小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

改めて考える「ヘッドホンの音漏れ」問題

今回は、「結果的には当たり前」の話を、改めて考えてみたいと思う。

このメルマガが発行される頃には、アップルから「AirPods」が発売されているはずだ(注:その後発売延期され、現時点では発売されていない)。筆者は一足早く使わせていただいているが、なかなかに快適な製品である。

一方、9月にAirPodsが発表されて以降、質問をされることが多かった。

「音漏れ、大丈夫ですか?」

これは、筆者の中で「落ちませんか?」に続く「あるある」質問になってきた。そのことは想定できたので、先行レビューを書いた際にもチェックし、記事にしている。結果から言えば、ボリュームを最大にするとかなり漏れてくるが、電車内の場合、7~8割までなら気にならないだろう、というものだった。

・“Apple独自”だからできた傑作。左右独立型ワイヤレスイヤフォン「AirPods」

しかしそれでも、「AirPodsがEarPodsをベースにしているなら、音漏れが気になる」という声に変わりはなかった。

そこで筆者は疑問に思ったのだ。たしかに、電車内で盛大に「音漏れ」している人を見ると、EarPodsを使っている人である、ということは多い。EarPods以外だと、オーバーヘッド型のヘッドホンを大音量で聴いている人が目につく。

そこで疑問が浮かんだ。

「じゃあ、なんでそんなに大きな音で聞くの? そんなに大きな音で聞く人は多いの?」

もっと音漏れが小さいヘッドホンはあるが、そもそも、音を大きくしなければ漏れない以上、そこまでEarPodsを目の敵にするものだろうか、とも感じたわけだ。

思いついたら、調べてみるのが近道だ。そこで筆者は、Twitterで以下のようなアンケートをとってみた。

・10月15日から3日間、筆者のTwitterアカウントを介してアンケートを実施。回答数は239。

筆者のTwitterアカウントを介したものだし、サンプル数もそこまで多くないので、結果にはそれなりの偏りがあることをご理解いただいた上で、結果をご覧いただきたい。とはいうものの、結果は筆者が概ね予想した通りだった。ヘッドホンの音量については、最大で聞く人は全体の数%以下であり、「大きめ」で聴いている人が4割程度。大半は半分以下の音量で聴いている。すなわち、この「数%」の中に、音漏れしている人がいる、ということになるだろう。

では、なぜ音を大きくするのか?

この辺は、いくつかの理由が思いつく。一番大きいのは、「外界から隔絶されたい」からだろう。

自宅にある10本以上のヘッドホンを取っ替え引っ替え試してみたのだが、音量が小さい状況では、(当たり前だが)どれも音漏れしない。とはいえ、ヘッドホンにより、漏れやすい・漏れにくいという違いは厳然とあり、EarPods・AirPodsはたしかに漏れやすい。図書館のような場所で使う時には、音量を最低でも半分以下に絞る必要がある。そして、オーバーヘッドタイプでも、密閉度が低いものは漏れやすい。カナル型は漏れにくい。

「うん、知ってる」

そうだね。私もそう思った。これは、逆にいえばこういうことでもある。

「漏れにくいヘッドホンは外の音が聞こえにくい」

これも当然なのだが、「外界から隔絶されたい」=周囲のノイズを消したい、ということだと、音が漏れにくいヘッドホンでは音量が小さくても大丈夫で、音が漏れやすい=外界の音が聞こえやすいヘッドホンでは音が大きくなりやすい、ということでもある。

同時に、その観点で「ノイズキャンセル型」ヘッドホンも試してみた。あくまで筆者の印象だが、ノイズが聞こえにくくなる分、音量を上げなくても「外界からの隔絶感」は感じられる。

日本では「音漏れ」を気にする人が多いためか、特にカナル型の人気が高い。ソニーは数年前から、Xperiaを含めた同社製品の標準添付ヘッドホンを、カナル型に近いものに変えている。あれも音漏れが皆無ではなく、最大音量では漏れることに変わりはないが、外界からの音がEarPodsよりも聞こえづらいので、音量はより小さくてもいい。

すなわち、音漏れとは「外界から隔絶されたい人が、外の音が聞こえやすいヘッドホンで音量を上げた結果、それが漏れてしまう行為」と定義できる。すなわち、「カナル型のように密閉性の高いものや、ノイズキャンセル型が普及することで改善できる」と言える。冒頭で述べた「当たり前の結論」とは、このことを指す。筆者を含め、日常的にそうした理由でカナル型やノイズキャンセル型のヘッドホンを選ぶ人は多いはずだ。

一方でそうしたことがわかっても、日常的な「音漏れ」との遭遇を減らすことにはたいした意味を持たないかもしれない。なぜなら、音漏れしているのは「漏れているのを気にしていない人」だからだ。なにしろ、漏れているのは自分には聞こえないのだから、注意しないとわからない。中には、そういう注意を意に介さない人もいるだろう。

ヘッドホンが皆密閉性が高いか、ノイズキャンセル標準装備になればいいのだが、そうもいかない。密閉性が高く、外界からの音が聞こえづらいことは、危険性もはらんでいるからだ。ノイズキャンセルの問題はいうまでもない。高価であることだ。

また、日本に比べると海外は「ヘッドホンの音漏れ」に寛容だ。日本での販売量が多いXperia添付のヘッドホンがカナル型になり、日本だけでなく世界中で売れるiPhoneに添付されるEarPodsがそうでないのは、音漏れに対する許容量の問題もあるだろう。

まあ、とはいえだ。

日本人が電車内での音漏れを不快に感じることに変わりはない。「カナル型やノイズキャンセル型だと、音量をそこまで上げなくても没入感がある」ことを、もう少し広く伝えてもいい、とは思う。そもそも、闇雲に音量を上げることは難聴を引き起こす。そこも含めて、結局は「周知徹底」の問題なのだけれど。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2016年10月28日 Vol.102 <当たり前をひっくり返せ号> 目次
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01 論壇【小寺】
動きのある映像演出に。edelkroneがステキ
02 余談【西田】
改めて考える「ヘッドホンの音漏れ」問題
03 対談【小寺】
クエリーアイ・水野CEOに聞く「人工知能が本を書く時代」(4)
04 過去記事【小寺】
一人歩きを始める4K、そして8K
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41