ソニーの独自BA搭載イヤフォンを発表会場で聴いた
シングルでもワイドレンジ。NCモデルもクリアな音
XBA-4SLを装着したところ |
ソニーは20日、自社設計のバランスド・アーマチュア・ユニットを採用したイヤフォン新シリーズ(型番XBA-)の発表会を開催。製品の概要を解説すると共に、マスコミ向けに試聴機も用意した。
発表されたラインナップは下表の通り。詳細は各記事を参照して欲しいが、いずれも自社設計のバランスド・アーマチュア・ユニット(以下BA)を採用している点が特徴となる。このユニットでは、従来のBAユニットにあるパイプ状のエアーダクトを無くし、ソニー独自のフラット形状のエアーダクト構造を採用する事で、ワイドレンジな再生を可能にしたユニットだという。同スペックのダイナミック型ユニット(13.5mm径)と比べると、サイズが1/4になるという省スペース性を活かしたラインナップとなっている。
右端にあるのが、独自設計のBAユニット。中央と左はダイナミック型 | バランスド・アーマチュアユニットの内部 | ダイナミック型ユニットの内部 |
XBA-1SLからXBA-4SLまでの4機種(いずれもスマートフォン向けのIPモデルを含む)は、「リスニングタイプ」と名付けられており、ウォークマンなどのポータブルプレーヤーや、スマートフォンとの接続を想定したモデル。フルレンジ1基のモデルから、最高で4つのBAユニットを内蔵したモデルを用意している。
モデル名 | ユニット仕様 | 周波数特性 インピーダンス 感度 | マイク付き リモコン | 価格 |
XBA-1SL | フルレンジ×1 | 3Hz~25kHz 24Ω 108dB/150mV | - | 7,455円 |
XBA-1IP | ○ | 8,715円 | ||
XBA-2SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 | 4Hz~25kHz 12Ω 108dB/150mV | - | 18,375円 |
XBA-2IP | ○ | 19,635円 | ||
XBA-3SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 ツイータ×1 | 4Hz~28kHz 12Ω 108dB/150mV | - | 24,675円 |
XBA-3IP | ○ | 25,935円 | ||
XBA-4SL | フルレンジ×1 ウーファ×1 スーパーウーファ×1 ツイータ×1 | 3Hz~28kHz 8Ω 108dB/150mV | - | 30,975円 |
XBA-4IP | ○ | 32,235円 |
モデル名 | タイプ | ユニット仕様 | 価格 |
XBA-NC85D | ノイズキャンセリング | フルレンジ×1 | 43,050円 |
XBA-BT75 | Bluetoothヘッドセット | 24,675円 | |
XBA-S65 | スポーツ向けの防水 | 8,715円 |
アクティブノイズキャンセリングの「XBA-NC85D」(11月10日発売/価格43,050円)は、BAユニットを1基(フルレンジ)のみ搭載する代わりに、ハウジングの空いた空間にノイズキャンセリング用のLSIやニッケル水素充電池、外側にMEMS(微小電気機械システム)を使ったマイクを備えているのが特徴。従来モデルでは、ケーブルの途中に電池やNC回路を内蔵したボックスが付いていたが、それを省く事に成功した。
Bluetoothヘッドセット「XBA-BT75」(11月21日発売/24,675円)の考え方も、ノイズキャンセルモデルと同様。フルレンジBAユニットを採用する事で生まれた空間に、Bluetooth用のICやアンテナ、バッテリを内蔵している。
スポーツ向けの防水モデル「XBA-S65」(11月10日発売/価格8,715円)は、BAユニットがダイナミック型と比べ、空気の動きが少なく、ハウジングに空気の出し入れをする穴が不要な事に着目。音が出るノズル部分を新開発の音響透過膜で塞ぎつつ、音は通す事で、防水性能を持たせ、水洗いもできるイヤフォンとなっている。
■ユニット1つでもワイドレンジな再生
発表会場で短時間ではあるが試聴できたので、音質の傾向を紹介したい。まず、リスニングモデルの基本とも言える、フルレンジBAユニット1基の「XBA-1SL」から。従来のBAイヤフォンでは、1つのユニットで再生できる帯域が狭いため、シングルでは低域が出なかったり、耳穴深くまで押しこむ構造で低域をかせいで、ワイドレンジ再生を実現するなどの工夫が必要だった。
「XBA-1SL」の、耳穴への挿入の深さは一般的なカナル型(耳栓型)イヤフォンと同じだが、シングルにも関わらず十分な低域が出ている。 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生すると、アコースティックベースの沈み込むような低域の響きが豊富に感じられ、とてもシングルタイプとは思えない。同時に、中高域のクリアさがあり、冒頭のアコースティックギターの弦の音の描写が細かく、耳が良くなったような解像度の高さを感じる。BAらしいサウンドでありながら、従来のシングルBAの弱点である低域の再生も可能にした音と表現できる。普段マルチウェイのBAイヤフォンを使っている人が聴くと驚くだろう。“バランス重視モデル”と表現したい。
XBA-1SL | XBA-2SL | XBA-1SLと2SLの周波数特性 |
このフルレンジに、ウーファ用のBAユニットを加えたのが「XBA-2SL」だ。サウンドは「ウーファをプラス」という言葉から連想するそのままの変化で、低域の量感がアップ。アコースティックベースの響きが倍増し、肉厚な低域に支えられた、ドッシリとした迫力のあるサウンドに変化する。ただ、高域の抜けの良さは維持されており、音がこもる印象は無い。カナル型らしい“迫力重視タイプ”と言える。
「XBA-3SL」は、フルレンジ+ウーファに、ツイータをプラスしたモデル。ソニーの解説員によると、「フルレンジの再生音をベースに、低域を高域を増強したようなバランス」とのことで、聴いてみると確かにパワフルな低域だけでなく、高域の伸び、ハイハットの綺羅びやかな響きがパワーアップし、主張が強くなっている。先ほど「XBA-2SL」を“迫力重視タイプ”と書いたが、その低域に負けないように高域も力強くした、“パワフル・バランス重視モデル”という印象だ。
「XBA-4SL」では、フルレンジ+ウーファ+ツイータに、さらに低域再生に特化したスーパーウーファBAユニットを追加したモデルとなる。その結果、“超パワフル・バランス重視モデル”と言えるサウンドになっており、特に低域の量感と沈みこみが特筆すべきレベルに到達。しかし、低域の主張が激しくなりすぎないバランスは保っており、明瞭な中高域は維持。全体的に音圧がアップし、BAユニットらしい前へ、前へという押し出しの激しいサウンドが印象に残る。
XBA-3SL | XBA-4SL | XBA-3SLと4SLの周波数特性 |
結論としては、ユニット単体での素性の良さがわかるシングルユニットの「XBA-1SL」がベースであり、そこに個性を加えていった各モデルと表現できる。バランスを重視するならば「XBA-1SL」や「XBA-3SL」が注目。低域の迫力による心地良さを重視するならば「XBA-2SL」や「XBA-4SL」に注目して欲しい。まずは低価格な「XBA-1SL」を聴いてから、好みに合ったモデルを選ぶと良いだろう。
■省スペースでもしっかりとした再生音
ノイズキャンセリングの「XBA-NC85D」と、Bluetooth「XBA-BT75」のサウンドに共通して言えるのは、バッテリや回路などを搭載し、イヤフォンに割けるスペースが非常に少ないにも関わらず、シンプルで解像度の高い、クリアな再生を実現している事だ。
ハウジングとして使える容積はかなり少ないと思われるが、痩せた音にはなっておらず、内蔵パーツが振動する付帯音がサウンドを汚したりもしていない。前述の「リスニングタイプ」と比べると低域の量感は少なくなるものの、音が広がる開放感と中低域のクリアさ、締りの良い低域はしっかり出ており、多くの人が好ましいと感じるサウンドを省スペースで実現できている。
ノイズキャンセリングの「XBA-NC85D」 | 装着したところ。マイク部分が外に出ている |
Bluetoothヘッドセットの「XBA-BT75」 |
スポーツ向けの防水モデル「XBA-S65」は、音響透過膜を通して音を聴いているため、若干高域の頭が抑えられたようなサウンドだが、BAユニットらしいクリアでヌケの良い高域がそのハンデを上手くカバーしており、防水イヤフォンとしては非常に高音質になっていると感じた。
スポーツ向けの防水モデル「XBA-S65」 |
■5,000円以上の中高価格帯モデルの比率が増加
ソニーのパーソナル イメージング&サウンド事業本部パーソナルエンタテインメント事業部の中川克也事業部長は、2011年度の全世界でのヘッドフォン市場の規模について、昨年から10%増加した1億8,000万台と予測。「スマートフォンやタブレットPCが普及した事で、そういった機器をヘッドフォンで楽しむ人が増えている」と分析する。
パーソナル イメージング&サウンド事業本部パーソナルエンタテインメント事業部の中川克也事業部長 | ヘッドフォン世界市場の動向 |
さらに、独自開発した、フラット形状のエアダクト構造を採用したBAユニットについて説明。ダイナミック型に比べて小型・軽量である事や、高感度、高解像度、高遮音性といった特徴があり、基幹部品の開発段階から自社で音作りする事で、より高音質な製品が作れる事などを解説した。
ソニーマーケティングのメディア・バッテリー&パーソナルエンタテインメントマーケティング部の磯村英男統括部長は、国内ヘッドフォン市場について、2011年度は1,300万台(前年比103%)と予測。その内訳では、インナーイヤータイプでは、5,000円以上の中高価格帯モデルの比率が増えており、2010年度は22.7%だったものが、2011年年度は24%まで増加すると見込んでいる。これには、スマートフォンを音楽プレーヤーとして使用している人が増加している事が影響しているとのこと。
店頭での訴求としては、試聴機を活用。各モデルの試聴機を並べ、聴き比べしやすい店頭コーナー作りを検討しているという。
ソニーマーケティングのメディア・バッテリー&パーソナルエンタテインメントマーケティング部の磯村英男統括部長 | 国内市場の予測向 | 5,000円以上の中高価格帯モデルの比率が増加した |
(2011年 9月 20日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]