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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第294回:HV10の弱点を徹底改善した横型機、キヤノン「iVIS HV20」
〜 絵はもはやコンシューマには行き過ぎた「化け物」!? 〜


■ 混沌のHDビデオカメラ市場

 調査会社の分析によれば、2007年に発売されるビデオカメラの約半数が、HD対応機器となるようだ。一方でJEITAの出荷実績によれば、国内のビデオカメラ出荷台数は2003年をピークに下降を続けている。各社としてはHD化が市場回復の鍵であると認識しているわけだが、あいにく多くの記録フォーマットが乱立してしまい、ユーザーは的が絞りきれないという弊害もあるように思われる。

 昨年コンシューマ向けHDVで参入を果たしたキヤノンの「HV10」は、その画質で多くの消費者の心を揺さぶった。もしこれが出なければ、市場は一気にAVCHDに行ったのではないかと思えるほどである。

 確かにHV10は完成度が高かったが、小型化ゆえにスポイルされた部分もあった。例えばアクセサリーシューがないとか、バッテリの持ち、出力端子群の不足といった点だ。だがこの3月に発売される「iVIS HV20」(以下HV20)は、これらの弱点をことごとく払拭したモデルである。店頭予想価格は14万円。HV10もそのまま併売され、小型機路線の主軸となる。

 光学系はHV10と変わらないが、ノイズリダクションや静止画アルゴリズムなどを改良し、さらなる画質向上を図っている。またコンシューマ機としては初の、24p撮影を実現したモデルでもある。

 早速キヤノンの最新鋭機、HV20の実力を試してみよう。


■ いかにも「ビデオ」な外観

 まずいつものようにデザインだが、今回は横型ということもあって、外観は非常にオーソドックス。ある意味ビデオカメラのセオリー通りといった作りだ。ただ鏡筒部は緩くカーブを描いているあたり、車や新幹線のようなイメージもある。色はシルバーのみだが、頭頂部のパーツだけ、若干質感の違ったシルバーとなっており、それが微妙なアクセントになっている。

横型カメラのオーソドックスなスタイル 光学部はHV10と同じ

 では光学部から見ていこう。採用レンズはHV10と同様で、F1.8/43.6〜436mm(35mm換算)の光学10倍ズーム。ただしフィルタ径は43mmと、HV10の37mmから少し大きくなっている。


撮影モードと画角(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画16:9
43.6mm

436mm
静止画4:3
40mm

400mm

 撮像素子も同じく総画素数約296万画素のCMOSだが、感度を向上させ、さらにCMOSからの画素読み出し回路内でノイズリダクションを行なうことにより、最低被写体照度を3lux(HV10は5lux)にまで引き下げている。このあたりは同社のデジタル一眼レフカメラ、「EOS Digital」の技術を導入しているという。

ヒンジ部の裏にフォーカスボタンとダイヤルが

 鏡筒部脇には、逆光補正ボタンとマニュアルフォーカス用のダイヤルがある。フォーカスボタンの位置やダイヤルなどは、ソニーの「HDR-HC3」の影響も見られるが、この位置はちょうど液晶のヒンジの裏側にあたり、液晶モニタを開いているとなんだかごちゃごちゃして、非常に操作しづらい部分である。

 現にソニーのハイエンド「HDR-FX7」では、この位置は良くなかったとして、もっと前の方に移動している。場所的にここしかないという気持ちもわかるが、もっと大胆に鏡筒部の下あたりに配置して、親指で操作するスタイルでも良かったのではないか。

 液晶モニタは2.7型/約21万画素で、画面の下には再生操作と兼用のボタンが4つある。液晶のフレームに録画やズームボタンを付けたのは、おそらく2004年のソニー「DCR-PC350」あたりが最初ではないかと思われるが、次第に各メーカーにも波及してきているようだ。


液晶内部は意外にシンプル 液晶下に操作ボタンを設けた

 一方液晶内側にはボタン類はなく、miniSDカードスロットとUSB端子がある。上部にはディスプレイ表示切り替えボタンと、ビデオライト用のボタンが並ぶ。

 背面を見てみよう。今回は横型機でサイズに余裕があるということで、バッテリは標準でやや大型のものが付属する。液晶モニタ使用時で、連続撮影115分、実撮影時間70分を実現した。バッテリスペースが本体内に大きく食い込んでいるのは、HC3でも見られた手法だ。

背面にHDMI端子を装備 付属バッテリはやや大型のものを採用

本体設定メニューもFUNCメニュー内に統合された

 バッテリ脇にはHDV/DV端子と、HDMI端子がある。操作ボタン類は格段に使いやすく整理された。機能操作系はすべてFUNCボタンに集約され、ジョイスティックで操作する。これまで撮影中に変更する機能は「FUNC」、本体設定に関するものは「Menu」ボタンと分かれていたが、今回は本体設定メニューもすべてFUNCメニュー内に集約されている。

 またこれまでキヤノンのテープ記録型カメラでは、メニュー操作に縦方向にしか動かないレバーを採用していたが、FUNCメニューなどは横方向の動きが多く、操作に違和感があった。だがジョイスティックの採用で、GUIに対する操作の違和感がなくなったのは大きい。現在多くのビデオカメラメーカーがジョイスティックを採用しており、この操作系がスタンダードになってきている。

 撮影モードは、フルオートとプログラムモードの切り替えとなった。以前はこれにプラスしてシーンモードがあったのだが、シーンモードへの変更はFUNCメニュー内に統合されている。


撮影モードはフルオートとプログラムモードの切り替え シーンモードの選択もFUNCメニューにある

 アクセサリシューは、長めのフタで隠させている。フタは完全に取り外せるようになっており、アクセサリを付けたときにジャマにならない。このような仕組みになっているカメラは、過去あまり記憶がない。

アクセサリシューのフタは完全に外れる マイクは前方に配置 外部マイク入力も備える



■ このサイズで24p撮影

 では実際に撮影してみよう。今回の目玉はやはりなんと言っても、「シネマエフェクト」の存在である。これは以前からの持論なのだが、コンシューマのビデオカメラにおいては、もはや放送規格に合わせる必要はないと思っている。すでにテレビ自体は24pや30p、60pといった信号も受けられるようになってきているし、家族の思い出がニュース映像のように生々しい必要などないのである。

 したがってコンシューマのビデオカメラこそ、24pや30pでも撮影できるべきであると思っていた。特にプログレッシブ撮影はフラットディスプレイとの相性もいい。もはやパーソナルコンテンツは、ブロードキャストより画質がいいのが当たり前の世界がやってくるのである。

 実際にカメラをいじってみると、実は「シネマエフェクト」という単体の機能はない。まず撮影モードとして、シネマ調のガンマカーブとカラーマトリックスになる「シネマモード」に設定し、さらにメニューの「記録/入力設定」の中にある「録画規格」で、「HDV(PF24)」を選択する。この2つの組み合わせを、「シネマエフェクト」と呼ぶようだ。

撮影モードで「シネマモード」に設定 さらに録画規格で「HDV(PF24)」を選択

 この2つは別々に設定できるため、24pでもビデオガンマで撮影できるし、逆にトーンだけをシネマモードにして60iで撮るということも可能だ。PF24で撮影する場合は、テープには2:3プルダウンして60iで記録されている。また同社のXL H1、XH G1/A1で24F/30F撮影されたテープも本機で再生できる(ちなみに大々的には謳っていてなかった、HV10でも再生できる)など、再生系はかなり柔軟だ。


【動画サンプル】

ezsm1.mov (23.6MB)

ezsm2.mov (15.1MB)

ezsm3.mov (8.66MB)
「プログラムAE」で60i撮影 「シネマモード」で60i撮影 「シネマモード」+ 「HDV(PF24)」の「シネマエフェクト」で撮影
編集部注:全ての動画サンプルは、編集後にQuicktimeを使用しH.264/1,920×1,080ドット/変換品質「中」のマルチパスエンコードしたものとなります。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


【動画サンプル】

ezsm4.mov (164MB)
シネマエフェクトで撮影した動画サンプル

 シネマモードの映像は、若干色温度が下がり、アンバー系の色味になるようだ。また絵のトーンとしては柔らかみがあり、人物などは説得力のある絵となる。もちろん24pのフレームレートと組み合わせれば、従来のビデオカメラでは得られなかった世界観が出現する。

 相変わらず木々のディテールなど、細かい部分の描画力は特筆すべきものがある。また色味もはっきりしており、ベイヤー配列フル解像度CMOSの良さがよく現われている。


幹のディテールや細い枝など、細かい表現に長けている 「くっきりカラー」で発色を強調

 HV10で気になった白潰れだが、今回は季節が反対の冬ということで光量の条件が全然違うせいか、あまり気にならなかった。特にシネマモードを併用した場合は、あまり白ピークまで行かないことも関係するだろう。

静止画サンプル
プログラムAE シネマモード





【動画サンプル】

ezsm5.mov (10.0MB)
室内撮影のサンプル

 また今回は暗部に強くなったということで、日没後まで粘って撮影してみた。かなり明るく撮れてはいるが、実際には公園の街灯も点き始めるほど暗い、「薄明」時である。かなり増感していると思われるが、空など平坦な部分のノイズはうまくリダクションしてくれるので、非常になめらかだ。一方水面などディテールが刻々と変わるようなものは、それなりに増感ノイズが出ている。新採用のNRが働かなければ、空もこのようになったのだろう。


かなり増感しているはずだが、落ち着いた絵柄ではS/Nが稼げる 常時動く水面などでは、ノイズのざわつきはそれなりに出る



■ コンパクトデジカメに迫る? 静止画機能

 続いて静止画機能を見てみよう。HV10で動画撮影中の無制限静止画撮影機能を実現したのも記憶に新しいところだが、もちろん本機にもその機能は継承されている。さらに今回は、静止画のRAWデータからの現像アルゴリズムを改良し、コンパクトデジカメに匹敵する精度を実現したという。

 動画同時撮影、あるいは動画モードで静止画を撮影した場合は、最大で1,920×1,080ピクセルだが、静止画モードに切り替えると最大で2,048×1,536ピクセルとなる。静止画での画角は、35mm換算で40〜400mmとなる。

 実際に撮影した絵を見れば、すでに発色やディテールでは、ビデオカメラで撮影した絵というイメージはない。ただ画素数の面では、最近のコンパクトデジカメは6Mピクセルを超え始めており、その点では劣るかもしれない。だがそもそも絵の美しさは、画素数だけで決まるものではない。

細かいディテールの表現力はさすが 肌の発色もナチュラルだ 暗部のS/Nもいい

太陽入れ込みでもスミアレスで撮れる 色の深み方向の表現は今後の課題

 コンパクトデジカメと比較した場合、ビデオカメラが辛いのは絞りである。意図的に絞り開放で撮ればあまり目立たないが、オートでF4ぐらいになった時、背景のボケに菱形絞りの形が現われてしまい、絵を壊してしまう。

 ビデオカメラの場合は、静止画のカメラと違って動的に絞りを動かす必要があるため、その部分にコストと動力がかかる。そのため静止画のカメラのように複数羽根の絞りが使えず、どうしても羽根2枚で動かせる菱形絞りとなってしまう。

絞り開放で撮影 F5.6で撮影。背景の菱形が目立ってくる

 絵の良さでデジカメと勝負するのであれば、画素数よりもむしろ、この絞りが問題だと思う。これを光学的に真っ正直にやるならば、複数羽根絞りを採用するしかない。だがコンパクトデジカメで採用例が多い円形絞り入れ替え式にして、撮像素子の感度を調整することで露出をフォローするような構造にしても、実際にはそれほど不便はないかもしれない。また同社は以前から、グラデーション式のNDフィルタを採用している。これなども露出に関して併用できるのではないだろうか。



■ 総論

 HV10と同じ光学系ということで正直あまり期待していなかったのだが、細かい点での使い勝手の改良は、地味に効いてくる部分だ。そしてこのクラスのカメラでは初となる24pモードの採用は、前作の静止画無制限同時撮影機能同様、これまた業界に大きな波紋を投げかける問題作と言えるだろう。

 これまで本コラムでも、業務クラスのカメラで24p撮影を行なってきたが、この小さなカメラで撮れるような時代が来るとは思わなかった。正直ここまでの解像感、発色が出せるのであれば、プロ用サブカメラであってもおかしくないレベルだ。これが14万なんだから、もはやコンシューマクラスではあり得ない「化け物」である。

 ただ長年フィルム撮影素材を扱ってきた経験からすれば、動き感としては24pよりも30pモードが欲しかったところだ。だが商品としてはやはり、フィルムのコマ数として知られる「24p」の方がキャッチーなのだろう。

 また今回はHDMI端子を装備し、テレビとの接続性も向上した。あいにくxvYCCには対応していないということだが、今のところ発色は十分なように思える。実は来週、xvYCC対応機であるソニー「HDR-HC7」のレビューを予定しているが、これが発色の面でどのような表現力をもたらすのか、売れ筋モデルとしての事実上の頂上決戦と言えるかもしれない。

 今後コンシューマのビデオカメラでは、テープ式は衰退へ向かうと予想されている。しかしこなれているMPEG-2だからこそ、実現できる画質もある。そのあたりの見極めが、買う側にとって一番悩むところだろう。


□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2007-01/pr-ivishv20.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/ivis/hv20/
□関連記事
【1月31日】キヤノン、感度が向上した横型HDVカメラ「iVIS HV20」
−HDMIやマイク端子も装備。24コマ撮影モードも追加
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070131/canon1.htm
【2006年8月23日】【EZ】ついに登場! キヤノンのHDV普及モデル「iVIS HV10」
〜 このサイズでコンシューマ最高峰の画質を実現 〜
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060823/zooma269.htm

(2007年2月7日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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