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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第365回:スロー撮影可能な新ハイビジョンXacti「DMX-HD1010」
~ 速いペースで仕掛けてきた三洋の動画戦略 ~



■ 機能的にはほとんど別物?

 三洋Xactiをビデオカメラに入れるかどうかというのはいつも議論の分かれるところだが、今やビデオカメラのアーキテクチャとXactiのそれを比較しても、ほとんど何も変わらないようなことになっている。今のビデオカメラは、多くの部分が「Xacti的」だ。もはやビデオカメラとデジカメを分離することに、あまり意味がない時代に突入しようとしているのかもしれない。

 そんなXactiだが、昨年9月に初のフルハイビジョンモデル「DMX-HD1000」をリリースして以来、ビデオカメラとして本格的に使用されるようなシーンも見かけることが多くなった。最近でこそソニーが「HDR-TG1」を出してきたが、昨年の段階ではここまで小型でフルHDが撮れるものといえばXactiしかなかったものだ。

 先日発表されたのは、そんなハイビジョンモデルの新製品「DMX-HD1010」(以下HD1010)。6月20日発売予定で、店頭予想価格は12万円前後。外見は大きく変わるところはないが、内部的にはかなり手を入れたようである。中でも目玉機能は、CMOSの特徴を活かした「スローモーションムービー」の搭載だ。

 CMOSの高速読み出しによるスローモーション撮影を搭載したのは、2006年3月のソニー「HDR-HC3」が最初である。それ以降ハンディカムにはだいたいこの機能が載っているが、他メーカーの参入で記憶に新しいのは、カシオのネオ一眼「EX-F1」だ。300、600、1,200fpsから選択可能で、事実上撮影時間制限なしというスペックに、なんか自分の中で変なものが目覚めちゃった人も居ることだろう。

 今回のHD1010は、スローモーション以外にも、顔検知や手ぶれ補正、AF速度などのスペックもアップさせているようだ。ではさっそくその実力をテストしてみよう。



■ 手の込んだ塗装の新色

 HD1010には、ダークシルバーとブラックの2モデルがある。今回は新色のダークシルバーのほうをお借りしている。シルバーとは言っても若干赤紫っぽい反射の仕方をする感じで、なかなか綺麗なカラーリングだ。黒い部分はパール地になっており、適度に重厚で落ち着いた印象だ。

塗装はかなり凝っている グリップ部の黒い部分はパール地

 レンズや撮像素子など、ハードウェア的なスペックはほとんど前モデルHD1000と同じなので、前回のレビューも参考になるだろう。外観で違うのは、背面のボタンだ。

 以前は一番上のボタンは「FULL AUTO」だったが、今回は静止画と動画の画角表示を切り替える「PHOTO VIEW」になっている。確かに以前から動画と静止画の画角がものすごく違うことが問題だったので、このボタンの使い出は結構あるだろう。

 PHOTO VIEW状態では、静止画用の広い画角の中に、動画撮影時の画角が枠で表示される。この状態で動画を撮影すると、動画の画角に変わり、撮影を止めると元に戻る。

背面上部のボタンは、モニタの画角切り替えとなった クレードルに挿すだけで映像出力、ファイル転送、充電が可能

 HD1010では、撮影モードに違いがあるので、前モデルと比較してみよう。カッコ内が前モデルのスペックだ。

動画サンプル
モード 解像度 fps ビットレート サンプル
Full-HD 1,920×1,080 60i 14Mbps
(12Mbps)

fhd.mp4 (20.7MB)
Full-SHQ 1,920×1,080 30p 12Mbps
(モード無し)

fshq.mp4 (18.9MB)
HD-HR 1,280×720 60p 12Mbps
hdhr.mp4 (17.9MB)
HD-SHQ 1,280×720 30p 9Mbps
hdshq.mp4 (14.2MB)
TV-HR 640×480 60p 6Mbps
tvhr.mp4 (9.15MB)
TV-SHQ 640×480 30p 3Mbps
tvshq.mp4 (5.06MB)
Web-SHR 448×336 300p 非公開
(モード無し)
Web-SHQ 320×240 30p 非公開
webshq.mp4 (1.43MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 こうしてみると、フルHDでは最高画質のビットレートを上げ、新たに30pのFullーSHQを新設したのがわかる。以前からFull-HDで記録したH.264ファイルはQuickTimeで再生できないため、一般的な編集ソフトウェアに持ち込むには「MP4Com2AVI」などのソフトで変換が必要だった。WindowsユーザーはともかくMacユーザーにはしんどいフォーマットだったわけだが、新設されたFull-SHQモードはQuickTimeでの再生互換があり、多くのソフトがそのまま対応できるだろう。

 なお注目のスローモーションはWebモードの一つとして搭載されている。画角サイズが微妙に中途半端なので、PCでの再生が中心とならざるを得ないということだろう。



■ 写真のような動画

 ではさっそく撮影してみよう。動画も静止画も切り替えなしで撮影できる点は、以前から変わりない。ただPHOTO VIEWボタンが付いたことで、撮影前に画角がきちんとわかるのは大きい。当たり前と言えば当たり前なのだが、前は勝手に画角がぱかぱか切り替わってわけがわからなくなったので、ずいぶん理解しやすくなった。

 AFの追従性は以前よりも的確。センターを外した絵柄でも、マニュアルに頼る必要がなくなっている。追従速度自体はあまり変わらないように思うが、絵柄のポイントと思われるところにちゃんとフォーカスが来るので、ストレスはない。

 以前からの傾向だが、コントラストなども含め、写真っぽい動画が撮れるのはなかなか面白い。特に今回新搭載された30pモードでは、安定した絵柄+液晶テレビで視聴という組み合わせが、すごく綺麗だ。また大抵の編集ソフトでそのままインポートできるので、使いやすい。今回のサンプルは、フルHD30pのFull-SHQモードを中心に撮影した。

センターを外した構図でもAFが後ろに抜けることが少ない 微妙なコントラストも綺麗で、写真っぽい動画が撮れる

 以前のHD1000には、動画にもノイズリダクションの設定があったのだが、HD1010では静止画のみになっている。NRのアルゴリズムを見直したので、手動でON/OFFしなくてもいいということだろう。

動画サンプル

sample.mov (157MB)

room1.mov (25.2MB)

room2.mov (40.3MB)
Full-SHQモードでの撮影サンプル 蛍光灯下の室内撮影サンプル キャンドルライトのみで撮影。前半は通常撮影、後半は高感度モードで撮影
編集部注:動画サンプルは、Apple Final CutPro6でネイティブ編集後、H.264形式で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回の目玉は、なんといっても300fps撮影可能なWeb-SHRモードである。早速撮影を試してみた。同じ300fpsでもカシオの「EX-F1」よりも少しピクセル数が小さいが、映像的に荒れた感じが少なく、なかなか綺麗に撮れる。いろいろ実験してWEBにアップするというのも、楽しいだろう。

動画サンプル

slow1.mov (5.93MB)

slow2.mov (11.8MB)
水滴をスローで撮影 花粉を集めている虻を撮影
編集部注:動画サンプルは、Apple Final CutPro6でネイティブ編集後、H.264形式で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 ただこの撮影の場合、10秒間を必ず撮り切らなければならないのが難点だ。つまり、途中で撮影停止できないのである。SONYのハンディカムでは元々3秒ぐらいしか撮れないので、自動的に止まるのを待っていてもなんということもなかったが、さすがに失敗したときの10秒は長い。次の撮影チャンスに備えて、途中で停止できるか、撮影キャンセルできる機能が欲しいところだ。

 またこのモードでの撮影中は、露出が固定になってしまう。明るい方から暗い方に振っても露出が変わらないので、振った先が真っ暗のままだ。動きのあるものをフォローするときは、場合によっては上手くいかない事もあるだろう。

 元々撮影中の露出追従は、Xactiが昔から苦手としてきた部分なわけだが、300fpsでもわからないぐらいなめらかに露出を動かすのは、なかなか難しいのかもしれない。



■ 静止画機能のアップ

 今回は静止画にも新機能がある。「ワイドダイナミックレンジ」がそれだ。具体的には、1回のシャッターで露出を変えて2回撮影し、それぞれのいいところだけを取り出して1枚に合成するという機能である。手前に合わせると背景がまっ白、背景に合わせると手前が真っ暗、という難しい露出の時に、こういう機能は便利である。

 デジカメではもしかしたらよくある機能なのかもしれないが、似たような発想の機能は、ソニー「DSC-G1」にも搭載されていた。1回のシャッターで最高9枚ぐらい撮影し、合成して1枚の写真にするのだが、夜景など暗い場所の撮影でS/Nを上げるのに使っていた。HD1010の場合は、コントラスト調整にこれを使うわけである。

 機能の有り無しで結果を比較してみると、たしかにディテールは機能ONのほうがまんべんなく出ているものの、全体的に低コントラストな感じがして、写真としてはハリがない感じになる。上手くハマれば綺麗に撮れるのだろうが、単純にワイドダイナミックレンジがONのほうがいいとは言えないようだ。画角が少し狭くなるのは、2枚のうち両方に写っているエリアだけに内部でトリミングするからだろう。

ワイドダイナミックレンジのサンプル
OFF
ON

 気軽にON/OFFして比較したいところではあるが、ワイドダイナミックレンジをONにすると、連動して露出設定がプログラムAEになり、静止画手ぶれ補正がOFFになる。アルゴリズムやデバイスの都合で同時に働かないからOFFになるのかもしれないが、勝手に設定したはずの機能が変わるのは、マニュアルでいろいろ設定をいじる人には使いづらい。ワイドダイナミックレンジをONにしたら一時的に外れるのは仕方がないとしても、以前の設定に復帰するといった機能があると使いやすかっただろう。



■ 総論

 動画を止めずに静止画が撮れるとして、一つのビジョンを作ったのがXactiだ。しかしハイビジョン以降のXactiは、同時撮影の静止画が動画と同じ解像度となって、SDのXactiとは仕様が違っている。すでにアーキテクチャとしては、ビデオと同じになっているわけだ。このあたりをちゃんと理解していないと、SDの頃のXactiのイメージを持っていては、買ってから「なんか違うー」となってしまう。

 今回のHD1010は、前モデルのHD1000からデバイスはほとんど変えず、設計の見直しとファームウェアでここまで変えてきた。特にスローモーションムービーの搭載は、ムービーカメラの新しいファンクションとして、期待が高まるところだ。できればVGAサイズぐらいまであると、DVDにライブラリ化したときに、画質的なメリットがあるだろう。

 HD1010は、元々家庭で子供撮りといった用途には向かない。ワイコンでもあれば別だが、家庭用となると、もっとワイド端がないと画角がキツいからである。全体の雰囲気を撮るというよりも、1テーマに絞って、そこに注視して撮るような用途に向くカメラだ。形状からするとハンディで持つことを想定しているのだろうが、ちゃんと固定して撮ると写真のような味がある絵なので、勿体ないような気もする。

 Xactiの新モデルはSDとHD交互に出してきているが、昨年9月からすでにマイナーチェンジということで、結構速いペースで手を入れてきた。Xactiにしかないスタイルを続けていくことで、固定ファンも付いている。次の一手にも期待したい。


□三洋電機のホームページ
http://www.sanyo.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0806news-j/0605-1.html
□関連記事
【6月5日】三洋、フルHD「Xacti」に300fps高速撮影対応の新モデル
-ビットレートは14Mbpsまで向上。30p撮影も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080605/sanyo.htm
【2007年9月26日】【EZ】ついに1080iに到達したXacti「DMX-HD1000」
~ 高画質とユーザビリティのバランスが高次元で融合 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070926/zooma324.htm
【2007年8月30日】三洋、フルHD/MPEG-4 AVC録画が可能な新「Xacti」
-8GB SDHCカードに1時間25分録画
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070830/sanyo.htm

(2008年6月18日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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