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J:COM BSや10月開始「NHK ONE」、次世代地デジまで。最近の放送事情振り返り

「松竹東急BS」改め、「J:COM BS」が7月1日10時より始まった

YouTubeやNetflix、Prime Videoといったインターネット動画配信の普及・拡大を受け、電波を使った“放送”に大きな変化が起きている。

衛星放送の再編から今年10月にスタートするNHKの新ネットサービス「NHK ONE」、そして規格が決まった次世代地デジ放送まで、最近の放送関連ニュースを振り返りながら状況を整理する。

衛星放送の再編(1):相次ぐ“放送終了”気付けば4Kチャンネル半減

まずは、4K8K衛星放送から。

4K8K衛星放送は、2014年からの試験放送を経て、2018年12月1日に本放送を開始。4Kは現行ハイビジョンの4倍、8Kは現行ハイビジョンの16倍という画素数を持ち、リアルに近い豊富な色域と明暗表現を可能にした映像、そして最大22.2チャンネルという立体音響を組み合わせた、総務省や事業者、関連機器メーカーら肝いりの放送サービスだった。

放送サービスの開始に合わせ、テレビやアンテナ、ケーブルを揃えた読者の方も少なくないだろうし、かくいう筆者も本放送開始に合わせてレコーダーを新調し、4Kのオリジナル番組をエアチェックして愉しんでいる視聴者の一人だ。

ただ、本放送開始から今年12月で7年を迎え、4K放送の画質も安定し(開始当初に比べるとライブエンコードの性能が大幅に改善されている)、視聴できる機器の台数が約2,300万台近くまで伸長してきた一方で、やや残念なニュースも続いている。

まず2024年3月末に、スカパー!が「J SPORTS 1/2/3/4」、「日本映画+時代劇 4K」、「スターチャンネル 4K」、「スカチャン1 4K/スカチャン2 4K」と、プレミアムサービス(光)4Kの「スカチャン1 4K」の9チャンネルを放送終了した。

そしてさらに、今年3月末には「WOWOW 4K」が、開局から4年で放送を終了した。

放送終了の理由は「利用者の伸び悩み」や「採算性」など。4K素材の確保にも苦労していたようで、放送時間の大半は2K素材からのアップコンで、ピュア4K放送はごく一部のコンテンツに限られていたのが実情だった。

とは言え、スターチャンネル 4Kでは洋画、日本映画+時代劇 4Kではディスク化や配信されていない邦画、J SPORTSではラグビーなどのスポーツ、WOWOW 4Kでは多数のオリジナルドラマやテニスなど、ほかにはない貴重な4Kコンテンツを放送していたのも事実。

日本映画+時代劇 4Kは、今でも頑張ってケーブルテレビ経由で4K放送を継続しているが、J SPORTSやWOWOWに関しては、4K放送サービスの終了で、これまで提供・制作してきた4Kコンテンツを4Kテレビ所有者が4Kのまま視聴できる機会が失われてしまった。

4Kテレビも4Kコンテンツをそのまま表示してこそ、4K本来の魅力が伝わるというもの。他の4Kチャンネルや配信など、何か別のカタチで再活用されるように願いたいところだ。

「日本映画+時代劇 4K」のホームページより。4K放送サービスの終了後も、ケーブルテレビ経由でピュア4K作品をコンスタントに提供している

なお、総務省は2023年5月、「4K8K衛星放送の普及」「周波数の有効利用の促進」を目的に、4K放送業務を行なう事業者を公募。同年11月に「ショップチャンネル4K」「OCO TV」「4K QVC」の3社を認定した。

これをうけ、「ショップチャンネル4K」「4K QVC」が今年4月1日から、従来のBS左旋からBS右旋へチャンネルを“引っ越し”して放送を開始している(「OCO TV」は引き続き準備中)。

一時は最大18もあった4Kチャンネル。数は半減したものの、既存のアンテナ設備(ハイビジョンのBSアンテナ)と4Kテレビなどの機器さえあれば、全ての4Kチャンネルが楽しめる環境にはなった(別アンテナが必要なBS左旋の4Kチャンネルが無くなった)。NHKと民放の奮闘に期待したい。

現在放送中の4K・8チャンネルは、ハイビジョンのBSアンテナで受信できる”BS右旋”で提供されている
総務省資料「衛星放送の現状[令和7年度版]」より
BS左旋を使っているのは、「NHK BS8K」のみとなった
総務省資料「衛星放送の現状[令和7年度版]」より

衛星放送の再編(2):NHKは1波削減。BS10引っ越し。松竹東急はJCOMに

ハイビジョンの衛星放送においても、チャンネルの削減や再編が続いている。

2023年12月、NHKは2011年から続けてきたハイビジョン2波体勢を変更。「BS1」は「NHK BS」へ、そして「BSプレミアム」は「BS4K」と統合するかたちで「NHK BSプレミアム4K」へと名称変更および再編した。NHK BSプレミアム4Kはこのタイミングで、1日21時間から1日24時間放送に拡大された。

日本初の映画専門有料チャンネルであるスター・チャンネルにも大きな変化があった。

2024年3月、2011年から続けてきたハイビジョン3波体勢の変更を発表。2024年5月末をもって、「スターチャンネル2」「スターチャンネル3」を終了し、6月1日から「スターチャンネル1」を新生「スターチャンネル」としてリニューアルすることを明らかにした。

さらに、2024年4月には東北新社が保有するスター・チャンネルの全株式をジャパネットブロードキャスティングが取得することをアナウンス。

そして今年1月10日、新生スターチャンネルとジャパネットブロードキャスティング運営の「BSJapanext」が、無料放送「BS10」と有料放送「BS10スターチャンネル」に統合。同じボタンポジション(ボタン「10」)で無料放送と有料放送を実施する、衛星放送史上初のハイブリッド運営をスタートさせた。

BS10では、毎週金曜18時半からと日曜10時半から“映画放送枠”を新たに用意。名作映画を無料で提供しながら、映画の魅力発信とスターチャンネルの顧客獲得にも力を入れている。

2022年3月に始まったばかりの無料チャンネル「BS松竹東急」においては、今年2月、運営事業者の親会社にあたる松竹がBS放送事業の撤退を表明した。

松竹の事業撤退を受け、BS松竹東急の6月末放送終了が決まったものの、放送終了の2週間前にJCOMがBS松竹東急の全株式を取得すると発表。7月1日からは「J:COM BS」にチャンネル名を変更し、放送継続されることになった。

現在J:COM BSは“暫定的な編成”として、1日14時間の放送を行なっているが、今年10月からは1日24時間の放送を予定。また「(JCOM)グループの力を結集し、お客様に楽しんで頂けるチャンネルにしていきたい」と、量・質ともに充実させてゆくことを案内している。10月以降のラインナップ拡充に注目したい。

ネット配信も必須業務に。10月からスタート「NHK ONE」

放送関連のニュースで特に関心を集めているのが、今年10月から本格運用が始まるNHKのネット配信業務だ。

2024年3月、放送番組の配信やニュースサイトなど、NHKが行なうインターネット活用業務を“必須業務”とすることを定めた改正放送法が閣議決定。そして、5月には国会・参議院本会議でも改正放送法が可決、成立した。

実はこれまでNHKがインターネットで提供してきたニュース情報(NHK NEWS WEB)や同時・見逃し配信(NHKプラス)などのサービスは、放送法で定められた“任意業務”の中で実施してきたもの。

これが、2024年の放送法改正によって、放送と同じ“必須業務”へと格上げ。つまり、放送法によりNHKは、テレビなどの受信設備を持たない人に向けても、インターネットを通じて、NHKの放送番組やニュース記事等を届ける業務を行なうことが義務付けられた。

NHKはこの放送法改正を受け、「テレビを設置せずにNHKのインターネット配信のみを利用する場合の受信料額を地上契約と同額とすること」や、「サービス名称を『NHK ONE』とすること」などを決定。今年10月1日からのサービス開始に向け、現在準備を進めている。

NHK ONEの具体的なサービス内容については、今夏以降に詳細が順次案内される予定だが、放送番組(総合/Eテレ)の同時配信、放送後1週間以内の見逃し配信のほか、報道・防災、教育、福祉といった番組関連情報の配信が予定されている。

こうしたサービスは、既にテレビなどの受信機器を設置し、NHKと地上もしくは衛星契約を結んでいれば、10月以降のインターネットサービスも追加費用を払うことなくすべて利用できる。

注意が必要なのは、テレビなどの受信設備を持っておらず、NHKの受信契約をしていない場合。

従来は受信契約をしていなくても、スマホやPCからWEBブラウザでNHKのニュースを閲覧したり、NHKニュース・防災アプリを利用できたが、今年10月以降はこうしたNHKのネットサービスを利用するとNHKの契約締結義務(受信料)が発生することになる。

NHKでは、ユーザーが意図せずに利用しないための誤受信防止措置として、“受信契約が必要になる旨の案内と確認”をサービス開始時に表示することをアナウンスしている。

なお、契約締結義務が発生するネットサービスは「動画配信」「ニュース(報道・防災)」のほか、学校で利用する「教育」のみ。ラジオや語学、国際放送の同時・見逃し配信は、10月以降も受信料対象外のサービスとして提供される予定だ。

NHKメディア説明会「インターネット必須業務化関連資料」より

“規格”は決まった「次世代地デジ放送」

“次世代地デジ放送”についても、伸展があった。今年3月、次世代の地デジ放送方式(地上放送高度化方式)の標準規格がARIB(電波産業会)で承認された。

次世代地デジとは、衛星放送で行なっている4K放送を地デジ放送でも実現しよう、というもの。2023年7月には仕様が決まり、2024年5月には省令・告示が改正されていた。

映像解像度は、4K/3,840×2,160と2K/1,920×1,080の2つ。フレーム周波数は60Hz、59.94Hzのプログレッシブ(インターレス不可、放送局でのIP変換)で、4K以上の解像度では120Hz、119.88Hzのハイフレームレートをサポート。表色系はSDRがBT.709/BT.2020、HDRがBT.2100(HLG/PQ)で4K8K衛星放送と同じ広色域を採用。2K/4Kともに10bit、YCbCr 4:2:0となっている。

映像圧縮には、最新の符号化方式とされる「VVC」(Versatile Video Coding、別名H.266)を採用。これにより、現在の4K8K衛星放送で使われているHEVC規格よりもビットレートを50%弱削減できる予定だ。

またVVCのマルチレイヤー技術も特徴。視聴者が“レイヤー”を選択することで個人の視聴形態に適した映像サービスが可能に。速報の字幕スーパーや緊急時のL字案内なども別レイヤーで提供されるため、メインコンテンツのみを録画することもできるようになる。

音声のサンプリング周波数は48kHzで、量子ビット数は16bit以上。音声符号化方式は「MPEG-H 3D Audio」と「AC-4」の2種類を採用。チャンネルベースに加え、オブジェクトベース音響もサポートする。

NHK技研は、上記の映像・音声データを家庭の受像機へ送信するための新しい伝送方式「ISDB-T3」の研究を進めており、2025年度中にもプログラム多重・伝送の実証実験を実施する予定だ。

なお、次世代地デジの“実用化”の時期は決まっていない。限られた周波数を有効利用する、という目的では、複数の2K/4K番組を1チャンネルに多重送信できる次世代地デジ技術は有効だが、新しい伝送方式・符号化技術に対応した受信機も必要になる。

現在のテレビや放送を取り巻く環境を考えると、次世代地デジの実用化までには、しばらく時間がかかるだろう。

阿部邦弘