鳥居一豊の「良作×良品」

反射を抑え艶やかな映像を。モスアイAQUOS「LC-70XL9」

黒々とした闇の「リンカーン/秘密の書」を大画面で堪能

LC-70XL9

 今回は久しぶりの薄型テレビを取り上げる。4Kテレビでもなく、フルHDの大画面テレビだ。昨年末の発売以来、かなり気になっていたシャープのAQUOS XL9シリーズ70型「LC-70XL9」だ。実売価格は50万円台後半。

 最大の特徴は蛾の目の構造を取り入れたモスアイパネルの採用。光の波長よりも短いナノ単位の微細突起を設けた表面構造が外光の光を吸収し、室内の外光の反射を抑え込んでしまう。それでいてパネルからの光はストレートに透過するため、いわゆる光沢パネルのように締まった黒や艶やかな光の再現などが両立できるというものだ。

 ここ数年の間に、各社がこぞって光沢パネルを採用し、コントラスト感の高い映像や鮮やかな色を獲得したが、シャープだけはかたくなに低反射パネルを採用してきた。それは映り込みが少なく、見やすいというメリットを考えてのこと。シャープはモスアイに関する基本的な特許を取得しており、シートは大日本印刷(DNP)に生産委託。両社で協力してテレビ向けの最適化に取り組んだ。低反射の良さにこだわるシャープにとって、待ちに待った新技術と言えるだろう。

 薄型テレビの主流のサイズは40型クラスに移行してきており、50型どころか、70や80型といった特大画面モデルが登場するなど、テレビの大画面化傾向は進んでいる。今回取り上げるLC-70XL9も、およそ57万円というとかなり高い印象だが、ほんの少し前まで70型は100万円近い価格だったわけで、ずいぶんと価格もこなれてきている。そして、テレビが大画面になるほど低反射のメリットは高まる。

LC-70XL9の正面。アルミ素材を使った細身のベゼルは上下がシルバーとなっており、スマートな印象

 70型の特大サイズは、僕の自宅どころか編集部でも容易に借りることのできるサイズではないので、今回の取材はシャープの展示ルームで行なった。広い展示室とはいえ、70型のテレビはさすがに大きい。ちょっとした窓のようなサイズだ。とはいえ、ベゼルの狭いすっきりとしたデザインということもあり、威圧感を感じるような巨大さではない。そして、すぐに気付くのが、映り込みが極めて少ないということだ。

明るめの室内で、テレビの画面を消したところ。映り込みはややアンバーがかった感じで、トーンの落ちたものとなる
従来の低反射パネル採用のGL7シリーズの映り込み。低反射パネルではあるが、こちらの方が室内の色まではっきりと映り込んでいる
モスアイパネルの映り込みの少なさを示すデモ展示。合成写真かと思うほど映り込みがない。美術品などの展示用ケースへの応用も期待されている
LC-70XL9とLC-46XL9を並べた状態。サイズは2倍近い大きさで、70型の大きさがよく実感できるだろう

 写真を見ればわかるように、モスアイパネルは決して映り込みゼロというわけではない。実際にはモスアイ技術の表面層はほとんど映り込みがないそうだが、液晶テレビの場合は液晶パネルなどがあるため、パネル自体の映り込みが見えてしまうようだ(パネルからの光はストレートに透過するため)。とはいえ、全体にアンバー調の映り込みで、一般的な薄型テレビのように鏡のごとく室内の色まで映ってしまうようなことがない。同社の低反射パネルのモデル(GL7シリーズ)と比較しても、映り込みの度合いはかなり低減されていることがわかる。

 重要なのは、室内の色の影響を受けにくい映り込みであるということと、画面に映った場合も人影はシルエット状で、顔の判別ができるほど鮮明ではないということの2点。

 この映り込みの少なさは、テレビの映像を映している状態だけでなく、電源を落とした状態でもメリットがある。不要な室内の映り込みが少ないので、テレビの存在感が少ないということ。筆者は自宅ではAV兼用のシステムで音楽鑑賞もしているが、スピーカーの間に置かれたテレビに自分がはっきり映っているというのは、あまり気分が良くない。サイズが大きくなるほど、電源オフ時の映り込みは目障りになりやすいだろう。

大画面を生かし、ネット機能も快適に使えるインターフェース

付属のリモコン。上部にダイレクト選局用の12キー、中央に十字キーがある。ボタン数は多めだが、表示も大きく視認性は良い

 簡単に本機の概要を紹介しておこう。地上デジタル×3、BS/110度CS×2のチューナーを内蔵し、外付けUSB HDDを接続すれば2番組同時録画と地デジ放送の裏番組視聴が可能。さらに約8倍相当の長時間録画も行なえる(ソフトウェアアップデートが必要)。

 画面のナビゲーションには「ビジュアルモーションガイド」を採用。テレビ番組を視聴しながら、おすすめ番組の選局や番組/動画配信/ネットの検索も行なえるナビゲーション機能、多彩な動画配信サービスなどのインターネット機能を使える「AQUOS City」を快適に操作できる。また、Android端末/iOS端末用にリモコンアプリやtwitter連携アプリ、テレビ番組で登場した商品の情報を閲覧/購入するサービスなどが提供されている。

 テレビの大画面サイズを生かすひとつの手法として、こうしたインターネット画面との同時表示は有効なものだと思う。30型台では狭苦しい印象になるが、70型だと縮小されたテレビ放送画面でも十分な大きさで、視聴しにくいということはない。

「ビジュアルモーションガイド」を表示。上段のテレビ放送画面があり、放送番組のタイトルや時間表示、天気予報なども表示される。中段は番組検索や録画番組リスト、番組表といった機能が並び、下段にインターネット機能のアイコンがある
画質調整などの各種設定では、設定項目が右脇に並び、テレビ放送は大きめの画面で表示される

大統領がヴァンパイア・ハンター!? 「リンカーン/秘密の書」

リンカーン/秘密の書 2枚組 ブルーレイ&DVD&デジタルコピー 初回生産限定

 明るい部屋でも映り込みが少ないLC-70XL9を良品に決めた段階で、ソフトはホラー作品にしようと考えていた。ホラー映画には欠かせない黒々とした闇をじっくりと堪能しようという趣向だ。もちろん、明るい部屋で。

 これは今までにはできなかった大胆な試みだ。というのも、ホラー映画の闇や影の多い場面では映り込みが特に目立ちやすく、闇の中でなにか蠢く物があるとゾッとしたのはいいが、よく見ると自分の姿だったりして興醒めになってしまうことが多いからだ。

 とはいえ、よほどのホラー映画好きでもない限り、ホラー映画を真っ暗な部屋で見るのが好きという人はあまり多くはないだろう。最近のホラー作品は観客を驚かせるための工夫もどんどん巧みになっていて、いかにもな演出や油断したところでドキッとさせる仕掛けなどが多彩だ。映画館と違って気の緩みがちな自宅だと、怖すぎると感じるものが多いのだ。

 今回も、フランシス・コッポラ監督の「ヴァージニア」や、パスカル・ロジェ監督の「トールマン」など、新作を中心に選りすぐった結果、ホラーというよりはアクション大作と言った方が似合う「リンカーン/秘密の書」に決めた。闇に溶け込むヴァンパイアとの闘いがスリリングで、薄暗い場面の見通しの良さなど、画質チェックという点でもかなり厳しいソースだったからだ。なにより、かなり荒唐無稽な設定ながらも、史実とうまく足並みを揃えた展開が実に面白かったから。

 この映画は、事前に自宅でも明るい環境で視聴し、映り込みの目立ちやすい場面をあらかじめチェックしておいてから、シャープでの視聴に臨んだ。映り込みや暗部の見通しの良さにどのくらいの違いがあるかを確かめるためだ。

画質モードは映画を選択。室内の明るさに合わせて画質を調整する

 では、さっそく視聴のための準備に入ろう。室内の明るさは展示ルームのため一般の家庭よりも明るすぎるほど。そこであえて、映画モードを選択。映画モードと言えば部屋を暗くした環境向けのものだが、LC-70XL9の場合はモスアイパネルの採用で明るい環境でも映画らしい色や雰囲気を楽しめるものとしている。シャープの映画モードは、作り手の意図を尊重した忠実志向の強いリアルな画質モードとして熟成されてきたが、その良さをそのままに、明るい部屋でより快適に映画を楽しめるようにしているわけだ。

画質モード(AVポジション)の選択画面。明るい環境ながら映画モードを選択。明るい部屋で映画らしい色や陰影が楽しめるか、も重要なチェックポイントだ

 テストディスクで部屋の明るさに合わせて画面の明るさや黒レベル、色の濃さや色合いを調整していったが、基本的な画質調整では、デフォルト設定に比べて変更を加えた点はごくわずかだった。具体的な変更箇所は、暗部の階調を出すため黒レベルを1だけ上げ、色合いは緑側に+2、色の濃さ+1、画質(シャープネスに相当)を-1としただけだ。これはもう、映像を見てもほとんど違いのわからないわずかな差だ。

 テストチャートによる調整も、元々はモニターディスプレイの特性のバラつきを抑えるためのものなので、モニターディスプレイ的な忠実度を優先した画作りになっていることが改めてよくわかった。

画質調整。写真は「映画」のデフォルト設定の状態。項目を選択すると操作ガイドが表示されるなど、親切な機能も行き届いている

 このほかの設定としては、プロ設定で倍速表示の動作を選択する「QS駆動」、映像の精細感を高める「フルハイプラス」、24コマ表示の映画ソフトなどの再生に関わる「フィルムモード」などがある。ここでは、「QS駆動」は240Hz駆動に加えてLEDバックライトの点滅を組み合わせて8倍速相当の表示を行なう「240フレッドスピード」を選択。バックライトを点滅させるため映像がやや暗くなるが、動きのキレがよく鮮明だ。

 「フルハイプラス」はデフォルトのまま「入」とした。これは、4原色液晶技術クアトロンの829万のサブピクセルを独立して制御するシステムと合わせ、より映像の精細さを高めるもの。輪郭強調などのような不自然さもなく70型の大画面でも映像の甘さを感じなかったため、これは積極的に使っていいだろう。

 最後の「フィルムモード」は、各コマを等倍で表示する「スタンダード」とした。24コマ表示由来の動きのガタつきはあるが、フィルム再生にもっとも近い質感での表示ができるもの。動きのガタつきが気になる場合は、「アドバンス(標準/強)」を選ぶといいだろう。

映像の残像感を抑えるQS駆動は「240フレッドスピード」を選択。映像はやや暗くなるものの、映像のぼやけや動きのキレの良さが際立つ
映像の精細感を高める「フルハイプラス」は、デフォルト設定の「する」のまま。輪郭の強調感もなく、すっきりと見通しの良い映像になる
「フィルムモード」は「スタンダード」を選択。「アドバンス」を選ぶと、映像の動きのガタつきをなくし、スムーズな動きになる

幼少期のリンカーン少年を襲った悲劇。すべてはここから始まる

 さっそく視聴開始。ちなみに「リンカーン/秘密の書」は、3D版も発売されているし、LC-70XL9もアクティブシャッター方式の3D表示に対応しているが、今回は映画の質感を明るい環境でどこまで堪能できるかが重要なポイントのため、2D版で視聴している。

 リンカーンのヴァンパイア・ハンターとしての師匠でもあるヘンリーの回想という形で語られる本作は、まずはリンカーンの少年時代に遡る。幼い頃の彼の母の死の場面だ。ある夜、リンカーンは母の寝所に何物かが忍び込んだことに気付く、暗がりからその様子を見る場面は淫靡なムードが漂う。暗がりのなかで男と母が絡み合っている。実際は吸血シーンであるわけで、淫靡さと不気味さが混じり合ったヴァンパイア物の定番的な演出だが、この薄暗い室内の描写がしっかりと再現される。

 まず、明るい部屋だというのに黒がしっかりと締まり、暗部の階調も豊かに再現されることに感心した。液晶テレビのコントラスト性能の進歩もあるが、それ以上に映り込みの少なさが映像の見通しの良さを高めている。実際のところ、自宅での視聴では部屋をのぞき込むリンカーン少年のカットなどは部屋の映り込みが多く、テレビ自体の陰影はしっかり再現されても映り込みがあることで、暗部が光って見づらくなってしまうのだ。白い壁が白く赤い物が赤く映らないので、映り込みはあっても思ったより映像の邪魔に感じにくい。もちろん、画面に自分の顔が鮮明に写ることもない。そのおかげで、映像の見通しがよく、細部までよく見える。これぞ、映り込みを大幅に低減したモスアイパネルの威力だ。

 謎の奇病(実際は吸血行為による衰弱)に苦しむ母の姿も生々しい。肌は青ざめ、血管が不気味に浮き上がった様子は母と言えども不気味な物に見えただろう。ヴァンパイアたちが吸血鬼化すると、こうした化け物じみた肌に変貌するが、その肌の再現も実に不気味だ。健康な白人の肌の色が青白く変貌する変化、その色の違いをしっかりと描き分ける。

 やがて成長したリンカーンは、母を殺した奴隷商人への復讐を果たしたいと考えるが、相手は化け物で、拳銃で手傷を負わせるのが精一杯で、逆に窮地に陥ってしまう。それを助けたのが、ヴァンパイア・ハンターであるヘンリーだ。そしてリンカーンは、復讐のためにヴァンパイア・ハンターとしての修行を始める。

 リンカーンが武器として使い慣れた手斧を選ぶシーンも印象的だが、闇に潜む存在である吸血鬼と戦うということをヘンリーが教えるシーンがユニークだ。ヘンリーとともに光の入らない倉庫に入るのだが、その闇の中でリンカーンは簡単にノックアウトされてしまう。その描写は言ってしまえばただの黒画面である。

 演出としては面白い。暗転して何も情報が得られないなか立て続けに打撃音が続き、打ちのめされた姿のリンカーンが現れる。観客自身がリンカーンの気分になれる場面だ。まずいのは、これが明るい部屋だと、注視した画面に自室が映ってしまい、映画の世界から現実に引き戻されてしまうことになる。ここがかなり肝心な場面だと思い、暗転の最中にじっくりと映り込みを確認したが、多少の映り込みはあるものの、自分自身が鮮明に映ってしまうほどではない。アンバー調のぼやっとした映り込みだけなので、あまり気にならないという良さも感じた。かなり明るめの室内でこれならば、一般の家庭ではほとんど影響がないだろう。

 こうした修行を経て、ヴァンパイア・ハンターとして一人前になったリンカーンは、弁護士の勉強のためという名目で、スプリングフィールドで下宿生活をはじめ、夜になると吸血鬼狩りをする二重生活が始まる。

 ここでの、数々のヴァンパイアとの対決は序盤の見せ場だが、この頃になると部屋が明るいことや映り込みなどまったく気にせず、映像に没入してしまっていた。画面に邪魔なものが映らないということが、どれほど大事なことかを改めて気付かされた気分だ。

 それにしてもコントラスト感の高さには感心させられる。部屋が明るいこともあって、シネスコサイズの上下の黒帯の黒浮きもまったく気にならないし、深く締まった黒になっている。この感じは、自室で部屋を真っ暗にしているときとほぼ同様の感覚だ。

妻メアリーとの出会いの場面を「映画クラシック」で

 このころ、リンカーンは後に妻となる女性メアリーと出会い、恋に落ちる。南北戦争の引き金となる奴隷問題や、自身の政治家への転身など、物語も盛り上がっていく場面を、「映画クラシック」に切り換えてみた。「映画クラシック」は、古き良き映画を上映当時の映画館の雰囲気で楽しめるような演出を加えたもので、忠実度の高い「映画」と対になる楽しんで映画を鑑賞するモードだ。

 大きな違いとしては、色温度として低(キセノン)と低(カーボンアーク)が選べる。キセノンは色温度6500ケルビンほどの映画館と同じ基準のものだが、カーボンアークは色温度5500ケルビンとさらに低くなる。さらに、当時のカーボンアーク灯らしい演出として、ランプの明るさが不規則に変化する「ランプゆらぎ」、当時の映写機のような「シャッター効果」(シャッター開閉による映像のチラつきの付加)などの調整が行なえるようになる。映写機などの技術が劣っていた時代の映像を再現するものなので、調整値最大ではチラつきや明るさの変化が目立って見づらいが、適度にこうした演出を加えると、なかなか雰囲気のある映像になる。

 本作は、リンカーン大統領の伝記的な側面も持つが、特に映像を古びさせるような演出をせず、最新の映画らしい精細で緻密な映像だ。そこに、「映画クラシック」の演出が加わると、なかなかに昔の記録映画的な味わいが加わって、奇想天外なようでいて巧みに史実通りに展開しているドラマに妙な説得力を感じてしまう。

 リンカーンとメアリーの心の交流やデートの場面もロマンチックな雰囲気がよく出ていて、なかなかに楽しい。「映画クラシック」モードは、古い映画向きの機能ではあるが、昔の時代を描いた作品などとの相性は良さそうだ。こんな楽しみ方ができるのも、明るい環境で見ている気軽さがあるからだろう。少なくとも僕の場合は、部屋の照明を落とすと「映画をじっくり見るぞ!」というスイッチが入ってしまい、遊び心を許容する幅が狭くなりがちだ。そんな状態では「映画クラシック」を試そうという気にはなりにくいかもしれない。

ストレートでヌケの良いサウンド。サラウンド再生もなかなか効果あり

 物語はさらに進行し、リンカーンは大統領に就任。奴隷問題で対立を深める南北の問題もさらに加熱してきている。しかも、この奴隷問題でも吸血鬼が大きく関わっていると知るや、リンカーンは奴隷解放を強く主張する。

 南北戦争が始まると、映画はさらにアクション色を強めていくが、ここでLC-70XL9の音について触れたい。本機は、独立したキャビネットを供えた2.1chスピーカーを内蔵しており、「新・AudioEngine」により周波数特性や位相の乱れを補正している。もちろん、本格的な5.1chのスピーカーシステムと比べるには力不足を感じるが、テレビ内蔵スピーカーとしては、かなりよく出来たものとなっている。

 スピーカーはきちんと開口部を前に開けているため、音の出方がストレートだ。最新の薄型テレビで多い下向きのスピーカーの場合、音がラックなどに反射してから耳に入るため、ヌケのわるいこもりがちな音になることが少なくないのだ。それに比べて、XL9では音がクリアでセリフも鮮明に聴こえるし、サブウーファのおかげで声の力強さもある。低音自体も無理に低音感を欲張ってはおらず、モコモコとした不鮮明なだけの低音になっていない。そのため、南北戦争での大砲の砲撃なども絶対的な迫力などは不足するものの、案外着弾した砲弾の力強い衝撃などがよく感じられる。騎馬兵の馬の蹄の音もそれらしい。

 また、バーチャル・サラウンドもなかなか効果があった。左右の広がりが拡大されるだけでなく、後方の音もそれなりに感じられ、包み込まれるような音場感がある。いろいろと試してみると、画面のど真ん中の位置が一番サラウンド効果が得られた。十分な効果が得られるのは画面の真ん中よりに2人で並ぶくらいが理想的。バーチャル・サラウンドはサービスエリアが狭いのが弱点と言えるので、このあたりは仕方のないところだ。

 70型というサイズでもあるし、家族みんなで楽しむというならば、5.1chシステムの追加を検討した方が、全員で豊かなサラウンド音場を楽しめるだろう。

吸血鬼の弱点である銀製品の輝きがクライマックスを盛り上げる

 いよいよ物語はクライマックスだ。有名なゲティスバーグの闘いは、ヴァンパイア軍団を要する南軍と、普通の人間による北軍の死闘となる。史実でも、砲弾や物資を確保するために、市民から食器や金属器を供出させているが、本作の場合は吸血鬼に対抗しうる銀製品をかき集め、銀の銃剣や砲弾を作り出す。

 そうした物資をゲティスバーグへと届けるため、リンカーンらは蒸気機関車で運搬をするが、当然、ヴァンパイアたちも黙ってはいない。列車内、列車上で人間とヴァンパイアの闘いが繰り広げられる。

 本作は3D制作されているので、2Dで見ても3Dらしい飛び出し感を感じる描写が多いことに気付くが、LC-70XL9では2Dで見ていてもなかなかの高さ感やリンカーンが振るう手斧など、目の前に迫るような立体感を味わえた。今回は画面の高さのほぼ2倍ほどの距離で視聴しているが、比較的近めの距離でも画素感が気になることもなく、十分に精細な映像を楽しめた。

 僕自身は、4K映像の高精細さや緻密な映像に期待しているし、なんとか自宅でも4K環境を実現しようと思っているが、LC-70XL9を見ていると「これで十分なのでは?」と、矛盾した感想も持ってしまう。4K映像のように画面の高さの1.5倍などという近接視聴は無理だとしても、気軽に映画やテレビ放送を楽しむ一般的なテレビの使い方では近接視聴にこだわる必要もない。言うならば、4Kテレビは映画を本気で楽しみたいとか、気軽さよりも映画の世界に没入することを優先するような趣味的な使い方をする人のためのもので、少なくとも今は誰もが買う必要があるわけでもないだろう。

 現実的な話としても、リビングに置くテレビとして無理に50型の4Kテレビを選ぶくらいならば、70型のフルHDテレビの方が満足度は高いと思う。家に入るかどうかという問題はあるが、エレベーターが狭いマンションなど運搬の問題を別にすれば、60型や70型の搬入が問題になることはほとんどないそうだ。

 闘いの終末では、当然ながら銀製品が大活躍する。金属の質感では、黄金などの表現が重視されるが、銀のそれらしい輝きもなかなか難しいもので、ピカピカに光ってしまえば、ステンレスと違いがわかりにくくなる。鈍い輝きというか、派手すぎずに光る感じが欲しい。本作のような暗いシーンの多い映画の場合、液晶テレビでは暗室で黒浮きを抑えるために画面を暗くすることが多いが、そうすると輝き感が失われがちだ。その点、LC-70XL9での視聴は明るい環境に合わせて画面も十分に明るいから、銀のそれらしいリアルな輝きもしっかりと表現される。闇の暗さと金属の輝きの両方を高いレベルで再現できる薄型テレビは少ない。モスアイパネルを得たことで、LC-70XL9は映像表現においてもかなりのレベルに到達したと言えると思う。

映画の楽しみを気軽に。選ぶなら、ワンサイズ上がおすすめ

 シャープの展示ルームをお借りしての視聴ということもあり、当日は要所だけを確認して手短に済ませようとも思っていたのだが、実際にはきっちりと通して本編をすべて視聴させてもらった。視聴を開始してすぐに、映画に夢中になってしまったのだ。

 普通の明るい空間で、ここまで映画に浸れたのは珍しい経験だ。部屋を暗くするのは、余計な視覚情報を制限して映画に没入しやすくするためでもある。明るい部屋の視聴でこれができたのは大画面の効果も大きいが、映り込みが少なく暗部もしっかりと再現できるモスアイパネルの威力だろう。金属の光沢感もしっかりと再現できるクリアな映像や、忠実感があり、しかも豊かな色の再現など、満足度の高い視聴だった。

 実際に使ってみて感じたのは、生活に支障のない範囲で部屋の明るさを調節できるとなお良いということ。展示ルームのように明るすぎる環境だと、映り込みは多少出てしまうので、少しだけ明るさを絞れる照明があると便利だろう。部屋の明るさを適正に合わせられれば、映り込みはほぼゼロの映像が楽しめるわけで、さらに没入度は高まるはず。

 そうした照明に最適なのがLED電灯だろう。最近はリモコンで調光できるものがあるし、昼白色や電球色など、調色機能を持つものもある。夜などのリラックスしたいひとときには、眩しい照明ではなく落ち着ける暖色の灯りの方が心地良いだろうし、そんな快適な環境で本格的な表現力を持った映像でテレビを楽しめるのはなかなか豊かな暮らしだろう。

 また、XL9シリーズは最大80型まであるが、46/52/60型も選択可能だ。明るいリビングで快適に映画や高品位なソフトを楽しみたい人にとって、XL9シリーズは最有力の候補となるはず。サイズが小さくなるほど価格的にもお手頃になるが、ここはあえて、目当てのサイズのひとつ上をオススメしておきたい。本機の良さはより大きなサイズほど体感できると思うからだ。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。