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第316回:AVCHDに対応した「Final Cut Pro 6.0.1」
~ プロユースでも見えてきたAVCHDワークフロー ~



■ Final Cut Pro 6がAVCHD対応

 今、国内産業の中でもっとも活気があふれているのが、ビデオカメラ関連である。ざっと世界を見渡してみても、実はコンシューマのビデオカメラを作れるメーカーというのは、日本以外にあまりない。海外では韓国のSAMSUNGぐらいではないだろうか。しかも国内メーカーの中でも京セラ、シャープなどは既に撤退してしまったので、各メーカーは個性が出しやすくなっている。

 一方ソフトウェア産業は、米国が中心だ。中でもプロを中心に市場を大きく広げているのが、NABで新バージョンがお披露目されたAppleの「Final Cut Studio 2」である。日本語版はすでに6月下旬からリリースされており、Apple Store価格は148,000円。

 単に編集ソフトの価格として見れば高いと思われるかもしれないが、Final Cut Studio 2は映像関係のアプリケーションを集めたセットである。含まれるのは、編集ソフトの「Final Cut Pro 6」を中心に、グラフィックスツールの「Motion 3」、オーディオ編集ツール「Soundtrack Pro 2」、カラーコレクタ「Color」、多機能エンコーダ「Compressor 3」、DVDオーサリングツール「DVD Studio Pro 4」。以前はFinal Cut Pro単体の販売も行なっていたが、今はスイートとしてしか販売していない。

 さらに7月1日にはアップデータがリリースされ、そこで待望のAVCHDが正式にサポートされた。コンシューマ用として、ちょろっと編集できるソフトはいくつか出てきてはいるが、本格的なプロツールでサポートされた意義は大きい。

 今回はアップデートされたFinal Cut Pro 6.0.1(以下FCP)を使って、AVCHDの編集を試してみよう。


■ DVDメディアがMac OS未対応?

 FCPはこれまで、カメラ側のネイティブコーデックで動作するよう設計されてきた。例えばDVCPRO HDであったり、HDVであったりというコーデックで、ダイレクトに編集できるというのが一つのウリであったのだ。

 だが今回のAVCHDのサポートに関しては、このコーデックがタイムライン上で直接扱えるという意味ではない。AVCHDのファイルを、別フォーマットに変換できるプラグインが追加された、というのが実態に近いだろう。

 しかしそれでも、十分に意味はある。なぜならばこのプラグインは、AVCHDの映像をAppleの独自プロ用コーデックである「ProRes 422」に変換できるからである。このコーデックは、HDの解像度を保ったまま非圧縮SD以下のサイズまで圧縮可能で、MacBook ProなどのノートPCであっても、フル解像度のHD編集が可能になるからだ。

 では肝心の、映像の取り込みからやってみよう。まず問題として立ちふさがるのが、メディアのマウントである。現在AVCHD方式のビデオカメラは、メディアとしてDVDやメモリカード、HDDを採用している。この中でDVDメディアは、BDとの再生互換のため、ファイルシステムにUDF2.5を採用している。

 実はこれが問題で、現在の最新OSであるMacOS 10.4.10でも、UDF2.5はサポートしていない。ビデオカメラをUSBで接続すれば、一応メディアはマウントするのだが、映像ストリームをHDDにコピーできない。

 そこで一旦UDF2.5ドライバが入っているWindows XP機でメディアをマウントし、ネットワーク経由でMacへ転送することで解決した。あいにく今回の環境では試せないが、おそらくBoot Campなどを使ってWindowsを起動させれば、Mac1台でも転送可能かもしれない。

 またメモリカードタイプのAVCHD機、松下の「AG-HSC1U」は、そのままマウントできた。おそらく他機種のメモリカードやHDDタイプでも、そのままマウントできると思われる。


■ 「ProRes 422」に変換

 さて、メディアがマウントできたところで、ようやく取り込みである。今回テストに使用したマシンは、初代MacBook Proで、CPUはCore Duo 2.16GHz、メモリは2GBだ。

 FCPを起動した後、「切りだしと転送」画面を開く。ここの環境設定を確認すると、AVCHD用のプラグインが追加されているのが確認できる。デフォルトではProRes 422への変換になっているが、以前からの圧縮コーデックであるApple Intermediate Codecにも変換できる。今回はせっかくなのでProRes 422を試してみたい。

 「フォルダを追加」ボタンをクリックして、コピーした、あるいはマウントしたメディアのBDMVフォルダを指定すると、内容のクリップが一覧に現われる。機能が「切り出しと~」になっていることからおわかりのように、本来はここ各クリップの必要部分だけを選択して、一部だけを取り込む。

AVCHDプラグインでトランスコードするコーデックを選択 FCPの「切りだしと転送」画面でバッチ変換しながら取り込む

 だがAVCHDでは、このような部分選択機能はサポートされず、クリップ全体を取り込むしかない。切り出してしまうと、その部分のGOPが再レンダリングになってしまって、画質低下するからだろう。プロの場合は、単に便利だったらいいというわけにもいかないのである。もちろんクリップの内容はこのウインドウ内で再生可能なので、必要かどうかの判断はできる。

 必要なクリップをキューに追加しただけで、順次自動的にProRes 422へのコンバートが始まり、終わったものからFCPに登録されていく。オリジナルのファイルは音声が5.1chだが、この変換では2chにダウンミックスされる。

取り込んだクリップの詳細を見てみると、ProRes 422に変換されているのがわかる。データレートは変換後ではなく、オリジナルのビットレートを示しているようだ

 試しに約1分のAVCHDクリップの変換時間を測定したところ、2分20秒であった。このあたりは単純にCPUパワーに依存するため、最新機ではリアルタイムかそれ以下の時間での変換も可能だろう。

 一方ファイルサイズを比較してみた。オリジナルのAVCHDは約93MBであったが、変換後のファイルは約921MBとなった。ProRes 422はVBRなので、ファイルサイズの増加比率は一定とはならないが、まず軽く10倍ぐらいにはなると思った方がいいだろう。

 ProRes 422は、品質でノーマルとHQの2段階があるが、この変換プロセス内では、設定を変更するところはない。ファイルサイズから察すると、どうもデフォルトでノーマル品質になっているようだ。


■ 優れたダビング特性を発揮


編集はHDVフォーマットと遜色ないレスポンス

 一旦ProRes 422になってしまえば、あとはFCP上で普通に編集できる。各クリップのファイルサイズは大きいが、動作レスポンスとしてはHDVでの編集とそれほど変わるところはない。トランジションなどのエフェクトも、プレビュー時には特にレンダリングも必要なく、そのままリアルタイムで動作する。

 もちろんただ普通に編集できました、では話にならないわけで、ここでは試しにProRes 422のダビング特性に注目してみたい。正確には伸張-再圧縮なわけだが、ここでは便宜上ダビングと呼ぶことにする。テープ編集ならともかく、ノンリニア編集でダビング特性というのは奇異な感じがするが、プロの作業では重要な要素である。

 というのも、ブロックで編集していったものを別のマシンで一本化したり、あるいは特定のカットをColorやMotionに送って変更を加えた後、またFCPに戻してくるといった作業を繰り返していくと、内部的にはコーデックで伸張、再圧縮が繰り返されることになるからである。

 特にプロの現場では、自分がOKならそれでいいというわけにはいかず、クライアントの要望によって、一旦完成したものに対してさらに変更を加えることも少なくない。このような理由から、プロ用を名乗るコーデックというのは、ダビングによる映像劣化に対して特にシビアに見られるわけである。

動画サンプル

ezsm.mov (179MB)
ProRes 422で9回のダビングを繰り返したが、画質劣化は感じない
編集部注:動画サンプルは、Final Cut Pro 6.1を利用し、H.264(.mov)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 そこで、1画面を9等分して、1回ずつのダビングテストを行なってみた。タイムラインを一旦ProRes 422で書き出し、それとオリジナルとでクロップして……と1段階ずつクロップ枠を広げていくわけである。合成としては、ダビング回数が増えても手間は変わらないのだが、レンダリングスピードは回数を重ねるごとに遅くなっていく。再圧縮を繰り返している部分の処理で、時間がかかっているようだ。

 しかしさすがに大量のビットレートを食うだけあって、結果は9回ダビングしたにもかかわらず、画質の劣化は認められなかった。サンプルの動画は、さらにH.264で出力したものなので、正確には画面の数字+1回のダビング、というか再圧縮が行なわれたことになる。コンシューマではここまでのダビングは求められないと思うが、プロでも安心して使える画質は確保できている。


■ 総論

 FCPのAVCHDサポートにより、プロユースでもAVCHDカメラの活用が可能になった。まだOSのUDF2.5対応といった課題は残るものの、ノンリニアワークフローを考えればおそらくDVDタイプのカメラを使うという選択はあまり考えられないので、現状は問題ないだろう。

 またこれにより、AVCHDという技術の立ち位置も、プロとコンシューマではっきり分かれてくる。コンシューマではスマートレンダリング技術などを活用しながら、ネイティブフォーマットで編集していくスタイルになるだろう。足りないマシンパワーは、PCの買い換えで補っていくということになる。あるいはカメラ本体でプレイリスト編集し、その結果を書き出すというノンPC路線も考えられる。

 一方プロユースでは、非圧縮映像も視野に入ってくるので、プロ用コーデックは「デカいものを小さくまとめる」という要素と、「ぎゅうぎゅうに小さいものを使えるサイズに伸張する」という要素の2つで使われていくことになる。あくまでも撮影時のデータ容量削減、あるいはカメラそのもののハンドリングのためのAVCHDである、という考え方だ。

 変換に多少の時間が取られるが、そのあたりはサードパーティ製の外部デバイスや、アクセラレータがカバーしてくるということになるかもしれない。

 ダビング特性が優れたProRes 422だが、現時点での問題は、アルファチャンネルが使えないことである。例えばCGの納品などに使用するフォーマットとして考えると、現状ではまだ連番TARGAとかになってしまう。昔と違って今は長尺のCGもパソコンレベルで作成可能になっている。いつまでも連番TARGAでもないだろう。

 またクロマキー合成を考えると、非圧縮4:4:4の素材を4:4:4のままで圧縮する手段もほしいところだ。このあたりはまだ発展の余地があるということでもある。

 FCP以外にも、昨今ではカノープスの「EDIUS」が4.5になり、AVCHDを正式にサポートした。AVCHDカメラを使ってちゃんとしたコンテンツが作れる環境が整ってきたことは、HDV時代に見られた本格稼働の可能性を感じさせる動きだ。


□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□ニュースリリース(Final Cut Studio 2)
http://www.apple.com/jp/news/2007/apr/15fcstudio.html
□製品情報(Final Cut Pro 6)
http://www.apple.com/jp/finalcutstudio/finalcutpro/
□関連記事
【4月16日】アップル、プロ向け映像編集の「Final Cut Studio 2」
-新ツール「Color」追加。ProRes 422採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070416/apple.htm

(2007年7月25日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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