済機能を共有することになる。例えば、パソコンとXbox 360で同じゲームをプレイしたり、Xbox Liveで購入した映像コンテンツをパソコンでも再ダウンロードして見たり、といったことが可能になる。

Zuneとの連携も想定

 さらには、「Zune」との連携も準備されているようだ。Zuneは、マイクロソフトがiPod対抗で発売したポータブルAVプレーヤー。事業を担当するのは、 Entertainment & Devices Division。開発は、Xboxの開発を指揮したJ.アラード氏が指揮した。しかも、音楽配信の決済に使われるのは、Xbox Liveの少額決済に使われる「Microsoft Point」。現時点では、明確にXbox Liveと連結する、との発表はないが、連携しないと考える方が難しい。

 アップルは「iPod」というハードウエアを売るためにiTunes Storeというサービスを使っているが、マイクロソフトは「Xbox 360」という強いハードを武器に、音楽プレーヤーを売る作戦なのかも知れない。



■ PS3のネットサービスはいまだ道半ば

 これに対してPS3のネットワーク戦略は、少々地味と言わざるを得ない。同社の「PLAYSTATION Network」は、ゲームのダウンロード販売などが始まってはいるものの、通常のWebを使ったサービスでしかなく、目新しさはない。LANを使った連携も、PSPを使った「リモートプレイ」が実現されているくらいで、まだまだ少ない。今年1月のCESでは、PSPを使ったDLNAネットワークのデモも行なわれていたため、比較的すぐにDLNA対応が行われるものと予想していたが、現状ではまだその準備はできていないようだ。

 SCEの主要開発メンバーは、PS3のネットワークサービスに関し、「狙うのはWebとは違うネットワーク」という構想を口にしている。文字や絵だけでなく、動画やゲーム機ならではのインタラクティビティを生かした、より高度なネットワークサービスの構築を考えている。だが、その準備はまだできておらず、「とりあえずハイビジョンテレビに特化したWebから始めよう」という段階のようだ。

 Xbox 360にはWebブラウザが実装されていない。そのため、ゲームやデータのダウンロード以上のサービスには向かない……と思われているが、それは間違いである。むしろ、「Webでないネットワークの構築」については、PS3より進んでいる部分が多い。

WPFを使い作られた、MediaCenter機能用ネットワークサービスの例。一見単なる文字に見えるが、3Dグラフィクスで描画され、なめらかに表示が切り替わる。このようなサービスがXbox 360からも利用可能となる

 写真は、Widnows Vistaのメディアセンター機能の「ネットワークサービス」に、Media Center Extender機能を使ってアクセスした場合の画面だ。Windows Vistaでは、「Windows Presentation Foundation(WPF)」という新しいユーザーインターフェイスAPIが組みこまれた。WPFを使うと、3Dグラフィクスや動画を使ったリッチなユーザーインターフェイスを備えたネットワークサービスが、比較的簡単に構築できる。

 Xbox 360でもこれらの機能が利用可能になるため、よりテレビに向いたネットワークサービスが利用可能となる。現状ではMedia Center Extender経由での利用だが、WPFのベース技術となる「.Net Framework 3.0」のXbox 360への移植が進められているため、より広範なアプリケーションが、Xbox 360上で動作する可能性も高い。

 これら、OSからネットワークサービスまで含めた作り込みは、OSと開発環境の会社であるマイクロソフトらしいものであり、SCEに比べ二歩も三歩も先を行っている。だが、ことハードウエアの作りの良さに関しては、PS3は「さすがソニー」と言わざるを得ないクオリティを実現しており、Xbox 360のそれとは一線を画している。

 両者の違いは、現在の「アメリカ企業の強み」と「日本企業の強み」を見るようだ。それぞれの行く先は、さほど遠くない時期に交差することになるだろう。

 現状では、どちらのあり方にも少々不自然な点があることが気がかりだ。Xbox 360は、PCとの連携を重視するあまり、せっかくあるHDDにデータを貯められず、PCを持たない人には真価が発揮できなくなっており、少々いきすぎとも思える。

 逆にPS3やPSPに関しては、映像ファイル作成などにPCの力が必要であるにもかかわらず、そのためのソフトやソリューション、情報がほとんど公開されないことに不満を感じる。マイクロソフトとは逆に、PCとの連携が薄すぎるのだ。

 結局最後にカギとなるのは、他のデジタル家電やPCとの連携を、どこまで大切にできるか、ということになるのではないだろうか。


□SCEのホームページ
http://www.scei.co.jp/
□PLAYSTATION 3ホームページ
http://www.jp.playstation.com/ps3/
□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Xbox 360のホームページ
http://www.xbox.com/ja-JP/hardware/xbox360/
□関連記事
【リンク集】PLAYSTATION 3 リンク集
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ps3.htm
【11月22日】HD DVDの切り札「Xbox 360 HD DVDプレーヤー」を試す
-2万円でHD DVD再生。ライバルは東芝「HD-XF2」?
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061122/xbox.htm
【10月31日】Xbox 360の1080p対応アップデータを検証する
-フルHD WMVも再生可能。MCEが無くてもPCと動画連携
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061031/xbox.htm
【2005年12月15日】“ハイデフ”プラットフォーム「Xbox 360」のAV機能を試す
-iPodの音楽再生に対応。ネットワークAV機能も搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051215/xbox.htm

(2006年11月30日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、「ウルトラONE」(宝島社)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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