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360度の音が自然に聞こえる補聴器「Opn」。iPhone連携で通話/音楽再生も

 オーティコンは、360度全方位の音が聞こえる補聴器「Opn(オープン)」を7月5日より発売する。iPhoneとBluetooth連携して、直接通話や音楽再生もできる、高付加価値モデルとして展開。価格はオープンプライスで、想定売価は両耳で100万円前後。全国の補聴器専門店や眼鏡店、百貨店で販売される。

補聴器「Opn」

 従来の補聴器は、難聴者にとって騒がしい場所での言葉の聞き取りが難しいため、主に正面の音にフォーカスする指向性を持たせているが、側面や背後の音声は抑制されるという課題があった。

小型なため、耳に装着しても目立たない

 Opnでは、独自開発の11コアプロセッサ「Velox(ベロックス)」を搭載し、クアッドコアプロセッサの搭載が一般的な従来の補聴器と比べて、音声信号の処理速度を大幅に向上。360度全方位の音を内蔵マイクで集めて会話などの聞き取りやすさを自動調整し、補聴器の聞こえ方を改善する。多人数が集まる場所でも、例えば横から話しかけてくる人の声が聞き取りやすくなり、フロア全体の細かい音などもノイズとして邪魔にならないよう聴けるとする。

多数の人が集まる場所での使いやすさを向上

 Veloxの高速音声処理により、従来の補聴器にあった、唇の動きと実際の音がわずかにずれるといった音声遅延を抑えたほか、内蔵DSPで24bit処理することで音の解像度も高めている。

補聴器の内部構造
11コアプロセッサ「Velox」の説明。消費電力も抑えたという
BluetoothでiPhoneと連携可能。従来の補聴器では難しかった通話や音楽再生も楽しめる

 Bluetooth機能を備え、iPhoneと連携して通話や音楽再生が可能。専用アプリを使うことで、聞こえ方の調節などをできる。また、装着者のOpnのバッテリ残量が減っていたら家族のiPhoneに通知し、充電を促すといった活用方法を提案している。

 オプションとして、テレビの音声を補聴器に直接転送する「テレビアダプター3.0」(28,000円)を用意。テレビとアダプタを光デジタルケーブルで接続し、アダプタからBluetoothペアリングしたOpnへ、音声をワイヤレスストリーミングできる。音声再生はステレオ音声で、周囲の音も聞き取れるという。1台のテレビアダプターに複数人が接続して使うこともできる。

別売の周辺機器「テレビアダプター3.0」。テレビ音声を補聴器に流す

 さらに、IoTサービスのIFTTT(イフト)と連携し、自宅の家電やセキュリティシステムと連携してOpnで通知を受け取るなど、IoT機器として活用することもできる。同社ではインターネット接続できる補聴器は“世界初”としている。

 カラーはロイヤルブルーなど計8色。IP68の防塵防水仕様。電池は312電池で、電池寿命は55〜65時間。

IFTTT対応で、自宅の家電からの様々な通知をやり取りすることが可能
オーティコン補聴器を扱うオートメットの木下聡社長(右)と、オーティコン本社のオーディオロジー主監のトーマス・ベーレンス氏(左)

全方位の音声伝達で、聞き取る労力を軽減

 オーティコンは1904年にデンマークで創立された補聴器メーカーで、補聴器以外にも聴覚診断装置や人工内耳など、耳に関するデバイスを製造し、グローバル展開している。

 オーティコン補聴器を扱うオートメットの木下聡社長は、「補聴器は日本では特に所有率が低く、欧米で30%以上、米国でも25%となるのに対し、日本は13.5%にとどまる。一方で4人に1人が高齢者となる高齢者社会となり、65歳以上の人口は3,384万人、そのうち80歳以上は1,002万人に上る。15歳以上の就業者に占める割合も10%を超えている」と指摘。

 木下社長は「補聴器は年配層が使うため、通常の会話に難があるというネガティブイメージが持たれがち。しかし、聴覚の衰えが認知症を加速させ、補聴器をつけることでそれを抑えられるという研究結果もある。聴覚のケアはヘルスケアにつながる」と説明した。

 オーティコン補聴器 マーケティング部マーケティングスペシャリストの渋谷桂子氏は、Opnに採用された音声技術について説明。片側11コア、左右の補聴器で計22コアとなるプロセッサ「Velox」の音声処理能力により、これまでの補聴器と異なり、全方位の音を聞くことができるとした。プロセッサは独自開発のものを使い、11コアのうち8コアを音声処理に、3コアをワイヤレス通信に割り当てて、使わないコアは電力カットすることで省電力化したとする。

オーティコン補聴器 マーケティング部マーケティングスペシャリストの渋谷桂子氏
近接場磁気誘導を活用した、両耳の補聴器間の通信と、省電力なBluetooth BLE機能を内蔵

 「オープンサウンドナビゲーター」技術により、補聴器本体のマイクから集音した音声のノイズを抑え、会話を明瞭に保ちつつ、音量バランスを瞬時に分析。さらに、音空間認知機能「LX」を使い、左右の補聴器が相互に無線で情報交換することで音の方向も再現できるとする。これらの組み合わせで、従来の補聴器の”トンネルの中を覗き込むよう”な音の狭さとは異なる聞こえを実現。難聴者が音声を聞き取る労力を軽減し、疲れやすさを2割抑えるほか、会話の覚えやすさや理解度が高まるとした。

オープンサウンドナビゲーターの概要
音空間認知機能「LX」の概要
トーマス・ベーレンス氏

 Opnを使った、実際の音の聞き取り精度向上については、オーティコン本社のオーディオロジー主監、トーマス・ベーレンス氏が説明。難聴者の被験者24人に、実際の生活空間を真似た状況で聞き取りの試験を行なった。

 試験では、言葉の理解につながる交感神経の変化と連動する、瞳孔の大きさの変化を数値的に読み取る方法を用いた。聞き取る労力が高いと瞳孔が大きく開くが、低ければ瞳孔の開きは大きく変化しない。従来モデルとOpnを比較すると、Opn装着時の方が瞳孔拡張のピークが小さく、26%縮小していることがわかり、「Opnを使うと音声の聞き取りで疲れにくいという有意なデータが得られた」とした。

交感神経と瞳孔サイズの連動に着目して、Opnと従来モデルの聞き取りテストを実施
音声を聞き取る労力が高いと瞳孔が大きく開く
従来モデル「アルタ2プロ」と比べて、瞳孔サイズのピークが低く抑えられた
聴覚の衰えに、補聴器などを使って適切に対処することで脳の健康維持につながると説明

 報道向け発表会を行なったベルサール秋葉原1階では、終了後に一般参加者を対象とした入場無料のイベントを実施。Gear VRを用いて、パーティーのディナー会場での映像/音声を使い、補聴器をつけた時と、健聴者の音の聞こえ方の違いを体験出来るブースなどが用意された。

Gear VRを使った、パーティ会場での音の聞こえ方の違いを体験。360度の映像/音声が流れ、これまでの補聴器で課題だった”トンネルのような音の狭さ”と、健聴者の聞こえ方の違いが体験できた