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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第346回:弱点を改善した春のBDCAM、日立「DZ-BD9H」
~ 感度、解像度アップ、同じデザインで再挑戦 ~



■ リニューアルしたBDCAM?

 昨年秋モデルとして登場した日立「DZ-BD7H」(以下BD7H)は、世界初のBD搭載ハイブリッドカムとして、センセーショナルなデビューを果たした。総画素数530万画素、フルHD記録、8cmBDというハイスペックだったこともあって、AV専門誌よりもむしろ、一般誌に対するインパクトのほうが大きかったようである。

 BD7Hは以前実機で撮影してみたことがあるが、遠景のディテールと低照度時の発色、解像度など、今どきのハイビジョンカメラとしては厳しいものがあった。

 しかしこの2月に発売された「DZ-BD9H」(以下BD9H)は、基本コンポーネントには変更がないものの、フィルタなどの光学系の改善やプロセスの変更で、従来の弱点の見直しを計ったという。またHDDも倍の60GBを搭載し、フルHDの最高画質で約9時間の長時間記録を達成した。

 ある意味、再デビューとも言えるBD9Hは、どのように変わったのだろうか。早速試してみよう。


■ 細かいチューニングで解像度向上

 本来ならばデザインからチェックするところだが、BD9Hは前モデルBD7Hとデザイン的な変更点はほとんどない。色が黒になった程度で、まるで宝探しのような端子類の隠し場所もそのままである。詳しくは前モデルの記事が参考になるだろう。


ブラックモデルとなったBD9H いろんなところに端子が隠れている

 今回の変更点として、まずレンズそのものは変わらないが、内部のフィルタを変更し、高周波特性を改善した。映像的な高周波成分というのは、平たく言えば「細かいところ」である。光学系で落ちていた解像感を改善したということだろう。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画(16:9)
47mm

470mm
静止画(4:3)
34.5mm

345mm

 CMOSセンサーもベースは一緒だが、RGB分解フィルタの材質を変更して、S/Nを向上させている。BD9Hでは、さらに映像エンジンのアルゴリズム見直しにより、解像度を改善した。水平解像度1,000本近くまで向上させたという。

 低照度に関しては、これもセンサー部のフィルタ向上と映像エンジンの適応型ノイズ低減アルゴリズムの改良で、画質を改善したという。このあたりは実写で見てみよう。

 そのほか改善点としては、手ぶれ補正能力が従来比2倍向上、オートフォーカスの性能向上などがある。ハードウェア的なチューニングもあるが、その多くは映像エンジンのチューニングで実現された機能だ。


■ 改善は見られるが……


ボタン類が豊富で撮影時の変更は楽だ

 では実際に撮影してみよう。基本的な操作性は、前モデルとそのまま同じだ。カメラ機能で設定を変えるところは、シーンモードとホワイトバランスぐらいしかない、シンプルなカメラである。逆光補正や露出補正などは、液晶内側に独立してボタンがあるため、すぐに変更できる。

 画質モードは、前モデルと変わらない。DVDメディアを入れればSDでの撮影が可能な点も同じだ。ただ全体的に画質面での改善が見られる。特にHXモードは、ようやくフルHD記録のメリットが見えてきた感じだ。
動画サンプル
モード 解像度 ビットレート 記録時間(HDD) 記録時間(BD) 記録時間(DVD) サンプル
HX 1,920×1,080 15Mbps 約9時間 約1時間 -
ezsm_hx.m2ts (22.3MB)
HF 1,440×1,080 11Mbps 約12時間 約1時間20分 -
ezsm_hf.m2ts (16.8MB)
HS 7.5Mbps 約18時間 約2時間 -
ezsm_hs.m2ts (12.0MB)
SX 720×480 9Mbps - - 約20分 -
SF 6Mbps - - 約30分 -
編集部注:動画サンプルは、撮影時のH.264形式(.m2ts)を未加工のまま、PCに取り込んだファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 遠景での解像感は、かなり改善されている。その反面、テレ端、遠距離のレンズ収差は結構目立つ。レンズは光学10倍なので、それほど無理な設計ではないと思うのだが。

 圧縮に関して言えば、青空のような単調なグラデーション部分では、ビットレートを落としすぎないようになっている。ただ人物の肌色部分で、階調が見える。人物などは絵の中でもっとも注視する部分なので、ここはさすがにもう少しアルゴリズムに手を入れる必要があるだろう。

 前回は光量がある割には発色があっさりした印象があったが、今回は気持ちのいい色が出ている。光量が落ちる夕暮れどきは、高コントラストで印象的に撮れるようになった。ただ室内ぐらいまで光量が落ちると、色は出るものの、解像感がガクッと落ちる傾向は、あまり変わらないようだ。

静止画サンプル
遠景での解像感はかなり改善された 人肌はもう少しなめらかさが欲しい 気持ちのいい発色をするようになった

動画サンプル

ezsample.m2t (115MB)

ezroom.m2t (19.7MB)
動画撮影サンプル 室内撮影の動画サンプル。低照度時に解像感が落ちる傾向は同じ
編集部注:動画サンプルは、ImageMixer 3で編集し、H.264形式で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ 使い勝手はあまり変わらず

 動画と静止画の切り替えは、相変わらずモードを切り替えると、いったん電源が落ちて起動しなおしなので、ものすごく時間がかかる。動画を撮ったあと静止画も、というモチベーションが削がれてしまうのは残念だ。またせっかく撮像素子にCMOSを採用しているのに、同時撮影で静止画が撮影できないのは惜しい。このあたりはやはり、自社開発でCMOSのノウハウを持っている会社のほうに、一日の長があるようだ。

ハイコントラスト気味だが、味のある写りは相変わらず 高コントラスト部分にフリンジが出ている

 改善されたオートフォーカスは、前回よりは短時間でフォーカスが合うようになっている。だがそれもフォーカスが合えばの話で、テレマクロ的な撮り方をすると、大抵オートではフォーカスが合わない。どうも手前にあるフラットな絵柄ではなく、背景にあるディテールの細かいものに対してフォーカスを合わせようとするクセがあるようだ。

 今回は、動画から静止画の切り出しができるようになった。方法はキヤノン機と同じで、静止画にしたい部分でポーズしたのち、シャッターボタンを押すというものだ。ただそれで撮れた静止画は、デインターレース処理もなにもされておらず、ただのビデオキャプチャと変わりない。我々のようなレビュアーには画像のキャプチャ画面が撮れて便利だが、これでは普通の人には使い道がないのではないだろうか。

人物はほぼ中央だが、何度撮っても背景にフォーカスが合ってしまう 動画から起こした静止画。デインターレースされていないままだ

 液晶モニタは、前回よりも1.4倍明るくなっている。しかし発色の面では、色味の正確さに欠ける。特に静止画撮影時には、モニタで見ている色と、撮られたあとのプレビューの色が全然違うので、驚くことがしばしばある。撮影機能であまり細かい調整箇所がないので、ある意味モニタで変な色だろうとなすすべもなく撮るしかないのだが、今後はモニタの発色は、大きな課題だろう。

 本体内でのBDへのダビングや、PCとのUSB接続では、ACアダプタ接続が必要となる。これもまた、いったん電源OFFにしてバッテリを外してACユニットに付け替えなければならないので、手間がかかる。このあたりの使い勝手の悪さは、白物家電メーカーらしくない部分だ。

編集機能がキヤノン版とは違う「ImageMixer 3 HD Edition for HITACHI」

 PC用の付属ソフトは、前回と同じPIXELAの「ImageMixer 3 HD Edition for HITACHI」である。付属ソフトではキヤノンも同じになったわけだが、よく見るとだいぶ機能が違う。キヤノン付属のImageMixer 3 SEでは、タイムラインで編集を行ない、プロジェクト保存なども可能だが、for HITACHIバージョンでは各クリップを切り取って別名保存し、結合リストを作って一本化するという方法だ。

 またディスク書き込み機能としては、3 SEがAVCHD書き込み機能あり、BD書き込み機能なし、であったのに対し、for HITACHIではBD書き込みありの代わりに、AVCHD書き込み機能がない。製品戦略上BD重視なのはわかるが、ディスクの価格とドライブの普及率を考えたら、今はまだDVDメディアを使うAVCHD書き込み機能があっても良かったのではないだろうか。


■ 総論

 前モデルのBD7Hは、数字としてのスペックだけ取り出すと素晴らしいのだが、実際の絵が付いてこなかった。世界初8cmBDドライブ、同社初のハイビジョンカメラ、CMOS初採用と初物だらけだったわけだが、それらすべての開発タイミングを合わせなければならない。そしてさらに全コンポーネントを組み合わせたバランス、そして絵作りにも時間がかかる。前モデルではその時間が十分ではなかったようだ。

 だが今回のBD9Hは基本パーツは変わらないものの、時間をかけて細かいチューニングを行なった成果が出ている。最初からこのレベルの絵が出ていれば、市場の見方も違ったことだろう。

 ただこれだけの能力を持ちながら、まだ生かし切れていない部分も多い。なまじ静止画がなかなかいいだけに、もっとも気になるのは動画と静止画の切り替えの遅さだ。いちいちレンズ位置など光学的な部分も含めてフルリセットしているが、このあたりは他社のやり方を研究した方がいいだろう。

 また総画素数530万画素のCMOSは、動画にとってはもったいないスペックだ。いくら手ぶれ補正領域があるとはいえ、撮像時には半分以下の画素しか使わないことになる。そのため受像面積や1画素が小さくなってしまうというマイナス面のほうが目立ってしまっている。またCMOS採用の他メーカーが、動画と同時撮影の静止画の高画素化を実現しているのに対し、同時撮影自体ができないというのは、CMOSのメリットの3割ぐらいを捨てていることにならないだろうか。

 3月には同スペックでHDDのみのモデル、「DZ-HD90」も発売される。こちらはどうやら、世界初eSATA端子付きビデオカメラとなりそうだ。ただ他メーカーが一斉にメモリー記録でデュアル/ハイブリッドに向かって舵を切る中、HDD単体のカムコーダをこれからリリースということになるわけで、そうなると「なぜ日立なのか」という決定的な理由に欠けるようにも思える。

 BD自体はこれから勢いが付くところだ。その方向性を軸に、あまり高スペックにこだわらず、シックで実用性重視の方向に振った方が、日立らしいのではないだろうか。いくらBDが流行るとは言っても、他社がすぐにBDCAMに追従するとは思えない。じっくりいいものを作っても、十分間に合うだろう。

□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2008/01/0122a.html
□製品情報
http://av.hitachi.co.jp/cam/products_bd/index.html
□関連記事
【1月31日】日立、BD/HDDカムなど新フルHDカメラ2モデルを披露
-画質強化をアピール。BDライターも'08夏に発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080131/hitachi2.htm
【1月22日】日立、60GB HDD搭載のBlu-rayビデオカメラ「Wooo」
-BDドライブとeSATA接続するフルHD/小型HDDモデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080122/hitachi1.htm
【2007年9月5日】【EZ】ついに出たBDCAM! 日立「DZ-BD7H」
~ 日立初のHDカメラ、その実力は? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070905/zooma321.htm

(2008年2月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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