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“新世代画質”を引き出すために。有機EL時代のテレビ選び新常識

 東芝が有機EL REGZA「X910シリーズ」を発売開始し、これまで唯一の有機ELテレビメーカーであったLGエレクトロニクスも2017年モデルに一新、3シリーズ展開を開始した。さらに、パナソニックやソニーも有機ELテレビを海外発表済みで、国内投入を明言しており、「テレビのプレミアムモデルは有機EL」という流れができつつある。2017年は「有機ELテレビ元年」となりそうな状況だ。

東芝REGZA「65X910」

 次世代のディスプレイパネルとして、期待されてきた有機ELには、コントラスト表現力、高い応答速度など、液晶と比べると画質面で様々な優位性がある。だからこそ各社のハイエンドクラスのテレビが有機ELとなっている。

LG OLED 65W7P

 一方で、まだ新しいデバイスということもあり、その実力を存分に発揮するためには、液晶とは違った配慮や工夫が必要になることもある。有機ELテレビの普及を前に、購入時や購入後の注意点をにまとめた。

ディスプレイパネルが違うと、テレビの活用法が変わる?

 有機ELテレビは、画素そのものが発光する「自発光」方式を採用している。様々な利点があるが、特筆すべきは、画素ごとに明るさを制御でき、漆黒の”黒”を表現できるという点だ。液晶は、画素そのものではなく、LEDバックライトなどの別の光源からカラーフィルターを通して色を作り出すため、黒の表示が難しい。バックライトの光が漏れて黒が白く浮いてしまう「黒浮き」と呼ばれる現象は、液晶方式ならではの課題だ。映像にあわせてバックライトをコントロールする技術もあるものの、黒色の表現力においては、有機EL方式に優位性がある。

REGZA「65X910」

 一方で、有機ELテレビにも不得手がある。現在の大画面有機ELテレビのパネルは「RGBW」という方式で、白色光から、カラーフィルターを使って3原色を取り出す。そのため、輝度(明るさ)性能は、直下型のLEDバックライトなどを採用した液晶テレビには及ばない。

 一言でまとめると、「暗い領域の表現力に優れた有機EL」と「ピークの明るさの表現力に優れた液晶」といえる。これが、有機ELと液晶の最大の大きな違いで、この特性をきちんと抑えてから、テレビ選びを行ないたい。

 なぜなら、家電量販店などの店頭はとても明るく、1,000ルクスを超えるような環境が多い。蛍光灯中心の日本の家庭照明は他国よりも明るいといわれるが、それでも100~300ルクス程度。500ルクスを超える環境は、読書や勉強のためにデスクライトを用いるときぐらいで、テレビを見る環境としては明るすぎる(一般的な家庭の照明ではそこまで明るくはならない)。

 だから、明るすぎる店頭で液晶と有機ELを比べると、液晶のほうが元気があるように見えるはず。また、明るい環境では、目の瞳孔が閉じてしまうため有機ELの良さである暗闇の中の色や光の表現がわかりにくく、また液晶の弱点である“黒浮き”も目立たない。

かなり極端な例だが、1,000ルクス強の部屋で有機ELのREGZA X910(左)と液晶のZ810X(右)を比較

 だが、テレビを設置する一般家庭の明るさは、蛍光灯環境で150~300ルクス程度。間接照明が中心の欧州は100ルクス未満と言われている。

 つまり、店頭と家庭の照度環境が全然違うのだ。そのため、お店でテレビの画質をチェックしても、「家との明るさの違い」を意識しないと、その実力の評価は難しく、判断を誤ってしまう。

 いまの明るい店頭は液晶テレビ向きの展示環境といえる。これまでは問題なかったが、最近は液晶と有機ELの2方式が混在することとなったため、特に有機ELを選ぶときには注意が必要なのだ。そのためか、一部の大手家電量販店では、明かりを落とした有機ELテレビ専用の売場を作り、その画質の違いを訴求する店舗が増えてきたようだ。本格的な検討には、こうした店舗を利用したい。また、有機ELテレビが広がれば、おそらく店舗側も”有機ELテレビを売るため”の売り場づくりを強化していくことだろう。

 55型で50万円~、65型で70万円~という高額製品なので、できればしっかり視聴してから購入してほしい。

 ほかに今購入を検討するユーザーができる対応はなにかないだろうか?

 ひとつは、自宅の環境(特に明るさ)を把握しておくこと。有機ELを選ぶにしても液晶を選ぶにしても、自宅の環境を理解し、店舗と自宅の明るさの差をイメージしておくのは重要なポイントだ。

 簡易的な照度計があればよいが、スマートフォン向けの簡易的な照度計アプリでもよい。おおよその明るさはわかるし、店との明るさの違いも測定できる(アプリ等の数値はあくまで参考程度としてほしい)。

簡易的な照度計で明るさを測定
岩崎電気のアプリ「QUALPIX Lite」で照度を簡易的に確認

 ひとことで言えば、300ルクスぐらいの明るさがある部屋であれば、液晶が適しているし、100ルクス未満であれば、有機ELの実力を発揮しやすい環境だ。自分の環境に適したテレビを選ぶためにも、自宅の照度を把握しておくことは、こだわりのテレビ選びには重要なポイントだ。仮に「部屋は明るいが、有機ELテレビが欲しい」という人であれば、部屋の照明を変えたり、テレビを見る時の環境を工夫するといったことを考えてもいいかもしれない。

 少し面倒ではあるが、有機ELのようなプレミアム製品を検討する場合は、こうした“こだわり”を持ちながら選びたい。

テレビ設置の基本をおさらい

 テレビの基本的な設置方法についてもまとめておこう。基本は、有機ELでも液晶テレビでも変わらないが、有機ELはバックライトが不要で、薄型化できること、またベゼル幅もほとんどなく「ほぼ全てが画面」といったデザインをアピールする製品も多いので、インテリアなどにこだわる人にも、魅力的な製品かもしれない。高価な製品ではあるがゆえに、佇まいでもほかのテレビとは差別化されており、こだわり派には注目したいポイントだ。

LG OLED 65W7P

 また、最近のテレビのデザインで顕著なのが、スタンド下の空間が狭くなっていること。かつての液晶テレビではスピーカーが下にあってその上に画面というデザインが主流だったが、最近はスピーカーの存在を隠すようなデザインが増えており、画面下とスタンドの間の空間がほとんどない。ほぼ台の上に画面が来るようなイメージで、例えば東芝のREGZA 65X910であれば約2.6cm。テレビの置き換え時には、ラックの高さや画面の高さにも留意しておきたい。

65X950(左)と65Z20X(右)。65Z810Xも'16年冬の現役モデルのため画面下の空間は少ないが、ほぼ全面が表示面のX950はさらに画面位置が低くなる

 設置時に気を付けたいのは視聴距離。よく、「4Kテレビは『画面の高さ×1.5』(1.5H)の距離から視聴するのがベスト」と言われる。1.5Hの場合、画面の高さは55型が約70cm、65型は約82cmなので、55型の場合は約105cm、65型の場合は約123cmとなる。

 ただし、この画面高さ×1.5(1.5H)を実践すると、おそらくほとんどの人は「近すぎる」と感じるはず。この「1.5H」は、「この距離から見ても(4Kであれば)画素が見えず、没入感ある映像が楽しめる」という目安で、映画などをじっくり浸りながら見るときの参考値と考えてほしい。毎日この環境で使う必要はないし、自分の視聴スタイルになじむ距離でよいと思う。

 適切な視聴距離は画面サイズにもよるが、55~65型で、地デジなどをリラックスして見る場合は、画面の高さの4倍(4H)程度を目安に、好みに合わせて前後を調整してほしい。映画を見る時やじっくりとコンテンツに集中したい時に、画面に近づいてみると、より迫力を増し、没入感を得られるはず。そのための目安が1.5H~2Hという値だ。

 もう一つ意識しておきたい設定は「画質モード」。最近の大手メーカー製テレビは、「おまかせ」といった自動画質モードを備えているので、最初の設定時にはそれを選んでおきたい(ほとんどのメーカーの出荷時設定がそうなっているはず)。これは、周囲の明るさやコンテンツの種類に合わせて、最適な画質に調整してくれるもので、このアルゴリズムは年々進化して、より使い勝手がよくなっている。このモードを選んでおけば、概ね問題ないはず。

 あとは、コンテンツにあわせて[映画]、[アニメ]といったモードも用意されている。特にフラッグシップやプレミアムモデルは、[映画]系モードに各社のこだわりが注入されているので、Ultra HD Blu-rayやBDビデオなどで実写映画を見る場合は、映画モード等を選びたい。

有機ELならではの画質は〝部屋の明るさ”から。より没入感ある映像を

 店頭では液晶の迫力が魅力的に映るかもしれないが、実際に有機ELテレビを設置してみると、おそらく、明るさに問題は感じないだろう。特にプラズマや5年以上前のテレビからの買い替えであれば、明るく感じるかもしれない。

 また、有機ELテレビを設置して驚かされるのは、本当に画面が“漆黒”ということ。真っ暗な部屋で電源を入れると、普通の液晶であればうっすらと画面の輪郭が浮き出てくる。表示信号は無信号状態だが、バックライトの光が漏れて、画面が“ある”ことがわかってしまうのだ。一方、有機ELだと、電源を入れても暗室のまま。“有機ELの魅力は黒の沈み込み”と言葉で伝えてもわかりにくいが、実際に体験してみると、そのすごさが実感できるはずだ。

 映像品質という意味で、有機ELの良さが活きるのは、暗い部屋での映画やドラマ鑑賞など。テレビ放送や録画番組、スポーツは、明るい環境もよいが、本格的な映画やドラマを楽しむのであれば、照度環境は暗め、できれば映画館のような全暗環境が望ましい。こうしたコンテンツは、映画館のような暗い環境を想定して作られており、それに近い環境で楽しむのが一番だ。

左が有機EL(X910)、右が液晶(Z810X)。暗室では、暗がりの小さな光の輝きや色などにかなりの違いがでてくる
左が有機EL(X910)、右が液晶(Z810X)。レーザーの周囲の光の拡散が有機ELではきちんと抑えられている

 もっとも、映画などで「明かりを落とす」ことは、有機ELだけで有効ではなく、液晶でもなんでもテレビ全般で有効だ。映像制作者の意図した環境に近い明るさの部屋で、コンテンツに最適な映画モードなどを選び、映画を楽しんでほしい。現状の有機ELは、そうした映画館に近づけた環境の時に、その良さを最大限に発揮できるデバイスだし、「映画や本格的なドラマをじっくり見たい」という人のための趣味の製品ともいえる。

 実際に映像を見てみると、漆黒の中の光の輝きや星の明滅、深夜にたき火を囲む人々の顔の陰影や、明るさの階調、夕焼けの空に浮かぶ雲など、様々なシーンでこれまで感じられなかったような、“質感の違い”が見えてくる。何度も観た映画も見返したくなるし、Ultra HD Blu-rayなどHDRコンテンツも増えてきたなかで、そうした最新コンテンツの魅力を引き出すのも適している。

左が有機EL、右が液晶
上の画像をRAW現像時の露光量を調整して掲載。左の有機ELでは麓の町の小さな明かりが表示されていることがわかる

 参入メーカーが増え、「有機ELテレビ元年」になりそうな2017年。ただ、販売の中心はまだまだ液晶テレビであり、また液晶が強みを持つ部分も多い。明るいリビングで、地デジやスポーツなどを楽しむ、映画を見るときもあまり明かりを落としたくないという環境であれば、現時点では液晶テレビを選んだほうがよい。

 今の有機ELテレビは、“映画をじっくり見たい”、“最高画質を楽しみたい”、あるいは“ほかの人と違ったデザインや機能ににこだわりたい”といった人のためのプレミアムテレビといえる。

 ただ、その価値を引き出すための一工夫を加えるだけで、液晶テレビやプロジェクタでは体験できない、有機ELならではの画質や体験がある。“有機ELならでは”をどこまで引き出せるかは、ある意味ユーザー次第だが、ぜひその画質を体験してみてほしい。

臼田勤哉