ちょうど1年前、EDIROL(当時はRoland)からシーケンスソフト「Cakewalk」の最新版「SONAR 1.0」が発表された。従来のCakewalk Pro Audioシリーズとは、ユーザーインターフェイスも機能も設計も大きく異なったSONARは、単にMIDI&オーディオシーケンサというだけではない。
ACIDのようなループシーケンス機能を装備したり、DXiというソフトシンセ機能を装備するなど非常にユニークな特徴を持つことから、かなり広まった。そして、1年。そのSONARが2.0へと大きく進化した。
■ Windowsベースのシーケンスソフトとしての地位を築き上げたSONAR
国内ではEDIROLが発売するSONARは、米Twelve Tone Systemsのシーケンスソフト。同社はDOS時代からCakewalkという名称でMIDIシーケンスソフトを開発し、Windowsにもいち早く対応。その後も譜面機能を追加したり、オーディオ機能を付け加えたり、エフェクト機能を搭載したり……と進化し、Cakewalk Pro Audio 9までバージョンを上げていった。
その一方で、MacintoshからWindowsへ移植された「CubaseVST」や、「LogicAudio」などドイツ勢が市場で大きな力を付けてきて、かなり押されてきた。そこで、昨年SONARと名前を変えるとともに、見た目も機能も大幅に変更し、まったく違うソフトに生まれ変わって登場した。
当然のことながら、CubaseVSTやLogicAudioなどを意識しているのだが、その設計思想は大きく異なっている。機能面では、MIDIシーケンス機能やオーディオシーケンス機能を備え、ほぼ互角なスペックとなっていたのだが、技術的には完全にWindowsベース(= Microsoft系)のものを用いて作られていた。
SONAR 2.0 |
また、機能的にも、ACIDのようなループシーケンス機能を持ち、ループデータを貼り付けるだけで簡単に曲を作成できるというのも大きな特徴となっている。実際、このループデータはACID用のものをそのまま使うことが可能で、しかもMIDIやオーディオと完全に、そして簡単に同期がとれるというのも1つの売りとなっていた。
そのSONARがこの度、2.0へとバージョンアップ。また、バージョンアップとともにSONAR 2.0(58,000円)と、SONAR 2.0 XL(78,000円)の2つのラインナップとなった。もっとも、2つのベースはまったく同じで、違いはXLにはプラグインがいくつか追加されているだけだ。
■ SONAR 2.0で強化された7つのポイント
では、そのSONAR 2.0およびSONAR 2.0 XLについて、新機能を中心に紹介していこう。
まず、起動してみて感じるのは、見た目にはほとんど違いがないということ。Cakewalk Pro Audio 9からSONARへの変身はすさまじかったが、1.xから2.0へのバージョンアップでは、ユーザーインターフェイスの変更はない。ただし、内部的にはいろいろと強化されており、具体的には次の7つのポイントとなる。
実際使ってみて思ったのは、これまでちょっと不便だったり、CubaseVSTのほうが使いやすいかなと感じた部分などが、すべて直っているということ。中でも、今回の目玉といえるのは、DXi2のサポートとReWire 2.0への対応だ。
■ マルチポート出力に対応したDXi2
当初、どれだけサードバーティーが対応するか注目されていたDXiだが、この1年で結構多くのソフトが対応した。中でも、大きかったのがソフトシンセメーカーの中枢ともいえるNative Instrumentsが、同社のほぼすべての製品をDXiに対応させたことだろう。
Prophet-5のエミュレータであるPro-52をはじめ、DX7のエミュレータであるFM-7、オルガンサウンドモジュールB4……と、いろいろなものがDXi対応した。
ただ、このDXi版を見た際、VSTi版に比べて大きく劣る点が2つあった。それは、マルチポート出力ができないということ、それからオートメーションに対応していないということ。
マルチポート出力設定 |
一方、オートメーションに対応したのも大きなポイント。これは、曲の進行にしたがって、ソフトシンセのパラメータを変化させることを可能にしたもの。たとえばカットオフやフリケンシーのパラメータの変化を記録させることで、音色が少しずつ変わっていくといった味付けが可能になる。
DXi |
その仕組み自体はSONAR 2.0でも同じなのだが、今回はツールメニューにあるDXiボタンを押すだけで、簡単に組み込んで使えるようになった。また、現在組み込まれているDXiもラック形式ですぐに確認できるので、わかりやすくなっている。
■ ReWire 2.0に完全対応
もう1つ、ソフトシンセ絡みでは、ReWire 2.0に完全対応したというのも大きな特徴だろう。
ReWireとは、SteinbergとPropellerheadの2社が開発した、ソフトウェア間でMIDIやオーディオの信号、トランスポート情報などをやりとりする規格。たとえばReWireにより、CubaseVSTとREASONを有機的に接続することができ、物理的な配線をまったくしなくても、お互いが同期をとりながら、演奏することができる。DXiやVSTiとも近いのだが、ReWireの場合はプラグインという形ではなく、双方のアプリケーションが独立し、スタンドアロンで動作するというのが特徴。
SONAR 2.0は、そのReWireの最新版の規格であるReWire 2.0に対応した。前述したようにMicrosoft系の技術や規格に固執しているように見えるSONARだが、ReWireだけは取り入れたようだ。現に数多くのソフトがReWireに対応しており、ソフト間を接続する規格としては、デファクトスタンダード化している。また、ほかに同様の規格がないこともあり、対応を決定したのだろう。
実際にSONAR 2.0とREASONを接続してみたところ、あっけないほど簡単に同期できた。方法は、DXiのプラグインソフトシンセを組み込むのとまったく同じで、DXiのラックからREASONを選択するだけだ。
SONAR 2.0とREASONを接続 | REASON |
接続後は完全に同期するので、SONAR側でプレイボタンを押すと、REASONもそれに従がって動作するし、REASON側でストップボタンを押せばSONARも止まる。また、REASONの出力サウンドはSONARのトラックで管理することができるので、SONAR側でエフェクトをかけることも可能だ。
■ 強化されたオーディオエフェクトとソフトシンセ
ところで、今回SONARがDXi2に対応したわけだが、それに伴い、バンドルされるDXiソフトシンセのほうもDXi2化されている。
まずは、おなじみのGS音源ソフトシンセ「Virtual Sound Canvas」(=VSC)だ。見た目は従来のものとほとんど変わらないし、シンセサイザとしての性能もまったく同じだが、マルチアウトやオートメーションに対応した。また、ポリフォニックアナログシンセのDream StationもDXi2をサポートしている。
Virtual Sound Canvas | Dream Station |
一方、SONAR 1.xで入っていたApplied Acoustics Systemsの物理モデリング音源「TASSMAN SE」が廃止。その代わりに、CakewalkのCycloneおよび、Alien Connectons ReValver SEの2つが追加されている。
このCycloneというのは、パッドを利用してグルーブデータを割り付けるグルーブシーケンサ。SONAR 2.0自体がACID的なループシーケンス機能を持っているわけだが、各グルーブデータを、1つずつMIDIでもコントロールできてしまうというのがこれの面白いところ。やはりACID用のデータを読み込むことで、非常に容易に扱うことができる。
もう一方のReValver SEはDXi対応のソフトなのだが、実はソフトシンセではなく、エフェクト。正確にはギター用のアンプシミュレータだ。これはプリアンプ、パワーアンプ、エフェクト、スピーカーという4種類のモジュールをラック形式でマウントして使用できるシミュレータで、かなりリアルなギターサウンドを作り出すことができる。
では、なぜこれがDXiなのかというと、各パラメータをMIDIでコントロール可能となっているからだ。もちろんDXi2対応なので、オートメーションの記録も可能。具体的にはMIDIのNRPNコマンドを利用して、ゲインやフィルターのパラメータなどが動かせるようになっている。
Cyclone | ReValver SE |
■ SONAR 2.0 XLで搭載されているプラグイン
このようにSONAR 2.0では、バンドルのソフトシンセがDXi2に対応するとともに、新たに2つのDXiアプリケーションが追加されている。一方、SONAR 2.0 XLにはさらに2つのDirectXプラグインエフェクトと、1つのDXiソフトシンセがバンドルされている。
まず、プラグインエフェクトのほうだが、これは高性能エフェクトとして評価の高いSonic Timeworksのイコライザとコンプレッサ。そう、完全にマスタリング用途のエフェクトである。これは従来よりDirectXプラグインとして販売されていたほか、Creamw@reのPulser用やRTAS用などもリリースされている。ちなみに、DirectX版それぞれの価格は199ドル、179ドルだ。
コンプレッサ | イコライザ | グラフィック画面 |
それぞれ機能的には単にイコライザとコンプレッサなわけだが、確かに効き具合いはなかなかいい。またイコライザはスライダーボリュームでの設定画面と、グラフィック画面の2つが用意されている。
FxpansionのDR-008 |
かなり使えるドラムセットが、あらかじめライブラリとして複数用意されており、これらを利用できる。また、各パットに自分でサンプリングした音などを割り当てることも可能なため、自由度も非常に高い。単体で購入すれば149ドル。
単純計算すれば、計527ドル分のソフトがセットになっているので、価格差は2万円ある。
■ ドラムシーケンス機能を装備し、外部MIDIコントローラにも対応
ここまで、プラグインなどの機能について見てきたが、SONAR本体のほうにも、いくつか機能が追加されている。
ドラムシーケンス機能 |
機能的には単純で、ピアノロール画面が拡張されてドラム用になっただけなのだが、操作性は格段にあがった。ドラムパートの場合は、リアルタイムレコーディングというよりも、ステップ入力やマウスでの入力が多いと思うが、そうした際に非常に有効に利用できる。
もう1つ、従来からもあったのだが、外部のMIDIコントローラに積極的に対応したというのも大きなポイント。MIDI接続のコントローラをGeneric Control Surfacesという新機能によって、より簡単に扱えるようになった。
そのほかにも、オーディオファイルをプロジェクトごとに違うフォルダに入れて管理する機能やACID用のデータを読み込むだけでなく、書き出す機能を装備するなど、SONAR 1.xであったら便利と思った機能が、みんな盛り込まれている。
ただ、やはり数多く普及しているVSTのエフェクトやVSTiのソフトシンセをSONAR 2.0で使ってみたい。これは、さすがにSONAR 2.0単体ではできないのだが、DR-008の開発元でもあるFxpantionが出している「VST-DX Adapter」といソフトを利用することで解決できてしまう。
シェアウェアとしてネットから購入でき、価格は60ドル。残念ながら現時点ではDXi2には対応していないが、まもなく現在のV3.3のユーザーに無償配布されるV4.0ではDXi2に対応するとのことである。
以上、SONAR 2.0について見てきたが、いかがだっただろうか。海外ではすでにCubaseVSTの新バージョンであるCubase SXが登場し、話題となっている。Windowsベースのシーケンスソフト市場はますます面白くなってきそうだ。
□ローランドのホームページ
http://www.roland.co.jp/
□製品情報
http://www.roland.co.jp/products/dtm/Sonar2.html
□関連記事
【5月22日】【DAL】第55回:EDIROLブランドのDTM製品群を一挙に発表
~ 後編:MIDI&オーディオシーケンスソフトなど6製品 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020522/dal55.htm
【2001年5月1日】【DAL】第8回:Windows用レコーディングソフトの最新事情
~DXi対応ソフトシンセ「SONAR」を使用する~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010501/dal08.htm
(2002年6月10日)
[Text by 藤本健]
= 藤本健 = | ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp