第494回:NAMM発表のローランド/ヤマハ新製品をチェック
~Fenderコラボギターや“デジアナ融合”ミキサーなど ~
ローランドの新製品発表会場 |
1月にアメリカで行なわれた世界最大級の楽器の見本市、NAMM Show 2012。今年も各社からさまざまな製品が発表されたが、その新製品のお披露目を2月7日にヤマハが、8日にローランドが、都内の会場で行なった。両社とも今回はDTM系製品はなかったものの、ユニークなデジタル機器をいろいろ発表していたので、紹介してみよう。
■ ローランドはFenderと共同開発のストラトキャスターを発表。V-Drum新音源なども
ローランド、ヤマハそれぞれの発表会、規模的に圧倒的に大きかったのはローランド。赤坂BLITZでライブイベント風に新製品の発表を行なったローランドは製品数、ジャンル的にも多岐に渡ったので、まずはローランド製品から見ていくことにしよう。
今回、筆者が個人的に一番すごいと思ったのは、2月に実売価格約13万円で発売予定のFenderのストラトキャスター。ローランドがなぜFenderのギターを発売……? という疑問が浮かぶ一方、だいぶ以前にもローランドとFenderが共同開発を行なっていたような記憶があったので、調べてみるとローランドが開発したサウンド・モデリング・システムであるVG-KitをFenderのストラトキャスターに組み込んだVG-Stratocasterという製品を2007年にFenderが発売していた。国内ではあまり流通していなかったVG-Stratocasterのニューモデルとなる「G-5」という製品を、今回はローランドが発売する、ということのようだ。
まあ、そんな流通の話はともかく、面白かったのは、ステージで行なわれたG-5の演奏デモだ。見た目は明らかにストラトキャスターであり、実際、ストラトキャスターのサウンドが出るのだが、スイッチを切り替えるとテレキャスターになったり、ハムバッカーになったり、ナイロンギター、スチール弦のアコースティックギター、さらにはシタールにも変身してしまうのだ。弾いているのはあくまでもFenderのストラトキャスターなのに、アコギの音が出てくるというのはかなり不思議な感覚だ。筆者も会場でちょっとだけ触らせてもらったが、これは面白い。
ローランドは赤坂BLITZでライブイベント風の新製品発表を行ない、圧倒的な規模の大きさとなった | 2月に実売価格約13万円で発売予定のFenderストラトキャスター | VG STRATOCASTERの新モデル「G-5」 |
ステージで行なわれたG-5の演奏デモ | スイッチ切替で音色がテレキャスターやアコースティックギター、シタールなどに変身 |
普段、ギターなんてあまり弾くことがないだけに、今、フォークギターを弾いたら、おそらく弦をちゃんと押さえることができず、まともに音が出せない。でもストラトキャスターなら、そんな心配もなく、ジャーンとコードをストロークで弾くことができる。その際、MODEツマミをA=アコースティックに、TUNINGツマミを12=12弦ギターに設定すると、6弦で弾いているのに12弦で音が出てくるのだ。
MODEツマミで計5つ、TUNINGツマミで計6つのモードを備える |
ちなみにMODEツマミにはほかにN=ノーマル(モデリングをしない生音)、S=ストラトキャスター、T=テレキャスター、H=ハムバッキングの計5タイプがある。またTUNINGツマミにはN=ノーマル・チューニング、D=ドロップD、G=オープンG、d=Dモーダル、B=バリトンの計6つが用意されており、瞬時に切り替えが可能なのだ。
でも、どうして、ツマミの設定を切り替えるだけで、そんなにいろいろな音が出てくるのか? それは内部にDSPを使ったローランド自慢のモデリングテクノロジー、COSM回路が内蔵されているからだ。まず、各弦の信号を1つ1つ個別に抽出するためのディバイデッド・ピックアップによって、弦の演奏情報を正確にCOSMへ届ける。そして設定されたとおりの音に変換した上で、ギターの通常の出力端子から出るのだ。
でも気になるのがレイテンシー。昔あったMIDIギターなどでは、明らかに音の遅れがあり、弾いてから音が出るまでに時間差があることが誰でも認識できた。が、このG-5を触った限り、まったく分からなかった。まあ、筆者はギタリストではないので、細かなニュアンスまでは分からないが、素人が弾く限りレイテンシーはほぼゼロという感じだし、チョーキングでも、ハンマリングでも、ミュートしても、確実に感知してくれるのも面白いところだ。
ところで、このCOSMの回路はどこに収められているのか?実物を見ることはできなかったが、ギターの背面に基板が埋め込まれているとのことで、ここで魔法が実現されていたのだ。当然、この回路を動作させるためには電源がいるわけだが、隣にある電池ボックスに単三電池×4本で駆動させることが可能となっている。バッテリー寿命はアルカリ電池の場合約6時間、ニッケル水素電池の場合、約9時間とのことだ。
COSMの回路基板はギターの背面に埋め込まれている | 単三電池×4本で駆動可能。バッテリー寿命はアルカリ電池の場合約6時間、ニッケル水素電池の場合で約9時間 |
このG-5とは別にもうひとつFenderのストラトキャスターが2月に発売される。GC-1というモデルで実売価格が約9万円というもの。こちらは「GK-Ready」と呼ばれるモデルで、G-5と同様にディバイデッド・ピックアップが搭載されているけれど、COSMの回路そのものは内蔵されていないというシンプルなモデル。
ローランドが単品で販売しているGK-3というピックアップと同等のものが内蔵されているのだが、その出力は専用の端子となっており、ローランドのV-Guitar System VG-99やGuitar Synthsizer GR-55などと接続するためのもの。これらを利用することで、G-5のようなモデリングができるほか、さまざまなエフェクターを介した音作りをしたり、シンセサイザを鳴らしたり、MIDI出力を可能にできるのだ。
Fenderストラトキャスター「GC-1」はV-Guitar System VG-99などとの接続専用出力端子を備える | Guitar Synthsizer GR-55 |
BOSSブランドのアンプ・エフェクト・プロセッサ、GT-100 |
ギター関連ではもうひとつ、BOSSブランドからアンプ・エフェクト・プロセッサ、GT-100という製品が発表された。これは3月下旬発売で、実売価格が約50,000円という機材だが、これまであったGT-5、GT-10の後継で上位に位置づけられる製品。やはりカスタムDSPで実現するCOSMテクノロジーによりさまざまなアンプをモデリングするだけでなく、数多くのエフェクトを実現。またフレーズ・ループ機能を搭載しており、最大38秒のレコーディングが可能なのも楽しいところ。エフェクト音色を切り替えながら、カッティングやソロ演奏を次々と重ねて、ループ・パフォーマンスを作り出すことができるのだ。
V-Drum |
ローランドのNAMM Showでの発表でもうひとつの目玉となっていたのが、V-Drumだ。今回、新音源のTD-30をリリースするとともに、パッド類も新モデルを発表。それらを使ってシステムを組み上げたものとしては最高峰モデルのTD-30KV-S、そのワンランク下のモデルとしてTD-30K-Sを発表した。いずれもオープン価格だが、TD-30単体で20万円程度、TD-30KV-Sは60万円、TD-30K-Sでも40万円と一般ユーザーにはなかなか手が出せない価格帯ではあるが、触ってみて驚いた。筆者自身はしばらく前のV-DrumのシステムにTD-9という音源モジュールを接続して普段使っている。が、それとはまったく次元の異なるドラムになっていたのだ。
確かにヘッドフォンから音は出ているが、まるで生ドラムではないか……と思うほどのものに仕上がっている。一発、スネアを叩いただけでも、ハッキリとした違いがある。それは音色がよくなったというレベルではなく、叩いたときのまわりの共鳴や振動といったところも再現されているし、スネアの中心を叩くのか、その少し外側なのか、リムに近い部分なのかによって、本当に細かく音が変化するし、叩く強さによっても音量だけでなく音色も細かく違ってくる。
TD-30 | TD-30の背面 | TD-30を使用して組み上げたシステムとして最高峰モデルとなるTD-30KV-S |
楽器のふるまいをシミュレーションする「V-Drums SuperNATURALサウンド・エンジン」 |
なんでこんなことができているのか、理解できなかったが、これが楽器のふるまいをシミュレーションする「V-Drums SuperNATURALサウンド・エンジン」というものらしい。筆者の手元にあるTD-9からの音源モジュールだけTD-30にリプレイスすることも可能だというが、このスゴさを完全に再現するためには新センサーが搭載された新パッドが必要になる。また、それらをすべて買い換えるような資金的余裕はないので、残念ながら見送るしかないのだが……。
なお、この高価なV-Drumだけでなく、エントリーレベルのV-Drums Liteとして新モデルHD-3が登場した。こちらはすでに発売されており、実売価格が79,800円前後というものだが、前のHD-1と比較すると、いろいろと強化されている。分かりやすいところでは、シンバルを叩いた後に手でミュートするチョーク奏法に対応したり、リムショットが可能になったりしている。またタムに布がかけられたような形になって、打音が小さくなるなど、いろいろ。設置面積は従来同様90×120cmと小さいので、狭いスペースでも利用できるのがうれしいところだ。
■ ヤマハはミキシングコンソールなどを発表。iPhoneとの連携アプリも
ヤマハ銀座スタジオで行なわれたプロオーディオ製品発表 |
ローランドがギターやドラムといった楽器を打ち出していたのに対し、ヤマハはヤマハ銀座スタジオで内覧会という形でミキシングコンソールやパワードスピーカーなど、プロオーディオ製品の発表を行なった。
今回、興味深かったのはアナログミキシングコンソールのMGP16XとMGP12X、それにデジタルミキシングコンソールのO1V96iだ。O1V96iについては、先日のInterBEEの記事でも紹介しているので、ここではMGP16X、MGP12Xにフォーカスを当ててみよう。
MGP16X | MGP16Xの背面 |
MGP12X | MGP12Xの背面 | O1V96i |
ヤマハでは、これまでもMG32/14FXやMG206C-USBなど、アナログミキサーのMGシリーズを展開してきたが、今回のMGP16X、MGP12Xは「アナログとデジタルの融合」を銘打った、新コンセプトのミキサーになっている。型番からも想像できるようにMGP16Xは16Line入力(8モノ + 4ステレオ)、MGP12Xは12Line入力(4モノ + 4ステレオ)と入力チャンネル数が主な違いであり、価格はそれぞれ標準価格が102,900円、81,900円となっている。マイク入力はそれぞれ10、6となっているが、このマイクプリアンプにはインバーテッドダーリントン回路を採用したディスクリートClass Aプリアンプ「D-PRE」を搭載している。また名機と言われるビンテージEQの特性を高精度で再現した「X-pressive EQ」、1ノブで操作可能なコンプレッサを搭載している点などがアナログとしての特徴となっている。
一方、デジタル部分としては、まずエフェクトがある。マルチエフェクターである「SPX」と、ヤマハ自慢のリバーブ「REV-X」の2つのエフェクトプロセッサーを搭載している。以前紹介したSteinbergブランドのオーディオインターフェイス、「UR28M」など、REV-Xを搭載したヤマハ製品は増えてきているが、アナログ製品に搭載されたのは今回が初めてとのことだ。
さらにユニークなのは、この「SPX」と「REV-X」の設定パラメータをエディットできる「MGP Editor」というiPhone/iPod touch用のアプリが用意されているということ。MGP16X/MGP12X本体には液晶ディスプレイなどは用意されていないが、iPhone/iPod touchでグラフィカルに直感的にエディットすることができるわけだ。この際、MGP16X/MGP12Xとの接続は本体右上に用意されたUSBポート経由でiPhone/iPod touchと接続するのだが、このUSBポートを利用することで、iPhone/iPod touchからのサウンドを送ることもできる。ここでの接続はアナログではなくデジタル接続となるので、高品位なサウンドでオーディオ伝送できるのもポイントだ。
SPXとREV-Xの設定パラメータ編集が可能なiPhone/iPod touch用アプリ「MGP Editor」 | MGP16X/MGP12Xの本体右上にあるUSBポート経由でiPhone/iPod touchと接続し、サウンドを送ることも可能 |
以上、ローランドとヤマハがNAMM Showで発表した製品のなかから、筆者個人的に気になった製品をピックアップしてみた。もちろん、この両社に限らずNAMMでは多くのメーカーからさまざまな製品が発表されているので、入手したら個別に取り上げてみたいと思う。