レビュー
スピーカーだけで本格オーディオ完成、テクニクス「SC-CX700」を使い倒す
2025年5月27日 08:00
アンプもプレーヤーも不要、アクティブスピーカーをネットワークに繋いで、“全部入り”のオーディオを楽しむ。もちろん、クオリティだって妥協したくない。欲を言えば、長く使えるモデルが欲しい……。テクニクスから昨年10月に発売された「SC-CX700」は、こんなわがままを叶える本格派アクティブスピーカーだ。
パナソニックの高級オーディオブランドとして劇的な復活を遂げてから、2024年ではや10年。テクニクス復活の知らせと魅力的な製品群のデビューには、1人のオーディオ好きとしてとても興奮したことを覚えている。
筆者は当時デジタルアンプが好きだったので、何度導入しようと迷ったかしれない。オーディオ機器っぽくないデザインも魅力的だし、何を隠そう自身初のワイヤレスイヤフォンはテクニクスの「EAH-AZ70W」だったりする。
今回紹介するSC-CX700は本当に多機能だ。ネットワーク対応アクティブスピーカーは今でこそ珍しくないが、本機は記事内で全てを網羅出来ないほど、やれることが豊富にある。
まず、ネットワーク対応のアクティブスピーカーであることは、先ほど述べたとおり。左右のスピーカー同士の接続は無線だけでなく、有線にも対応。スピーカーケーブルではなく、有線LANでデジタル接続する。各種入力端子は、片側のスピーカーに集約。Wi-Fiにも当然対応するので、接続必須なケーブルは右と左の電源ケーブル2本だけだ。価格は352,000円(ペア)。基本的に店頭販売のみとなる。
音質はもちろんだが、せっかくなので機能面を中心にレビューしたい。全機能を詳らかにお届けできないが、詳細に渡ってチェックした。
豊富な入力端子と対応サービス
多機能とはいっても、このスピーカーで何が楽しめるかが最も重要だ。再生できるソース(コンテンツ)を見ていこう。
ストリーミング系は、Amazon Music Unlimited、Qobuz、Spotify、Podcast、インターネットラジオ、Deezerに対応。NASなどのメディアサーバーからの再生、Bluetooth(AAC、SBC)、AirPlay、HDMI ARC、フォノイコライザーアンプ(MM型)も内蔵している。さらに、Roon ReadyやGoogle Castにも対応する。
ネットワーク経由の再生ファイルは、WAV、FLAC、DSD、AppleLossless、AIFF、MP3、AAC。USB-C入力はDSDとリニアPCMだ。対応フォーマットは、ネットワーク経由では最大384kHz/32bit。USB-C経由では、最大192kHz/24bit。DSDはともに11.2MHzまでだ。
ストリーミング、NAS再生、幅広い対応フォーマットと、死角がほとんどない全方位フォロー型のオールインワンオーディオといって差し支えないだろう。
外形寸法/重量は、入力端子が集中するプライマリースピーカーが201×276×313mm(幅×奥行×高さ)/約9.1㎏、セカンダリースピーカーが201×272×313mm(同)/約8.9㎏。両手で十分持てる重さだ。
ミニマムでは電源ケーブルオンリーのスピーカーとして運用出来るため、やろうと思えばいつでもロケーションが変えられる。部屋の移動はもちろん、模様替え、引っ越しなどがあっても対応が容易なのは嬉しい。10kgを越えるとちょっと億劫になる人もいるだろうし、絶妙な案配だと思う。
ザックリ仕様面をさらったところで、さらに詳しく触れていこう。
入力は、USB-C、LAN(100BASE-TX、10BASE-T)、3.5mmステレオ、PHONO(MM/ピンジャック)、光デジタル入力(光角型端子)が備わっている。この他にHDMI ARC端子、SUBWOOFER OUT(ピンジャック)も搭載。Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax準拠、2.4GHz/5GHzのデュアルバンドに対応。
左右のスピーカーの信号伝送は、5GHz帯の無線、もしくはP/S LINKによる有線(CAT6A以上のLANケーブルで結線)を選べる。無線伝送したときのフォーマットはPCM 96kHz/24bitで、距離は最大10mまで。有線の伝送フォーマットはPCM 最大192kHz/24bitだ。
ここで前述の対応ファイルフォーマットとの関係が気になる方もいるだろう。
まず、PCM再生時は、384kHz/32bitフォーマットもネイティブ入力が可能で再生もOKだが、サンプリングレートは192kHz、ビット深度は24bitに変換が掛かる。変換後に左右スピーカーのフルデジタルアンプ「JENO Engine」で増幅されるという。また、無線で左右のスピーカー間を接続しているときは、96kHz/24bitに変換してから左右のJENO Engineで増幅される。
DSD再生においては、PCM変換を行なった後、JENO Engineで増幅される。市中ではDSD 5.6MHzなどの44.1kHz系のDSD音源が一般的だが、変換フォーマットは176.4kHz/24bitといった整数倍のPCM変換を行なうことで音質への配慮している。地味なようだが、原音のニュアンスを残すには重要なプロセスだ。
これらの各種変換プロセスは、如何なる条件下でもプライマリースピーカーとセカンダリースピーカーは同一クオリティにするという設計方針があるからだ。
最適な音質に調整する「Space Tune」
スピーカーの基本的な特徴は、1.9cmツイーターと15cmウーファーを組み合わせた同軸2ウェイ(Phase Precision Driver 4)構成。アンプ出力は、ウーファー60W、ツイーター40W、左右合計で200Wとハイパワーだ。カラバリは、テラコッタブラウンと、チャコールブラックの2色を用意する。
注目は、設置場所に合わせて最適な音質に調整する「Space Tune」。前後左右の空間が空いた「Free」、壁際に置く「Wall」、コーナー設置用の「Corner」、棚の中などに置く「In a Shelf」という4つのプリセットから選択することで、設置環境に応じた最適なサウンドを実現するという。
左右のスピーカーのそれぞれに最適な設定を選べる「L/R Custom」モードも便利な機能だ。専用アプリ「テクニクス Audio Center」(無料)で設置場所を指定する他、本体マイクもしくはコントロール端末のマイクを使って測定する音響補正機能もある。「Space Tune Auto」では再生したテストトーンを、スピーカー本体に内蔵したマイクで測定、壁からの距離や反射の影響などを解析し、自動的に音質調整する。
より精密な周波数特性の測定・補正を可能とする「Space Tune Measured」は、試聴ポジションに構えたスマホやタブレットのマイクで測定するだけ。MeasuredはiOS版のアプリでのみ利用可能だ。
スピーカー部とアンプ・電気回路を分離
テクニクスのブランドを冠するなら、音質へのこだわりは気になるところ。テクニクス Orchestration Conceptに基づく、独自の技術を多数盛り込んでいる。一部を抜粋して紹介しよう。
もっとも特徴的なのは、やはりアンプ/スピーカーを独立構造とした「Acoustic Solitude Construction」だろう。
単品コンポーネントと同様の思想によりエンクロージャーを含むスピーカーとアンプなどの電気回路を完全セパレート構造で配置。スピーカーユニット、フロントバスレフポートなどを備えたスピーカーボックスは厚いMDF材により完全に密閉。スピーカーボックスの背面側にアンプボックスを配置し、間に空気層を確保。これによりスピーカーボックス内部からアンプボックスへの振動伝達を最小限にし、振動の影響のない信号処理と信号増幅を可能にしたという。
スピーカー振動板の理想動作を追求して低歪み化を実現する「MBDC(Model Based Diaphragm Control)」もユニークな機能だ。
信号をスピーカーに入力した時に、どのように振動板がストロークするかを精密に測定。そこから、数学的にモデルを作成。そのデータをDSPに入力し、歪を含んだ実スピーカーの逆特性モデルを作り、補正信号を作成。それを音楽信号に適用することで、理想的な音を出すようにユニットを動作させる。低歪みでクリアな低音と、高調波による中高域への干渉が少ないリアルなサウンドステージを実現するという。なお、このMBDCの補正は常時ONになっている。
テクニクスが誇る最新鋭のデジタルオーディオ技術を投入したフルデジタルアンプ「JENO Engine」を左右のスピーカーそれぞれに独立して搭載。ジッター成分の影響を抑え、左右の再生音の変質を防止。さらにチャンネルデバイダーによりウーファーとツィーターの帯域を分割することで、ネットワーク回路を排除。スピーカーをダイレクトに駆動させている。
バスレフポートの内部開口部を、キャビネット内で最も圧力が低い(流速の速い)位置に配置することで、定在波の音質影響を低減させた結果、内部の吸音材を撤廃。これにより躍動感のある中低域再生を実現したという。
この他にも多数の独自技術や工夫が凝らされており、音質追求へのこだわりが詰まっている。
スピーカーを取り出すと、見た目よりもずっと重い本体に気持ちが引き締まった。表面のスエード調の人工皮革「Dinamica(ディナミカ)」は、手触りがよく、スピーカーというよりは家具って感じだ。
バスレフポートはフロントにあり設置の自由度は高い。底面のゴム脚は、かなりグリップが効いていて、ちょっとの力じゃスピーカーはビクともしない。耐震性が高いことは、セッティングの幅を広げてくれるだろう。
付属品のケーブルは、電源ケーブル2本の他に、CAT6AのLANケーブルが付属していた。左右のスピーカーを繋ぐケーブルだ。長さは3mで色は黒。長さや色が環境に合わない方は別途購入するのもありだ。CAT6A以上の規格をチョイスする点は注意しよう。
リモコンがあるのは、地味に嬉しい。アプリをいちいち開かなくてもボタンを触ればすぐにボリュームなどを変えられて便利だ。選曲や再生など細かい操作はアプリとしても、リラックスして聞いているときなどに、音量だけさっと変えたい時は重宝した。
寝室でSpace Tuneを試してみる
最初のテストは、寝室で行なった。ベッドの向かいにあるチェストの上に乗せると、ちょうどベッドに腰掛けたときにいい感じの位置関係で聴ける。接続は電源ケーブルのみとして、左右のスピーカー間も無線で運用した。最も気軽な楽しみ方だ。
Wi-Fiの初回接続が終わると、ソース選択の画面になって本機のネットワークを使った利用が可能になる。ちなみにLANケーブルを挿し込んで立ち上げると、Wi-Fi接続の設定は出来ないので、Wi-Fiで利用したいときはLANケーブルを抜いておこう。
ちょっともったいなかったのは、アプリの挙動が一部もっさりしていること。アプリを立ち上げて本機のデバイスを選ぶと、クルクル回る読込み表示で少しだけ待つ。この時間は短縮してほしい。fidataなどの汎用アプリを使ってNASの音源を再生するだけならサクサクだし、テクニクス Audio Centerを使う必要はない。
アプリから本体ファームウェアのバージョンを見てみると、最新の1.05.05だった。去年の10月のアップデートでRoon Ready対応、11月のアップデートではQobuzにも対応を果たしているようだ。
筆者の寝室は、手を叩くと「ビビィィン」とイヤな響きが残る定在波の酷い環境だ。ここで注目の機能Space Tuneを使ってみる。前述した4つのロケーションを設定する他、右と左のスピーカーで別々の設定をすることも可能。例えば、左側は「Corner」、右側は「Wall」といった具合だ。
まず、マイク測定をせずに既存の4種類から設定を選んでみる。壁からの距離も多少あるので、まずは「Free」。「Wall」にすると、壁際を想定してだいぶ低域がロールオフするので、筆者の環境ではFreeがよかった。
続いて、本体の内蔵マイクで測定するAutoを試す。定番のスイープ信号だけでなく、「パツッ!」っと音響機材の事故みたいな音が鳴るので、ちょっとビックリ。測定は、部屋のノイズ具合を測った後、左右それぞれからテストトーンが出てすぐに完了した。
FreeとAutoで音質を比較する。NASに保存された「葬送のフリーレン」Original Soundtrackから何曲か聴く。FreeからAutoにすると、パーカッションの低域がスッキリとして、よりリズミカルに感じられる。
キレの良さもアップ。オーケストラがゴゴゴっと盛り上がるところも、ビィィン!という定在波が少し気持ち悪かったのが、ほぼ消滅しており感心した。サウンドステージも見通しが良くなるし、ゴミゴミした感じがだいぶ緩和されている。ただ、やはりというか、低音域の量感は控えめになった。また、音の生き生きとした感じは少し削がれてしまった。
続いて、Measuredを試してみる。iPadを持ってベッドの上に乗り、腰掛けているときの耳の位置に合せて手で持つ。このときiPadの短辺にあるマイクをスピーカーの方を向ける。アプリから測定を開始すると、同じようなテストトーンを集音する。
フリーレンのサウンドトラックから「Zoltraak」。Freeではウワンウワンいっていた中低域が大人しくなるが、ちょっと物足りなかったAutoに比べると、低域の力強さはFreeに近付いたのは嬉しい点。音像が無駄に広がってしまう傾向や、定在波でやかましい感じが軽減されて、かつ中低域の量感もそれほど犠牲にしない。パーカッションの重量感もFreeで聴いたそれに近い。
ただ、補正された感じが強く、ちょっと窮屈な気持ちになる。慣れればどうってことないが、最初の内は聴き疲れがあるかもしれない。ただ、補正の程度が強くなってるのは、ルームアコースティックが最悪なこの部屋だからともいえそうだ。
鳴らす部屋の音響特性によって、Auto/Measuredどちらが最適かは変わると思う。双方試してみて、より自然に心地よく楽しめる方を選ぶのがよさそうだ。その際、ある程度音の隙間が存在するもの、前後や広がりが感じられるソースが適任と思われる。
なんだか楽しくなってきたので、その他の設定もザッとチェックしてみた。アプリの「その他の設定」を開くと、いくつもの項目が並んでいる。
「SUBWOOFER OUT」はサブウーファーを使わないときはオフに出来る。また「HDMI」もHDMI ARCを使わないときはオフに出来る。これらをオフにすると、より高音質になると説明書にも記載されており、さっそく試すと、確かにS/Nや音の純度が向上した。ネットワークオーディオは、使わない機能はオフにするが鉄則だ。
この他の設定は、ビープ音のON/OFF、本体LEDの減灯・消灯、本体タッチスイッチの有効/無効も設定可能になっていた。この辺りの細やかな設定が準備されている点は、日本メーカーらしい丁寧さだ。
Bluetooth、AirPlay、ローカルFMまでスピーカーだけで楽しめる
Bluetoothの「Bluetooth RE-MASTER」は、Bluetoothの再生帯域を拡張する機能。音響補正無しのFreeモードに変更してから、iPadからのAAC音声をチェックした。RE-MASTERをオンにすると、倍音補完型の補正のようである。奥行きも少し深くなった。
AirPlayと聴き比べると、やはり音質はAACのBluetoothより、AirPlayの方が音は良かった。音像の立体感、自然な倍音、低域の密度感、高域のシャカシャカ感の少なさは格段にBluetoothより改善されている。iOSならAirPlayによる無線接続が良さそうだ。
次はSpotify ConnectでPodcastを聴いてみる。穏やかな癖の少ない音色で、ゆったり聴けるのは気に入った。FreeからMeasuredにすると、スッキリとしたシャープな音像で声がリアルに。本機は声の主要な帯域が再生できているので、タブレットで聴くよりもうるさく感じない。リッチな音でパーソナリティをより近くに感じながら、お休み前の一時を過ごす……なんとも贅沢ではないか。
本体でPodcastを聴くことも出来るようなので、選局をやってみる。残念なことに、SpotifyやApple Podcastでは見つかるのに、本機のアプリでは見つからない番組もある。AirPlayでiPadから送るか、SpotifyConnectが手っ取り早いかと思う。ただ、メジャーな番組は結構あるので、お目当てがないか探してみるのもいいだろう。
InternetRadioについては、国内のコミュニティFMなどが聴けるのが地味に嬉しい。地域別で日本の地方ごとにリストを出すとか、お住まいの地域のお勧め放送局を出すことも。「ローカル局」という選局で、近隣の放送局を探すことが出来る。
防音室で、音質を詳しくチェック
では防音スタジオに移動し、本格的に音質をチェックしよう。
スタンドに設置するとき、ACケーブルの長さが足りず、同一の電源タップから電源を取ることができなかった。ACケーブル長は実測で1.5mほど。やむを得ず、右側のスピーカーは壁コンセントから接続した。
コンセント自体は電源タップと同じグレードのものを使用している。設置環境や電源タップの位置によっては、長さが足りないこともあり得るだろう。電源タップの位置を変えたり、オーディオグレードのケーブルを別途用意するのも一案だ。
まず試したのは、本体のネットワーク接続を無線にするか有線にするかだ。有線LANはオーディオ用のネットワークスイッチN8から接続した。
いや、これはすごい!まるで別物だ。
ファイナルファンタジーVII リバーステーマソング「No Promises to Keep」のハイレゾ版を再生すると、96kHzのハイレゾらしい奥行きや、ストリングス演奏の厚みが説得力を増す。音像の立体感は生々しく、ローレンのボーカルのうるおいも段違いだ。思わずのけぞるほど音質が改善したので、可能であればネットワークには有線LANで繋ぐことをお勧めしたい。以降の試聴は有線で行なった。
矢継ぎ早に左右のスピーカー間の接続も無線と有線でチェックする。ネットワーク接続を有線LANにしたときと比べて、左右感の有線/無線は激変とまではいかなかった。やや空間がクリアになって、リバーブの余韻がピュアに。本体側でダウンコンバートされない96kHzまでのPCMがメインなら、左右の接続は無線で割り切るのもいいかもしれない。個人的には可能なら有線、利便性優先なら無線でもOKという所感だ。
もし、有線にするなら、オーディオグレードのケーブルを使ったり、LAN経路のノイズ除去アクセサリーを使うなど、思い切ってやればもっと変化幅は大きいだろう。もちろん、本体の有線ネットワークの対策が先だ。
さらに試したくなり、有線ネットワーク接続にノイズ除去のアクセサリーも使ってみた。
SilentPowerの「LAN iSilencer」をLANポートの入り口に挿入する。中高域の雑味が消滅し、音源本来の音が聞けている実感が芽生えた。
LAN iSilencerを使わないときのザラつきと、少し耳障りな高域のピークは、音楽を楽しむ上でどうしても取り除きたい。Wi-Fiから有線LANにすることでだいぶ音質は改善したが、やはりLAN経由のノイズ対策は重要度が高いと言わざるを得ない。
近年各社からアイテムが出ており、筆者はNASの経路にRLI-1GB-TripleCを愛用している。光アイソレーションもいい選択だ。LAN iSilencerもそのままで試聴を継続した。
RoonReadyの機能もチェック。RoonServer(Core)にはMacBook Proを使用。M1 MAXなのでファンノイズもほぼ感じない。ネットワークスイッチN8との接続には、オーディオグレードのLANケーブルとノイズ除去にRLI-1の初代を使用した。Macのモニターは暗くして、操作はすべてiPadから行なう。
QobuzとNASのライブラリが一体化して、選曲のフィルタも実用度抜群だし、Qobuzから聴いたことのないアーティストもどんどん発掘していける。Qobuzの回遊はPCの公式アプリ並みかそれ以上に快適だ。
テクニクス Audio CenterからQobuzを使うと、挙動がもっさりしていて、ブラウジングの閲覧性もイマイチ。ただ、音質はRoonを使わずに本体から直接Qobuzを再生した方が上だった。Roon経由で再生すると、Macを一度経由するからなのか、音像の輪郭がゆるくなり、音場も少し曇った。こだわりたい人は、オーディオ用のRoonServerを使うのが適当かもしれない。
防音室でもSpace Tuneを試す
本体のQobuz再生機能で、Space Tuneも改めて試してみる。Freeで聴くと音場のゴミゴミ感が気になった。Autoのテストは省略して、Measuredを測定&有効化すると、音像のディテールがクッキリとして、前後感も向上。左右のセパレーションは改善したように感じた。左右の音の不均衡を補正した結果、定位や分離感も分かりやすくなった。
寝室と違ったのは、Measuredにしても鮮度の劣化はそれほどなかったこと。聴き心地も快適なMeasuredのままで試聴は続ける。
ナナヲアカリの「明日の私に幸あれ」。シンセのピコピコ感が優しい。曲調に対して、あまり鋭くないサウンドだ。ボーカルのセンター定位は焦点が定まっていてクッキリ見せる。
フラチナリズムの「KAN&PAI」最新版。ギターの腰の入ったミッドレンジ、ベースの程よい質感の豊かさはいい感じ。ドラムの音離れの良さは窮屈さとは無縁。音量を結構上げても動じる様子がないキャビネットはさすが高級アクティブスピーカーと言ったところか。
同じくフラチナリズムの最新アルバム「グレイテストライフ」から「きみのうた」ハイレゾ版。ギター1本とボーカルだけで1番が始まり、2番以降はバンド形式のバラード。QobuzとSoundgenic(NAS)からの再生で聴き比べて見た。同軸スピーカーらしい定位の良さと、音像のフォーカス感はグッド。ベースやバスドラは、不自然な誇張がなく適度な案配だ。
Soundgenicから同じハイレゾ版を再生すると、まずアプリのレスポンスが早くなった。Qobuzはネットワーク越しに選曲するので、その差が出ているのだろう。同じSoundgenicからの再生でも、fidataで選曲・再生すれば、さらにサクサク動いた。公式アプリの改善を期待したい。音質面では、NASの音が圧倒的に良い。ボーカルは立体感が出てくるし、リバーブの余韻は響きによる空間をしっかりと知覚させてくる。1番のアコギの音は粒立ちが良くなって、シンセの音とバンドの分離も改善した。
ドヴォルザーク・ホールで録られたオーケストラの音源も聞いてみた。交響曲ガールズ&パンツァーから「第五楽章 それぞれの想い」。中音域の暖かい質感と、たっぷりの量感は本機の持ち味だ。フラットなバランスが好きな方は、好みが分かれるかもしれないが、聴いていて穏やかな気持ちになれる。楽団が一斉に強く弾くシーンでは、アンプの瞬発力にもう少し上を求めたかった。大音量へ立ち上がるスピード感や、演奏が盛り上がるところと平常時の幅が期待するほどは大きくなかった。
Beagle Kickの「SUPER GENOME」。384kHz/ネイティブ32bit整数録音の楽曲だ。192kHz/24bitへのダウンコンバート後の伝送と増幅なので、最初から192kHz/24bit版を再生すればいいかと思ったら、384kHz/32bitを再生した方が原音のニュアンスはより出ていた。e-onkyo musicで過去に配信されていた“32bit整数でマスタリングを施した楽曲”を持っている方は、オリジナル音源を再生することを勧めたい。
DSD 5.6MHzのジャズカルテット「Rememberance」。176.4kHzへのPCM変換が掛かるため、DSD独特の質感は減衰してしまっている。しかし、たっぷりと鳴っている中音域がスローテンポのジャズによく合っていた。
低音チェックに鬼太鼓座「鼕々」。大太鼓に求めているローエンドはさすがに再現しきれないものの、ミッド帯がしっかり鳴っているので、迫力は十二分にある。ズズンズズンと大音量で太鼓が打ち鳴らされていても、同時に聴こえる三味線の明瞭さはまったく揺るがない。MBDCの効果だろうか。
そして、バスレフポートやダクト内部の工夫のおかげもありそうだ。バスレフのエアー感がほとんどなく、音の淀みもない。前述したダイナミクスの表現力には物足りなさを感じるのだが、Smooth Flow Portと内部吸音材の不使用によって、低音楽器のクオリティを保っているように受けとめた。「鼕々」を結構な音量で鳴らしても、筐体が音を上げたりする様子がなかったことも特筆しておきたい。
オールインワンでスマートに完結できるスピーカー
SC-CX700は、現状国内で楽しめるストリーミングサービスを網羅的にフォローし、ローカル音源の再生機能も完備した多機能モデルだ。本稿では紹介しきれなかった技術や機能もあって、少々申し訳ない気持ちになる。ここまで見てきた機能を振り返るだけでも、1個1個の実用度は高い。
オーディオシステムの中核として、ロングランで楽しめるポテンシャルは確実に有している。ペア352,000円という価格は決して安くはないが、出来ることを考えればリーズナブルでもある。SC-CX700はオールインワンでスマートに完結させる製品として、今後もオーディオファイルの注目を浴びていくことだろう。