第1回:大画面ならやっぱりプロジェクタ?
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■ 映像は大画面で楽しみたい!
ソニーの「ベガシアター」イベントで展示されたナンシー関さん考案のシアタールーム。フロントプロジェクタをバイオRXにつなぎ、HDDにとりためた映像を気のむくままに投射する |
では、「ディスプレイデバイスに対するこだわり」とは……?
それこそ各自、様々なこだわりがあると思うが、一般に「画質」、「大画面」といった要素が重要視される。
映像を「情報の集合体」として考えた場合には、ディスプレイデバイスにとって「画質」は、見る者へ正確に色や形状を伝える意味合いで最も重視されるべきだ。
しかし、「エンターテインメントとしての映像」を考えた場合には、重要視されるのは「大画面」ではないだろうか。というのも知覚情報の80%を占めるという視覚情報を、目の前一杯に展開させるだけで、我々は容易にバーチャルリアリティ感を味わえるからだ。
もちろん、その場合でも「画質」を疎かにしてしまってはダメなのはいうまでもない。画質の悪い映像に取り囲まれても没入感は得られない。シラケが増すだけだ。
そこで「画面の大きさ」を最重要視しつつ、満足のいく「画質」を得られるディスプレイデバイスにはどんなものがあるのか? まずはこの視点でディスプレイデバイスについて考えてみたい。
■ 大型ブラウン管ディスプレイ(CRT)~成熟した画質を求めるなら
最もなじみ深いディスプレイデバイスといえばCRTを使ったディスプレイということになるだろう。
現在市販されているもので最も画面サイズの大きいもので36インチ(16:9)。CRTというと、以前は表示面に特有の丸みがあり、これが画質面における最大の弱点だった。しかし、平面ブラウン管技術の発展により、現在では後述のPDPや液晶に負けない平面性を獲得している。
また、もっとも長い歴史を持つディスプレイデバイスだけに、発色やコントラストなどの画質面では成熟の域に達している。「未だに、画質面ではCRTを超えたものはない」と言い切るマニアもいるほどで、一定クラス以上の製品であれば、その画質の高さはある意味保証されているといってもいい。
最近では、プログレッシブ化機能を内蔵したタイプや、1080i/720pなどの高解像度表示に対応したタイプもあり、ポテンシャル的にも他方式に劣らない。また、価格は36インチ級で20~30万円程度と、決して手の届かない価格帯ではないのも魅力だ。
現時点での欠点をあえて挙げるとすれば、設置スペースが同画面サイズのPDPや液晶よりも要求される点、そしてコストや製造上の問題から現在市販されている製品の画面サイズが36インチサイズ以下に限られているなどがある。
ソニーの「KD-36HD600」。110度CSチューナを内蔵し、水平方向のスリットを約6割増やしたスーパーファインピッチFDトリニトロン管を搭載 | EPGや80GB HDD、音声認識機能を搭載する松下電器のフラッグシップ「TH-36DH200」 | ビクターの「AV-32Z1500」と「36Z1500」は、どんな入力ソースも走査線1,440本にコンバートする「DET」を採用して話題になった |
■ プラズマテレビ~設置場所優先で大画面を
最近では家庭用テレビとしてPDP(Plasma Display Panel)も低価格化が進み、一般化してきたのがプラズマディスプレイだ。
まず、画面サイズの割には薄いというのがPDPの一番の利点。PDPは「壁掛けテレビ」の異名を取るが、50インチクラスになると重量は50kg近くにもなるので、壁に常用設置する場合には壁の補強工事が必要になる場合がある。確かに省スペースなのだが、それほど省ウェイトではない点はあらかじめ認識しておいた方がよい。
各画素が自発光式なので、CRT同様、周囲が明るくても高品位な映像が楽しめるが、「コントラストに関してはまだまだ甘い」、「RGB各画素が分離して見える」といった画質特性そのものに好き嫌いを訴える意見もある。良くも悪くも液晶やCRTとは違った「画作り」になっているのは知っておくべきだろう。
現時点での最大サイズは60インチ(16:9)クラスで、代表的なものとしてはNEC「PX-61XM1」(実売価格約200万円)などがある。現在、価格がこなれてきているのは40~50インチクラスで50~80万円前後。代表的な製品としては2001年12月発売された新世代PDPを搭載した43インチ(16:9、解像度1,280×768ドット)のパイオニア「PDP-433HDシリーズ」(実売価格70万円前後)などがある。
価格的にはCRTよりもかなり高いが「狭いところにも大画面がおける」不満解消型の製品として、あるいは設置条件優先で大画面が欲しい人向きとしては、最有力の選択肢となるだろう。
パイオニア初の43インチプラズマテレビ「PDP-433HD」。ディスプレイ横にスピーカーを付けた「-S」(写真)と、ディスプレイ下に設置した「-U」がある | 世界最大の61インチパネルを使用するNEC「PX-61XM1」。対角の寸法は1m55cm | 日立は32インチまでの小型化を実現し、プラズマ普及に一役買った。写真は110度CDチューナ内蔵の新製品「W32-DH2200」 |
■ 大型液晶テレビ~壁掛けテレビの本命?
パソコン用ディスプレイとしては、CRTを追い越す勢いで普及しつつある液晶ディスプレイ。動画中心のテレビ用途としては、「表示応答速度の遅さ」が弱点として指摘されてきたが、液晶駆動方式の技術革新もあり、最近の製品ではそうした問題は解消されている。画質面においても、バックライトを透過させる原理上、どうしても黒が明るくなる「黒浮き」現象が発生し、一般に「液晶テレビの映像は低コントラスト」といわれてきた。しかし、この弱点も現在の製品ではほぼ完全に克服されている。今では、PDPよりも重量が軽いこともあり、「壁掛けテレビ」としてはPDPよりも本命視されているほどだ。
ただ、その動作原理上、画素を極端に大きくできず、大型サイズの液晶パネルを作ろうとすると必然的に高解像度化しなければならない。そうなれば当然、パネル単価は高価になる。理由はこれだけではないが、液晶テレビはPDPほど大画面製品には向かないとされ、40インチクラス以上をPDP、30インチクラス以下を液晶でというように棲み分けが進むと見られる。
現在、一般向け市販製品として市場にある液晶テレビの最大画面サイズは30インチ(16:9)前後で、代表的な製品としてはシャープの「AQUOS」の30インチモデル「LC-30BV3」、「LC-30HV3」がある。実売価格は大体50万円前後。
液晶テレビは、現時点では「30インチクラスの」という条件付きだが、「省スペーステレビ」としては有力な候補となるだろう。
液晶テレビといえばシャープのAQUOS。フラッグシップの「LC-30HV3」は液晶最大の30インチパネルを搭載し、ハイビジョンに対応。BSデジタルチューナ内蔵の30BV3もある | サムスンはPDPにせまる40インチ(16:9)の液晶パネルを使ったディスプレイ試作機を発表。年内にHDTV製品として発売される予定だが、価格的には同サイズのPDPよりも30%ほど高価になるとのこと | パイオニアも30インチの「PDL-30HD」で液晶テレビに参入した。シャープのOEM品で7月中旬に発売。店頭予想価格は70万円前後。シャープはテレビ用パネルの外販を予告しており、参入メーカーの増加が期待される |
■ フロントプロジェクタ~とにかく大画面が欲しい人に
内部で作り出した映像を前面のスクリーンに投影して表示するディスプレイデバイスで、一般に「フロント」は省略して「プロジェクタ」と呼ばれることが多い。映像を投影する方式であり、各画素は自発光しないため、周りを暗くしないと映像が見にくいという弱点がある。
プロジェクタは、黒レベルの強さが部屋の暗さで決まってしまうため、コントラストが低いという欠点がこれまで指摘されてきた。しかし、高輝度ランプを採用した製品が主流の現在では、見かけ上のコントラスト比はかなり高められた。
光源ランプには、数千時間(機種やランプタイプによって異なる)という寿命があり、寿命が来たらランプを交換する必要がある。「定期的にランプを交換する必要がある」という手間、そしてこの光源から発せられる熱を排気するファンの騒音が、プロジェクタというディスプレイデバイスの課題といえる。
本体価格自体は大部こなれてきており、1,000ANSIルーメン・クラスの中堅機であれば50~100万円以下。また、最近では一般ユーザー向けのホームシアター入門機のラインナップも充実してきており、そういったクラスは30万円前後で販売されている。
プロジェクタは、その動作原理上「ある程度の投射距離が必要になる」という制約があるが、逆に十分な投射距離があれば、最も効率よく大画面が確保できる手段でもある。「とにかく巨大画面がほしい」という人には最も適したディスプレイデバイスだ。
細かく見ていくと、プロジェクタにはその映像生成方式によっていくつかの種類に分かれるが、これについては機会を改めて解説することにする。
液晶を採用するフロントプロジェクタ、ソニーの「VPL-VW11HT」。人気のVW10HTの後継機で、ハイビジョン対応の新パネルを採用し、同社のテレビと同じDRC-MFを搭載 | プラスビジョンの「Piano」は、微細なミラーデバイス「DMD」を使用するDLP方式を採用。小さな本体と30万円以下の価格が話題になった | データプロジェクタでシェア1位のエプソンも、今年からホームシアターモデル「ELP-TW100」を投入。他社に光学エンジンや液晶パネルを供給する同社だけに期待も大きい。当コラムでもとりあげる予定だ |
■ リアプロジェクション・テレビ~据え置き型超大画面
リアプロジェクタ(略称:リアプロ)は、外観こそ普通のテレビと変わらないが、突き詰めていえば、フロントプロジェクタのシステムを箱で囲ってしまったもの。フロントプロジェクタは投影するスクリーンがたわんだりすると投射された映像も歪んでしまうが、リアプロではそうした問題もない。
また、フロントプロジェクタと違い、密閉されているため黒も正しく黒として表現され、コントラスト比はブラウン管並みに高い。なお、基本原理はプロジェクタなので、光源ランプの寿命があり、定期的に交換の必要があるのは変わらない。
PDP、液晶やCRTにはありえないような100インチ前後の超大画面製品もあるが、非常に高度な光学機構を組み込んでいる関係で価格は高く、また、本体の重量やサイズも相当なものになる。
大体70インチクラスで価格は300万から500万円、重量は100kgくらい。100インチクラス以上になると、価格は600万円以上、本体重量は200kg近くにまでなる。
60インチ以上の業務用の現行製品としては、70インチタイプ日立「NX70-1111S」、ビクター「DB-70C15/S15」などがある。また、コンシューマー向けは数が少ないものの、国内ではソニーが「GRAND WEGA」で健闘しており、42インチ、50インチ、60インチをラインナップしている。中でも新製品の42インチは実売価格で40万円程度と、1インチ1万円に達したという点で注目されている。
リアプロジェクションの業務分野に強い日立の「NX70-1111S」。SXGAタイプは70インチで760万円もする | コンシューマ向けではソニーの「GRAND WEGA」が有名。左から42インチ、50インチ、60インチ | エプソン初の業務用リアプロジェクタ「ELP-RM50W1」。50インチで解像度は1,280×720ドット、コントラストは1:1,000 |
■ 大画面、最良の選択肢はどれ?
~フロントプロジェクタは最もハイコストパフォーマンスな大画面実現手段
ここまでで、大画面ディスプレイデバイスとしてどのようなものがあるか、という点についてはおわかり頂けたと思う。それでは、どれが最良の選択肢なのだろうか。
設置条件を考えに入れなければ、40インチ以下で良いならばCRTや液晶ということになるだろう。40~60インチクラスであれば、PDPが最有力候補になるし、60インチを超えた大画面が欲しいということになれば、リアプロ、フロントプロジェクタのどちらかということになる。
「とにかく大画面が欲しい」というニーズをコストから考えると、PDPや液晶ディスプレイでは、安くなったとはいえまだまだ割高だ。リアプロという選択肢もあるが、GRAND WEGAやサムスンなどの一部の機種を除くと、とたんに数百万円コースになる。60インチを超える大画面の場合、もはや一般家庭向きとはいいがたいだろう。
一方、フロントプロジェクタは、本体はエントリ・クラスで30万円前後、中堅機でも60万円前後だ。設置条件的な問題さえクリアできれば、フロントプロジェクタは100インチの投影も余裕で可能。その意味でフロントプロジェクタは、もっとも安価に大画面を獲得できるディスプレイデバイスということができるのではないだろうか。
■ フロントプロジェクタとは?
~投射距離4メートルで100インチの大画面
東京・新宿にあるプラスビジョンのショールーム「PLUS Playtheater Showroom」。様々なパターンで大画面のある生活を紹介している |
以上のことから、この連載では、主にフロントプロジェクタを取り扱っていくことになる。
「その前置き」としてはかなり長かった気もするが、「液晶テレビやPDPがあるのになぜ(フロント)プロジェクタなの?」という理由付けを、はっきりさせておきたかった。
フロントプロジェクタに馴染みがない読者も多いと思うので、まず、基本的な設置概念からお話ししておこう。
プロジェクタは本体内部で映像を生成、これを前面に設置したスクリーンに投影することで映像を表示する。フィルムは使わないが映写機に近いイメージだ。
投射された映像は広がって投影されるので、スクリーンとプロジェクタ本体の距離(投射距離)を離せば離すほど大画面が得られる。
プロジェクタ本体側のレンズ特性にもよるが、大体「100インチで4メートルの投射距離」が目安となっている。
プロジェクタはテーブルなどの台に置いて使用することもできるが、スクリーンまでの間に遮蔽物があると、その影が映ってしまう。よって常設して使用する場合には、天井に備え付ける「天吊り設置」にすることも多い。
スクリーンは、画質を重視するならばホームシアター向けのものを選びたいが、予算的な都合でどうしても用意できないというのであれば白いシーツや模造紙、あるいは壁が白ければ壁に投影しても見られないことはない。
設置方法やスクリーン等の話題については、これまた奥の深い世界が広がっている。こうした話題については機会を改めて詳しく行なうことにする。
■ 製品レビューは次回から
筆者のシアタールーム。二重サッシュをはじめ、防音対策も施している |
この連載では、プロジェクタ製品、およびその関連製品の紹介や評価を行なったり、また、フロントプロジェクタを中核に据えたホームシアターの構築方法などについても紹介していきたいと考えている。
次回からは具体的な製品紹介を行なっていくが、評価ポイントは、その画質だけでなく、設置性、操作性、接続性なども考慮する。
また、DVDビデオやハイビジョンなど映像系ソースだけでなく、ゲーム機の映像やパソコンを接続した際の使用感等にも触れていきたいと思っている。これは、プロジェクタ・アプリケーションとして、ゲーム機やパソコンを繋ぐケースを無視することができないためだ。
取りあげて欲しい製品、話題があれば編集部の方にも積極的にリクエストして欲しい。
エントリーは次の4機種を予定しています。 |
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(2002年5月9日)
= 西川善司 = | ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。 本誌では1月の2002 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。 |
[Reported by トライゼット西川善司]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp