【バックナンバーインデックス】


第61回:機能充実のノイズリダクションソフト

~MAGIX Audio Cleaning!~


 以前、ノイズリダクションソフトとしてSteinbergの「CLEAN3.0」というソフトを紹介したが、6月21日にこのCLEANに近い機能を持ったソフト「MAGIX Audio Cleaning!」が登場した。

 今回はMAGIX Audio Cleaning!が、実際どれだけの性能を持っているのか、またCLEANと比較してどうなのか検証を行なった。


 MAGIX Audio Cleaningは独MAGIXの製品で、国内では株式会社プロトンのソフトボート事業部(旧ソフトボート)が9,800円で発売を開始した。

 パッケージに書かれているコピー「思い出のサウンドを美しく蘇らせましょう」からもわかるように、レコードやカセットテープの音をクリアなサウンドにする「ノイズリダクション」を目的としたソフトである。

 このノイズリダクションは、大きく4種類の機能が統合された形になっている。

4種類のノイズリダクション機能 DirectXプラグイン

 このスペックを見る限り、以前連載していた「デジタル時代のノイズリダクション」で取り上げた各ソフトと比較しても、かなり充実しているように思える。またCLEANと比較してもだいたい同等のようである。

 CLEANの場合は単にノイズリダクションだけでなく、各種エフェクト機能、3Dサラウンド機能、マスタリング機能、そしてCDへの書き込み機能を装備していた。MAGIX Audio Cleaning!はというと、ほぼ同様の機能を備えている。まず、エフェクト機能としては独自の機能というわけではないが、DirectXプラグインが利用できるようになっている。CLEANがVSTプラグインであるのに対して、こちらはDirectXというわけだ。

3Dサラウンド。2chサラウンド(上)とドルビープロロック(下)の2種類に対応

上から、EQ、BRILLIANCE ENHANCER、コンプレッサ

 また3Dサラウンド機能は、大きく2つの機能が搭載されている。1つはステレオでの広がりや定位を設定するものであり、グラフィカルに扱えるようになっている。ある意味、マスタリングツールとして使うもの。

 もう一方は、ドルビープロロジック対応のデータを作るためのもので、擬似サラウンドではなく、ホンモノのサラウンドだ。ただし、当然のことながらドルビープロロジックのデコーダおよびサラウンド環境がないと、その効果を聞くことはできない。

 そしてマスタリング機能は、EQとコンプレッサの2つが搭載されている。EQの方は、10バンドのグラフィックイコライザとなっており、パラメータを設定して使うだけでなく、右側のグラフをマウスで描くように設定することも可能。

 さらに、このEQとセットでBRILLIANCE ENHANCERが用意されている。これは、高域を持ち上げるためのものだが、EQで持ち上げるのとは異なり、倍音成分を作り出し、実際には出ていない音まで出してしまう。MP3などにも有効と書かれているが、これは、KENWOODのSupremeなどにも近いものといえるだろう。しかし、試しにMP3データにBRILLIANCE ENHANCERをかけてみたところ、あんまり効果は感じなかった。

CDへの書き込み

 コンプレッサの方は、ちょっと変わった仕様となっている。LOW、MID、HIGHの3バンドに分けて音圧を持ち上げるというものなのだが、スレッショルド設定などはなく、単にレベルを設定するだけ。デザイン的にはかっこよくできているが、あくまでも簡易的なものなので、あまり多くは期待できない。

 そしてCDへの書き込みは、ノイズリダクションやマスタリング作業が終了したところで、ファイルを書き出すかCDへ書き込むかの選択によって行なえるようになっている。



■ノイズリダクションを自動分析モードで実行

 何はともあれ、実際にこのノイズリダクションの効果がどれだけのものなのかを見てみたい。

 CLEANやほかのソフトとの比較のため、以前用いたもの同じ素材を利用する。具体的には、Areareaという女性2人組のユニットの曲に、ヒスノイズ、クラックルノイズ、ハムノイズを乗せたものをそれぞれ用意し、そのノイズを除去するという方法だ。

 操作そのものは簡単だ。大きく分けて、手順は次の3段階となる。

  1. IMPORT
  2. CLEANING
  3. EXPORT
 IMPORTで素材を読み込み、CLEANINGでノイズ除去の設定を行ない、EXPORTでファイルとして書き出した(CDに焼く)。

 ここで気になるのはCLEANINGでの設定。このCLEANINGには前述した4つのノイズリダクション機能と、エフェクトやマスタリング機能などが含まれている。しかし、ここではマスタリングに関する設定は行なわず、あくまでもノイズリダクションのみとする。

 また、ノイズリダクションの設定はマニュアルでも可能だが、自動分析というモードがあるので、まずはこれを使ってみることにした。

自動分析(1) 自動分析(2)

 それぞれの結果を聞いていただきたい。手元ではWAVファイルで行なっているが、ここでは誰もが簡単に聞けるようにMP3ファイルで掲載しておいた。ちなみに、MAGIX Audio Cleaning!は、WAV、WMA、MPEG(MPEG Audio Layer 2)の各ファイルへの出力機能は持っているが、MP3への出力は不可能(オプション扱い)。したがって、ここでは別のエンコーダソフト(Fraunhofer IISのエンコーダ)を用いてエンコードしている。

 聞いてみていかがだろうか? 自動分析では、確かにヒスノイズはヒスノイズであると分析しているし、ハムノイズも同様、クラックルノイズは、クラックルとクリックノイズとして認識されたが、それぞれにパラメータが設定されている(クラックルノイズには一部ヒスノイズも入っていると認識されたが)。しかし、聞いてみると、今1つノイズが取りきれていないように思う。

 試しに、それぞれのパラメータ値をもう少し上げてみた結果も掲載しておく。ただ、聞いてみるとわかるように、手動で設定するとノイズはだいぶ削減されたが、その分音質がおかしくなっており、あまり実用的とはいない設定かもしれない。

ヒスノイズ ハムノイズ クラックルノイズ

【今回実験に使ったサンプル】
オリジナル
約469KB
(original.mp3)
オリジナル+ヒスノイズ
約472KB
(hiss.mp3)
オリジナル+ハムノイズ
約471KB
(hum.mp3)
オリジナル+クラックルノイズ
約472KB
(cracle.mp3)

【各ノイズへの適用結果】
 オートマニュアル マニュアル
(Denoiserを併用)
ヒスノイズ約472KB
(hiss_a.mp3)
約472KB
(hiss_m1.mp3)
約472KB
(hiss_m2.mp3)
ハムノイズ約471KB
(hum_a.mp3)
約471KB
(hum_m1.mp3)
約472KB
(hum_m2.mp3)
クラックルノイズ約472KB
(crac_a.mp3)
約472KB
(crac_m1.mp3)

 なお、DenoiserおよびDehisserにはそれぞれラックマウント風なデザインの詳細設定画面が用意されている。このうちDenoiserにはノイズ部分をキャプチャし、それをソースから取り除くという機能がある。曲の先頭部分などノイズだけの部分をキャプチャできれば、大きな効果を発揮できる。これを用いてハムノイズとヒスノイズを取り除いてみた。結果的にいうと、ヒスノイズは完全とまではいかなかったが、ハムノイズのほうは、かなりきれいに取り除くことができた。

 ここまでの結果を見ると、ノイズリダクションソフトとして最高とはいえないものの、そこそこの効果は発揮してくれる。ノイズリダクションのみに着目し、CLEANと比較してみると、個人的にはCLEANのほうがこのサンプル曲に対してはいい結果を出していたように思えた。

 とはいえ、単なるノイズリダクションソフトに留まらず多彩な機能を持っているため、使ってみる価値は大きい。マスタリング機能も合わせて利用すれば、かなりの音に作りこめるのではないだろうか。

Denoiser(左)およびDehisserの詳細設定画面

 【Arearea】マキシシングル:唄わなきゃ
 AreareaはRINO(ボーカル)、YUKI(ピアノ)の2人からなるポップスユニット。7月1日に2枚目となるCD『唄わなきゃ』をリリースした。3曲入りの、このマキシシングルは全曲ピアノ、ボーカルのみのシンプルな構成ながら心に染みる作品に仕上がっている。

Arearea (C)REALROX
http://www.arearea.net/


■MAGIXとEmagicとAppleの関係

 以上で、今回のMAGIX Audio Cleaning!に関するレビューは終了だが、このソフトにも少し関係する今週の大きなニュースについて触れておこう。

 すでに、先週のAV Watchの記事にもあったように、MIDI&オーディオシーケンスソフト「Logic」のメーカー独Emagicが、Appleに買収された。これまでLogicはMacintosh版とWindows版の双方を発売してきていたが、Apple傘下に入ったことに伴い、9月30日をもってWindows版の発売は中止される。

 国内にも多くのWindows版のLogicユーザーがいると思うが、このニュースはこうしたユーザーを含め多くの人にショックを与えた。もっとも、Emagicの代理店だったミディアがサポートを続け、Windows版のユーザーにはMacintosh版への切り替えサポートも行なう。また、ヨーロッパにおいては比較的Windows版のシェアが高いものの、日本では約8:2でMacintosh版のユーザーが多いため、それほどトラブルなく移行できるように思える。

 ところで、今回扱ったMAGIX Audio Cleaning!は、社名や画面イメージを見て何か気づいた方はいないだろうか? そう、MAGIXは以前Digital Audio Laboratoryでも取り上げたSamplitudeのメーカーであり、画面のデザインや編集機能などもSamplitudeに近い。ただし、正確にいうとMAGIXはSamplitudeの現メーカーではなく、元メーカーである。現メーカーは、Emagicなのだ。

 Samplitudeの歴史は結構長く、古くはSEK'Dが発売しており、それがMAGIXに移行され、今年の3月にEmagicへと移ったのだ。開発陣はこれらの移行とともに会社を変わっており、現在はEmagicにいるわけである。SamplitudeがEmagicに買われた理由は、Logicの上となるバージョンを持ちたかったことにある。SteinbergがCubaseVST/CubaseSXの上位にNUENDOがあるのと同じ形でLogicに対するSamplitudeという関係である。

 しかし問題は、SamplitudeがWindowsのみに対応したソフトということ。3月にEmagicに移ったばかりであり、これに伴いユーザーインターフェイスなどをLogic風に修正している最中。現在のところEmagic版のSamplitudeは発売されていない。そこにAppleの買収となったため、今後Samplitudeが発売されるのかどうかは不明な状況だ。ミディアに問い合わせても、はっきりしなかったが、Samplitude関連のエンジニアはEmagicに留まっているとのことである。

 Samplitudeの今後については、3つ可能性が考えられるだろう。1つ目はMacintosh版のSamplitudeが登場し、それにすべてが集約される。2つ目は(買ったばかりだが)Samplitude部隊を売却する。3つ目は消滅する。

 国内での事情はさらに複雑だ。これまでSamplitudeはフックアップが扱ってきていたが、7月末をもって扱いを終了し、ミディアへ移管するはずだった。また、この移管はあくまでも新バージョンに関してのことであり、MAGIX時代のSamplitudeは今後もフックアップが面倒を見るということになっていた。

 それが、今回のことで再度白紙に戻る可能性も出てきた。フックアップ側も現在のところ情報がないようで、同社のホームページ上でも「Apple社のEmagic買収に伴うSamplitude 6.5の今後の状況は、現在弊社では確認が取れておりません。どのような状態になるか詳細がわかり次第弊社ホームページにて掲載いたしますのでもうしばらくお待ちください。」とある。

 個人的にはSamplitudeは気に入っているソフトであり、ぜひ存続して欲しいと願っている。Macintosh版に集約されるという解決策でも構わないが、できればWindows版も残してもらいたい。果たしてどのような結果になるのだろうか。

□MAGIXのホームページ(英文)
http://www.magix.com/select.html
□プロトン・ソフトボート事業部のホームページ
http://www.softboat.co.jp/
□製品情報
http://www.softboat.co.jp/product/mac/
□ニュースリリース
http://www.softboat.co.jp/news/f_020510.html
□関連記事
【4月12日】プロトン、発売延期の独Magix製ソフトを6月21日に発売
―MP3ソフトやビデオ編集ソフトの発売もアナウンス
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020515/softboat.htm
【4月12日】ソフトボート、ミュージッククリップ作成ソフト「MAGIX Music!」など
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020412/softb.htm
【1月21日】【DAL】第41回 誰でも使えるマスタリングソフト
~ Steinberg CLEAN 3.0 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020121/dal41.htm
【2001年7月30日】【DAL】第21回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その5: プロ仕様のDirectXプラグインソフトを試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010730/dal21.htm
【2001年7月23日】【DAL】第20回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その4: DigiOnSound、Ray Gun、Samplitudeを試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010723/dal20.htm
【2001年7月16日】【DAL】第19回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その3:安価なパッケージソフト3本を試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010716/dal19.htm
【2001年7月9日】【DAL】第18回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その2: シェアウェアでお手軽にノイズリダクション!! ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010709/dal18.htm
【2001年7月2日】【DAL】第17回 デジタル時代のノイズリダクション
~ その1:ノイズの種類と、リダクションソフトの種類 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010702/dal17.htm

(2002年7月8日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.