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第304回:アップルのDAW「Logic Studio」を「Leopard」で試す
~ その2:「MainStage」など豊富なユーティリティソフト ~



Logic Studio

 第301回でAppleのDAWスイートソフト、「Logic Studio」を紹介した。スイートということで、DAW本体であるLogic Pro 8を中心にさまざまなソフトで構成されており、前回はそのLogic Pro 8しか紹介することができなかった。今回はその他のユーティリティソフトを中心に紹介していこう。



■ ソフトシンセを使いやすくする「MainStage」

 Logic Studioを構成しているのは、DAW「Logic Pro 8」のほか、「Soundtrack Pro 2」、「MainStage」、「Studio Instruments」、「Studio Effects」、「Studio Sound Library」、「インパルスレスポンスユーティリティ」、「Apple Loopsユーティリティ」、「WaveBurner」、「Compressor」の大きく10種類。Logic Pro 8は機能、性能的にはLogic Pro 7とほとんど何も変わっていないが、ユーザーインターフェイスが大きく変わり、まさにAppleのソフトへと変貌した。また、プラグインのソフトシンセであるStudio InstrumentsおよびプラグインのエフェクトであるStudio EffectsもLogic Pro 7のときと、基本的には何も変わっていないようだった。

 一方、Studio Sound Libraryは上記Studio Instrumentsの音色類およびAppleが発売しているGarageBand用のループ素材集、JamPackシリーズをまとめたもの。特筆すべきこともないので、今回はこれらを除いた各ツールについて見ていくことにしよう。

MainStage

 今回のスイートの目玉ともいえるのがMainStageだ。ライブパフォーマンス用のツールという打ち出し方をしているが、要するにソフトシンセをリアルタイムに動かし、キーボードを弾けばすぐに鳴るようにしたというものだ。言い方を変えれば、Macを音源として使うためのツールである。

 考えてみれば分かるとおり、別にMainStageなどというソフトがなくてもLogic Pro 8があれば、Macを音源として外部MIDIキーボードからリアルタイムに鳴らすことは可能だ。Logicに限らず、ほかのDAWでも、DAWを媒体としてプラグインのソフトシンセを組み込み、外部MIDIキーボードからそのソフトシンセをリアルタイム演奏させることは可能だが、いずれのソフトも、その手順が結構面倒だったりする。慣れれば大したことはないものの、ステージ上で緊張している場合など、ふと操作を誤ってパニックに陥るという可能性が結構あるのも事実だろう。

 また、CPUパワーなどマシン性能が向上したとはいえ、やはりDAW本体がかなり重いソフトであるだけに、ソフトシンセそのものよりもDAW側に処理パワーを喰われて、まともに音が出ないというトラブルに陥る可能性も考えられる。

Keyboard、GuitarRigs、Othersのメニューが表示

 そんな中、今回登場したMainStageは、こうした問題が一気に解決されるようになっている。

 MainStageを起動すると、Keyboard、GuitarRigs、Othersという3つのメニューが表示され、このうちKeyboardを選ぶと、楽器のジャンルのメニューが現れる。たとえばカントリーを選べばピアノ、ジャズオルガン、オーケストラストリングスなどなどカントリー系の音色が読み込まれる。また、電子楽器を選べばシンセベース、シンセパッド、シンセストリングス……とシンセのさまざまな音色が読み込まれるといった具合いだ。そして、左側の音色をマウスで指定して、キーボードを弾けばすぐに音が鳴るのだ。

 この音源は、Logicのプラグインとして組み込まれているEXS24、ESP、UltraBeatなど、それぞれの音色に最適なソフトシンセが適用されている。さらによくできているのは単にそれぞれのソフトシンセの音色が鳴るだけでなく、より使いやすい音になるように、複数のソフトシンセを組み合わせてあったり、コンプレッサ、EQ、ディレイなどのエフェクト類も組み込んでいるため、まさにライブ用として使いやすい音色に仕上がっているのだ。もちろん、各音色を自分でいじることもできるし、そのいじった状態で保存しておくことも可能となっている。


EXS24 ESP UltraBeat

コンプレッサ EQ ディレイ

 そして、より気持ちよく演奏できるように、楽器画面のみを大きく表示させる演奏モードやさらにそれをフルスクリーン表示させるモードなども用意されている。

 さらに、GuitarRigsのところでは、ソフトシンセは使わず、ギターを入力した際に使うエフェクトの設定が各種用意されている。これも当然Logicでできることだが、複数のエフェクトが設定され、すぐに使える状態になっているため、結構便利に使える。

楽器のみを大きく表示させるモードも GuitarRigsには、ギターを入力した際に使うエフェクトの設定が

 やっていること自体、結構単純なことではあるが、ソフトシンセをライブで演奏するという用途では、非常に便利に使える。プラグインを利用したエフェクト利用専用ソフトはいくつかあるが、ソフトシンセ専用というのはあまり記憶がない。他社製品、フリーウェアなどでも似たソフトがあるかもしれないが、やはり、なかなか有用なソフトだと思う。



■ GarageBandとLogic Pro 8の中間的な「Soundtrack Pro2」

Soundtrack Pro2

 次に紹介するSoundtrack Pro2は、改めて説明するまでもないが、FinalCut Proにバンドルされてるソフトで、ビデオにBGMなどをつけていくためのソフトとして幅広く使われているものが、Logic Studioにもバンドルされたのだ。

 そのため、これをビデオ用のソフトだと勘違いしている人も少なくないようだが、実際にはビデオと関係なく使うこともできる。Digital Audio Laboratoryでもだいぶ以前、バージョン1.2が登場したときに紹介したことがあったが、これはGarageBandの前身ともいえるソフトで、ACIDにも近いループシーケンサだ。


右下にループ素材のブラウザがあり、Apple Loopsの検索が可能

 画面右下にループ素材のブラウザがあり、Apple Loopsの検索ができるようになっているが、使い勝手としてはGarageBandのほうがいい。また、デフォルトでは、ギターやベースといった楽器のフレーズではなく、効果音を選択するモードになっているのがSoundtrack Pro2らしい、といったところだろうか。

 もちろん曲作りの自由度はGarageBandよりかなり上。波形編集機能なども使えるし、さらにサラウンドサウンドにも対応しているので、GarageBandとLogic Pro 8の中間的なソフトとして使ってもいいかもしれない。

 Soundtrack Pro2のユーティリティとして用意されているのがApple Loopsユーティリティだ。これも従来のものと代わりないが、Apple Loopsに埋め込まれているタグを自由に編集できる。また、あまり大したことはできないが、波形表示させた上で、ビートタイミングをいじるといったことも可能になっている。

波形編集機能が可能 Apple Loopsユーティリティ 波形表示させた上で、ビートタイミングを変更可能

 Apple Loopsのみでなく、Windowsで標準的に使われているACIDizedデータを読み込んで、タグ付けした上で、Apple Loopsとして保存することも可能。そのため、ACIDizedデータのApple Loopsコンバータとして活用するのもよさそうだ。

 Logic Pro 7でも同梱されていたソフトが、音楽CDライティング用のWave Burnerだ。これは2chで用意されたAIFFファイル(MP3やAACなど自動的にAIFFに変換してくれる)を並べて音楽CDを焼くというものだ。曲間を自由に設定できたり、2つの曲を重ねるとオートフェードイン、フェードアウト処理をしてつないでくれる。使い方は至って簡単ながら、いわゆるPQ打ちの大半の作業がこれでできてしまう。

 また、各リージョン=各曲または、全体に対してエフェクトを設定でき、Wave Burner専用のエフェクトもしくはAUプラグインも利用可能となっている。ただし、Logic Pro 8用のマスタリングエフェクトは使えないようで、せっかくのツールを生かすことができないのが残念なところ。せっかくスイートとしてバンドルしているなら、こうした連携性も高めてもらいたいところではある。

Wave Burner オートフェードイン/アウトなどが可能 AUプラグインも利用可能



■ 損はない価格設定。ソフトの連携に期待

 最後に紹介するのはImpulse Response Utility。これのみ日本語化されておらず、英語のソフトとなっている。コンボリューション・リバーブ用のインパルス・レスポンスを生成するためのツールで、ホールやスタジオなどに持ち込み、その部屋、空間を測定して、インパルス・レスポンスを作るための、完全業務用のソフトだ。

 スウィープ音を利用した周波数特性まで測定することができるようになっており、できあがったデータはLogicのコンボリューション・リバーブである、Space Designer用に保存することができる。したがって、自分の好きなスタジオ、ホールをこれで再現することが可能ではあるが、まあ、普通の人が使うツールではないようにも思う。

Impulse Response Utility Space Designer用に保存できる

 以上、Logic Studioの各種ユーティリティを紹介してきたが、個人的な感想をいうと、とにかくAppleが持っている音楽制作ツール系を片っ端から集めて全部突っ込んで58,000円という低価格でまとめてしまったのがLogic Studioであるという印象だ。それぞれ単独のツールとして利用できるものであるが、各ソフトの連携性が薄いのが、ちょっと残念なところでもある。

 業界破壊屋的な価格設定ではあるものの、ユーザーの立場からすれば、これだけさまざまなツール、ライブラリが集まってこんなに安いのだから、これを利用しない手はない。全部使いこなせるかは別として、絶対持っていて損のないものといえるだろう。

 いろいろなツールを資産として持っている大企業だからこそできるパッケージソフトだが、ぜひ今後これらをより統合し、使いやすい環境にまとめていって欲しいところだ。


□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□製品情報
http://www.apple.com/jp/logicstudio/
□関連記事
【10月29日】【DAL】アップルのDAW「Logic Studio」を「Leopard」で試す
~ その1:インターフェイスを一新。ドングルも不要に ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071029/dal301.htm
【2004年11月8日】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041108/dal167.htm

(2007年11月19日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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