今冬登場のBDレコーダーは、どのメーカーの製品も、前年登場した「BDビデオ対応第一世代」に比べ、大きく商品力が高まっている。
特に変化が著しいのがソニーだ。前年の「BDZ-V9/V7」は、スゴ録譲りの操作性では評価されたものの、2層BD-R/REの記録に未対応であったことから、松下の「DMR-BW200」に比べ支持を得られない、という結果に終わった。 その反省からか、今期はすべてのビデオレコーダ商品を「BD対応」とし、昨年からの懸案であった2層対応に加え、MPEG-4 AVC/H.264での記録に対応するなど、様々な特徴を備えたレコーダをラインナップしてきた。 商品ラインナップの狙いから、画質/音質へのこだわりまで、同社でBDレコーダー開発に携わったスタッフに聞いた。 ■ 「ハイビジョンとBD」を広げるために。ビデオカメラ連携を強化
ソニーが他社と一番違うのは、ラインナップの考え方そのものである。DVD搭載のラインを捨て、すべてBD搭載にした上で、ラインナップも3つに大きく分けている。 商品企画を担当した、ソニー・ビデオ事業本部の永井規浩氏は、企画意図を次のように説明する。 「今まではどちらかというと“ビデオデッキ”、テレビ番組を録る機械、という位置づけで製品化してきました。しかし、ハイビジョンの楽しみ方はテレビだけではなく、デジカメやビデオカメラで撮影した、プライベートコンテンツもハイビジョン化しています。そこで、ビデオレコーダとして楽しむもの、プライベートコンテンツを楽しむもの、そしてホームシアターで楽しむもの、と、モデルそのもので楽しみ方をわかりやすく分けることにしました」 その結果生まれたのが、ホームシアター指向の「X」、ビデオカメラ連携を重視した「L」、シンプルなビデオレコーダーの「T」の3ラインだ。ソニーは以前から、ビデオレコーダへのプライベートコンテンツ取り込みに積極的だった。これまでは、どちらかというと上位機種の付加価値、という意識が強かったが、今回は「L」を用意することで、そのあたりの仕掛けを大きく変えている。
最上位機種の「X90」と「L70」には、同じようにデジカメやビデオカメラから写真・動画像を取り込む機能が備わっている。しかし、その操作性は大きく異なる。X90が、従来同様メニューから操作する形式を採っているのに対し、L70には大きく全面に「ワンタッチダビングボタン」が用意され、これを使うのが基本となっている。要は、USBでカメラをつなぎ、ワンタッチダビングボタンを押すだけで取り込み作業が完了するようになっているのだ。 機能的にもL70はX90に比べ差別化が行なわれている。ビデオカメラ内に動画と静止画が両方あった場合、L70では両方を同時に、ボタンを押すだけで取り込めるが、X90は動画と静止画を、別々に取り込まねばならない。 「単に機能として持っているだけだと、店頭でのプレゼンテーションが難しかったんです。どうしても、テレビ録画系の機能が最初に来てしまうので。例えば、ビデオカメラの売り場にレコーダを置いて連携をアピールする、という売り方はやりにくかったわけです。今回はもう、“プライベートコンテンツを楽しむのはこの機種です”ということを、わかりやすく、見せたかったんです」と永井氏は話す。 こういった「売り場を横断するような連携」を見せて売っていく、という手法は、松下の「VIERA Link」をはじめ、大きな潮流となっている。特にビデオレコーダやデジカメは、記録方式が様々であることから、一般の顧客に「どうすれば連携できるのか」がわかりづらい、という難点を抱えている。ソニーがわざわざL70を用意したのは、このような市場に対応するための戦略であるようだ。ワンタッチダビングボタンは、機能を「顔で表す」(永井氏)仕掛けなのだ。ボタン一つ、という簡単さをウリにするのは、「ビデオカメラは、子供が生まれたばかりの若い方の層と、熟年層の両方に売れている。特に後者にアピールするための作戦」なのだという。 このあたりの機能に力を入れる理由には、あるリサーチの結果がある。 ソニーは今年初め、ちょっとしたマーケティングキャンペーンを行なっていた。HDV対応ビデオカメラ「HDR-HC1/HC3」などの所有者に対し、「BDZ-V9/V7でディスクにダビングできます」という内容を伝えるダイレクトメールを送ったのだ。すると、V9/V7の売上が「いきなりドン、と販売数が伸びた」(永井氏)という。AVファンには、連携機能があることはよく知られていても、一般層にはまだまだ浸透していない。逆に、このキャンペーンにより、「理解してもらえば需要はある」ことがはっきりしたため、「L」という製品が生まれることとなったわけである。 機能面でも、今回の製品は大きく改善されている。V9/V7ではHDVのみに対応していたが、今回の製品では、AVCHD採用製品を中心とした対応に変わった。AVCHDで記録した映像の簡単な編集機能も備えており、「手軽さ」という意味では、PC以上のソリューションとなっている。 基本的に、動作保証はソニー製品に限られる。しかし、松下やキヤノンのAVCHD対応製品であれば、「すでに発売している製品ならば、動作保証はできないが、動くことは確認している」とのこと。実は、接続にメモリカードでなくUSBを採用しているのも、「どういった製品が来ても接続可能にしたかった。汎用性を重視した結果」(永井氏)なのだという。店頭などからも、特にL70に関しては、「ソニーのハンディカムだけでなく、他社製品との接続性はどうか、といったところまで気にかけて、両者を組み合わせた販売を考えたい」という声が多と話す。 ただしこれは、動画記録のアプリケーションフォーマットが、「AVCHD」として統一されているからできることだ。ビクターのEverioや三洋のXactiなどは、動作しない。 ■ 渾身の「独自開発ドライブ」搭載。LTHへの対応も万全 今秋、これだけBDレコーダが登場してはいるものの、市場での「次世代DVD」に対する興味や購入意欲は、さほど高いとはいえない。そんな中でDVDのラインを終了、BDのみに注力することは、非常に大きな賭けでもある。 「ハイビジョンでのアーカイブ、という意味では、二層の書き込みにも対応。H.264/AVCでのエンコード機能を持つことで、ようやく完成に近づいてきました。我々がブルーレイを推進している、という立場ですから、Tのように安い製品で、価格面からも手当していきたい」と永井氏は話す。前出のように、ビデオカメラから攻める「L」も、ハイビジョンの裾野を広げる一つの作戦でもある。 「ブルーレイが“次世代”ではなく、“今のもの”と、気づいて欲しい。本格的な普及期への第一歩として、ブルーレイのポテンシャルを見せていきたい」という。 そのために必要であったのは、やはり「二層対応のドライブ」だ。BDZ-V9/V7が、他社を中心に開発されたもののOEMであったのに対し、今回のドライブは完全に新規。開発期間も、「少なくとも、V9/V7より前から始まっている。1年やそこらではない」という、気合いの入ったドライブだ。レーザーから光ピックアップまで、すべてが自社製だという。製造もソニーが担当する。Tシリーズが低価格であるのも、「ドライブの低価格化が大きく寄与しています。そもそも、レーザーも自社で内製しており、うちか日亜かという感じになっている。台数を積むにも、価格を低く抑えるにも、有利に働いています」と自信を見せる。 殻付きの第1世代BD-REの読み込みにも対応する。「コピーワンスの問題があるので、読み込めない、というわけにはいかないから」だ。 「BDZ-S77(初代BDレコーダー)を買っていただいたお客様は、ソニーにとって大切なお客様。そんな方々をないがしろにするわけにはいきません」(永井氏)。
ドライブとしては、4倍速書き込みに対応するほか、今年末より登場するLTH(有機系色素ディスク)にも対応する。発売当時にLTHのディスクがないため、事実としては「動作確認中」ではあるが、「ドライブのスペックとしては、規格に準拠して盛り込んである」とのことなので、問題はなさそうだ。逆に残念ながら、V9/V7のドライブについては、「LTHに対応できない」(永井氏)とのこと。アップデートなどで対応できるものでもないようだ。 同様の位置づけにあるのが、「ダビング10」の扱いだ。新モデルでは対応を予定しているが、V9/V7での対応はできないという。 「どちらも、規格化の前に開発が行なわれていたので難しい。今回の新製品は、どちらも規格がわかっていたので対応可能なのですが……」(永井氏)。 なお、V9/V7のドライブは、ディスクのローディングに非常に長い時間がかかることで評判が悪かった。現状で最終的な時間はまだ確定していないが、「V9/V7よりは確実に短くなる」(永井氏)としている。 ■ 「BDに高速記録」に注力。AVCRECには対応せず そもそもソニーは、2005年6月に発売した「RDZ-D5」の時期に、BDレコーダの発売を検討していた。BD-ROMを使ったビデオソフトウエア規格の策定が遅れたことなどから、結局BD搭載は見送られたわけだが、この際、「第2世代BDレコーダ」を想定して開発されていた開発プラットフォームは、そのまま「ハイビジョンスゴ録」の基盤として利用されることとなった。 「ただ正直、“ハイビジョンでディスクに残せないハイビジョンレコーダ”はどうなんだろう、と思っていたのも事実。BDが目の前にあったわけですから」。永井氏はそう述懐する。 「今回は、いよいよハイビジョンで一気通貫に残せることになったわけですから、“わかりやすくなった”と、DVD製品がなくても、ディーラーさんなどには好意的に受け止めていただけています」。ただ、ライバルである松下は、「ディスクへのハイビジョン記録」を、AVCRECという規格を使うことで、DVD搭載機でも実現している。低価格機でハイビジョン記録を実現する方法としては、理にかなっているようにも思える。それに対しソニーは、AVCRECでのディスク記録に対応していない。 「DVDに残せるといっても、記録レート的には厳しい。また、これまでDRモードで残した方に、再エンコードをお願いするのも厳しい。再生環境も、まだPS3などで再生できるわけではないですから、結局BDレコーダを使うことになります。だったら、残すのはブルーレイにしましょう、という風に割り切りました。なにより、早く“ブルーレイ”をわかってもらいたいんです」。未対応である理由を、永井氏はそう説明する。
■ 1,440ドット記録は「画質的に有利」だから 今回同社は、AVCでの記録の際に、横解像度を1,920ドットのソースでも1,440ドットに落とし、Main Profileでの記録を行なう。ビットレートは最大15Mbps、最低2Mbpsの6種類となる。このうち、HD記録になるのは、6Mbpsの「LSR」モードまでだ。圧縮に使われるのは、自社開発のエンコーダチップである。
圧縮方式をこのように定めた理由について、画質面の開発を担当した太田正志統括課長は、「できるだけハイビジョン感を残しつつ、圧縮効率を高められるか、というところで判断しました。そのためには、VBRを使い、テレビ放送のシーンチェンジにあわせてビットレートをいかに調整するか、といった部分に知恵を絞り、画質を高く保てるよう、工夫しました」と語る。 ライバル松下は、新製品で横1,920ドット/High Profileでの記録を実現しており、スペック上はソニーよりも優位に立っているように思える。解像度や記録プロファイルの制限はどこから来たのだろうか? 「Main Profileでの記録、というのは、エンコーダチップ上の制限です。ただし、横解像度はそうではありません。我々も、1,920ドットと1,440ドットでは悩みました。ただ、静止画に近い映像では、確かに1,920ドットの効果が大きいのですが、同じビットレートの動画像となると、結果的に1,440ドットの方が、符号をうまく割り当てられる結果、ブロックノイズも減り、より解像感が高い映像になるんです。カタログ上の数字も大切で、企画側からは色々と言われたのも事実なんですが、実際に1,920ドットの映像と1,440ドットの映像を見比べた上で、積極的に1,440ドットを採用しています。ドラマなら動きもそんなに激しくありませんし、SR(8Mbps)で十分でしょう。これで、2層BD一枚に12時間記録できます」。太田氏は理由をそう説明する。 どの製品が高画質なのか? 現状では、試作機の、それも各社が用意した映像のみで比較せざるを得ないため、評価は保留としたい。だが少なくとも、1,440ドットで記録されたソニー製品の映像でも、一見しただけでは、横解像度の不足を感じることはなかった。 では、「Main Profile」と「High Profile」の差はどうだろう? 「High Profileで、いかにツールを使うか、ということだと思います。もちろん、あればあったでさらに高画質化できると思いますが、Main Profileでも十分に画質を追求できていると思うので、現状で大きな不利は感じていない」と太田氏は語る。このあたりも、製品が出てからの比較が楽しみなところではある。 今回の製品では、いわゆる「標準モード」として設定されているのは「SR」モード。何もしない状態では、放送はすべてAVC/8Mbpsでエンコードして記録されることになる(ただし、AVCエンコーダは1系統しか搭載されていないため、W録で2つめのチューナを使った場合はDRモードでしか録画できない)。 また、最上位モデルのX90で500GB、L70/T70で320GBというHDD容量は、デジタル放送録画にやや物足りなくも感じるが、「アナログモデルで250GBのモデルが主流だったのですが、これは“標準モードで100時間録れる”、というあたりから来ているようです。今回メインのモデルでは、HDDが320GBになっています。20GB、なんとなく半端な感じがするんですが、LSRモードを使えば“100時間”を謳えることになります。わかりやすくていいかな、と思って選択しました」(永井氏)。 一方、松下の製品に比べると不満な点もある。それは、DRモードで録画した映像を、HDD内で再エンコードできないことだ。もちろん、ディスクにダビングする際は再エンコード可能だが、「寝ている間にHDD内でエンコード」といったことはできない。 「エンコードするのはいつか、ということを考えると、結局ダビングする時です。とすれば、その時だけエンコードできるようにするのが、操作性の面でわかりやすい、と判断しました。それに、エンコードには実時間かかります。BDならば、DRモードでもAVCでエンコードしたものでも、HDD内からは高速ダビング可能。ですから、普段からディスクに残したい形式で記録しておいていただき、再エンコードせずに記録する、という形を推奨したいです。4倍速ドライブも生きてきますし」と永井氏は説明する。 ■ プラットフォーム一新で操作性UP。NR技術を大幅に改良、画質向上 今回の製品では、BDドライブ以外にも大きく世代が変わった部分がある。それは、基盤となる「プラットフォーム技術」だ。 「V9では、“録画1”側で録画中はHDDからの再生が出来なかったのですが、今回は可能になりました。もちろん、AVCで記録していても大丈夫です。そのほかにも、同時動作時などの動作制限は少なくなっています。残っているのは、ダビング中の録画予約くらいです」と永井氏は話す。
V9/V7で使われていたプラットフォーム技術は、「RDZ-D5」以来2年間にわたり使われ続けてきたが、今回のモデルでは、D5からV9/V7世代のものから一新した、新プラットフォームが導入されている。AVC記録も、新プラットフォームの機能の一つといえる。番組表もフォントを変更、同時表示チャンネル数を増やして、見やすいものへと改良されている。動作もより快適なものへと変更された。 ただし残念ながら、今回も「おまかせチャプター」は「録画1」側でしか効かない。「おまかせチャプターは、録画時に一度デコーダを通し、そこでチャプタを決定しています。今回も、エンコーダは一系統しか搭載されていないので、録画2側の場合、6分単位で自動的に設定されるようになっています。企画的には両方に搭載したい、という気持ちはありますが、コストに跳ね返ってくるので……」(永井氏) プラットフォームの変更は、画質や音質面でもプラスに働いている。 画質面で変更が大きいのは、ノイズリダクションに関する機能だ。 「V9/V7では、FNR(フレームノイズリダクション)とBNR(ブロックノイズリダクション)を適応的にかける、という形であったのですが、今回はアルゴリズムを一新しました。“ピュアイメージリアライザー”と名付けたのですが、V9/V7の機能に加え、モスキートノイズ・リデューサを追加しています。この3つを適応的に制御しているのですが、そのパラメータに、映像コーデックになにを使っているか、を判別して利用するようにしました。具体的には、MPEG-2とH.264/AVCか、そしてBDの場合にはVC-1もありますが、これらの種類を観て、内部的に最適になるよう制御しています。レートが高いAVCですとかなりクリアーなのでほとんどかけず、放送ソースでは強めにする、といった形になります」と太田氏はいう。 この機能は、やはりノイズの大きな録画系でより強い効果を発揮するが、BD-ROMによって供給される映画タイトルなどでも、違いが出てくるようだ。 「初期のMPEG-2の、レートの低い作品などではけっこう違いが出やすいです。MPEG-2では、グレインノイズではなくブロックノイズが浮いてきやすい。V9/V7の時には、ROMタイトルでは、ほとんどNRをかけていませんでしたが、新モデルではかけるようにしました。ただ、ROMは“忠実に出す”ことが基本なので、本当にこれは、と感じるような部分にのみかかるようにしていますが」(太田氏)。 ちなみにこれらのNR機能は、ビデオカメラ映像にも有効だとのこと。「カメラよりきれいに楽しむためにレコーダへ残す」という方向性も、今後は出てくる可能性がありそうだ。
■ 「HDMIは音が悪い」を払拭?!
音声についても、今回は様々な改良がなされている。もっとも大きいのは、「ロスレス対応」の強化だ。TrueHDやDTS-HD Master Audioなどのロスレスコーデックをビットストリームで出力可能となっている。 新製品群の音質面での改良・開発を担当した、ソニー ビデオ事業本部の桑原邦和氏は次のように説明する。「ロスレス音声をHDMIで出力することになりますから、そこを中心に改良しました。『HDMIは音が悪い』と巷では言われているので、様々な工夫を行なって、そういった定評を払拭したつもりでいます」。
写真は、X90で使われているHDMI端子周辺のボードである。HDMIインターフェイス・チップそのものは、他社が採用しているものと同じであるという。だが、ノイズ・ジッタ対策のためにつかわれているコンデンサは、全く異なるものだ。最初の試作モデルでは、チップメーカーが推奨する回路・個数で作られていたという。しかし、それでは満足できなかった。 「確かに、オシロスコープで見ると、正しい波形が出ているようなんです。でも聞いてみると、音としては出ているんだけど、音楽としては物足りない。なんか楽しくない、期待したほどではない、という印象でした」。 そこで最終モデルでは、回路を見直した上で、コンデンサの高品質化を行なった。「電源からの細かいリップルノイズが波形となり、クロックを乱すジッタとなっていたのだろう、と考え、その部分を強化しました。実際に聴きながら微調整を行ないました」(桑原氏)。 使用したコンデンサは、音質向上用として、新規に開発したものである。元々は、同社の最新AVアンプ「TA-DA5300ES」のために開発したものなのだが、それをX90にも搭載した。実は試聴そのものも、TA-DA5300ESと組み合わせて、それをリファレンスとして開発が行なわれていたという。そういう意味では、X90とTA-DA5300ESは、「ソニーおすすめセット」ということになる。 「TA-DA5300ESのような製品がある、ということが、当社の強みになると思います。波形を見て終了、ではなく、実際に聴きながら評価して追い込んでいけたんですから」と品質に桑原氏は自信を見せる。
ロスレス音声コーデックは、HDMIによるビットストリーム出力のみに対応しており、本体側でリニアPCMへデコードしての出力には対応していない。桑原氏は、「音質を考えた結果」と説明する。 「その点もよく指摘されるのですが、ロスレスのデコードは処理が非常に大変。また、デコード時に、電源からのノイズで出力がすごく揺すられるんです。(対策するには)コンデンサもさらに大きくする必要がありますし、電源ももっと大きくしないといけなくなります。どうしても、レコーダの重量・コストでは足りない、ということになります。デコードすることはできるんですが、アンプ側でデコードした方がいい音になるのではないか、という判断を下しています。逆に、余ったパワーは映像側に回した方が、AV機器としてのバランスは取れるのではないか、と思います」 なお、オーディオ用基盤の搭載などの高音質化への配慮は、「ホームシアター向け」とされるX90のみに採用されている。他の機器に関しては、「どうしても必要なところにだけ、ピンポイントで手を加えている」(桑原氏)とのこと。アンプと組み合わせてロスレス音声を楽しみたい方は、ぜひX90を選択していただきたい。 ■ 「HDからHDへ」画質向上を狙う。アップコンバータは全機種共通 X90に関しては、もうひとつ特別な機構が搭載されている。それは、ソニー独自の高画質化エンジン「DRC-MFv2.5」を搭載していることである。「DRC-MFv2.5」は、ブラビアにも搭載されている機構だが、X90のそれはテレビのものとはかなり異なるようだ。
「X90搭載のDRC-MFは、HDの映像クリエーションに特化しています。1080iから1080iへのクリエーション、そして1080pへのクリエーションのみを行ないます。AVCで低レートで記録すると、どうしても絵が平坦になりますので、よりHDらしくするソリューションとして使っています。特に大画面の映像になると甘く感じる傾向にありますので、そこをはっきりさせるために加工しています。また、DRC-MFも、NR同様、コーデックの種類を見て適応的にかけるようになっています。AVCとMPEG-2では、上げたい量が違うものですから」(太田氏)。 太田氏によれば、それぞれデフォルト設定でも、パラメータはコーデックによって異なっているという。今回、試作機でデモをチェックしたが、平板な印象があった映像が、DRC-MFをかけることにより、エッジの先鋭感、色合いの生々しさなどが増して、より生き生きとしたものに変わったのが確認できた。太田氏は「大画面向け」というが、40インチクラスでも、その効果はわかるのではないか、と予想される。 なお、テレビ向けでは100段階の調整を調整を行えるが、X90のものは5段階。このあたりも、両者の違いである。 ブラビアと接続した場合には、テレビ側にもビデオ側にもDRC-MFが存在し、ややもすると「二重掛け」になりそうなところである。しかし、HDMIで接続した場合には、ブラビア側のDRC-MFが自動的にオフになり、二重掛けを防ぐようになっているという。逆に、他社のテレビの場合にはそういう連動が行なえないので、内部の絵作りチップと「二重掛け」になりやすい。テレビ側の機構はオフにするなど、運用側での工夫が必要になりそうだ。 なお、テレビ用のDRC-MFには、SD映像をHD映像にする「アップコンバータ」としての機能もある。「QUOLIA001 クリエーションボックス」として製品化されたものも、SD-HDコンバータとしての位置づけが強かった。だが、X90のアップコンバータは下位機種と同じものであり、DRC-MFではない。 「今回は、他社にはあまりない、HDからHDへのクリエーションを重視しましょう、ということで機能を集約しました。もちろん、デコーダをX90のみ変えることができない、という回路共通化から来る事情もあるのですが」(永井氏)と説明する。 ■ 「BDレコ第三世代」は豊作。ソニーは特徴による「選びやすさ」が魅力 昨年秋、ソニー・松下のBDレコーダーが登場した時、各社の製品担当者は、異口同音に次のように話していた。「今回のモデルは、すぐにBDが欲しい、という熱心なマニアのためのもの。本格的普及は、次のモデルから」。 これはすなわち、低価格化が進んだ「10万円台のモデル」の登場が普及のカギ、ということである。その言葉は正しく、この秋は各社より、文字通り「普及価格帯」といえる製品が登場した。 だが予想外であったのは、普及価格帯の製品でも上位機種でも、大幅にクオリティを上げた製品が登場したことである。松下に関しては後日記事にしたいと考えているが、ソニーについては、今回のインタビューより、その狙いとこだわりを感じ取っていただけることだろう。 特にソニーの製品では、L70とX90の面白さが光る。今世代の基本要素である「4倍速記録」「AVC記録」「LTH・ダビング10対応」に加え、独自の色づけを行なってきたことは、選ぶ側にとってもわかりやすく、魅力を感じる。 問題は、AVC記録時の画質と、AVCRECへの未対応であるが、この点は実際の製品に触れてから、各社を比較した上でコメントすることとしたい。
□ソニーのホームページ (2007年10月25日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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