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東芝・片岡氏が語る「HD Rec」の真意
- 分裂した「ハイビジョンDVD」の行方


 10月31日、突如発表された「RD-A301」。ハードウェアの詳細については製品記事で紹介されているが、もっとも大きなポイントは、MPEG-4 AVC/H.264のエンコーダを搭載したこと、そして、DVDへのハイビジョン記録規格「HD Rec」に対応したことだ。

 その狙いと機能に込めた思想について、東芝 デジタルメディアネットワーク社 デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当 グループ長 片岡秀夫氏に話を聞いた。



■ HD Recは「機器」に対する規格

東芝 デジタルメディアネットワーク社 デジタルAV事業部 DAV商品企画部 商品企画担当 グループ長 片岡秀夫氏

 「今回の製品でもたらされる状態を実現することが、かねてからの狙いでした。ここにくるまでが苦しかった。機能ができたから、とってつけた、という戦略ではないんです」。取材の冒頭、片岡氏はそう話した。

 片岡氏の言う「状態」とは、「HD Rec」による、DVDへのハイビジョン記録のことだ。HD Recとは、DVDのフォーマットを拡張し、MPEG-4 AVCで圧縮されたハイビジョン映像や、デジタル放送のMPEG-2 TS、DVD-VRを混在して1枚のディスクに記録できるようにしたものである。

 「今までの次世代レコーダ競争というのはなんだったんだろうか? ディスクの差や、参入メーカー数の違いといったことは、本質的なものではない。真のユーザーニーズ、多くの方にとって大切なことは、ハイビジョン番組を安価に保存できることなのではないでしょうか。問題はそのソリューションとして、どんなやり方があるか、ということです。それが、“新たな競争原理”へのシフトです。いままでは、ディスクの規格で対立していました。光ディスクの善し悪しで競争する、ということを否定するものではないですが、それだけでは、レコーダ競争が陳腐化してしまいます。我々の答えは、DVDフォーラムの正式規格として、“HD Rec”を導入することです」。

 要は、「安価な記録型DVDへのハイビジョン記録が、新しい競争を生み出す」と片岡氏は主張しているのである。

 各論に入る前に、ここで、HD Recというフォーマットの特徴をおさらいしておこう。実はHD Recは「記録フォーマット」の規格ではない。正確には、「HD DVD-VRの記録フォーマットでDVDに映像を保存できる機器」に対する規格であり、認証である。そのため、厳密にいえば「HD Recのディスク」というものは存在しない。「HD Rec対応機器で記録したDVD」、と呼ぶのが正しい。そういう意味では、レコーダでの自己記録/自己再生を前提とした規格、といえる。

 規格認定を得る条件は、以下の3点だ。もちろん、1層だけでなく2層記録にも対応する。

  • 3倍速以上で書き込めるCPRM対応DVD-R/RW/RAMディスク(コピー保護技術はAACS)
  • 記録ドライブが、DVD-R/RW/RAMのいずれかもしくは複数で、3倍速以上の読み込みに対応していること
  • HD DVD-VRフォーマットで書き込みが可能であること

RD-A301の
HD Rec
【参考】新DIGA
AVCREC
記録メディアCPRM対応
DVD-R/R-DL
DVD-RW/RAM
CPRM対応
DVD-R/R-DL
DVD-RAM
アプリケー
ション形式
HD DVD-VRBDAV
記録方式AVC
TS
DVD-VR
AVC
音声AAC
(AVC/TS)、
ドルビーデジタル/
リニアPCM
(DVD-VR)
ドルビーデジタル
備考RD-A301ではDVD-R DL/DVD-RW/RAMへのHD Rec記録が可能。BSハイビジョンのTSモード録画時の再生のみサポート対象外(DVD-Rは可)AAC音声のストリーム記録もAVCREC規格上は可能

 すでに述べたように、HD Recの最大の特徴は、AVCでハイビジョン映像をDVDに記録することである。だが、それだけならば、BDAの規定した対抗規格である「AVCREC」と大差ない。実際のところ、HD RecもAVCRECも、ディスクの物理フォーマットは同じだ。また、AVCでの映像記録については、映像/音声の圧縮方式もほぼ同じであるという。

 違いは、ディスク上にデータをいかに収納するかを定めたアプリケーション形式の部分にある。HD Recではここに、HD DVDで使われている「HD DVD-VR」を使い、AVCRECでは、BDに使われている「BDAV」のうち、AVCに関する部分だけを使っている。

 そのため、HD RecとAVCRECの間では再生互換性がない。だが、実際にAVCでのハイビジョン記録部だけで比較すると、違いは著作権保護に使用するAACSに関連する部分のアプリケーションフォーマットの中での管理方法だけ、ということになる。

 アプリケーション・フォーマットが違うということは、具体的にはどういうことだろう? 一番の違いは、映像の記録形式に、TSとDVD-VRが含まれているか否か、という部分になる。すなわちHD Recでは、「DVD-VR」、「MPEG-2 TS」、「MPEG-4 AVC」の3種類がサポートされ、AVCRECでは「MPEG-4 AVC」のみのサポート、ということになる。

 なお、HD Recディスクを再生できるのは、現在発表されている機器では「RD-A301」のみ。既発売のVARDIAやHD DVDプレーヤーでは再生できない。同様にDIGAで作成したAVCRECディスクも現時点の再生機器は、AVCREC対応DIGAのみとなっている。



■ 安価なDVDへの記録で「競争原理」を変える
 「保存方式」の押し売りは「傲慢」?

 では、なぜ、HD Recの採用がレコーダ市場の「競争原理を変える」のだろうか? 片岡氏は次のように語る。「安価なDVDにハイビジョン映像を記録したい、というニーズは確実に存在します。それに答えられる、ということはまずあります。ですがその時に、我々と他社とでは、使い勝手の面で大きな違いが出ます」。

HD RecとAVCRECの違い

 そう語る根拠は、アプリケーション・フォーマットにある。「AVCRECは、DVDなのにブルーレイのフォーマットで書く、という矛盾があります。ハイビジョン記録ならいいのですが、SD映像を記録する場合には、同じDVDなのに、その時だけ初期化方式を変えねばならない。これはお客様にとって非常にわかりにくい」。片岡氏はそう説明する。

 これに対しHD Recの場合には、SD映像を記録する場合にも、フォーマットを変更する必要がない。HD DVD-VR規格は、DVD-VR規格を包含しているためだ。ライバルである他社製品と比較しながら、次のように語る。

 「2社はDVDへの書き込みをしていませんから、競争相手になりません。1社(松下電器のDIGA)は採用しましたが、AVCのみ。大きく差がでますから、“採用してくれてありがとう”という印象ですね。市場では“初心者向け”と言われていて、それをアピールしている機種で(フォーマットの使い分けに)わかりにくさができているのは、自己矛盾でしょう?」。

 DVD-VRへの対応に加え、もう一つの武器として片岡氏が指摘するのが、DVDへの、MPEG-2 TSでの直接記録である。MPEG-2 TSは、日本のデジタル放送において使われている。地デジなどのハイビジョン放送はもちろんだが、NHKのBS1、BS2、e2 by スカパー!(110度CSデジタル放送)などのSD放送でも採用されている。

 「TSで直接記録できる、というのが重要なんです。e2などでは、1チャンネルあたりの平均ビットレートは5Mbpsくらい。これをハイビジョンのAVCでエンコードすると、ビットレートがあがってしまいますよ(笑)。次世代ディスクでは再エンコードなしに記録できるのに、DVDになったら画質劣化があって時間がかかる再エンコードが必要、だなんておかしいです。そもそも、書き込む場合にはすべてBD規格で、というのは傲慢。変換せずに書き込めるべきです。また、歌番組から好きなアーティストの部分だけを記録するような、記録時間よりも画質・音質にこだわる場合には、再エンコードによる劣化がなく、AAC形式で5.1chのまま記録できる、ということは、非常に魅力的です」。

 「e2やBS1、BS2、WOWOWにこだわるなんて、各社のビデオレコーダ製品企画者の中でも、私くらいのものかも知れませんが」と笑いながらも、そういったニーズの重要さに、片岡氏はこだわる。

 「劣化のない記録がやりたかったら次世代メディアを使ってね、というのは消費者不在。そうではなく、いまある安価なディスクでも大丈夫、ということが大切です。お客様に、“ハイビジョンで録りたかったら、高い機器と高いディスクを買ってよ”というのは筋が違う。映像の解像度でディスクを決めてしまうのではなく、容量でお客様に選んでいただければいいじゃないですか。私みたいに、『短い番組、歌番組の数曲だけを、安くディスクに残したい』という人間もいるわけです。そもそも、テープからディスクへ、というのは誰にでもわかるものですが、高音質・高画質化とは、そもそも目利きではないとわかりづらく、全員がシフトする話ではなかったのかも知れない。そういう、そもそも高いハードルを、“ハードも高い、メディアも高い”という形で推していくのは厳しい」。


1枚のDVD-R/HD DVD-RディスクにTS、AVC、VRを混在して収録できる DVD-R/HD DVD-Rディスクを問わずHD Rec HD Recの記録時間


■ ハイビジョンのDVD記録がBDを追い詰める?
  「ディスクの価格」はなにで決まるのか

 そこで出てくるのが、素朴な疑問だ。DVDにハイビジョンやMPEG-2 TSの無劣化記録ができるということは、消費者としては確かにありがたいことである。だが、逆にいえば、「それでいいなら次世代DVDは不要なんじゃないの?」と思う人も、増えてくるのではないか。それにより、次世代DVD普及にブレーキがかかるようでは、ハードメーカーにとって問題なのではないか、ということだ。

 「その疑問については、私なりの答えがあります。それは、確かにBD陣営は困るでしょうが、HD DVDは困らない、ということです」。

 根拠は2つある。1つ目は、DVDフォーラム側から見ると、DVDのフォーマットもHD DVDのフォーマットも、同じフォーラムの規格であり、どちらが使われても特に問題ない、ということ。

HD DVD-Rが売れなくてもHD DVDは困らない

 そして2つ目は、HD DVDは、製造ラインをDVDと共有可能である、ということである。「HD Rec対応機器の数が増えれば、当初はDVDしか使わなくても、将来的にはHD DVDを使っていただける可能性が高まります。要は、“DVDにハイビジョンが録画できる機器だ”と思って買っていただけることが、(HD DVDへの)呼び水になるわけです。ご存じのように、DVD-RとHD DVD-Rの製造ラインは、1日で切り替え可能なほど互換性が高い。需要に応じて切り替えるのが容易ですから、その点でもプラスです。BDは需要が増えないとディスクの価格が下がらないので、DVDを長く使われると、それだけマイナスになるはずです」。

 現在日本国内では、HD DVD搭載機器に比べ、BD機器の方が多く出荷されていることから、記録ディスクの価格では、BDの方が有利な立場にあるように見える。だがこの点について片岡氏は、「ディスクの価格を下げるために、対策費を補填して(ディスクの価格を引き下げて)いると聞くが、HD DVD側はそういったことをしていない」と、生産量の問題ではない、と否定する。

 「HD DVDの価格が高いのは、まだ市場が盛り上がっていないので、無理に生産をしていないため。経済合理性からいえば、HD DVDの方がディスクは安くなるのです」(片岡氏)。

 BDのメディアに対し価格補填が行なわれている、という噂は筆者も以前より耳にしていた。この件に関し、松下電器産業 蓄積デバイス事業戦略室の小塚雅之室長に真偽を確かめたところ、「我々は行なっていない。記録メディアでそうした補填をする意義は全くない」という。


■ 統一できたのに分裂した「ハイビジョンDVD」
  両者で別れる「方針」と「ポリシー」

 片岡氏はさらに続ける。「HD Recは、DVDフォーラムで、松下やソニーなども検討の場に入り、彼らも意見を出し、合意した上で作った規格。これはすなわち、赤(DVD)では、規格統一をした、ということなんです。なのに、なぜ互換性がないのか。AVCRECはHD Recの規格を流用して作られたもの。彼らもDVD記録がやりたい、と思ったんでしょう。時系列的にこちらが先であることは確認しています」

 確かに、DVDという同じ光メディアを使いながら、HD RecとAVCRECという2つのメディアが存在することは、明らかに複雑でわかりにくい。DVDフォーラムとBDA、両方に入っている松下側ならば「HD Rec採用」、という形で統一できたはず、との見解には、頷ける部分もある。

 片岡氏は別の言い方でも、この「互換性問題」を説明している。「HD RecとAVCRECでは、フォルダ名と著作権保護を含めた管理情報が違うだけで、データとしては同じものです。だって、コーデックは同じなわけですから。ならば、なんで読み書きできないの? と思うわけですよ。(BDとHD DVDという)ディスクの違いがあるときは、フォーマットの違いなどもしょうがないと思われがちですが、今度は同じディスクですからね。ディスクと記録フォーマットを一体のものとして考えるのは間違っています。私に言わせれば、言葉は悪いですが、BD陣営の方々は“光ディスクに魂を引かれた人々”ですよ。だから我々は、デジタルデータの正しいあり方を取り戻さねばならない、と思っています」。

 個人的な考えをいえば、DVDのハイビジョン記録規格は、確かに統一されているべきだった。そうでなければ、利用が進まないからだ。現時点では、HD RecもAVCRECも、基本的には他人に渡すことをあまり想定していない「録画したレコーダで見る」ディスクを作るものになっている。両者で互換性が維持されていれば、この点での問題が解決していたのは間違いがない。

 結局不幸であったのは、「DVDへのハイビジョン記録」に関する規格論議が、次世代ディスクの分裂以後にスタートし、次世代ディスク戦争の影響を逃れ得なかったところにある。


■ DVD規格を「混乱させた」のは
  東芝でなくBD参加企業

 片岡氏によれば、10月19日に掲載した、松下電器産業 小塚氏へのインタビューは、東芝社内で非常に大きな議論の的になったという。

 「我々の側から見れば、色々と異論がある」と片岡氏は話す。「“BDとHD DVDのシェア比は9:1だ”という部分については異論があります。ただしそれよりも重要なのは、まだ市場全体の構成比の中で、次世代ディスク対応機の比率が2%しかない段階で、消費者がどっち向いたこっち向いた、という話をしてもあまり意味はないでしょう、ということです。“現時点でシェアが多いものの方が良い”という意見もありますが、それも危険です。正しいことを言っているのにマイノリティだったら間違い、と決めつけるようなもの。判断としては、公正に、冷静にいい悪いを見てもらいたい。2%の中で多い方が、残り98%の中でも多数か、とは限らない」

 そういったマーケットデータ的な部分よりも、片岡氏にとって異論が多かったのが、「DVDフォーマット乱立の経緯」と「HDiの意義」である。「DVDフォーマットが乱立したのを整理した、と言われましたが、正直にいって、“あなたがたにそれを言われたくはない”というところですよ。だって、DVD規格を割った原因になったメーカーも、DVDのビデオ録画フォーマットを複雑にする原因になったメーカーも、あちら側にいらっしゃるじゃないですか」

 片岡氏が指摘する、「DVDの規格の分裂」とは、DVD+R/RWというフォーマットの分裂だけではない。ビデオ録画形式としてDVD-VR方式だけでなく、DVDビデオ形式が採用されたということも含んでいる。DVDフォーラムでは、DVDへのビデオ録画用には、当初DVD-VRのみを推奨していたという。DVDビデオ形式は、あくまでオーサリング作業を前提とする「配布メディア」用のフォーマットであったのだ。だから、コピーワンス対応も、編集も追記も、アスペクト混在もない。

 「あるメーカーさんが、DVDレコーダの早期発売を実現するために、ビデオモードを一般録画用に、と押し込んだわけです。マニアの方などのニーズを考えると、ビデオモードがあることそのものは、決して否定しません。しかし、一般のお客様が使うものとしてビデオモードを推奨したことにより、“互換モード”をレコーダに入れねばならなくなり、わかりづらくなりました」

 「その結果なにが起きたかというと、単体プレーヤーで、VRモードに対応する機器が出てこなくなってしまったんです。VRモード対応のために、単体プレーヤーも新たな進化が見込めたはずなのに、それはなくなってしまった。その分の市場が消えたわけです。しかも、最初からビデオモードは著作権保護に対応できないことがわかっていた。だから我々は推さなかったのに。結局、そこでまたわかりにくさを助長してしまった。“DVDビデオモードを録画の主軸に据えた”ことが、DVDレコーダを複雑なものにした原因ですよ」。

 ビデオモード混在を、片岡氏は強く非難する。確かに歴代のRDシリーズでは、2カ国語モードの音声混在や映像の記録解像度などで、様々な苦労を強いられている。「互換モード」がなんの「互換」なのか、技術に詳しくない人はおそらく理解しないまま、DVDレコーダを使っているのではないだろうか。

 「DVD規格を自分たちで作ったのだから、それを捨てて次に行くのでなく、全部責任をとってもっていきましょうよ、と私は思うんです」と片岡氏は語る。


■ HDiは「インタラクティブ機能」ではなく「アドバンスト機能」だ!

「HDiを、私は一度も“インタラクティブ機能”とは言っていません。“アドバンスト機能”です」。片岡氏はそう語る。これはなにも言葉尻を捉えた議論をもちかけているわけではない。「インタラクティブ機能」と「アドバンスト機能」の間には、大きな差がある、と彼らは考えているための指摘である。

 「HDiは、別にメニューを作るための技術ではないんです。インタラクティブだからゲーム、という話でもない。“インタラクティブ”というのは価値ではないんですよ。みなさんがパソコン内でフォルダを掘ってファイルを探す作業は、“インタラクティブ”な動作ですが、それをあえて“インタラクティブなコンテンツ”とは言わない。あくまで、そこから出てくるおまけコンテンツであったり特典映像であったり、というものが価値あるものだからです。メニューもPinPも、あくまで見せ方の一つに過ぎない。なにが価値をもっているかというと、いままでの“映像パッケージメディア”に対し、追加コンテンツまで組み合わされたのがDVDです。そこに、インターネットの価値も追加される、ということが“HDiの価値”なんです」。

 そこで片岡氏が指摘するのは、HDiが「HD DVDというディスクだけのものではない」という事実だ。10月5日、東芝とマイクロソフトはAIC(Advanced Interactivity Consortium)という業界団体を立ち上げた。目的は、HDiをディスクメディアだけでなく、ネットサービスや各種コンテンツなどで使われる、「アドバンスト機能を実現するための標準的な仕組み」として推進したい、ということだ。

 「画面の中でホームページが見れる、というレベルではなくて、動画上に、ネット上にある情報がメニューと同じ形で見れる。しかも、その際にURLなどを入力する必要はなく、自然に体験できる。するとお客様は、それがローカルな情報であるのか、ネットからインターネット上の情報であるのかを意識することなく、扱えるようになります。そうするための仕組みがHDiであり、インタラクティブであることそのものが価値ではないんです」

 片岡氏はこの考え方を、HD DVDにおいては「ディスクをポータルにするもの」と呼んでいる。ある映画のディスクを持っている人は、その映画や制作者に興味のある人のはず。そういった人々に、継続的に新しい価値をネットで提供するための窓口になりうる、と考えているわけだ。

 「ハリウッド側にとっては、ディスクを買った方こそサービスをしたい相手。買った方にとっても、それは興味ある情報であるはずです。そういうWin-Winの関係を扱うものこそが、HDiの狙い」と片岡氏は説明する。「こういうものが生まれた時に、HD DVDとHDiは初めて本当の価値を生み出します。BD-Javaは、あえていうならメニューやゲームをディスクに取り込むもの、ということでしょう。両者は、どちらがいい、悪いということ以前に、これだけ大きく違っている、ということです。パッケージメディアになって、絵や音がこれだけ良くなりました、なんていうのは当たり前のことで、ネットワークとメディアの融合の真のあり方はどうあるべきか、ということまで考えたのです。特にこの考え方は、ハリウッド以外の、小さな組織の方がありがたいはず。より少ない宣伝費で、興味をもっているお客様にアプローチできるわけですから」。


■ 求められるのは「分裂も気にならない」ほど魅力的な製品

 東芝側が主張するように、次世代ディスクの市場はまだまだ小さい。双方の主張が正しく受け入れられているわけでもなく、誤解に基づくぶつかり合いが多いのも、また事実だろう。だが、まだ市場が小さい理由には、2つ大きなものがある。

 一つは、「次世代らしさ」がわかるタイトルが、まだ少ないという点である。本当に、映像だけでなくネット機能や高度なインタラクティブ機能がその価値を持っているならば、「そんなものはいらない」と思っている人々を納得させられるだけのタイトルが必要となる。

 また、最大の問題は、規格が分裂したことによる「不安感」にあるのはいうまでもない。DVDへのハイビジョン記録で、またも分裂したことは、不安感をあおる結果となりはしないだろうか。

 メーカーに求められるのは、「納得できるタイトル」が出ること、そして、「分裂していても関係ない」と感じられるほど、魅力的なハードウエアを提供すること、の2点に絞られてきた、といえるだろう。


□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
□ニュースリリース
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2007_10/pr_j3101.htm
□RD-A301製品情報
http://www3.toshiba.co.jp/hdd-dvd/products/vardia/rd-a301/index.html
□関連記事
【10月31日】東芝、HD Rec対応の新VARDIA「RD-A301」
-10万円以下で、DVDにもAVC/MPEG-2記録
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071002/pana1.htm

(2007年11月2日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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