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第320回:ソニーのUSB接続レコードプレーヤー「PS-LX300USB」
~ 手軽にデジタル化が可能だが、録音品質に不満も ~



 先日ソニーから、USB接続タイプのステレオレコードプレーヤー「PS-LX300USB」が発表されて大きな話題になっている。かなり期待しているユーザーも多いようだが、4月15日の発売を前に試す機会を得たので実際に使ってみた。

 価格は28,350円。ソフトもバンドルされていて、これさえあれば誰でも簡単にレコードのデジタル化ができるという触れ込みだが、その使い勝手と音質を、さっそくチェックした。

PS-LX300USB



■ 付属ソフトは「Sound Forge Audio Studio LE」

 ソニーから発表されたUSB接続のレコードプレーヤー、PS-LX300USB。プレスリリースを見たとき、個人的には「いまさら」という感じで、あまり興味を持てなかったのだが、世間の受けはかなりいいようだ。実際、AV Watchでのアクセス数は非常に高く、テレビのニュースにも取り上げられているのを見て、驚かされた。

 知っている方も多いと思うが、すでに何社もUSB接続のレコードプレーヤーを商品化しており、レコードプレーヤーだけでなく、カセットテープのダブルデッキでUSB接続ができるといった製品もある。

Numarkの「TTX with USB」

 先日、PC Watchで元麻布春男氏がNumarkの「TTX with USB」をレビューしていたが、Numarkをはじめ、これまであったのは、一般的にあまり著名とはいえないメーカーであったのに対し、やはりSONYブランドというのはインパクトが違うのだろう。また、28,350円という手ごろな価格であることも大きな話題になった要因かもしれない。

 個人的に一番気になった点はバンドルソフト。ソニーなので「SonicStage Mastering Studio」を付けてくるのかなと思ったら、Sony Creative Softwareの「Sound Forge Audio Studio LE」だった。Sound Forgeは一番慣れ親しんでいる波形編集ソフトであり、このDigital Audio Laboratoryでも頻繁に利用しているツール。

 Sony Creative Softwareは、確かにソニーグループではあるものの、ソニー本社から見ると、子会社である米Sony Picture Entertainmentのさらに子会社という位置づけでかなり遠いところにあった。そして、以前、VAIOの開発チームに取材した際も、「Sound ForgeやACIDなどは非常に興味のあるツールだが、連絡を取る手段がほとんどない」と聞いていたが、ついにソニー製品にバンドルされたわけだ。

 もっとも、両者が近づいていることについては、先日「Sound Forge Audio Studio 9」や「ACID Music Studio 7」の発表会をSony Creative Softwareがソニー本社で行なったから、なんとなく感じてはいた。その時、担当者に聞いたところ、アメリカから来たSony Creative Softwareの日本人社員がソニー本社内にリエゾンオフィスを構えて常駐しているとのことだったので、こういうことになっても不思議はない。

 また、もう1点気になったのは「Sound Forge Audio Studio LE」とは何かということ。Sony Creative Softwareのサイトを見ても、この名称の製品は現状存在しておらず、これまでオーディオインターフェイスなどのバンドルソフトとしても見たことがない。この点も含めてチェックした。



■ フォノイコライザも搭載し、“普通の”レコードプレーヤーとして利用可

 届いた製品の箱を持つと、とっても軽い。価格からも想像はできたが、重量からも、明らかにダイレクトドライブではなく、ベルトドライブ方式のプレーヤーであることがわかる。箱を開けると、ターンテーブルとマットがプレーヤー本体とは別に梱包されており、自分で取り付ける必要がある。この際、ゴムのベルトをモーターのプーリーに巻きつけるといった作業を行なう。

 できあがったら、あとは単純だ。正面左にあるボタンは33回転と45回転の切り替え、そして右に並んだ3つのボタンは、それぞれスタート、ストップ、アームのアップ/ダウンとなっている。

モーターのプーリーにゴムベルトを巻きつける作業が必要 正面左にレコード回転数の切替スイッチを装備 前面右部にはアームのアップ/ダウンやレコードの再生開始/停止ボタンを備える

 背面には、電源ケーブルとRCAピンのライン出力が直接取り付けてある。つまり、USB接続型のプレーヤーではあるが、PCを使わなくても普通のレコードプレーヤーとしても利用できそうだ。

 さらにUSB端子、その隣にはPHONO/LINEの切り替えスイッチある。フォノイコライザー搭載のアンプのPHONO入力に接続する場合はPHONO、通常のラインインに接続する場合はLINEにして使う。つまり、PHONE端子の無いアンプなどにも接続できるプレーヤーだ。ちなみにUSBで接続する際はPHONO/LINEのスイッチは無関係となる。

背面にはアナログ音声(RCA)とライン出力を装備 USBのほか、PHONO/LINE切替スイッチも備える


■ USB録音にはOS標準ドライバを利用

 早速、電源を入れてPCと接続すると、あっけなく認識された。Windows標準のUSBドライバに対応したデバイスで、特にドライバのインストールなどは不要だった。コントロールパネルのサウンドの録音タブを見てみると、「USB Audio CODEC」とあり、再生タブにも「USB Audio CODEC」が存在する。

 接続すると、自動的に再生も録音も「USB Audio CODEC」がデフォルトに設定されるわけだが、PS-LX300USBはあくまでもPCにとって録音用のデバイスであって、再生デバイスでない。そのため、通常のPCの音が出なくなってしまうので、再生デバイスを元の設定に戻す必要があった。

録音用デバイス「USB Audio CODEC」として認識 再生タブにも同様にUSB Audio CODECが表示される

 次にバンドルソフトであるSound Forge Audio Studio LEをインストールしてみた。CD-ROMには「Sound Forge Audio Studio LE」と書かれたが、起動してみたところ、「Sound Forge Audio Studio 9.0」と表示される。

Sound Forge Audio Studio LEをPCにインストール CD-ROMには「Sound Forge Audio Studio LE」と記載されているが…… バージョン情報には「Sound Forge Audio Studio 9.0」と表示される


日本語の「操作手順チュートリアル」も備える

 実際使っっても、Sound Forge Audio Studio 9とまったく違いはなさそうだ。このバージョンから入った「操作手順チュートリアル」も日本語で入っているから、初心者でも使いやすいことは間違いない。

 では、完全にSound Forge Audio Studio 9.0と同じなのかというと、やはり違いはあるようだ。そもそも、製品版のSound Forge Audio Studio 9.0はDVD-ROMメディアでの提供である。とはいえ、DVD-ROMである理由は膨大なサンプルファイルが入っているからで、ソフト本体とは関係ない。

 一方、プラグインを見ると若干に違いがあった。LEには搭載されていないエフェクトがあるのだ。ただ、違いはそのくらい。個人的にはLEで十分な機能を備えているように感じた。


オーディオドライバに「USB Audio CODEC」を選択

 Sound Forge Audio Studio LEをインストールしたら、さっそくPS-LX300USBの設定だ。マニュアルではMicrosoftサウンドマッパーを使うとなっているが、ここではWindows Classic Waveドライバを選択した上で、USB Audio CODECを選択してみた。

 ただ、不安に感じたのはやはり専用のドライバがないこと。OS標準のドライバであるUSB Audio CODECは16bit/44.1kHzしか扱えないからだ。



■ USB録音時にクリップしてしまう問題が発生

 今回試したのは昨年入手した、'85年制作のイギリスのレコードで、Adele Berteiという女性シンガーの「When It's Over」というシングル。Scritti Polittiというアーティストの関連曲を追いかけている中で発見し、イギリスの中古レコード屋から輸入したものだ。古いLPはみんな実家にあり、手元にあるのがこのレコードだけだったので、これを実験素材とした。

 まずSound Forgeの録音ボタンを押して入力レベルの確認をしようとしたが、最初に気になったのが無音時のノイズレベル。もちろんレコードに針を落とす前の何も動かしていない状況のノイズだが、これが-57.4dBもあるのだ。そもそも16bitなのに、これだけノイズが乗っていると分解能としてかなり厳しそうだ。

 そして、針を落とした瞬間で0dBとなりクリップしてしまったのは仕方ないとして、その後モニターレベルをリセットしても再生を続けていくと、何度も0dBとなるのだ。もちろん、レコードプレーヤー自身に再生レベルの調整といったノブ、パラメータは存在しないからこれを避けることはできない。

無音時のノイズは-57.4dB モニターレベルをリセットしても再生中にクリップしてしまう

 とりあえず、なんとかなるだろうと録音したが、終了後に波形を一目見たところで、やはり完全にクリップしていそうなのだ。試しに、最大レベルになっているところを拡大していくと、やはりクリップしている。ブチっというノイズが乗るわけではないが、これは問題だろう。まあ、アナログレコードの場合、最大レベルが読みにくく、分解能が16bitなら、できるだけ0dB近くまで追い込みたいというのはわかるが、ここまで頻繁にクリップするのはいかがなものだろうか。

 とりあえず、再生してみると、そこそこには聴こえるが、以前自分でサンプリングした結果と比べると音がくすんでいるような感じがする。


クリップしていそうな感じの波形 最大レベルの波形を拡大すると、やはりクリップしていた

 ここで、ちょっと思いついたのが、PS-LX300USBのアナログ出力の利用だ。PS-LX300USBはUSB接続しなくてもレコードプレーヤーとして動くので、これを別のオーディオインターフェイスに入力してハイビット、ハイサンプリングで録音したらどうなるか試してみた。

 利用したのは、RolandのUA-101。これなら24bit/192kHzまで扱える。ソフトの方は、付属のSound Forge Audio Studio LEが24bit/96kHzまで扱え、ASIOの利用も可能なので、UA-101も24bit/96kHzに設定して、ASIOドライバとして設定してみた。


RolandのUA-101に接続して録音を試してみた ASIOドライバとして設定して利用した

PS-LX300USBをUA-101経由でSound Forgeで24bit/96kHzで録音し、WaveSpectraで解析すると、しっかりとサンプリングレートの限界の48kHzまで録れている。音質的には、22kHzが限界となる内蔵のUSBオーディオ(16/44.1kHz)では、PS-LX300USBの音質を生かしきれないことがわかる

 PS-LX300USBの背面にあるPHONO/LINEのスイッチをLINEにしてUA-101に接続。レコードを再生しながら、UA-101のSENSツマミをL、Rそれぞれ動かして、0dBにいかない範囲でできるだけ大きいレベルになるように調整した後、Sound Forgeで録音した結果、無事クリップせずに作業を終了することができた。

 この全体を見ただけでも単にレベルが小さいだけでなく、波形の違いが感じられる。先ほどの問題箇所を拡大してみても、やはりクリップしていない。実際に再生してみると、当然といえば当然だが、UA-101で録ったもののほうが圧倒的にいい。

 単体で5万円程度するオーディオインターフェイスで録音しているのだから、いい音になるのは当たり前ではあるが、PS-LX300USBのアナログ出力の性能に対し、内蔵のA/Dコンバータが追いついていないため、USB出力で録音すると、PS-LX300USB本来の音質を生かしきれないのだ。

 今後期待したいのは、PS-LX300USB専用のドライバが登場することで、24bit/96kHzレコーディング可能になると、音質も改善されるかもしれない。



クリップせずに録音できた 先ほどクリップしていた箇所と同じ部分を拡大したが、やはりクリップしていない

 実際の音をお聴かせしたいところだが、著作権の問題でそれができないのが残念なところ。ただ、レコードの針を載せて、曲が始まるまでのところでも、その雰囲気が感じられそうなので、参考までに掲載しておく。

【無音部分の録音サンプル】
サンプル USB録音 UA-101録音
(LINE出力)
レコードの無音部分
usb.wav
(16bit/44.1kHz、849KB)
ua101.wav
(24bit/96kHz、2.88MB)
編集部注:録音ファイルは、16bit/44.1kHz、24bit/96kHzで録音した音声をトリミングして保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回試した限りでは、音質重視のユーザーにはUSB出力録音では満足できない結果となったが、手軽にレコードのデジタル化ができることは確かで、価格も比較的安価。また、波形編集ソフトとしては非常にいいものがバンドルされている上、アナログ出力を使えば普通のレコードプレーヤーとしても利用できるので、「手軽にレコードをデジタル化したい」と考えていれば、試してみる価値はありそうだ。



□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200803/08-0312/
□製品情報
http://www.ecat.sony.co.jp/AV-HiFi/products/product.cfm?category=RPLAYER&PD=30859&KM=PS-LX300USB
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 TADのモノラルパワーやAVアンプデモ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080223/avfesta3.htm

(2008年3月31日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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