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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第318回:“しっとり感”の表現に迫る「iVIS HG10」
〜 放送を超える高画質カメラ 〜



■ ついに登場するキヤノンのHDD機

 昨年末から急激にAVCHDが軌道に乗り、それにつられて各社も次々とハイビジョンカメラ市場に参入を果たしている。もはや「ビデオはハイビジョン」の時代が本格的に到来したと言えるだろう。

 キヤノンもハイビジョンカメラという意味では、決して参入が遅かったわけではないが、次に来るメディアがディスクなのかHDDなのかメモリなのか、なかなかメディアチェンジの判断が付かずにいたようなところがあった。

 もちろん以前からDVDモデルは出していたので、AVCHDもDVDモデルを投入してきたのはわかるが、それ以外のメディアとしてはHDDを選択したようだ。

 「iVIS HG10」(以下HG10)は、AVCHD規格準拠のHDD搭載モデルである。先に「iVIS HR10」が発表されていたので、第二世代のような気がするが、あれはHR10の発表が早かっただけで、発売は実質ほぼ同時期の、9月上旬発売である。店頭予想価格は14万円前後となっており、DVDモデルと値段の差はない。

 秋商戦のラインナップとしては、HDV機の「HV20」もあるが、事実上今期でキヤノンもノンリニアメディアへの移行を果たしたと言える。唯一カメラメーカー出身のキヤノンが作るハイビジョンカメラの実力を、さっそく試してみよう。


■ シンプルだが脱コンサバなデザイン


 キヤノンのボディと言えば、HR10のようなオーガニックな形状の路線を進んできたが、HG10はどちらかと言えば男性っぽいストレートな直線が印象に残るデザインとなっている。カラーもシルバーのブラックが基調で、がっちり引き締まった印象だ。HR10が女性的だとすれば、HG10が男性的といったテーマ性も感じさせる。

 では順にスペックを見ていこう。光学部および画像処理エンジンはHR10と共通で、事実上姉弟機というか兄妹機というか、そういう関係にある。レンズも同じで、動画16:9モードで43.6〜436mm、静止画4:3モードで40.0〜400mm(いずれも35mm換算)の、光学10倍ズームレンズ。ただフィルタ径が違っており、HRが37mmだったのに対し、HG10は43mmとなっている。

シンプルで綺麗にまとまったデザイン フィルタ径が大きいのはデザイン的な処理だろう

 レンズ脇にはフォーカス用外測センサー、静止画用フラッシュ、LEDビデオライトがあるのも共通スペックだ。HR10がほとんど外部アクセサリに対応していなかったのに対し、HG10は前面に外部マイク端子、上面にアクセサリーシューも備えている。アクセサリシュー奥には端子があり、専用マイクやライトは、ケーブル結線なしで使える。ただ前面のマイク端子は、レンズ前をケーブルが横切る可能性があり、実用性が低い。

レンズの右下にマイク入力端子が 上部にアクセサリーシューを設けた

 実は以前からキヤノンのカメラは、外部アクセサリのケーブル捌きが上手くない。プロ機とも言える「XH A1」でさえ、マイクケーブルを固定するレールがないのである。このあたりの経験値不足が、ハイエンドモデルでは課題だろう。

 搭載HDDは1.8インチ/40GBで、画質モードは4段階。DVDモデルに比べ、最高画質が15Mbpsとなっており、画質に余裕のあるエンコードが可能となっている。

 新しい試みとしては、液晶モニタ部分に十字キーが付いたのに加え、周囲に「クイックセレクトリング」が搭載された。これは同社PowerShot G7で搭載された「コントローラホイール」と同じ発想である。

新搭載のクイックセレクトリング メモリーカードは底部近くに格納

 撮影した映像の選択や、マニュアルフォーカスなどの操作がこのリングで行なえる。ホイールそのものの質感やクリック感が安っぽいのが残念だ。もう少し回転に精密感が感じられればより良かっただろう。

シーソー型ズームレバーは何年かぶりの快挙

 また大きな変化と言えば、ズームレバーがシーソー型になったところである。コンシューマ小型機は、ズームレバーがスライド式か左右に倒すタイプがほとんどで、シーソー型というのは数年ぶりのはずである。このあたりも、キヤノンの気合いが感じられる。

 バッテリはオーソドックスなビデオカメラスタイルで、大型バッテリに交換できるようになっている。HDDモデルは長時間記録がポイントなので、こういう設計になったのだろう。

 そのほか外部出力端子として、HDMI mini端子が採用されている。そろそろminiタイプも、ビデオカメラでは標準になっていくのかもしれない。

バッテリは大型のものも付けられる HDMIはmini端子を採用



■ 文句なしの描画力

 ではさっそく撮影してみよう。とは言っても、光学部がHR10と同じなので、絵の傾向は同じである。ただ本機は高画質モードが15Mbpsになっているところがポイントだ。


動画サンプル
モード ビットレート 動画記録時間 サンプル
HXP 15Mbps 約5時間30分
ezsm_hxp.mts (21.5MB)
XP 9Mbps 約9時間30分
ezsm_xp.mts (17.2MB)
SP 7Mbps 約11時間30分
ezsm_sp.mts (13.2MB)
LP 5Mbps 約15時間
ezsm_lp.mts (9.28MB)
編集部注:動画サンプルは、撮影時のH.264形式(.mts)。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


静止画サンプル
遠景の浅いコントラスト下でも余裕の描画力

 12Mbpsとのビットレートの差は、例えば遠景で遠く霞んだ風景の表現といったところに現われる。多くのエンコーダは、高コントラストのパリッとした映像は得意だが、曇天や遠景といった、黒が浮いたところに細かいディテールがあるような映像は、一緒くたに潰してビットレートを稼いでしまう。

 今回はいつもの公園に加えて、遠景の表現も撮影してみた。詳しくはサンプルを見ていただきたいが、キヤノンのカメラはカラーバランスがナチュラルである。というのも、他社に比べてかなり細かいホワイトバランス設定を持っており、曇天や日陰、蛍光灯の微妙な色温度の違いも使い分けることができるからだ。オートやプリセットではいかんともしがたいバランスになるカメラが増える中、色表現に関してはキヤノンのカメラが一番安心できる。

 今回は初のHDD搭載ということで、振動に対する保護機能も付けられている。自転車のハンドルにカメラを固定して撮影してみたが、かなりの振動でも撮影できた。ただずーっと連続しての振動はさすがにバッファ容量が足りなくなるようで、記録が停止する。

動画サンプル

ezsm_60i.mpg (135MB)

ez_shock.mpg (24.6MB)
60i撮影の動画サンプル かなりの振動でも撮影可能。ただし一旦自動停止すると復帰までが面倒
編集部注:動画サンプルは、アップル「Final Cut Pro」で編集し、「Compressor」で出力した同解像度のMPEG-2ファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 一旦停止すると、再度電源を入れ直さないと撮影できるようにならない。まあ普通はこんな過酷な撮影はしないだろう。普通にハンディで撮影するぶんには体がクッションになるので、ここまでの振動にはならないはずだ。

 ちょうど夏休みということで、小さな子供も撮影してみたが、ワイド端で43.6mmという画角はちょっと狭い。1メートル程度の距離では3歳の子供でもバストショットぐらいになってしまうので、子供撮りならもう少し広角が欲しいところだ。

 本機は記録が1,440×1,080ピクセルだが、撮像素子が1,920×1,080ピクセルとなっている。単板ではあるが、補間方式ではないため、細かいディテールの表現力は高い。遠景の木々の葉も、コケのようなフラクタル的に細かくなっていくようなパターンも、かなり細かい部分までちゃんと写っている。

 またこれだけの解像感だからこそ、24Pがいい感じだ。特にたき火の炎や水の流れなど、風景をゆっくり撮って自分なりの環境ビデオなど作ったら楽しいだろう。

 また夏の日差しの中では、コントラストが強くなりすぎて絵が硬くなりがちだが、シネマモードを使うと白飛びも押さえられて、落ち着いた絵になる。

静止画サンプル
プログラムAE シネマモード






■ 次のステップが期待される操作性

 映像的には安心できるキヤノンのカメラだが、操作性に関しては新たな機能がいくつか加わっている。撮影していて気になった点を上げておこう。

 シーソー型のズームレバーは、どっちがワイドでどっちがテレだったかを間違う心配がないので、安心して使える。多くのレバー式は、絵の縦方向の動きを横方向で表現するので、ちょっとカメラから遠ざかっていると、すぐどっちがどっちだかわからなくなる人も多いのではないだろうか。そういう意味では、このシーソー型は映像と意識が一致するので、忘れることがないわけである。

 ただせっかくこれだけのストロークがあるならば、もう少しズームスピードの段階が無段階に近いほうが良かった。例えばズーム終わりで減速しようとしても、段階で遅くなるのがはっきりわかってしまう。なかなかコストがかけられない部分ではあるのだが、操作性が良くなっているぶん、かえって気になるところである。

 またコンシューマのカメラは、非撮影時と撮影時で、ズームレバーのセンシティブが違う。非撮影時は素早く画角を決めるために、少し動かしただけで大きくズームが動くようになっている。事前に何度かズームを練習したにも関わらず、本番になるとズームスピードが遅いと感じるのは、このせいである。

 レバーが小さければあまり気にならないのだが、今回はこの差も感じられるほどレバーのストロークがある。ストロークの大きなシーソー型の場合は、こういうセンシティブの差は設けなくてもいいのではないだろうか。

 新搭載されたクイックセレクトリングは、バリアブルなパラメータを操作するのに使いやすい。特にマニュアルフォーカスなどは、行きつ戻りつしながら最適値に追い込むものなので、ボタンを一生懸命カチカチするよりも、はるかに現実的だ。

液晶下のボタンが地味で、つい使うのを忘れる

 便利ではあるものの、ホイールで操作できるものとできないものが、あきらかにUIの都合で決まっているところがある。例えばリングでビデオゲインの露出補正はできるのだが、絞り優先やシャッター優先のときに、絞りやシャッタースピードの変更はリングではできない。このあたりもホイールを搭載するときに、UIの整合性を練り直した方が良かっただろう。

 また液晶下には、撮影と再生時に使用できるボタンが並んでいる。ただ存在が地味なので、撮影時はほとんど使うのを忘れてしまうのが難点だ。特に録画のスタートとストップぐらいは、赤で記載するなどの工夫はあっても良かった。

 ボディ上部には、クイックスタートボタンがある。普通に電源を入れた場合は、録画可能になるまで8秒程度の時間がかかるが、クイックスタートボタンを使えば1秒足らずで録画可能になる。

クイックスタートボタンは、スタンバイにするときの反応が鈍い

 ただボタンの反応が今ひとつで、すばやく押しただけではスタンバイモードにならず、気がつけば電源が入りっぱなしだったことが何度かあった。1度押すのではなく、スタンバイになるまで押し込む、という感じの操作性のようだ。元々すぐに復帰するわけだから、もっとボタンの反応はもっと鋭敏でいいだろう。

 またスタンバイ中は、レンズカバーが閉まらない。これもちょっとした移動のときに、気になるポイントである。

 ちょっと厳しい評価だが、かといって他のメーカーがすでに十分というわけではない。こういうカメラの本質としての部分を改善してくれるのは、キヤノンしかないから指摘するのである。


■ PCに全面依存する編集機能


プレイリストでもクリップの移動ができるのみ

 次に再生、編集機能について見てみよう。HR10の場合は、メディアがDVDであったことから、本体で編集を行なって、完成ディスクを作るという機能があった。だがHDDモデルは、いずれにしろPCに吐き出しという観点からか、クリップごとの編集機能がない。またプレイリストの作成機能はあるが、こちらもクリップの移動ができるだけで、クリップ内の編集ができない。

 これはソニーの初代AVCHD HDDモデル、「HDR-SR1」でもできなかったが、次号機からすぐに搭載された。再生環境においては、まだAVCHDやBDのプレーヤーも十分普及しているとは言い難い。つまりカメラ自体が再生機を兼用するという時代が、しばらく続くと言うことである。そう考えれば、やはり本体だけで一通りの編集ができる機能は、まだまだ必須だろうと思われる。

 一方PC用として付属するのは、パソコンへの保存と書き戻しができる「Corel GuideMenu」、AVCHDやDVDのオーサリングができる「DVD MovieWriter SE」、再生ソフトの「WinDVD SE」。そのほかに管理情報ごとデータバックアップができるバックアップユーティリティが付属する。残念ながら今回もまだローカライズが完了していないということで、付属ソフトはお借りできなかった。

 編集・管理ソフトのグレードとしては、市販品クラスのものが付属するので、低くはないと思われる。少なくとも撮影したものを右から左にディスクに焼くということは、大抵のPCで可能だろう。だがハイビジョンの編集が快適に作業できるPCをユーザーが持っているかという問題は、まだ解決したとは言えない。


■ 総論

 キヤノンがDVD以外にHDDを選択したというのは、経営戦略としては順当であろう。松下電器やソニーは自社規格のメモリを搭載するメリットがあるが、キヤノンにはそのあたりのメリットがない。しかしHDDならば、ある意味どのメーカーも外注であるから、条件が同じになるわけだ。

 記憶色による絵作り、カラーバランスの正確さ、解像感など、さすがにイメージング専門メーカーだけあって、映像の完成度は高い。特に夏場の強い光線で絵がパッキリしがちな中、シネマモードのしっとりとした絵作りは、他のメーカーにはない独特の個性だ。カメラをちゃんといじれる人が一番満足できるのは、キヤノンだろう。

 その一方で、ただ撮るだけでなく、編集・再生というところまできっちり面倒を見なければならないノンリニアメディアのソリューションは、キヤノンにとって難しいところだ。SDの頃はある意味なんでもPCに投げてしまえばOKだったが、今ハイビジョン映像をPCに投げても、ちゃんと動かないというユーザーも少なくない。ビデオカメラとPCのリテラシーは、必ずしも一致しないのである。

 DVDモデルのHR10は自己完結しているが、HG10はある程度ユーザーレベルを選ぶカメラだと言えるだろう。最近はメディアソリューション戦略に注力するあまり、肝心のカメラの機能がフルオートで画一化されていく傾向があるのは、今の業界全体の流れで心配になるところだ。技術がノッているときには、ユーザーのニーズよりも、メーカーは自分たちの課題をクリアするというところに走りがちになる。

 みんながみんな、フルオートが使いやすいと思っているわけではないのだ。小型機に至るまでビデオカメラとしての本質をちゃんとやってくれるメーカーは、実はキヤノンぐらいしかなくなってきているのではないだろうか。


□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2007-08/pr-ivis.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/ivis/hg10/
□関連記事
【8月1日】キヤノン、40GB HDD搭載のAVCHDカム「iVIS HG10」
−アクセサリーシュー、マイク、ヘッドフォン端子装備
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070801/canon.htm
【6月13日】【EZ】とうとう出たキヤノンのAVCHD「iVIS HR10」
〜 ハイビジョンで24Pの絵が、DVD記録で実現 〜
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070523/canopus.htm

(2007年8月8日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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