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第28回:新チップ搭載「Sound Blaster Audigy」
~ Part 2 強化されたバンドルソフトを検証する ~




 先週の24日が秋分の日の振替休日ということで間が1週飛んでしまったが、今回は先々週の続きということで、再び「Sound Blaster Audigy」をレビューする。今回はハード面よりもソフト面を中心に紹介したい。

 こういった周辺機器に添付のソフトなどというと、バカにされがちであるが、「Audigy Platinum eX」および、「Audigy Platinum」に添付されているソフトは、DTMやデジタル・レコーディングの世界においては、非常に有名で強力なソフト。これらのソフトを手に入れるだけでも十分買う価値あるものとなっている。


■Live!とはやや趣の変わったAudigyのバンドルソフト

 前回も紹介したようにSound Blaster Audigyは、24bit/96kHzに対応したサウンドカードで、Live!を含め従来のサウンドカードとは一線を画する。もちろん、これまでも24bit/96kHzに対応したものはいくつもあったが、それはコンシューマ用ではなく、プロのレコーディング機材として存在。サウンドカードとは区別し、オーディオカードと呼ばれていた。

 8月24日にAudigyの記者発表が開かれたとき、CreativeTechnologyのCEO、Sim Wong Hoo氏が来日し、個人的にインタビューさせていただいたが(詳細はこちら)、その席で、Sim氏は「プロのレコーディングユーザーにも十分満足していただける製品を非常に低価格でリリースしたと考えています。もちろん、プロ用の市場だけでは小さなものとなってしまうので、われわれとしては、もっと底辺にいる一般ユーザーにもこうしたプロレベルのクォリティーを楽しんでいただければと考えているのです。つまり、これ1つで上から下までカバーするという発想ですね」というように話していた。

 こうしたことも背景に今回のAudigyには、プロユーザーもしくは、そのちょっと下にいるDTM・レコーディング指向のユーザーにターゲットを置いたバンドルソフトが目立つ。具体的にいうと、以下のソフトだ。

 このうちの下の4つ、FireNet、PlayCenter3、Creative Remote Center、Oozic Playerのみ全製品にバンドルされている。それ以外はAudigy Platinum eXとAudigy Platinumに、Creative版 ACID STYLE 2.0(英語版)だけは、Audigy Platinum eXのみにバンドルされている。

 これらを見てもらってもわかるように、バンドルされているソフトにゲームソフトなどはない。Live!も後期の製品は、これに近い機能のソフトがバンドルされたが、従来はゲームソフトが中心で、「Sound Blaster Live!=アミューズメント製品」というイメージをいだかせるものであった。しかし、Audigyにバンドルされているのは、音楽制作関連ツール、ビデオ・映像制作関連ツール、プレーヤーソフトとなっており、明らかに傾向が変わっている。

 今回は、特に音楽制作関連ツールである「Creative版Steinberg Audio Suite(英語版)」、「Creative版ACID STYLE 2.0(英語版)」にターゲットを絞って紹介する。

 それ以外についても、簡単に触れておくと「Vinna SoundFont Studio2.3」も音楽制作関連ソフトの1つで、Audigyをサンプラーとして使うためのエディタ。内容的にはLive!にバンドルされていたものと同じもの。

 「Oozic Reactor」は、インタラクティブな3Dミュージックビデオを制作するためのツール。VJコントロールを使ってデジタルフォトと音楽をワープ、モーフなどのビジュアルエフェクトを行ない、作品化していくツールだ。Oozic Playerは、そうした作品を再生するためのプレーヤーになる。

 「Ulead Video Studio 4.0 SE Basic」は、紹介するまでもなくビデオの編集ソフト。「Creative版Unibrain S.A.'s FireNet」は、Audigyに搭載されたIEEE 1394端子(SB1394と呼んでいる)を利用してAudigy同士を接続するEthernetエミュレータ。そして、「PlayCenter3」、「Creative Remote Center」はそれぞれ、音楽やビデオのマルチプレーヤーソフトである。


■Steinberg CubasisVSTがASIOドライバで威力を発揮する

 Audigy Platinum eXおよびAudigy Platinumにバンドルされているソフトの目玉といえば、「Steinberg Audio Suite」(画面1)に入っている「CubasisVST」(画面2)である。

(画面1)Steinberg Audio Suite (画面2)CubasisVST

 ご存知の方も多いと思うが、これはドイツのSteinbergのMIDI&オーディオシーケンスソフト「CubaseVST」の機能縮小版。CubaseVST自体は、現在国内においても最も人気のあるシーケンスソフトであり、Windows版およびMacintosh版の双方が存在している。もちろん、プロミュージシャンの多くが用いており、筆者自身もCubaseVSTのユーザーだ。

(画面3)Cakewalkのピアノロール

 Live!には、当初Cakewalkというソフトがバンドルされてたが、途中からCubasisVSTに変わっているので、Live!ユーザーの中にはインストールしたことのある方もいるだろう。見た目的にはほぼ同じだが、実はLive!にバンドルされていたものよりも、Audigyには機能強化されたものがバンドルされている。

 このソフトについて簡単に紹介すると、MIDIのレコーディングとオーディオのレコーディングの両方を可能にしたソフトであり、外部にMIDI機器やマイク、エレキギター、ベース……といったものを接続することで、かなり強力なレコーディングが可能。

CakeWalkのリストウィンドウ(画面4)と譜面ウィンドウ(画面5)

 もちろん、CubaseVSTと比較すると、編集機能などに制限はあるものの、24オーディオトラック、64MIDIトラックを装備するという十分強力なもの。たとえばMIDIの編集画面を見てもピアノロール(画面3)、リスト(画面4)、譜面(画面5)と一通りのものはそろえている。

CubaseVSTのミキサー画面(画面6a)、エコー(VSTプラグイン)の設定(画面6b)

(画面7)VSTプラグインのエコー
(画面8)VSTプラグインのリバーブ

 また、オーディオのミキサー(画面6a)を見ても、かなり本格的なシステムになっていることが想像できると思う。この各オーディオチャンネルでは、 それぞれ2バンドのパラメトリックイコライザを設定できるとともに(画面6b)、2つまでのエフェクトを挿入できるようになっている。

 このエフェクトはVSTプラグインと呼ばれるものなのだが、市販のもの、シェアウェアやフリーウェアなどを含めて膨大なものがあり、リバーブ、コーラス、ディレイ、ディストーション、フランジャー……とどんなものでも簡単に手に入れることができる。ただし、このCubasisVSTにはオートパン、エコー(画面7)、コーラス、リバーブ(画面8)の4つが入っているのみである。

 さて、ここでAudigyが威力を発揮するのが、ASIOドライバへの対応だ。ASIOとは「Audio Stream Input / Output」の略であり、Steinbergの提唱するオーディオドライバシステムだ。これは一般のドライバと違い、アプリケーションがもっとダイレクトにサウンドカードにアクセスするため、実際に音が出るまでのタイムラグ(レイテンシー)を少なく設定できる。

 現在、多くのアプリケーションがASIOドライバ対応になっているのだが、Sound Blasterシリーズでは今回のAudigyではじめてASIOに対応した。CubasisVSTが英語版のソフトであるため、文字化けが生じてしまっているが、ASIOの設定画面(画面9)で設定するとレイテンシーを2msecにまで抑えることがきる。

 筆者のマシンはPentium III 667MHzというスペック。このマシンで試してみたところ2msecではやや音割れが生じてしまった。しかし、4msecであれば何ら問題なく安定して動作してくれた。ただし、ASIO2.0ではなくASIO1.0であるため、ダイレクトモニタリングには対応していない。

 そして、このASIOドライバが効力を発揮するのが、ソフトシンセ機能だ。Live!に添付されていたCubasisVSTと違い、Audigy添付のものはVSTインストゥルメントと呼ばれるプラグイン型のソフトシンセ機能を搭載している。そのため、ASIOドライバでレイテンシーを抑えておくと、PCを楽器のように利用することが可能になる。

(画面9)ASIO設定画面 (画面10)rainbow

 このVSTインストゥルメントも、市販のものオンラインソフトが数多く出ていて、手に入れられるのだが、残念ながらCubasisVSTにはバンドルされていないため、別途用意する必要がある。実際、「rainbow」というシェアウェアのプラグインを入れ、外部にMIDIキーボードを接続して演奏させてみると、非常にスムーズに動作してくれた(画面10)

 まだまだ数多くの機能が装備されているが、以上がCubasisVSTというソフトの概要だ。現在CubasisVST日本語版2.0というソフトはスタインバーグ・ジャパンから標準価格15,800円定価で発売されている。機能的には、この製品版のほうがやや強化されているが、ほぼ同等のものが添付されているという魅力は大きいだろう。

□CubasisVSTの製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/cubasisvst/index.html


■波形編集ソフト「WaveLab Lite」

(画面11)WaveLab Lite

 CubasisVSTと同じSteinberg Audio Suiteに入っている2つ目のソフトが、「WaveLab Lite」(画面11)だ。これは、波形編集ソフトといわれるものであり、同ジャンルのものは、このDigital Audio Laboratoryにもたびたび登場するSonicFoundryの「SoundForege」がある。実際WaveLabはSoundForegeのライバルソフトであり、このジャンルにおいて人気を二分している。


 WaveLab Liteという名前からもわかるように、これもWaveLabの機能限定版であり、プラグインエフェクトなどが使えないのが大きな違いとなっている。とはいえ、WAV、AIFF、AUなどのデータ形式が読み書きでき、大きなデータでもなんら問題なく扱うことが可能。そして、読み込んだデータに対し、フェードイン、フェードアウト、クロスフェード(画面12)といった処理ができるほか、ノーマライズ、ダイナミックス、イコライズ(画面13)などの処理を行なうことができる。

(画面12)フェード設定 (画面13)パラメトリックEQ (画面14)CubasisVSTtの連携も可能

 さらにこのソフトはCubasisVSTと連携させることが可能で、CubasisVST側で波形編集ソフトとして設定することにより(画面14)、波形データをダブルクリックするとWaveLab Liteを起動させることが可能になっている。

□WaveLabの製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/wavelab3/index.html


■サンプラーユーザーの定番ソフト「ReCycle! Lite」

(画面15)フェード設定

 もう1つSteinberg Audio Suiteに入っているのが、「ReCycle! Lite」(画面15)というソフトだ。扱いはSteinbergではあるが、実際の開発はこの世界では非常に有名なPropellerhead softwereというスウェーデンの会社である。

 このソフトは非常にユニークなソフトで、多くのサンプラーユーザーに親しまれている。具体的に、どんな使い方をするのかというと、リズムサウンドなどの音声ファイルを読み込み、それを、細かく分割(スライス)することで、シンバル、ハイハット、スネア、タム……といった音を抜き出すのだ。


 それぞれを1つの音色データとしてサンプラーへ送ることによって、それがドラムマシンのようになり、まったく新しい音楽を作ることができるようなる。

 どんな仕組みかというと、リズムなどの打楽器はアタックタイムが小さいので音の大きさから、楽器の音の頭を見つけることができる。そこで、センスレベルを設定することで波形をスライスしていく(画面16)

(画面16)波形の編集画面 (画面17)SoundFontの書き出し (画面18)SoundFontコントロール画面

 市販されている「ReCycle!」は25,800円という価格のもので、SCSI接続したサンプラーへこの分割した波形データを送ることができる。それに対し、ReCycle! Liteでは、その機能はないものの、SoundFontとしてデータを保存できる(画面17)

 実際のところSound Blaster Audigyは超強力なサンプラーであるので、SoundFontとして保存できれば、それで十分で、それ以上の機能は不要だ。あとは、これをSoundFontコントロール(画面18)で読み込めば、これを素材に自由に音楽制作が可能になるのである。

□ReCycle!の製品情報
http://www.megafusion.co.jp/audio/propellerhead/recycle/index.html


■フレーズサンプリング・シーケンサの代表「ACID STYLE」

(画面20)ACID STYLE 2.0

 今回紹介する4つ目のソフトが「ACID STYLE 2.0」(画面19)。これもCubasisVSTと並ぶ目玉ソフトであり、前出のSonicFoundryのソフトで、国内ではフックアップが扱っている。Live!では同社の「Sound Forge XP」がバンドルされていたが、WaveLab Liteがバンドルされたからか、今回はそれがはずされた替わりにACIDがバンドルされている。

 ACIDは、音楽制作のまったく新しい手法を生み出したといっても過言ではないソフトで、ACIDを使いたいためにMacintoshからWindowsへ乗り換えたり、新たにWindows機を購入した人も沢山いるくらいだ。


 では何が新しいのかというと、CubasisVSTのようにゼロから自分で音楽を作り上げていくというものではなく、既存のフレーズを組み合わせるだけで曲を作ってしまうというソフトであるところ。つまり、ドラムフレーズ、ベースフレーズ、ギターフレーズ、ピアノフレーズをそれぞれWAVファイルで用意し、それを組み合わせるだけでまったく新たなオリジナル曲を作り上げることができる。

 常識的に考えると、そんなことができるはずがない。それぞれ同じテンポ、同じコードで弾いた曲をうまく頭をそろえてサンプリングしてあれば別だが、バラバラなものを組み合わせたら、メチャメチャな音になってしまう。しかし、ACIDはそれを可能にした。

 たとえば、テンポ110のリズムを4小節分と130のリズムを2小節分、またテンポ90でAのコードで弾いているベースを2小節分と、テンポ125でFのコードで弾いているギターを4小節分WAVファイルとして用意する。これをACIDに読み込ませると、それらを自動的に判別した上で、全体をテンポ100でCのコードで演奏するということが可能なのだ。

 操作自体はいたって簡単。画面下にあるエクスプローラ画面から、気に入ったWAVファイルを選択して、上のトラックビューへドラッグ&ロップするだけでデータを読み込むことができ(画面20)、それぞれのトラックで利用する波形の長さを設定するだけ(画面21)。2小節分のデータを16小節並べると、自動的にループして8回繰り返してくれるし、飛び飛びで配置させることも簡単にできる。

WAVEをトラックにドロップし(画面20)、長さを指定する(画面21)

 たったこれだけの操作でオリジナル曲が完成する。所要時間たったの1分。もちろん、凝った曲を作ろうと思えば、いくらでも自由に作りこむことだって可能だ。こうしてできあがった曲をWAVファイルで吐き出せるから、最終的に音楽CDに焼いて作品にすることも簡単。

 なお、テンポ130でコードF、4小節分といった情報はACIDがある程度自動的に判別してくれるが、より正確に行なうためには、マニュアルで設定する必要がある。この作業を「アシッタイズ」と呼んでいるが、すでにアシッタイズされたWAVファイル集というのが、数多く発売されている。代表的なのはSonicFoudry自らが出している「Loops for ACIDシリーズ」だが、最近はそれ以外にもいろいろなものがあるし、雑誌の付録などに添付されているケースもある。

 現在ACIDは3.0というバージョンになっているが、とりあえずはこの2.0でも十分に使え、遊べる。もし、Audigyを持っていてACIDを使ったことがないとしたら、それは非常にもったいないこと。ぜひインストールして使って欲しい。

□ACIDの製品情報
http://www.hookup.co.jp/software/acid/acid.html


 以上、数多くあるAudigyのバンドルソフトの中から4本だけを抜き出して、紹介してみたがいかがだっただろうか? 「おまけソフト」と呼んでしまうにはあまりにももったいないほどの強力なソフト群であることが、おわかりいただけたと思う。

 Audigyをこららのソフトとともに利用することで、さらにその価値が上がることは間違いないだろう。

□クリエイティブのホームページ
http://japan.creative.com/
□「Audigy」の製品情報
http://japan.creative.com/soundblaster/audigy/welcome.html
□関連記事
【9月6日】クリエイティブ、「Sound Blaster Audigy」を9月8日に発売
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010906/creative.htm
【8月24日】クリエイティブ、新チップ「Audigy」搭載のサウンドカード
―24bit/96kHzの入出力、ドルビーデジタルに対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010824/creative.htm
【8月20日】クリエイティブ、マルチエフェクトエンジン搭載のサウンドチップ
―「EAX ADVANCED HD」も提唱
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010820/creative.htm

(2001年10月1日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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