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第60回:3D編集機能を備えた波形編集ソフト
~ 3D Sound Pro ~


 ランドポートから、波形編集ソフトの新製品「3D Sound Pro」が発売された。3D Sound Proという名前からも想像できるように、このソフトは3Dに対応したもので、ヘッドフォンやステレオスピーカーでの擬似サラウンドを作り出し、編集できる。

 発売されたばかりのこのソフトを入手できたので、どんな機能・性能を持ったソフトなのか、さっそく試した。


 波形編集ソフトというのは、もうすっかり定着したジャンルのソフトだろう。Windowsにおいてプロ用の製品としてはSonic Foundryの「Sound Forge」や、Steinbergの「WaveLabs」、国産ではデジオンの「DigiOnSound」や、インターネットの「Sound It!」などがある。

 また、波形編集ソフトはオンラインソフトでも数多くあり、昔から有名なのはSyntrillium Softwareの「Cool Edit Pro」。日本人の作ったオンラインソフトも、Cycle of 5thの「SoundEngine」や、Exclaの「Digital Gretchen」など、いろいろなものが存在している。

 これだけソフトが乱立し、フリーウェアまで存在するジャンルにパッケージ製品を投入するには、やはりそれなりの新しさが必要となる。今回ランドポートが発売した、標準価格7,800円の3D Sound Proは、3D機能を目玉としている。



 まずは、3D機能の詳細を見る前に、3D Sound Proの概要を紹介しよう。このソフトは簡単にいうと、韓国のEMERSYS SYSTEMSの製品を日本語化したもの。

 スペックは下表の通り、モノラル8トラック(ステレオ4トラック)まで利用可能となっている。ステレオトラック1つのみというソフトが多い中で、これは多重録音も可能だ。ただし、サンプリング周波数や量子化ビット数のところを見てもわかるように24bit/96kHzには対応しておらず、あくまでもホビーユースであることが伺える。

【スペック表】
入出力フォーマットWAVE、MP3、音楽CD(CD-DA)
サンプリング周波数8~48kHz
量子化bit数16bit、8bit
チャンネル数/トラック数ステレオ/モノラル
同時編集8トラック
編集操作一覧コピー、切り取り、貼り付け、複数回貼り付け、削除、スプリット、アンドゥ
処理・エフェクト系操作3Dサウンドイメージ、サウンドフィールド、サラウンド設定、ボリューム変更、グラフィックイコライザ、コーラス、フランジャー、ピッチシフト、DMOプラグイン対応
サンプル音源動物の鳴き声や雨音など、そのまま効果音として使えるサウンドクリップを50以上
その他の機能外部機器からの録音(ライン/マイク)機能
スピーカー出力モード

 入出力可能なデータフォーマットはWAVとMP3のみ。CD-DAからダイレクトにリッピングが可能とはなっているものの、AIFFやWMAなどポピュラーなフォーマットにも対応はしていない。

 さっそく起動してみると、最初から8つのトラックがあり、そこにレコーディングをしたり、波形を読み込んで使うようになっている。画面左下側にはエクスプローラのようなウィンドウがあり、ここでプレビューして、音を選択した上、上部のトラックに貼り付けることができる。ステレオファイルの場合は自動的に2つのトラックに展開されるようになっている。

3D Sound Pro

 カット&ペーストなどの基本的な編集機能のほか、貼り付けた1つのオーディオファイルをいくつかに分割するスプリット機能なども用意されており、トラック内を自由に切り貼りできる。初めて触った時には、ちょっと操作がわかりにくかったが、右クリックでオブジェクトを移動させたり、SHIFTキーを併用させることで、さまざまな操作ができるなど、慣れは必要ではあるものの、マルチトラックという面での使い勝手はまずまずだ。

 エンベロープの表示をオンにすると、それぞれのトラックの音量をグラフで表示させることができ、フェードインやフェードアウト、クロスフェードといったことも自由自在に行なえる。またクロスフェードに関しては、自動的に滑らかに設定することもできるなど、使い勝手も悪くはない。

音量をグラフで表示 クロスフェードは自動的に滑らかに設定可能

 しかし、一般の波形編集ソフトとして見た場合は、かなり機能的に劣っているように感じる。たとえば、誰もが使うであろうノーマライズ機能が無かったり、リサンプリング機能やビットレートコンバート機能、パン機能など、本当に何もない。

 唯一用意されているのが、プラグインのエフェクト機能である。ツールバーにはDirectXとあるが、これはいわゆるDirectXプラグインではない。DirectX8に搭載されたDMOという機能に準拠したもので、最近ではSONARやSOLなどが対応しているプラグインである。このDirectXメニューを見てみると、9つのメニューが表示されるが、これを見るといつも見かける内容である。

 DirectX8が標準で搭載しているものであり、3D Sound Pro独自のエフェクトというものは搭載していないようである。ちなみにここにあるリバーブやディストーションなど、いずれもいいかかり具合いのエフェクトではある。ただ、残念ながらDMO対応のプラグインは今のところDirectX8標準搭載のもの以外ほとんど登場しておらず、今後に期待するしかない。やはり普及率で見るなら一般のDirectX(DirectShow)プラグインや、VSTプラグインの方が勝るだろう。

エフェクト機能 リバーブ ディストーション

 こうした点を見ても、これを単独の波形編集ソフトとして利用するにはちょっと無理があるようにも感じられる。マルチトラックである面をうまく利用しつつ、ほかの波形編集ソフトと組み合わせて利用するほうがいいのかもしれない。



 とはいえ、このソフト独自の機能については一見の価値はある。それが、画面右下にあるエフェクトバーだ。ここには5つのアイコンがあり、それぞれ

 となっている。このアイコンをドラッグし、トラック上で波形の上にドロップすると、そのエフェクトがかかる仕組み。これはノンディストラクティブ(非破壊)編集となっているので、何度でもトライすることが可能だ。

3Dサウンドイメージ

 それぞれの機能を、順に見ていこう。まず3Dサウンドイメージは、このソフトの最大の特徴である3Dサウンドを作るための機能。ここで設定した形で、音像が動いていく。ある位置に固定させることもできるし、時間とともに位置を変化させるといったことも可能となっている。実際に聞いてみると、確かにグルグルと回る。モニタスピーカーで聞くより、ヘッドフォンで聞くほうが明らかに効果がわかる。価格的にも手軽だから、この機能だけでも買う価値があるといえそうだ。

 次のサラウンドは5.1chサラウンドを実現するというのではなく、2chながらモノのオーディオデータを複数のチャンネルに配分するもの。ダイアルの半径の大きさと角度の調節とで音の拡散程度と聞こえる方向を、簡単に定めることができるようになっている。


サラウンド機能



 そしてサウンドフィールドは、ちょっと面白い空間シミュレータで、部屋の大きさとその材質、つまり音の吸収されやすさをパラメータとして指定することで、響き具合いが変わるというもの。音量設定およびグラフィックEQについては、説明するまでもないだろう。

 なお、再生する機材がヘッドフォンであるのか、スピーカーであるのかを設定できる。さらには、スピーカーにした場合は、その位置などを設定することにより、ハウリングを防止させることもできるようになっている。

サウンドフィールド 音量設定
グラフィックEQ ハウリング除去

 このように、空間系については、なかなか充実しており、結構使いやすい。このソフト1本ですべてを行なうというのには、無理があるかもしれないが、3Dの編集用ソフトと割り切って考えると、使えるソフトといえるのではないだろうか。

□ランドポートのホームページ
http://www.landport.co.jp/
□EMERSYS SYSTEMSのホームページ(英文)
http://www.emersys.co.kr/emersys_eng/index.html
□ニュースリリース
http://www.landport.co.jp/press/old/2002-05-10.html
□製品情報
http://www.landport.co.jp/product/3dsound/index.html
□関連記事
【5月10日】ランドポート、3D対応波形編集ソフト「3D Sound Pro」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020510/land.htm
【2001年7月30日】【DAL】第21回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その5: プロ仕様のDirectXプラグインソフトを試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010730/dal21.htm
【2001年7月23日】【DAL】デジタル時代のノイズリダクション
~ その4: DigiOnSound、Ray Gun、Samplitudeを試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010723/dal20.htm

(2002年7月1日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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