本田雅一のAVTrends

Get Smart! What's Smart?

CESで話題の「Smart TV」の今とこれから




 今年のInternational CESにおける大きな話題のひとつに“スマート”がある。厳密な定義があるわけではないが、ネットワークを通じてサービスやゲームを利用するために、ダウンロードで追加可能な小さなアプリケーション(=アプレット、あるいはApps)を利用できるデバイスを、スマート○○と呼んでおり、その応用範囲は洗濯機や冷蔵庫の領域にまで広がっている。


■ スマートで行こう

シャープはテレビにWi-Fi機能を内蔵し、ネットサービスへのアクセスしやすさを訴求

 本来のスマート(=賢い)という意味からすると、なにやらイメージが違うかもしれないが、業界内ではすっかりこの言い方が定着してきたようだ。スマートデバイスはスマートフォンに端を発し、タブレット型端末など派生商品を生み出しているが、その流れはテレビにも流れ込もうとしている。

 しかしながら、“テレビをスマートにする”アプローチは各社各様。中にはうまく行くものもあれば、行かないものもあるだろう。テレビという商品は買い換えサイクルが長いだけに、なんらかの取り組にについて結果を出すには時間がかかる。

 報道する側は一度報じてしまうと、次回からは特別に何も言わなくなるが、継続して進化させながら、新たな要素を取り込んでいく事が必要だ。たとえば画質の改善は、当然ながら毎年のように行なわれている。

 今回のCESでは他の話題に隠れてあまり報道されていないが、パナソニックの今年のプラズマパネルは黒レベル、白輝度ともに明らかに改善されて絵が良くなっていたし、ソニーのX-Realityによる超解像は世代違いの実力を見せていた。東芝もCEVOで複数フレーム間を参照した超解像処理を盛り込むとアナウンスしている。

サムスンはスマートテレビ機能をネットワーク機能付きのほとんどのテレビに盛り込み、900万台の出荷を計画

 一部では、今年は3Dテレビの展示は日本ばかりで韓国勢などでは控えめという報道もあるが、実際にはサムスンが37型以上の大半を3D対応(メガネなしの“3Dレディ”を含む)にすると話し、Bluetoothを用いたスリムな3Dメガネを展示。ソニーは27モデル中16モデルを3D対応。パナソニックはクロストークと輝度を大幅改善しテレビ局や映像製作者の3D撮影ノウハウのサポートやアプリケーション応用を進めるための組織設立など、実は意外に多くの取り組みや提案が行なわれている。

 このあたりは買い換えのサイクルが1~3年ぐらいのデジタル製品とは、商品の性質もメーカーの取り組みも全く違う。が、そんな“足の長い”テレビの中で、スマートテレビに関しても各社は”新しい時代のテレビ”に向け「何がスマートなのか」を模索しているところ。画質や3Dといったテーマに比べれば短期的取り組みとも言えるが、同じゴールに向けてスタートを切ったばかりという状況だ。



■ 前傾姿勢コンテンツと後傾姿勢コンテンツ

パナソニック・コンシューマエレクトロニクス社長の北島氏

 以前、この連載でも前傾姿勢のコンテンツと後傾姿勢のコンテンツは、楽しみ方も中身もかなり違うものだといった事を書いた。映像における前傾姿勢コンテンツの代表はYouTubeやニコニコ動画、後傾姿勢コンテンツの代表はテレビ放送や映画ソフト。前者はショートクリップの一発芸、後者は長編で落ち着いたシナリオ展開のものが多く、視聴を中断する要素(メッセージ着信が画面内に割り込むなど)は厳禁だ。

 この業界では以前から話題のテーマについて言及していたのはパナソニックだ。パナソニックは発表会において、前傾と後傾、二つの楽しみ方を、テレビという商材を軸にどう提案、演出していくかが重要だと話していた。

VIERAタブレットを紹介する北島氏

 このテーマに対するパナソニックの回答が、VIERA ConnecctとVIERAタブレットである。前者はVIERA CAST(YouTubeなどネットワークサービスへの接続機能)の後継となる、AjaxによるWebアプリケーションとJavaを用いたゲームなど、オープン標準をベースにしたインターネットアプリケーションの枠組みで、後者はビエラで映像を楽しむためのコンパニオンデバイスだ。

 パナソニック・コンシューマエレクトロニクス社長の北島嗣郎氏は「発表会では、一言もiPadの名前も出さず、汎用情報端末でもありませんと話していたのに、なぜか“パナソニックがiPad対抗製品”との報道があって驚きましたがVIERAタブレットはあくまで映像の楽しみ方を拡張するためのツール。Wi-Fiを通じてネットにアクセスもできますし、ネット端末としての機能は持っていますが、その向こう側に見えているのはあくまでテレビです」と話した。

 日本のパナソニック関係者は、パナソニックが国内でスマートフォンの発売準備を進めているのは確かだが、VIERAタブレットを携帯電話ネットワークに接続するモバイル端末にする予定はないと口を揃えていた。

 VIERAタブレットにどんな連携機能を持たせるのか、詳細な部分はまだ詰めていく段階だという。ただし、基本的な姿勢は変わらない。VIERAタブレットは前傾姿勢コンテンツの検索やちょっとした閲覧、それにレコーダに録画された番組や番組表などへの窓であり、そこで発見したコンテンツを大画面で楽しんだり、家族や友人と一緒に見たい時にはビエラで映すというネットワーク連携だ。

 このため、VIERA Connecctで提供されるアプリケーションは、VIERAタブレットでも動作するようにするという。Javaで書かれたゲームなどについてはOSプラットフォームが異なるため連携しないようだが(展示会場で話を聞いた担当者は技術担当ではなく未確認)、将来的なコンセプトとしては、タブレットとテレビの間をアプレットの画面や映像、写真、音楽などが行き来するイメージになる。

パナソニックのVIERAタブレットVIERA Connecctのマーケットプレイス画面

 「北米の場合、もともとネットサービスのインフラは充実しており、基幹ネットワークも強力でしたが、消費者が利用するアクセスラインが貧弱でした。しかし光アクセスラインやLTEなどのアクセスライン強化を各社が急速に進めており、ネットワーク配信のコンテンツは増加します。しかしCATVだけで1,000チャンネルがある北米で、さらにネットコンテンツも入ってくるとユーザーは扱いきれない」(北島氏)

 パナソニックは、前傾コンテンツと後傾コンテンツ、前傾操作と後傾操作をうまくバランスさせたスマートテレビを提案する。アプローチは異なるものの、iOSやAndroid向けに連携アプリケーションを開発し、テレビやレコーダの楽しみ方を拡張しようとしている東芝のレグザAppsコネクトと共に、テレビ単体ではなくテレビ+コンパニオンデバイスという提案の代表格となっていくだろう。



■ 本当にスマート?

LGもスマートテレビ。情報端末としての性格付けが強いという印象

 一方、サムスンのスマートテレビは、スマートフォンやタブレット型端末の“スマート”をそのままテレビに持ち込んでいる。これはLGも同様だ。サムスンは自社テレビ向けアプリケーションの開発コンテストを行なうなどして盛り上げようとしているが、テレビ画面上でアプレットを動かすという取り組みは、アップルも行なっていない。なぜなら、今まで成功した例がないからだ。

 たとえば数年前、Yahoo!は各種情報サービスををネット経由で提供する機能を各社にオファーし、いくつかのテレビに搭載されたことがある(日本では発売されていない)。しかし、ユーザーはテレビ番組や映画を見ているときにアプレットが視聴をインタラプトしたり、テレビを見ている時間を減らしてテレビ上でインターネットを使う事を、あまり好まなかった。

 サムスンブースで数人の担当者に話を聞いてみたが、開発のフレームワークはサムスン独自のものとのこと。すなわちiTunes App StoreやAndroid Marketなどと同様の事をテレビの枠組みでもやろうというわけで、少々難しいのではないか? と感じさせられた。


 ソニーはSony Internet TV、いわゆるGoogle TVに関し、非常にポジティブな成果を強調している。Google TVは、いわばテレビを前傾姿勢で使うための道具でもある。それならばテレビでインターネットにアクセスするのではなく、タブレット型端末やネットブックなどを手元に置いてインターネットにアクセスすればいいじゃないかという批判は、以前からもあった。

 米ソニーエレクトロニクスでテレビ事業の担当ディレクター、石田武氏は「テレビのインターネットアクセス機能について疑問の声があることは、ソニーとしても十分に理解している。しかし、テレビ離れは日本だけでなく米国でも起こっており、ユーザーは個々の部屋でインターネットにアクセスしたり、ゲームを楽しんだりしている。まずはそうした、テレビ世代ではない顧客層に対して従来のテレビとは異なる価値を提供することを考えた」と話す。Sony Internet TVもまた、スマートテレビの一種と捉えることができる。

米ソニーエレクトロニクスでテレビ事業を担当する石田氏Sony Internet TV

 その上で実際に販売してみると、通常のテレビとは売れ方が違う事に気付いた。

 「実際の販売台数は公開していませんが、売れ方は従来のテレビとは異なると感じています。単にインターネットにつながるテレビという意味では、従来のテレビもインターネットのビデオオンデマンドサービスには対応していますから、Google TVの違いはより積極的に前傾姿勢でテレビを楽しむ機能“も”加わっているという部分。通常のテレビとしてもフル機能はありますから、プラスαの要素としてSonyInternet TVとしての機能を楽しんでもらいたい」(石田氏)

 Google TVの基本部分は、Googleが他社にも提供する事になるが、アドオンの機能や使いやすさなどで差異化を図っていく。ユーザーからのコメントがすでに集まっているという先行者の利点を活かし、ブラッシュアップを図っていくという。

 現在、Google TVはAndroid搭載スマートフォンとの連携しておらず、Google TV上でAndroid Marketも利用できない。しかし今後の発展の中で、Google TVとAndroid搭載のスマートフォンやタブレット型端末がシームレスに連携し始めると、より“スマートな”テレビとして発展する可能性を秘めている。

(2011年 1月 10日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]