鳥居一豊の「良作×良品」
「ガルパンはいいぞ」。ヤマハの全部入りスピーカー「NX-N500」のハイレゾ体験
(2016/1/26 10:00)
今回の良作は、大ヒット上映中の「ガールズ&パンツァー 劇場版」のオリジナルサウンドトラック。劇場版は年明け早々に興行収入8億円を、14日には9億円も突破。また、1月9日からは上映館も増加するなど、快進撃が続いている。もちろん、本編の内容についてはほとんど触れない。一言で語るならば「ガルパンはいいぞ」。
満場の映画館が苦手な筆者は、混雑しがちな大ヒット作品ほど1回の劇場鑑賞で満足したことにして、BDなどの発売を楽しみに待つのが常。だが「ガールズ&パンツァー 劇場版」についてはすでに複数回足を運んでおり、立川シネマシティの名物である「極上爆音上映」まで体感している始末。こうして原稿を書いている現在も、ちょっと仕事にすき間ができると立川シネマシティの上映スケジュールを覗いてしまいがち。あと数回は足を運ぶことになりそうだ。
劇場版のサントラは、昨年11月18日に劇場公開に発売されたが、CDだけでなくハイレゾ版も同時に配信開始されている。今回はその96kHz/32bit版を取り上げたい。
業務用機をベースとした音質重視のアクティブスピーカー
それに組み合わせる良品には、ヤマハの「NX-N500」(実売価格92,880円)を選んだ。本機は単なるパワーアンプ内蔵のアクティブスピーカーではなく、Wi-Fi内蔵のネットワーク機能とUSB DAC機能を備えたオールインワンタイプのスピーカーだ。
音源を保存したNASやサーバーとなるPCなどがあれば、NX-N500だけでDLNA再生によるネットワーク再生が可能だ。ネットワーク機能としては、vTuner、radiko.jpに対応するインターネットラジオ、対応したヤマハのWi-Fi機能内蔵モデルと連携して複数の機器の操作や音楽の共有ができる「MusicCast」、Bluetoothによるスマホなどとのワイヤレス再生機能を備える。見た目は普通のブックシェルフスピーカーだが、デジタル音源の再生のための機能が一通り盛り込まれているのだ。
PCと組み合わせてUSB DAC内蔵スピーカーとして使ってもいいし、光デジタル音声入力を使ってテレビと組み合わせることもできる。もちろん、ネットワーク機能でDLNA再生やBluetoothスピーカーとして使うなど、多彩な使い方に対応する。しかも、見た目はスピーカーだけで完結しているので、構成は極めてシンプル。ゴテゴテとオーディオ機器を置きたくない人にも魅力的だろう。
スピーカーとしては170×238.6×285mm(幅×奥行き×高さ、左スピーカー)と、標準的な2ウェイスピーカーと変わらないサイズ。いわゆるアクティブスピーカーというと、ノートPCなどと一緒に机の上において手軽に音楽再生などができるようにもっと小さなサイズとなることが多い。実際、もう少し小さなサイズのモデルが欲しいと感じる人も少なくないだろう。
アクティブスピーカーは、民生用のコンパクトなスピーカーだけでなく、業務用のモニタースピーカーにも、かなり普及している。本機は後者のタイプで、ヤマハの業務用モデルがベースとなっており、エンクロージャーや駆動のためのアンプはほぼ共通。つまり、業務用モニターをベースに、ネットワークやUSB DAC機能を盛り込み、民生用として音質をチューニングして完成したのが、NX-N500なのだ。
ヤマハもこうしたオールインワン型のアクティブスピーカーは初挑戦なので、今は市場の反響を探っている状態のようだ。本機のコンセプトが好評ならば、リビング向けの木目調やホワイトのカラーモデルや、デスクトップで使いやすい、もう少し小さなモデルも登場するかもしれない。重厚長大なオーディオがもてはやされる時代は終わったと、筆者自身ひしひしと感じているので、こうした本格的だがシンプルに楽しめるオーディオ機器にはぜひとも注目してほしいし、それだけの価値が本機にはある。
業務用モニターをベースとするため、外観はやや無骨。サイズが大きめなのも、スタジオモニターとして十分な性能を備えるためというわけだ。そのエンクロージャーも、厚みのあるMDF材を使用しヤマハ伝統の三方留め構造を採用するなど、強固な構造となっており、作りは本格派。使用するユニットは、同社のピュアオーディオ用スピーカーと同じく、New A-PMD振動板採用の13cmウーファーと、40kHzまでの広帯域化を実現した30mmのソフトドームトゥイーターとしている。
パワーアンプは、ウーファー用とトゥイーター用が独立したバイアンプ構成で、デジタルアンプではなく、アナログ方式パワーアンプとしている。しかも左右のスピーカーそれぞれに独立してアンプが内蔵されている。ベースが業務用スピーカーだから当然だが、音質を最優先した設計だ。
デジタル系の回路は、DACチップにESSの「ES9012K2M」を採用。USB接続時には、DSD最大5.6MHz、リニアPCM最大384kHz/32bitに対応する。それ以外のネットワーク接続時や光デジタル入力時は最大192kHz/24bit、DSD非対応となる。
業務用モデルがベースということもあり、接続はやや手間がかかる
さっそく、お借りした取材機を我が家の試聴室にセッティング。左右のスピーカーの両方にアンプが内蔵されるので、電源は2つ必要になる。そして、ちょっと驚くのが左右のスピーカーの配線で、XLRケーブルでバランス伝送となっている。左右独立のアンプ構成だけでなく、DACチップの信号出力からの信号経路もバランス伝送になっているのだ。バランス伝送は業務用機では標準的に使われるが、ノイズの影響が少ないため音質的にも有利で、高級オーディオでは欠かせない入出力端子だ。ちなみに、バランスケーブルは3mのものが付属しているので、新規に購入する必要はない。
また、これに加えて制御信号などの伝送用としてL-R LINKケーブルの接続も必要。この端子形状はネットワークケーブルと同じもので、こちらもケーブルが付属している。電源コードが2本必要なことに加え、配線は少々手間がかかる。
一通り配線が完了したら、ネットワーク接続のための設定を行う。左側スピーカーの背面に主電源スイッチをはじめとする最小単位の操作ボタンがあるが、これらの基本操作はリモコンでも行える。ネットワーク接続もWPS(ネットワーク簡単設定)に対応した無線LANルータなどならば、リモコン操作だけで行える。
問題はルータがWPSなどに対応していない場合。このときはiPhoneやAndroid用アプリの「MusicCast CONTROLLER」を使い、アプリの画面に従って操作すれば、簡単に設定できる。
このアプリは、ネットワーク再生時にサーバーにある楽曲のブラウズや音楽再生操作はもちろん、入力切り替えや音量調整なども可能。日常的な操作も快適に行えるので、ユーザーならダウンロードしておくといいだろう。
スピーカーにネットワーク再生機能を盛り込んでしまうと、ネットワーク設定はもちろん、サーバーの楽曲の検索などがやりづらくなると思うが、スマホアプリと連携することで、設定や操作は実に簡単だった。このあたりは実に使いやすくできている。
いよいよ試聴開始! 編成をグレードアップした楽曲が96kHz/32bitで鮮明に蘇る
TVシリーズやOVAはもちろん、TVシリーズのサントラもさんざん聴いていたという熱心なファンならば、劇場版を見たときに砲撃音の迫力に圧倒されただけでなく、劇伴の音の良さにもすぐに気付いたはずだ。筆者は、劇場で見てすぐにe-onkyo musicで購入した(税込3,456円)が、同じように即購入した人も少なくないはず。
「ガルパン」のTVシリーズ版のサントラは、CDだけでなくハイレゾ配信でも好セールスを記録したもの。さらに「ラブライブ!」などのタイトルの大ヒットでハイレゾのアニメソングが注目された。現在のかなり数のアニメソングがハイレゾ音源として配信される状況を作ったきっかけだと思っている。
素晴らしいのは、劇場版サントラのリリースがCD発売と同日、しかも劇場公開初日(2015年11月21日)よりも前の11月18日だったこと。CDリリースが先行し、時間をおいてからハイレゾ配信される場合が多いが、ガルパン劇場版のサントラはCDとハイレゾ同日リリース。映画本編を見て、その日のうちにハイレゾ盤のサントラで作品の興奮と感動を反芻できるのは実にありがたい。感激もひとしおだ。これは、TVシリーズのサントラのハイレゾ盤が好セールスを記録したことへの感謝の表れと思える。
しかも、劇伴の曲はすべてが新録音。「戦車行進曲! パンツァーフォー!」など、TVシリーズで聴き慣れた曲もすべて新録だ。しかも録音時の楽曲の編成はTVシリーズのものとくらべて、編成が大幅に拡大されていて、しかも編成に合わせた新アレンジがほどこされている。しかも録音は、96kHz/32bit。e-onkyo musicでの配信でも、96kHz/32bit(WAV)が用意されている。今回の試聴でも、使用した音源は96kHz/32bitのものだ。
ひとつ注意したいのは、32bit音源は対応するネットワークプレーヤーやUSB DACが多くはないこと。PCと接続して再生するUSB DAC機能での場合、PC側の音楽再生ソフトの設定でダウンコンバート出力とすれば再生はできる。しかし、NASからの生のデジタルデータを受け取るネットワーク再生の場合、サポートしていないサンプリング周波数や量子化bit数の楽曲は、「対応していない形式です」という感じで再生できないことになる。
個人的にはガルパン劇場版サントラのハイレゾ盤は、32bit盤で聴いてほしいと思うが、手持ちのシステムが32bit音源に対応していない場合は、同時に配信されている96kHz/24bit(WAV、FLAC)を選ぶようにしよう。
NX-N500の場合は、最初に紹介した通り、USB入力での再生ならば最大384kHz/32bitに対応する。そのため、この試聴では自宅のPCとのUSB接続で行なうことにした。USB接続では、Windowsの場合は専用のドライバーを入手する必要がある。これは、ヤマハの製品紹介のページの「サポート」にドライバーダウンロードのリンクがあるので、そこからダウンロードする。
ちなみにドライバーはWindows 7/8/8.1用となっている。1月26日現在、メーカーの公式サポートはないが、Windows 10にアップグレードした自宅のPCでも問題なく動作した。再生ソフトはfoobar2000を使用している。
さっそく聴いてみよう。1曲目の「劇場版・戦車道行進曲! パンツァーフォー!」(劇場版用に新アレンジで録音された既存曲は頭に「劇場版」とつく)は、冒頭で流れる曲でもあり、劇場で新録音であることがはっきりと気付くであろう曲。基本的なメロディに大きな違いはないが、楽器の数が増えているし、録音自体もその方向性が変わっている。
大きな違いとしては、TVシリーズのサントラが個々の楽器の音をオンマイクで収録したような残響を最小限とした録音だったのに対し、劇場版のサントラでは残響が長めに含まれている。ブラスバンド(実際の編成はブラスバンドではなく弦楽器を加えたオーケストラ編成に近いがあえてブラスバンドと表記する)全体の音の厚みがあり、演奏のスケール感が濃厚に感じられるものになっている。どちらかというと、屋外で生のブラスバンド演奏を聴いているような雰囲気を感じさせる録音だ。
劇伴として考えた場合、個々の音をよりクリアに収録するか、生演奏に近いステージ感を重視するかは作品によって変わると思う。だが、ガルパンの場合は基本的に舞台は屋外、しかも戦車戦が行なわれる広大な土地である。だから、劇伴も広い屋外ステージで聴くような響き成分たっぷりの録音が相性も良いと思う。
残響が多いといっても、ホール感はあるけれども個々の楽器の音が渾然一体となってしまうようなことはなく、楽器の響きやブラスバンド全体が音を出したときの空間の広がりは豊かだが、個々の音も粒立ちよく再現されるよいバランスだ。これが、32bit音源をおすすめする理由で、楽器の出音の勢いの良さ、余韻を残して消えていく響きの推移がとてもきれいに再現される。32bitなどの量子化bit数は音の大小の変化の階調が細かくなるわけで、微小な音の再現やトランペットなどの管楽器がパッと音を出すときの勢いの良さがより鮮明になると感じた。
そして、NX-N500の鳴り方も実に良い。芯の通った力強い音で、解像感の高さと音の厚みがバランスした鳴り方が実にパワフルだ。どちらかというとヤマハのスピーカーは中高域の美しい鳴り方や女性的な繊細さに特徴があると感じるが、本機は分厚い低音が際立った男性的な鳴り方をする。ここも、もともとが業務用のモニタースピーカーであることが影響していると感じる。大口径とは言えない13cmウーファーだが、出音の勢いやエネルギー感がしっかりしており、音域の伸びもかなりがんばっているので、不満は感じない。コントラバスの太い弦の音色やドラムや大太鼓のズシンと響く音もしっかりと出ている。
2曲目の「Enter Enter MISSIONです!」は、TVシリーズのエンディング曲のブラスバンドアレンジだが、コケティッシュな魅力の曲のイメージはそのままに快活で楽しげな曲になっている。サビの部分の盛り上がりはまさに「高揚感」という言葉がぴったりなイメージで、多くの人に愛されそうな曲だ。低音を担当する金管楽器のチューバやリズムを刻む打楽器などの低音が力強くなり、可愛らしさだけでなく、戦車を駆る女の子たちのパワフルさが良く出た演奏にも感心する。このあたりは、大型スピーカーで聴くとなかなか壮大なスケール感が味わえるが、NX-N500の健闘ぶりもなかなかのもの。標準的なサイズのブックシェルフ型とは思えない、弾力感のある充実した低音を聴かせてくれた。このあたりは、最適に設計されたバイアンプ駆動のパワーアンプの賜物だと思うが、これだけ鳴りっぷりが良いのにエンクロージャーが振動して音を濁らせてしまうようなことがなく、低音の解像感もしっかりとしている。思い切り鳴らしているときにエンクロージャーに手を触れてみても、その振動はわずかしかなく、エンクロジャーが強固に組み立てられていることが実感できる。
反面、その鳴りっぷりの良さのため、スピーカーを置く台もしっかりしたものが必要だろう。試しにテレビ用のAVラックに置いてみると、共振でラックの方が振動してしまいがち。机の上やラックに置く場合は、スピーカーの下にインシュレーターなどを敷いて振動対策をしてやるといいだろう。
2mほどの間隔の設置で本領を発揮。1m強の距離は確保したい。
ここからは、内容のネタバレを避けるため、一気に曲を飛ばしていく。聴いたのは、17曲目の「学園十色です!」。TVシリーズで登場した各校のイメージ曲をメドレーでつないだものだ。ストーリー上でも一番ワクワクさせられるシーンで使われる曲と紹介しておこう。個人的には、メドレーの中にアンツィオ高校のテーマである「フニクリ・フニクラ」が加わっているのがお気に入り。OVAでも「フニクリ・フニクラ」などいくつかの曲が新録されているのだが、残念ながらサントラには収録されていなかった。そんな理由もあり、メドレーの短いフレーズながらも「調子に乗ると手強い」連中の明朗快活な曲が新録で聴けたのがうれしかった。
この曲のポイントは、冒頭の「パンツァー・リート」は音量的にやや控えめになっているが、「リパブリック賛歌」、「カチューシャ」……と続いていくうちに、だんだんと盛り上がってくるところ。「冬の進軍」は原曲の歌詞の悲愴さをみじんも感じさせないほど勇壮な行進曲となっていて、最後は「戦車道行進曲」へとつながっていく。この盛り上がりは、まさに本編そのまま。この胸が熱くなってくるような感じを存分に味わいたい。NX-N500は鳴りっぷりが良いだけでなく、音量を抑えていても音が痩せるようなことはなく、最初の抑えた感じから次第に盛り上がってくる様子をしっかりと再現。小さな音もしっかりと鳴らすので、音量的なダイナミックさがしっかりと出るのだ。
ここで、スピーカーの間隔をいろいろと試した結果についての印象に触れておこう。試聴では、普通のオーディオ用スピーカーを聴くのと同じく、2mほどの間隔で聴いているが、PCとUSB接続で使用する場合は机の上に置いてニアフィールドモニター的に使う人もいるだろう。または光デジタル入力を使って薄型テレビと組み合わせて使う人もいると思う。
というわけで、PCの両側に置くような1m以下(試聴では50cmほどの間隔)、1m強の間隔でも聴いてみた。試聴距離はスピーカーの間隔に合わせて座る位置も移動している。1m強の間隔では、やや音の広がりやスケール感がやや小さくはなるが、持ち味である生き生きと力強い鳴り方はほぼ遜色がない。1m以下の短い間隔になるとちょっと音場感がごちゃっとした感じになってしまう。試聴距離が近いため個々の音はきちんと聴き取れるのだが、せっかくの広々とした場所で演奏しているような残響を活かした録音なのに、スケール感がこぢんまりとしてしまう。音の響きもたくさんの楽器が重なった厚みはあるが、少々混濁した感じになる。そこが惜しい。スピーカーのサイズもそれなりに大きいので、スピーカーの間隔は1mくらいは確保したいと感じた。
続いては、20曲目の「ジェロニモです!」。これは曲だけを聴いたら、どうしていきりなり西部劇!? と思ってしまうような曲。弦のメロディーとキレのいい金管と打楽器が組み合わさって、スピード感のある爽快な曲になっている。このキレ味が実によく出る。NX-N500の音はパワフルでダイナミックレンジの広い再現が特徴的だが、音の瞬発力というか、出音の勢いの良さも大きな魅力。音のスピードが速く、低音も遅れないので、リズムのキレの良さがしっかりと出る。だから、楽曲のスピード感がよく出て、本編の映像がよく浮かぶ。今のところは劇場に足を運べばいいが、いずれ訪れる円盤(BDビデオ)待ちの時期になったとき、こうした再現ができるモデルを使っていると、本編が見られない飢餓感を慰めるのにおおいに役立つはず。
クライマックスの曲では、劇場版のためにスケールアップした演奏を改めて実感。
24曲目の「長距離砲です!」は、これまでの劇伴の曲と比べて緊迫度を増した曲調となっている。休止符をはさみ、ためをきかせたイントロも緊迫感満点。スパっと音が出て、スっと音が消えるトランジェントの良さもあって、スリル満点の再現だ。この曲を聴いて絶望を感じるくらいでないと、本編の当該シーンの凄さが色褪せてしまう。
ガルパンの劇伴は、戦車戦とはいえ安全に配慮したスポーツ競技なので過度にシリアスになりすぎないようにとのオーダーがあったという。そのオーダーは劇場版でも受け継がれているが、終盤に使われるこれらの曲ではその縛りも多少緩めているようで、なかなかにシリアスな曲が続いていく。危機感をあおりつつも、悲愴な感じにはしない絶妙なバランス感には改めて感心する。
TVシリーズのヒットから劇場版へステップアップする流れは、現在のアニメではわりと多いパターンだ。だが、作品のクオリティとしてはTVシリーズそのままという感じのものが多いと個人的には感じている。オーディオ的にはサラウンド化されて臨場感が増す良さもあるが、オリジナル劇場公開作品のような時間もコストもかけたぜいたくな作りを感じられるものは少ないと思う。
ところが、本作はTVシリーズ完結から3年近い時間をかけて劇場版が制作されており、質、量ともにまさに劇場版と言えるぜいたくな作りになっていたことが素晴らしい。待たされることが多い作品だが、待ったぶんだけ価値のあるものを提供してくれることが魅力で、劇場版はそれをさらにスケールアップして実感できる。音響だけでも語りたいことは山のようにあるが、劇伴がここまでグレードアップして新録されたというのはあまり例がないと思う。96kHz/32bit録音を行なったことといい、編成をさらに増やしているなど、どちらかというと軽視されがちな映像コンテンツの「音」に気合いを入れて磨き上げた作品に出会うと、本当にうれしくなる。
最後は、一番好きな「劇場版・緊迫する戦況です!」
28曲目の「劇場版・緊迫する戦況です!」は、ガルパンの劇伴で自分が一番好きな曲だ。その理由は言うまでもないだろう。TVシリーズでも西住姉妹が一騎打ちの最終決戦を行うクライマックスで使われた曲だし、劇場版本編でも……(以下自粛)。この曲は編曲も大胆に行なわれていて、緊迫度も高まっているし、息詰まる戦車戦の緊張感とそれゆえのカッコ良さが前面にあふれている。金管楽器主体の勇壮なメロディーと弦主体の緊迫したメロディーが交互に入れ代わる曲の構成にも痺れる。
繰り返しになってしまうが、音の立ち上がりや立ち下がりがキレ味よく再現できるスピーカーだと、こうした曲調の変化がしっかりと出て、実に表現力が豊かになる。最近のスピーカーは情報量の豊かさや音色の忠実感などが優れたモデルが増えて、お買い得度の高いモデルが多いのはうれしいが、なかなかこうした表現の豊かなモデルは多くはない。NX-N500は音色的には力強い低音に支えられたパワフルな再生をするタイプだが、女性ボーカルのバラードをしっとりと聴きたい人にはおすすめしにくいということにはならない。それは曲の力感の大小や間のとり方などを正確に再現できる表現力があるため、どんなジャンルでも幅広くカバーできるのだ。モニタースピーカーとしては正統派の音作りだが、忠実度を追求して生真面目になってしまうようなこともない、バランスの良い音のまとめ方も美点だと思う。
ガルパン劇場版のサントラは、ハイレゾ盤も発売以来ランキングの上位に常駐しており、サントラとしての出来の良さ、楽曲や演奏の素晴らしさ、その音質の優秀さも多くの人が認めているはずだ。自分は当分、オーディオ機器の試聴曲としてこの音源を使用すると思うし、自分の好きな曲がいろいろなオーディオ機器でそれまでの印象とは違う鳴り方をすることを発見するのがとても楽しい。こうなると、つぎつぎに新しいオーディオ製品を食指を伸ばしていくオーディオ沼にはまった状態になるが、茨の道なのでおすすめはしない。もしもその一歩手前で自制できる人ならば、手持ちのオーディオでハイレゾ盤を堪能してから、ヤマハのNX-N500で劇場の音が蘇ったような興奮を体験してもらいたい。
ちょっと話はそれるが、筆者は個人的に円盤の発売までに立川のシネマシティで文字通りに体も心も震えた「極上の爆音」を自宅で再現するため、サブウーファーのグレードアップだけでも行ないたいと考えている。オーディオ沼に引きずり込む意図はないが、読者のみなさんにも手持ちの機器のグレードアップをおすすめしたい。デスクトップのコンパクトなアクティブスピーカーからのグレードアップならば、NX-N500はちょうどいいモデルだ。こうした優れたコンテンツが登場したときこそ、システムのグレードアップの好機だと思う。
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『ガールズ&パンツァー 劇場版』オリジナルサウンドトラック) |