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音が良くなるとホラー映画はもっと恐くなる!? 「死霊館:エンフィールド事件」

 ホラー映画は子供の頃から好きなジャンルのひとつだ。リアルで心霊現象や超常現象に出会った経験がないため、恐いもの見たさや純粋な興味もあって、スプラッター作品に多い殺人鬼が登場するタイプよりも、幽霊や悪魔憑きを題材としたオカルト色の強いものが好きだ。個人的なホラー映画の最高傑作は「エクソシスト」だと言えば、だいたいどんな嗜好かがわかるだろう。

 ところが、こうしたホラー作品を積極的に紹介したり、オーディオ&ビジュアル機器の試聴に使うことはあまり多くない。何故なら恐いから。映画が恐くて試聴どころでなくなってしまうわけだ。特に最近、もしかするとホラー作品は苦手なのかもしれないと思うようになっているほどだ。

 そう感じる原因となった作品が、「ソウ」や「インシディアス」などでも知られるジェイムズ・ワン監督による「死霊館:エンフィールド事件」だ。この作品は実話を元にしたもので、心霊研究家のエド&ロレイン・ウォーレン夫妻が関わった事件として描かれている。エド・ウォーレンはカトリック教会が唯一公認した非聖職者の悪魔研究家、妻のロレイン・ウォーレンは霊視能力や人や物に触れることでその記憶を視る能力を持つ。

死霊館:エンフィールド事件

 どちらの作品も実際にあった事件だから、映像で描かれる現象は、ポルターガイスト現象や悪魔憑きが中心で、それそのものはホラー映画好きならばもはや慣れ親しんだものと言える。しかしそれでも恐いのだから、ジェイムズ・ワン監督の手腕は見事だ。

実際にあった心霊事件を研究家の視点から描いた作品

 「死霊館:エンフィールド事件」は、冒頭は「悪魔の棲む家」として映画化もされているアミティビル事件の場面から始まる。これは、エド&ロレイン夫妻がさまざまな事件に関わっていることを示す演出で、前作の「死霊館」では、アナベル事件の様子が導入で描かれている(アナベル事件も、「アナベル 死霊館の人形」として映画化されている)。

死霊館

 このアミティビル事件の描写がいきなり恐い。エドとロレイン、そして調査に加わった面々は事件のあった家で降霊会を行う。ロレインの霊視で事件の引き金となった一家の惨殺事件を再現していくのだ。犯人と同一化してライフルで両親と家族を次々に殺していくロレイン。映像もショッキングだが、ライフルの射撃音や歩くたびにギシッと音を立てる床、ロレインを誘う子供たちの笑い声や不気味な気配が恐怖感を高めていく。そこでロレインは自らの悲惨な結末を悪魔に予告されることになる。

 作品の怖さを倍増させているのは、まちがいなく音だ。まだ若い頃、「決して一人では見ないでください」的なコピーの影響もあり、最新の映像と音響の技術を駆使すれば、一人で見られないどころか、身体に不調のある人などはショック死してしまうような作品が作れるのではないかと物騒なことを考えていたが、現代はその気があればできる表現力があると感じた。

 かなり低く伸びた低音の再現はリアルに不快な気分を感じさせるし、静かな場面で急に大音量が出るといった演出ですら、わかっていても頭よりも身体が先に反応してしまう。しかも、本作はDolby Atmos音声だ。視界の外にいるらしい子供の気配がまず耳に届き、それから視界(画面)が移動すると案の定、そこに居るという感じで、風の音や足音、なんのことはない物音ひとつひとつが恐い。心霊スポットに足を踏み入れたときのような体感を映画でも味わうことになる。何も見えないがたしかにそこに居る。しかもそれは背後だけでなく、真上だったり真下だったりする。まさに神出鬼没の幽霊を表現するとき、Dolby Atmosの立体的な音響は無類の威力を発揮する。

 アミティビル事件そのものは映画の導入でしかないので、ほんの数分の長さでしかない。しかし、掴みはバッチリで、筆者のようにビビリ(でもホラーは好き)な人だと、ちょっと一度休憩を挟もうかななどと考えてしまうはずだ。

 有名なアミティビル事件に関わったことでエドとロレインは一躍注目を浴びるが、それをイカサマだとして糾弾する科学者やマスコミも少なくなく、彼ら自身も命の危険を伴う可能性を感じ、心霊事件への関わりを避けようと考え始めているほどだ。

 そんなタイミングで、海を越えたイギリスのエンフィールドで恐るべき事件が起きていた。

最初は軽いポルターガイスト現象。だが、やがて事態は深刻に

 事件に遭遇した家族は、母ひとりと4人の兄弟姉妹。離婚した父からの養育費も滞り、生活は困窮している。そんな一家が住むメゾネットタイプのアパートで事件は起こる。夜に少年が喉の渇きのためにベッドから起き、階下のキッチンで水を飲みに行く。暗い室内を歩いていくだけの場面だが、もう恐い。寝静まった家の中は少年の足音しかしないが、不気味な音楽が静かに流れ、いかにも何かが出る雰囲気が満点だ。廊下にころがっていた救急車のオモチャを蹴ってしまい、不意に派手なサイレンの音が鳴り出すが、それさえ恐い。しかも片付けたはずの救急車が再びサイレンの音を立てながら走り寄ってくるからなお恐い。

 また、ぐっすりと寝ていたはずの少女は重い衝撃とともに目をさますが、そこは1階のリビングだった。知らずに歩き回っていたかと2階の自分の部屋へと戻るが、今度は部屋の外を重たい足音がだんだんと迫ってくる。壁越しにゆっくりとドアに近づいてくる足音の響きはかなりの圧迫感だ。定位が恐ろしいほど明瞭で一歩一歩確実にドアに近づいていることまでわかるので、これだけで心拍数が跳ね上がる。しかもこの先がもっと恐い。

 このような事件は、少女の夢遊病と思われがちで、実際に母や姉が不審な物音に気付いて部屋を見てみると、そこには少女が眠ったままよろよろと歩いていたといったことも起こる。

 だが、ことはただの夢遊病では終わらず、子供だけでなく母もポルターガイスト現象を目撃し、事態は急転する。隣家に非難し、警察を呼んで調査してもらうが、そこでも不審な物音の発生やイスがひとりでに移動する現象が発生。警察には何もできず、心霊事件として教会の神父への連絡がいく。そして、マスコミにも……。

 事件はニュースでも紹介され、調査にきた数多くの人がその現象を目撃。その一方で、他愛のない子供のいたずら、あるいは困窮した一家が金目当てで偽装したなどと事件を疑う者も現れ、事態は紛糾。そして、ニュースのための撮影時に、少女の悪魔憑き現象が発生し、その映像が記録される。

 そこで教会は調査をエド&ロレイン夫妻に依頼するというわけだ。教会としては本当に悪魔の仕業ならば一家を救わなければならないが、マスコミにより広く知られてしまっていることもあり、もしも偽装ならば教会の名誉に傷が付く。そこで聖職者ではないエドとロレインの出番というわけだ。すでに悪魔から警告を受けているふたりは気が進まなかったが、3日間の調査のみを引き受けることにする。

 このあたりが、実話ならではの面白いところで、あくまでも客観的な証拠を発見するための調査がきちんと行われていく。心霊現象が実在すると知っているエドとロレインらの研究者だけでなく、否定的な立場にいる学者なども同席している。

 それでも悪魔憑きとおぼしき現象や、施錠されているはずの一室に別室で寝ていたはずの少女が瞬間移動して泣き叫ぶなどの不可思議な事件が立て続けに起きていく。悪魔によるポルターガイスト現象はますます派手になっていくが、調査のために用意されたカメラが決定的な証拠をとらえる。それは、ポルターガイスト現象を偽装している少女の姿だった。

 家族や少女が嘘をついているようには感じられなかったが、決定的な証拠がある以上、教会は悪魔憑きを認めない。自分たちにできることはない。そう判断したエドとロレインはアメリカへ帰ろうとするのだが……。

 ここからどのように事件が解決されるのかは、本編を見てのお楽しみ。悪魔に憑かれた一家の結末が描かれるのは確かだが、それに至る過程や悪魔との対決は怖さはもちろん手に汗握るようなサスペンスもたっぷりで見応えは満点だ。映画のラストで語られる実際の一家のその後のエピソードもかなり恐いので見どころは豊富。

Dolby Atmosの威力を存分に味わうならば、ホラー作品は要注目

 筆者はDolby Atmosだからという理由で本作を先に見たが、見終わってすぐに前作を入手してこちらも存分に楽しんだし、間違いなく近い将来には「アナベル 死霊館の人形」にも手を出すだろう。悪魔が実在するものとして登場し、それと対決するストーリーが単純でつまらないというわけではないが、リアルに悪魔憑きという現象を描いていく流れは説得力も感じるし、実際に家族や関係者が残酷な結末を迎えるような派手な事件なしに映画として見応えのある内容に仕上げた手腕は見事だ。

 そして、こうした実話をベースにした作品で興味深いのが映像特典だ。「撮影の裏側」として体験者の証言なども収録されており、実話としてのエンフィールド事件についても知ることができる。未公開シーン集などもなかなかに興味深い。

 それにしても、1970年代の一般的な家庭をリアルに再現した舞台や出演者の迫真の演技など、映像もしっかりと作り込まれているが、Dolby Atmosを導入した音響はホラーにとってはかなり有効だということがよく実感できる作品だ。音響がリアルになると、頭で感じる以上に身体が正直に反応するし、巧みに構築された音響設計にも感心する。不気味な存在を感じさせる音の移動や定位だけでなく、空間を埋め尽くすような気配を感じさせるなど、Dolby Atmosのような音響の素晴らしさを見事に活用している。

 筆者は自宅のシアターでDolby Atmos環境を実現して以来、新作だけでなく昔見て恐かった旧作のホラーもよく見るが、音響がよく作り込まれた作品ほど、現在のサラウンド環境で見るとより怖さを実感できる。最近作では「貞子VS伽椰子」がDolby Atmos採用であり、その音響もなかなかによく出来ているのでおすすめ。極論を言えば、恐いと評判のホラー作品が恐くないと感じたら、システムの音を疑えと言いたいくらいだ(作品にもよるし、ホラーがまったく平気という人がいるのも確かなので、あくまでも個人の意見)。

 だから、これぞDolby Atmosという、その効果を存分に味わえる作品として本作のようなホラー作品はぜひともお薦めしたいところ。ではあるのだが、「こんなに恐くなるならDolby Atmosはいらない」とか「好きなはずのホラーが苦手になった」という人も増えてしまいそう。これでは本末転倒なのでなかなかお薦めしにくい。そんな心配もあるのだが、逆に「最近のホラーは全然恐くない。もっと怖がらせてほしい」と本心から感じている人は、ぜひとも本作をDolby Atmos環境で体験してみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。