【バックナンバーインデックス】



大河原克行のデジタル家電 -最前線-
年末商戦を既存モデルと新製品の両翼で戦うシャープ
-付加価値提案は純増につながるか



■ 「既存製品」と「付加価値製品」で年末商戦を戦う

 シャープは、今年の年末商戦を例年とは違う体制で戦うことになる。

 ひとつは、年末商戦の主力製品ラインでは、今年7月に発売した製品で戦うという点だ。競合メーカー各社は、8月から9月にかけて、新製品をラインアップ。北京オリンピックとは異なる製品群へと一新して年末商戦を戦う。いわば、4年に1度訪れる年2回のヤマ場に対して、夏と冬にそれぞれの新製品を投入するという体制をとった。

 それに対して、シャープは、プレミアムモデルのRシリーズをはじめ、ハイグレードタイプとするGシリーズ、スタンダードタイプのDシリーズ、エトンリーモデルのEシリーズという主力製品は、すべて7月モデルのままだ。北京オリンピックと年末商戦を同じ製品で戦うということになる。

9月のCEATECでAQUOS XSシリーズを披露。左は松本雅史副社長 プレミアムモデルのRシリーズ

シャープ国内営業本部長 岡田守行執行役員

 シャープ国内営業本部長 岡田守行執行役員は、「他社の技術進化や、高画質化の観点から見ても、店頭に並べて見劣りすることは一切ない。十分戦える製品だと自負している。亀山生産によるシャープの画質の強みを正確にユーザーに伝えることができれば、シェアを落とすことはないだろう」と自信を見せる。

 もちろん、年末商戦向けに新製品をまったく投入しないわけではない。シャープは、複数の新たな製品群を追加投入している。

 Gシリーズにおいては、追加モデルとして、65インチで1インチ1万円の価格を実現するLC-65GX5を投入。さらに、パイオニアとの協業成果による薄型テレビ用スピーカーを搭載した大画面超薄型液晶テレビ「XSシリーズ」、ブルーレイドライブを搭載した「DXシリーズ」をそれぞれ発表。いずれも、付加価値モデルという領域の製品に位置づけている。

 「量販店のバイヤーと話をすると、新たな需要を創造できる製品を投入してほしいという声が少なくない。それに応えるのが、これらの新製品群。9月以降に投入した新製品は、まさに新たな市場を開拓する製品であり、売り場においては、そのまま売り上げの純増につながるはず」と、岡田本部長は語る。


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■ インチ1万円の65型に注目。シャープ独自の大画面化促進策

 量販店店頭では、単価ダウンが大きな課題となっている。今年も前年比で20%以上の価格下落が見られており、売り上げ確保が課題となっている。

AQUOS LC-65GX5

 これを克服するための量販店の期待は、インチアップと付加価値商品の販売構成比の上昇だ。例えば、GXシリーズは65インチで1万円/インチという価格設定とすることで、大画面テレビへのインチアップを図り、単価上昇へとつなげる狙いがある。

 「40インチ以上の液晶テレビの購入者の7割が、2m~2m50cmの視聴距離で見ている。65インチの最適な視聴距離は2m40cm。8畳間のリビングでは最適な視聴空間が実現できる。また、自宅でシネマを楽しむのであれば、少なくとも46インチ以上、できれば65インチの画面サイズが最適となる。ニュース、ドラマ、スポーツを見ているのであれば、40インチ台のテレビでもいいが、映画コンテンツは、シネスコサイズと呼ばれる表示が多く、画面表示が約75%になる。そのため、映画でも実質的に40インチ以上の画面サイズで視聴いただくためには、より大画面のテレビが適している。65インチがいよいよ1インチ1万円の時代に入ってきたことで、シネマを見るならば65インチという提案が可能になる」とする。

 実は、大画面化を促進するために、シャープが用意した隠れた仕掛けがある。それは、新たに投入した65インチ液晶テレビ専用ラックの価格設定を約65,000円としたことだ。つまり、1インチ1万円の65インチの液晶テレビを購入し、そこで得たポイントでこのラックが購入できるという構図だ。シャープでは、こうした細かい仕掛けをいくつか用意して、大画面化の促進する考えだ。

 「業界全体では、65インチ以上の構成比は0.3%。年末商戦におけるシャープの目標は1%。つまり、100台に1台は65インチを売りたい。業界の3倍の構成比を目指す」と、岡田本部長は意欲的な目標を掲げる。

 65インチの訴求とともに、これに付随するように、52インチ液晶テレビの販売拡大も視野に入れており、既存モデルを含めて、大画面化の提案を加速する考えだ。

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■ 一体型DXシリーズで販売台数の純増を

AQUOS DXシリーズを投入

 一方、ブルーレイレコーダを内蔵した液晶テレビAQUOS DXシリーズも、新市場開拓に向けた製品だ。片山幹雄社長自らが、「ブルーレイ搭載といえばAQUOSというイメージを作りたい」と、この製品に賭ける意気込みは強い。

 それは、新たなシリースであるにも関わらず、26インチから52インチまでというように、幅広いラインアップとしたことでも伝わってくる。BD搭載モデルを、リビングから書斎、勉強部屋にまで幅広く販売していく姿勢が明らかだからだ。

 「BDレコーダ単体との競合や、すでにBDレコーダを購入しているユーザーはターゲットにならないという声もあるが、そうではないと考えている。一体型の手軽さを認知していただき、これまでBDレコーダの購入を控えていた新たなユーザー層を開拓できると考えている。また、すでにBDレコーダを所有しているユーザーには、2台目のテレビ用にこれを購入していただくことができる。その点でも、新たな1台目需要の顕在化、そして、2台目、3台目需要の獲得といったように、販売台数の純増を得られる製品と位置づけている」

シャープ片山幹雄社長。DXシリーズの販売目標は、AQUOS全体の約1~2割

 かつて、業界には、「テレビデオ」と呼ばれるテレビとビデオを一体にした製品があった。シャープは、この分野ではリーダー的存在の1社だった。「'98年には、年間900万台程度の国内テレビ市場において、200万台近い構成比をテレビデオが占めた。デジタル放送時代に、これらの製品をどう置き換えるのかは、隠れた大きな市場となっている。この置き換えに向けた回答のひとつ」というのもDXシリーズの役割だ。

 「1+1(液晶テレビ+BDレコーダ)を限りなく、1に近づけたい」と、片山社長が語っていたのも、価格面からも、テレビデオからの置き換え訴求を見据えたものといっていい。国内では、AQUOS全体の1~2割を、DXシリーズが占めることを目指すことになりそうだ。


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■ 3段階に構えた製品発表戦略

 シャープが、今回の商戦で例年とは違うのは、既存モデルを軸に、新たな付加価値モデルをアドオンするという戦略だけではない。

 実は、例年ならば一斉に投入するはずの製品を、今年は、小出しに発表するという戦略を打ってきた点も特筆される。GXシリーズの大画面モデル、XSシリーズ、DXシリーズと、実に、3段階での製品発表なのである。

 最後発となることで新製品としての登場感はあるものの、これは量販店の売り場づくりにおいてはマイナス効果となる。

 9月には、各社の量販店向け新製品内覧会がほぼ終了し、年末商戦の売り場づくりが決定するのが通常。だが、シャープの場合、CEATECでの新製品投入に続き、10月15日に、26インチから52インチまでという幅広いラインアップを揃えたDXシリーズを発表したことで、事実上、売り場構成をもう一度検討する必要に迫られたからだ。

 「既存モデルでは従来の顧客層を、新製品では新需要開拓として、プラスαを見込めるという提案を、販売店の方々にはご理解いただいている」。各社はすでに売り場が完成しているが、シャープの売り場づくりは、11月下旬まで引っ張ることになり、これが売れ行きにどう影響するかは業界内でも注目されている。



■ キーワードは「原点回帰」

 とはいえ、液晶テレビのトップメーカーとして、幅広いラインアップを揃え、全方位で戦える体制を、例年以上に整えたのは確かだ。シャープでは、「37インチまで2台目需要の範囲に入ってくる」として、2台目、3台目需要に対しても積極的な訴求を行うことで、37インチ以上で4割以上、液晶テレビ全体では50%以上のシェア獲得を見込む。

BDレコーダのシングルチューナ機。「BD-HD22」

 加えて、BDレコーダ単体についても、新たにシングルチューナモデルを用意。「これまで手つかずだった7~8万円の価格帯でも勝負できる製品をラインアップするなど、5つの製品ラインを用意したことで、他社と互角に戦えるようになった。AQUOSとのセット率が2台に1台という強みを生かして、BDレコーダでもシェアを取りに行く」とする。

 シャープが販売店向け内覧会で掲げたキーワードは「原点回帰」。販売店との協力関係を、液晶テレビ事業参入当初の原点に立ち返って見直し、より積極的な提案をしていこうという姿勢を見せている。

 液晶テレビのトップシェアメーカーとして、ともすれば慢心が広がる可能性があるなかで、今年は改めて危機感を持ち、知恵を使った提案へと結びつけようとしている。例年とは違う手の打ち方が、シャープのシェアにどう影響するかが注目されよう。


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□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□AQUOSのホームページ
http://www.sharp.co.jp/aquos/index.html
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(2008年11月4日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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