「福山」と「超解像」で攻める東芝の年末商戦戦略 ~ REGZAを女性にも訴求し、TVシェア20%超を目指す ~ |
東芝デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部日本部・岡田淳部長 |
東芝が販売店向けに配布した薄型テレビに関する資料のなかで、「攻め」という言葉が大きく書かれている。年末商戦向けの広告展開で、東芝が、「攻め」と言い切るのには、いくつかの理由がある。
ひとつめは「量」。広告投下量は、昨年の5倍。10月下旬の新製品導入期と、12月上旬の年末商戦本格化の時期にあわせて、大量の広告を投入する計画だ。「これまでは、12月の商戦期だけに集中的に広告を投下してきた。これを12月の広告投下量を減らさずに、2回のヤマを設ける。露出量でも他社に負けないだけの広告を行なう」と、東芝デジタルメディアネットワーク社テレビ事業部日本部・岡田淳部長は語る。大量投下を前に、9月12日からは、ティザー広告を開始。これも、これまでの東芝にはなかった仕掛けだ。
もうひとつは、「質」だ。新キャラクターとして、福山雅治氏を起用。性別、世代を問わずに高い知名度を誇り、美しさ、知的、実力、こだわりといったイメージを持つ福山氏と、REGZAの方向性をダブらせながら訴求を行なうという。「他社が悔しがるキャスティング」と、東芝では自信を見せる。
■ 攻めの広告と福山氏起用の目的は女性への周知
広告キャラクタに福山雅治さんを起用。キャッチコピーは「世界は美しい、レグザ」 |
東芝が、福山雅治氏を起用したのには大きな意味がある。それは、東芝ならではの事情を背景にしたものだといってもいいだろう。
では、その事情とはなにか。いくつかの調査結果から浮き彫りにすることができる。今年1月に、REGZA Z3500シリーズの購入者を対象に、東芝が実施したアンケートによると、購入理由として最も高かったのは、「市販のハードディスクで録画できるから」。構成比は、36.1%と実に3分の1以上を占めた。Z3500シリーズは、アイ・オー・データ機器をはじめとするサードパーティーが発売している外付けHDDを増設し、“HDDレコーダ”として利用できる製品。この機能は、最新モデルであるZ7000/ZH7000シリーズなどでも継承されており、REGZAの大きな特徴のひとつとなっている。
2007年年末商戦の最上位機Z3500はHDD接続率78%に(4月のZH/ZV500シリーズ発表資料から) |
さらに、2番目に高かった理由が、「高画質だから」の25.9%。3番目には18.5%で「評判・人気が高いから」が入った。「こうした調査をすると、一般的には、価格が手頃だったから、あるいは評判がいいから、といった回答が上位を占める。しかし、Z3500シリーズの場合、付加価値に対して高い評価が集まっている」。
もちろん、Z3500シリーズが付加価値モデルであることは、この結果を見る上で、勘案しなくてはならない要素だろう。普及モデルでは、別の結果になった可能性もある。だが、REGZAならではの付加価値に高い評価が集まっていることは間違いのない事実である。
しかし、その一方で、REGZAの高付加価値を理解しているのは、男性に集中しているというのも、REGZAならではの特性といえる。
「量販店店頭でREGZAを見ている家族のなかには、夫はREGZAの高画質、高機能を理解して、これがいいといっていただけるのに対して、妻が他社のブランドを認知しており、そちらに誘導してしまうケースが少なからず見られる」。つまり、女性への認知不足が、REGZA購入の障壁となっているともいえるのだ。
実際、認知度調査を見ると、シャープのAQUOS、ソニーのBRAVIA、パナソニックのVIERAは、男性と女性の認知率の差は数%であるのに対して、東芝のREGZAの場合は、約20ポイントもの差があるのだ。「あくまでも試算」としながらも、岡田部長は、「男女の認知度のギャップが、市場シェアにしたら5ポイント程度、影響しているかもしれない」とする。
大画面薄型テレビの場合、自動車と同じ購買傾向があるという。男性が最終的な購入決定権を持っているものの、女性側の声が強く影響される商品という傾向が強いからだ。
岡田部長は「女性への認知度を高め、REGZAのシェア上昇へと直結させたい」と語る |
つまり、ここに東芝にならではの事情がある。高画質であることや、機能には高い評価が集まっているものの、それは男性を中心にしたものであり、女性に対しては、その強みが訴求できていないのだ。「購入していたただい後には、録画が便利など、むしろ女性側から高い評価を得ている。女性への認知度が高まれば、REGZAのシェア上昇へと直結させることができるのではないか」。
福山氏の起用は、男性に対する高画質、高機能、こだわりといった訴求とともに、女性層に対する認知度向上が大きな狙いとなるのだ。
周知のように、福山氏の女性への人気ぶりは圧倒的だ。女性誌「an・an」が選ぶ「好きな男ランキング」では、10年連続で2位を獲得。ビデオリサーチの調査では、20~34歳の女性への知名度では100%、35~49歳でも98.8%と、主要ターゲットとなる年齢層で高い認知度を誇る。
今回のCMでは、福山氏がREGZAのために書き下ろした「想~new love new world~」をテレビCM曲として流すという念の入れようも、女性への訴求効果を後押ししそうだ。
その「福山成果」は、すでに表れている。同社では、福山氏が主演する映画「容疑者Xの献身」のチケットプレゼントキャンペーンを実施。開始数日後で1万件以上の応募があった。しかも、そのほとんどが女性の応募だったという。「女性にREGZAのファンになっていただき、その良さをご理解いただきたい。まずは、気づきを与えなくてはならない」とする。
東芝では、女性攻略がREGZAのシェア向上の重要なポイントと見ている。前期には53%に留まっていたREGZAのブランド認知度を、年末商戦では80%以上に高め、とくに女性層の認知度を高める考えだ。
■ 超解像技術を訴求。REGZA史上最多のラインアップを垂直立ち上げ
仕掛けは広告だけではない。
今年の年末商戦では、6シリーズ20機種を投入する |
例えば、今年の年末商戦では、6シリーズ20機種を一気に投入した。これは、REGZA史上最多のラインアップとなる。
「これまでは、新製品の市場投入がバラバラであったため、売り場をまとまった形で確保できないという課題があった。だが、一気に製品を投入したことで、REGZAのラインアップを幅広く展示する売り場提案が可能になった。REGZAの展示スペースを拡大でき、売り場における存在感を高めることができる」。
さらに、その場においては、東芝独自の超解像技術「レゾリューションプラス」を訴求するためのPOPを用意。1,920×1,080ドットのフルハイビジョン画質に満たない地上デジタルハイビション放送(1,440×1,080ドット)やDVD映像を、精細な映像に復元することをデモストレーションできるようにした。このPOPは、全国3,000店舗の店頭に配置されることになる。
超解像技術「レゾリューションプラス」のPOPとデモストレーション | 店頭展示の例。超解像と録画を中心に訴求する |
周辺機器との連携機能「レグザリンク」やHDD録画機能を訴求 |
もちろん、REGZAの横には、福山雅治氏のパネルやポスターも用意される。「福山さんのテレビ」という問い合わせにも対応できる売り場づくりを目指しているのだ。
5色のなかから好きな色のリモコンをプレゼント |
そして、期間限定ながら、リモコンプレゼントという思い切ったキャンペーンにも打って出る。
REGZA購入者を対象に、レッド、ブルー、ホワイト、ピンク、イエローの5色のなかから、好きな色のシンプルリモコンが1台プレゼントされるというものだ。プレゼント用リモコンに、女性向けのカラーを数多く用意したことも、女性の購入を意識したものだといえよう。
東芝は、国内年末商戦において、26インチ以上の薄型テレビ分野で20%以上のシェア獲得を目指す方針を示している。だが、競争が激しい37インチの薄型テレビでは30%以上のシェア獲得、東芝の超解像度技術が発揮できる42インチ薄型テレビ市場では20%以上のシェア獲得を目論む。
「42インチでの市場シェアは、上期実績で15%程度。超解像度技術の訴求によって、これを一気に引き上げていきたい。そして、年末商戦期間中の瞬間風速では、30%のシェア獲得も狙いたい」と岡田部長は意欲的だ。年末商戦における市場全体の伸びは5~10%程度と見込まれている。それに対して、東芝の計画は、前年同期比1.5倍。「全面的に戦う覚悟」(岡田部長)だ。
また、こうも語る。「超解像度モデルの販売台数を、なんとか半分以上にもっていきたい。それによって、東芝の薄型テレビのイメージが変わることになるだろう。今後の東芝の薄型テレビ事業の成長に向けても、重要な商戦となる」と、岡田部長は位置づける。
東芝が今年の年末商戦にかける本気ぶりが、ヒシヒシと伝わってくる。
□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
□REGZAのホームページ
http://www.regza.jp/product/tv/top.html
□関連記事
【9月18日】東芝、超解像搭載の新「REGZA」。国内シェア20%超へ
-VARDIAも一新。「DVDで残存者利益
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080918/toshiba1.htm
(2008年10月16日)
= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
00 | ||
00 | AV Watchホームページ | 00 |
00 |
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.