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第65回:定番大復活!「NEC SmartVisionHG/V」
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■ NECの逆襲始まる!?
TVキャプチャカードの定番と言えば、以前ならば「NEC SmartVisionシリーズ」がいわゆる「堅いところ」であった。だが最近は普及クラスというレンジが消滅し、どこのショップでもハイエンドのカノープスの「MTV1000」or「MTV2000」がイチオシ、という感じになってきている。MTVシリーズは画質がいいこともあるが、やはりハードウェアエンコーダ搭載でマシンに負荷がかからないため、Pentium IIIクラスのマシンでも安定しており、ショップとしても勧めやすいというところだろう。
SmartVisionが定番から外れてきたほかの理由としては、DVDビデオへの転用の難しさがある。具体的には、SmartVisionでキャプチャしたMPEG-2ファイルのオーディオサンプリングレートが32KHzであるため、DVDビデオへ転用するためには48KHzに変換してやらなければならなかったのだ。
そんな状況の中、ある意味TVキャプチャカードのレールを敷いたともいうべき存在のNEC SmartVisionシリーズにも、ついにハードウェアエンコーダ搭載のPCIカードモデル「SmartVision HG/V」が登場した。録画した番組を簡単にDVD化できるよう、MPEG-2ファイルの仕様も以前のシリーズから変更されている。
SmartVision HG/Vは果たして定番の座を再び取り返すことが出来るのか? 早速チェックしてみよう。
なお今回メーカーよりお借りしたカードは、ハードウェアは最終バージョンだが、ソフトウェアはまだ最終版ではない。しかし、画質は製品版とほとんど変わらないとのことなので、そのあたりをあらかじめお含み置き願いたい。
■ ハードウェアは全くの新設計
まずはハードウェア面から見てみよう。カードは本体にドータカードがマウントされた二重構造になっている。製品が届くまでは、「アレだろ以前のSmartVisionにドーターカードでハードウェアエンコーダ載せたんだろ」ぐらいに考えていたのだが、実際に製品を見るとこれがまた全く新設計のカードであることがわかる。いや作り込むなぁNEC。
I/OはRF入力は当然として、アナログビデオ入力(S-Video、コンポジット共用 + アナログオーディオ)のほかにアナログビデオ出力を備えている。チューナユニットは従来製品から採用されているALPS製の薄型のもの。
シングルカード構成の従来機では、この薄さも大してありがたみがなかったのだが、こうしてドーターカードを乗せるスペースが確保できるという点でメリットを発揮している。
カード背面のI/O。アナログ入出力を持つ | ドーターカードを外したところ。チューナユニットはALPS製 |
ドーターカードにはゴーストリデューサと3次元Y/C分離回路、デジタルノイズリダクションチップが載っている。本体側にはハードウェアエンコードチップおよび、ハードウェアデコードチップがある。RF信号は本体カードのチューナ部からドーターボードへ上がって、ブラッシュアップされたあと、本体へ戻ってきてエンコードされるという流れだ。
音声はカード内部から外出し用のケーブルを使ってPCのLineに入力 | エンコーダチップ(右)は、同社の「μPD61051」 |
本機で使用できる画質モードを書いておこう。注目はオーディオのサンプリングレートが見直された点だ。これによりDVDビデオとの互換性が得られることになる。
画質 | 方式 | 解像度 | ビットレート | 音声 |
高画質 | MPEG-2 | 720×480ドット | CBR 8Mbps | 224Kbps/48kHz |
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標準画質 | 720×480ドット | VBR 4Mbps | ↑ | |
長時間 | 352×480ドット | VBR 2Mbps | ↑ | |
ユーザー設定 | MPEG-2 | 720×480ドット | CBR 4~15Mbps VBR 4~7.5Mbps | ↑ |
352×480ドット | CBR 3~10Mbps VBR 3~6Mbps | ↑ | ||
352×240ドット | CBR 2~6Mbps VBR 1.2~3Mbps | ↑ | ||
MPEG-1 | 352×240ドット | CBR 1.15Mbps (ビデオCD) | 224Kbps/44.1kHz |
デコードチップはREALmagic製EM8470 |
ほとんどのチップはNECオリジナルだが、ハードウェアデコードチップはSIGMA DESIGNSのREALmagic「EM8470」を採用している。HDTV出力が可能として話題となったバーテックスリンクの「XCARDに採用された「EM8475」と比較すると、コンポーネント出力やAudio DACがない、よりベーシックなデコードチップ。このEM8470は、アナログビデオ出力を利用する際にのみ使用され、PC画面上で視聴する場合はソフトウェアデコードとなる。
そのほか製品には、リモコンおよびUSB接続の受光部が付属するが、手元にある試作モデルには含まれていない。製品写真から察するに、従来機に付属していたものと同じものと思われる。
肝心の画質だが、3次元Y/C分離回路、ゴーストリデューサー、デジタルノイズリダクション、TBCと、とにかく付けられるものは全部付けたハードウェア仕様なだけに、さまざまな状況に対応することができ、画質はかなり上質だ。画像サンプルはいつものように編集部ががんばって作ってくれたので、参考にして頂きたい。
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MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ いろいろな仕掛けが付加されたソフトウェア
一方ソフトウェアのほうはというと、おなじみの「SmartVision/TV」を中心としたいつものラインナップがベースになっている。EPGやデータ放送を積極的に利用するアプリケーション群はNECならではのものだ。ただし微妙にいろいろな面で、使い勝手が良くなっている。
これはハードウェアとももちろん絡んでくるのだが、SmartVision最大の欠点と言われた起動の遅さがかなり軽減されたのは、ユーザーにとって大きなポイントだ。以前はSmartVision/TVを起動して実際にテレビ画面が映るまで30秒ぐらいは平気でかかっていて、映った頃にはもうオープニング終わってもーたがなえーかげんにせーよ的なイラつき具合だったが、Pentium 4 1.7GHzのテストマシン上では、7秒程度にまで短縮されているのが体感できた。
またチャンネル切り換えのレスポンスも以前のモデルより良く、「まあキャプチャカードならこんなもんだろ」という程度まで向上している。ただ、補正回路を沢山通るせいか、チャンネルが切り替わって1秒後に色が改めて乗り直すようだが、ザッピングするぶんには問題にならないだろう。
またメインウインドウは、PCで作業中にテレビが見られるよう、映像フレームだけの「スリムモード」表示が可能になった。画面枠のドラッグで、アスペクト比を固定したまま自由なサイズに変更できる。最大はもちろんフルスクリーンだが、最小は320×240ピクセルまでのようだ。チャンネルなどのコントロールはマウスの右クリックで行なう。
おなじみの通常モード画面 | スリムモードではテレビ画面のみ表示される |
SmartVisionHG/Vならではの新しい仕掛けとして、録画した画像をネットワークで配信できる機能が加わった。ハードウェアをインストールしたPCに「SmartVision/Server」というアプリケーションを常駐させておき、別のPCに「SmartVision/Player」というクライアントアプリケーションをインストールする。SmartVision/Playerを起動すると、サーバー側に録画してある番組情報にアクセスできる。
SmartVision/Playerからサーバーにアクセスしたところ |
この手の機能を搭載した製品はほかにもいろいろあるが、大抵の場合ネックになるのがネットワークの速度だ。100Base-TXではMPEG-2でそのまま配信できるが、ワイヤレスで一般的なIEEE 802.11bでは速度的な制限により、MPEG-2での配信はよほど低ビットレートのものでなければ無理だ。そんなこといったって録る前からネット越しに見るかどうかなんて決められないわけで、実際にはダメじゃんダメなんじゃんみたいなコンセプト倒れ的ジレンマが常につきまとっていた。
SmartVisionHG/Vのサーバのユニークな点は、録画した番組をリアルタイムにMPEG-4に変換してストリーム化することで、常に均等な条件のストリームを可能にしたことだ。転送速度は1.7Mbps、1Mbps、700kbpsの3つから選択する。筆者手持ちの「VAIO SRX7」内蔵IEEE 802.11bで配信を受けてみたが、1.7Mbpsで十分動作した。配信の画像サイズは320×240ピクセルに変換されてしまうが、画面の小さいノートパソコンなどで見る分には十分な画質。なにか操作をした後には、GOPの長いMPEGファイルにありがちな残像が残ることもあるが、早送りや特殊再生なども普通に行なうことができる。
SmartVision/Playerの配信設定。通信状況に応じて転送レートが変えられる | 操作性はSmartVision/TVと全く同じ |
配信の制限としては、放送中の番組は配信できない(つまり録画したものだけ配信できる)こと、本体が録画中は配信できないこと、配信できるクライアントは1つだけ、といった点があるが、ようやく現実的なホームストリーミングができる製品が出てきたという感じだ。なおサーバーとなるマシンは、Pentium 4 1.6GHz以上が必要となる。
■ DVD書き込み機能搭載
もう1つソフトウェア的な仕掛けとして、「Ulead DVD MovieWriter」との連携機能がある。SmartVision/TV内で録画したファイルを管理するバインダーモード内にリンクボタンが新設され、これを押すことで現在選択中の番組が、バンドルソフトであるUlead DVDMovieWriterに送られる仕組み。
焼く方法は2つあり、1つはDVDMovieWriterのライティングエンジンだけを使って番組丸ごと焼く方法、もう1つはちゃんと編集やオーサリングを行なったあと焼く方法だ。今回は、後者のほうを試してみよう。
バインダーモード内に新たに設えられたリンクボタン | DVD MovieWriter for NECのGUIは、通常版とは違う |
なお、製品にバンドルされているのは「DVD MovieWriter for NEC」という特別版で、市販されているものとはGUIが違っている。DVD MovieWriter for NEC版のGUIは、オリジナルのものよりデザインがおとなしくなっているが、そのぶん使いやすい印象になっている。毎度UleadのGUIは濃すぎて、ちょっと使いづらいところがあるのだが、その辺を上手くコロしてNECなりに仕上げた印象を受ける。
バインダーモードから起動すると、DVD MovieWriter内には選択した番組のみ登録された状態になる。そのほかにも番組登録はいろいろな方法が考えられる。例えばSmartVision/TVでは、独自のシーンチェンジ情報を使って範囲指定し、MPEG-2にエクスポートできる機能がある。またブックマークを利用した範囲指定およびエクスポートもできる。
実はCMカットを前提としてエクスポートの実験をしてみたが、SmartVision/TV上にはフレーム単位のコマ送り機能がないので、ちゃんとしたポイントにブックマークを付けることはなかなか困難だった。またちゃんと付けたつもりでも、エクスポートしてみると数フレームズレている。きちんとした範囲の切り出しをやるのなら、素直にDVD MovieWriterでやったほうがいい。ただ段取りとして、番組全範囲をMPEG-2にエクスポートして作業した方がいいだろう。というのもSmartVisionでは、録画したファイル名が「20020621_140804.m2p」みたいなユニークファイル名になっていて、番組名がファイルからはわからないからだ。
映像のトリミングは、別ウインドウで作業する。ユニークなのはコマ送り機能で、一度クリックして、マウスをそのままボタンの上に置いておくと連続コマ送りになる。スローモーションのように使え、フレーム単位のポイントを見つけるのに役に立つ。1フレームだけ送りたい場合は、キーボードのアローキーを使う。
また同じムービー内のチャプターも、別ウインドウ上で作業する。トリミング同様簡単な操作で設定でき、サムネイルも自由なポイントを選ぶことができる。最小限だが、TV番組の保存には十分な機能を備えている。
トリミング用ウインドウ。映像の使用範囲を指定する | チャプタ追加用のウインドウ。同じような操作性で使いやすい |
最終的なビルドは、録画したMPEG-2ファイルがDVDビデオ規格内に収まっていれば、全体的な再エンコードなしにビルドできる。わからない人は、録画モードでプリセットの標準や高画質を選んでおけばいい。試しに1時間番組をCMカットしてビルドしてみたところ、約10分で完了した。再エンコードがないのでかなり現実的な時間だ。
録画ファイルがDVDビデオ規格内に収まっていれば、ビルド作業は早い |
しかしDVDビデオ規格外のMPEG-2ファイルは、作業ができないようだ。またSmartVisionHG/V以外で作られたMPEG-2ファイルは動作保証外なので、おそらく再エンコードになるだろう。規格外のファイルもSmartVision HG/Vのハードウェアエンコーダを使って再エンコード、なーんてことができればかっこいいのだが……。
最近UleadとNECは協力関係にあり、DVD MovieWriterの上位ソフト、DVD WorkshopにはNECのソフトウェアエンコーダが載るといった動きも見せているので、まんざら無い話でもないと思うのだが、どうだろうか。
■ 総論
今回試用したSmartVision HG/Vは、ソフトウェアもまだファイナルではないといいながらも、歴史の古い製品だけあって、その動作はなかなか安定している。レスポンスの遅さも改善されただけでも、今まで敬遠してきたユーザーを呼び戻す材料となるだろう。
ハードウェアとしてもコンパクトにまとまっているので、今流行のキューブ型ケースにも入れやすいのではないだろうか。ビデオ出力を使ってテレビに繋ぐもよし、ストリーミングでクライアントから見るもよし、MTVシリーズの長いカードが入らないからと、小型ビデオサーバの作成を諦めていた自作ユーザーにはぴったりだ。
惜しいのはハードウェアでDVDのデコードができないことぐらいだろうか。だがそれはそれでまた別のハードウェアでやってもいいし、ここはテレビ関係オンリーと割り切って使うべきだろう。どうせチップ的にコンポーネント出力は無理だしネ。
さてこのSmartVisionHG/V、発売は6月28日、店頭予想価格は5万円台半ばとなっている。さすがにハードウェアエンコードものとあってちょいと値も張るが、夏のボーナスでは丁度いいタイミングでのリリースだ。また、既にNEC VALUESTAR Tシリーズの夏モデルには同カードが登載されている。BTOできる「VALUESTAR Gシリーズ タイプA」なんかにも搭載モデルがあるので、それを狙うのも面白いだろう。
SmartVision Pro HD40以降、ビデオ系ではちょっと元気がない感じのNECだったが、なんでもかんでも自分たちで作ってしまう技術の高さが、いい具合に昇華されてきた。従来モデルのブラッシュアップもいいが、ここいらで一発、意欲的な製品で世間をあっと言わせてほしいところだ。
□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nec.co.jp/press/ja/0205/1002.html
□「SmartVision」のホームページ
http://121ware.com/smartvision/
□関連記事
【2002年5月10日】
NEC、ハードウェアエンコーダ/デコーダ採用「SmartVision」
―GRT、3次元Y/C分離、TBCも搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020510/nec1.htm
【2001年12月4日】リモコンも3次元Y/C分離もついてパワーアップ!!
TVキャプチャカード「NEC SmartVision Pro 3」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011204/saki41.htm
【2001年10月22日】NEC、3次元Y/C分離回路搭載「SmartVision PRO 3」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011022/nec3.htm
(2002年6月26日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp