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プロペラの文字も読める、100倍の広ダイナミックレンジCMOSをパナソニックが開発
(2016/2/3 12:15)
パナソニックは3日、有機薄膜を採用したCMOSセンサーを使い、明暗差の大きいシーンを、従来比100倍となる、ダイナミックレンジ123dBで撮影できる技術を開発。さらに、従来比約10倍の明るさまで忠実に画像を撮像できるグローバルシャッタ技術も開発。明るいシーンでも高速な被写体を正確に捉えられるという。
監視・車載用カメラや、デジタルカメラなどの幅広い用途に提案予定。これらの技術の一部は、1月31日~2月4日に米サンフランシスコで開催される国際学会ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)2016で発表される。
有機薄膜を採用した広ダイナミックレンジCMOSセンサー
従来のCMOSイメージセンサーでは、ダイナミックレンジの広いデータを撮影するためには、露光時間の異なる複数のデータを順次撮影し、それを合成している。時間差のある複数画像データを処理しているため、動きのある画像は歪んでしまうという課題があった。
通常のセンサーは、受光部のシリコンフォトダイオード、金属配線、カラーフィルタ、オンチップマイクロレンズで構成。光を電気に変換し、信号電荷を蓄積する機能は、シリコンフォトダイオードが担当していた。
新開発の有機CMOSセンサーでは、光を電気信号に変換する機能を有機薄膜が担当。信号電荷を蓄積して、電気信号の読み出しを行なう機能を下層の回路部が担当。それぞれが完全に独立している。
光吸収係数が大きい有機薄膜は、シリコンフォトダイオードの数分の1となる0.5μmまで薄膜化を実現。従来は2~3μm程度の深さが必要なため、光線入射角が30~40度に制限されていたが、新センサーでは60度の広い入射光線範囲を実現。斜めから入射する光を効率よく利用でき、混色のない忠実な色再現性が可能に。レンズの設計自由度も増し、カメラの高性能化、小型化に繋がるという。
さらに、画素内のトランジスタや容量などの回路部の上に、有機薄膜を積層する構造を実現。従来は各画素に、シリコンフォトダイオード以外の部分に光が入射するのを防止する遮光膜を形成する必要があり、受光部分の面積が制限されていた。新センサーでは全面に有機薄膜を形成可能なため、センサー面上で受ける光を全て有機薄膜で受光でき、従来比1.2倍の感度を実現した。
また、有機薄膜を自由に選択できるため、波長、感度など、光を電気信号に変換する時の特性を自由に設定可能。シリコンフォトダイオードを形成する必要がないため、シリコン基板上に、高速、広ダイナミックレンジ、高飽和といった高機能な回路を搭載することも可能になるという。特に、光を電気信号に変換する部分とは別に、信号電荷を蓄積するための大きな容量を設けられる事で、蓄積電荷の飽和値を従来のセンサーよりも飛躍的に増大させる事も可能という。
高飽和性と感度設定の自由度を活かして、1画素内に、感度の異なる2つの画素電極、信号電荷蓄積量の異なる2つの容量、2種類のノイズキャンセル構造のセルを設ける「1画素2セル構成技術」も開発。明るいシーンと暗いシーンを異なる構成のセルで同時に撮像することで、一回の撮像で、従来のイメージセンサー比100倍、ダイナミックレンジ123dBを実現した。
この技術を使うと、低感度の状態で、読み出し時間以外、常に信号電荷の蓄積を実施しているため、車載カメラや業務放送用カメラなどで課題となっている、信号の撮像欠けによる、LEDフリッカ、蛍光灯フリッカの問題も発生しない。画素(信号電荷蓄積ノード)リセット時のリセットノイズをキャンセルする技術も開発されている。
高速で動く被写体も歪みなく撮影可能に
従来のセンサーでは、全画素同時タイミングでシャッタ動作を行なう「グローバルシャッタ」機能は、1行ごとにシャッタ動作を行うローリングシャッタ動作で行なっている。
しかし、画素内にメモリを設けることでグローバルシャッタ機能の実現を図っていたため、画素内に追加したメモリ部が光電変換部面積を圧迫。飽和信号量が減少してしまうという課題があった。
新たな有機薄膜を使ったCMOSセンサーと共に開発された「光電変換制御シャッタ技術」では、有機薄膜に印加する電圧を調整し、光電変換効率を制御することのみでシャッタ機能を実現。画素内に新たな素子を追加する必要が無く、飽和信号量が減少しないという。
画素ゲイン切替え回路による「高飽和画素技術」も組み合わせ、従来のグローバルシャッタ機能を持つセンサーの比約10倍の飽和信号量を実現。設定の切り替えだけで、従来のようなローリングシャッタ動作も実現できる。これにより、明暗差の大きいシーンにおいて、画質劣化やシャッタ歪みのない撮影や、フラッシュバンド、LEDフリッカなどの問題も解決できるとする。
さらに、有機薄膜に印加する電圧や印加時間を変化させることで感度を可変にできる、「感度可変多重露光技術」も開発。従来のセンサーでは、多重露光撮像では複数枚の画像を同一感度でしか撮影できなかったが、1回の撮像で動体速度に合わせた最適露光が可能に。
動体・文字認識や、時間に応じた感度濃淡を付けた撮像を行なう事で、例えば弾むボールなどの動きを検出した場合、感度の低/高をつけることで、ボールに濃淡がうまれ、はずむ進行方向が判別できる撮影が1回で可能。回転するプロペラのような動く被写体を歪みなく撮影したり、困難だった高速被写体撮影にも展開できるという。