【バックナンバーインデックス】


“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第72回:ビデオカメラの常識を変える? 日立DZ-MV270
~USB 2.0でストレージにもなる新DVDCAM~


■ 編集の革命はテープ脱却から

 ビデオカメラにまつわる一連の作業のうち、もっとも楽しいのは撮影であるが、もっとも苦しいのが編集であると言う点に異論を挟む余地はないだろう。筆者は長年ビデオ編集を生業としてきたわけだが、まあ正直なところ、この仕事はめんどくせえよ(笑)。

 おそらく一般家庭には撮るだけ撮ったまま引き出しにしまわれ、あるいはどこにしまったかすら忘却されてしまったビデオテープが山のように存在するはずなのである。ビデオカメラがDVならばまだいいほうで、これがHi8とかVHS-Cになるとかなり絶望的である。それもこれも、ビデオの記録媒体がテープだから面倒なわけで、みんないつかはデジタルですんごいことになって編集なんかンもう自動で……。なんて夢を抱きつつテープをタンスの隅に眠らせているわけだナ。

 じゃあ最初からテープで撮らないというのはどうだろうか、ということになると、現代の技術では何らかの半導体媒体に撮るかDVDに撮るかという選択肢しかない。DVDに撮るカメラといえば、これはもう8cmDVD-RAMに撮る日立DVDCAMしかないんである(一応、松下から姉妹機はでているが……)。DVDCAM自体まだあんまり世の中に出回ってないのでそういうものがあることをご存じない方も多いかもしれないが、このDVDCAM、最初の発売は2000年8月頃に出た「DZ-MV100」というモデルである。実は筆者は発売当時、このカメラを使ったことがある。そのときは確かにDVD-RAM記録と編集機能はちょびっと便利かも、と思ったものだが、ビデオカメラとしての性能がどうもその今ひとつアレというか何というかほれ、な、わかるだろ、わかれ。

 まそんなわけだったのだが、ここに来て盛り上がってきた記録型DVDブームに乗ってもう一度DVDCAMをやってみようじゃないかということで発売されたのが、日立「DZ-MV250」と「DZ-MV270」というモデルだ。MV250のほうはすでに5月に発売されているが、今回はちょっと遅れて7月末に発売されたMV270を取り上げる。初代モデルから約2年、DVDCAMはどのように進化したのだろうか。さっそくチェックしてみよう。


■ ビデオカメラとしてはややデカ目

 いつもように外観チェックに行く前に、ちょっと新DVDCAMの概要を把握しておこう。まずMV250、270ともに、8cmDVD-RAMまたはDVD-RにMPEG-2で映像を記録するビデオカメラである。8cmのDVD-Rってのはこのカメラに合わせて発売された新規格のもので、DVD-RAMのようにケースに入っており、メディアだけを取り出せるようになっている。

8cmDVD-RAMメディア。中身の取り出しはかなり面倒な構造 8cmDVD-Rメディア(記録面)。メディアが取り出しやすい

 両モデルの主な違いは、MV250がUSB 1.1、MV270がUSB 2.0対応という点。あとモニタの解像度とサイズがMV270のほうがちょっとイイ。USB対応ということは、当然パソコンに映像を転送して編集するのもアリなわけだ。もちろんDVD-RAMで撮影すれば、本体だけで編集ができるようになっている。シーン分割していらないところを削除、その後プレイリストを作るといった流れだ。このあたりはDVD-RAMレコーダやDVD-RAM/Rドライブ+ソフトウェアで実現されているので、だいたいどんな感じかは想像がつくだろう。

 では改めて外観チェックである。このMV270、見た目はやや大型の横型DVカメラといった風情。正面左側にDVD-RAM/Rドライブ部があり、カメラ部よりもちょっと出っ張っている。レンズは光学12倍、CCDは1/4インチで、動画で約72万画素、静止画で約100万画素を使用する。手ぶれ補正は電子式だ。

 液晶モニタは3.5型と横型としては標準。ビューファインダはいったん後ろに引っぱり出して使用するタイプだが、引っぱり出した部分からフレキケーブルが露出しており、ちょっと不安を覚える。

ビデオカメラとしては結構大きめ メディア収納部は右手側にある

 コントロール系は右側に集中しており、多くの操作はジョイスティック状のコントローラで行なうため、非常に素早い操作が可能。撮るだけでなく再生系も充実しているので、この操作性の良さが重要になる。

 露出やフォーカスなどのマニュアルコントロールはすべて、液晶モニタを開けた内部にある。もしビューファインダで露出やフォーカスを決めたくなったらどーすんだという話もあろうが、実際にやってみると、指が入る程度に液晶を閉じればビューファインダ表示に切り替わるので、操作としては問題ない。

 電源ボタンは、OFFと動画、静止画の3段階。つまり「電源を入れる=カメラモード」ということだ。映像の再生は、本体横の「ディスクナビゲーション」ボタンを押すことでモードを切り換える。

ジョイスティックによる操作性はなかなか快適 電源ボタンはOFF/動画/静止画の3段階のみ

 バッテリの充電は、本体にACアダプタを接続して行なう。バッテリ充電器が別にあるわけではないので、複数のバッテリの充電はやや面倒かもしれない。しかしDVDCAMの場合は、本体で編集ができたりUSBで接続できるというところがミソであるため、ACアダプタ駆動が多くなることを見越しての設計だろう。




■ 実際に撮影してみる

 では実際に撮影してみよう。まず電源を入れると、「ディスク認識中です」との表示が出る。この表示が消えるには15秒ほどかかるが、別にこれを待つ必要はなく、ファインダに画像が現われたらすぐに録画が可能だ。電源を入れてから4秒ほどだろうか。ある意味テープ型ビデオカメラよりも実質的な起動時間は短い。

 記録系での特徴と言えば、撮影したものを瞬時に再生して確認することができ、そこから記録最終点を探すことなくすぐに撮影に戻っても、既存記録エリアが上書きされることがない点。このあたり、さすがディスク記録である。

スミアとフレアは、今どきのビデオカメラにしては出やすい

 次に光学系を見てみよう。光学12倍というスペックは、ビデオカメラとしては平均点だろう。ただ実際に撮影してみると、やはりWide端がもう少し足りない感じがする。これはMV-270に限ったことではないのだが、最近のカメラの傾向としてCCDの面積がどんどん小さくなっている。そのためTele側は光学でもかなりいけるようになってきたが、Wide端はどんどん狭くなっているように感じる。

 話を戻してMV-270の光学系だが、以前のモデルMV-100よりもスミアは確かに少なくなっている。しかし現状のDVカメラのレベルからすれば、まだ派手に出るほうだろう。フレアに関しても、水準よりはやや出やすいほうだ。

 録画画質は3段階から選択できるが、録画メディアにDVD-RAMを使うかDVD-Rを使うかで若干異なる。以下にディスク片面(1.4GB)に記録できる時間などを表にまとめてみた。またDVD-RAMによる撮影サンプルも同時に見て頂こう。(サンプル画像をクリックすると動画が再生される)

メディア録画モード記録時間画面サイズサンプル
DVD-RAMXTRA約18~60分
(約9Mbps VBR)
704×480ピクセル
xtra.mpg
(8.72MB)
FINE約30分
(約6Mbps CBR)
704×480ピクセル
fine.mpg
(5.82MB)
STD約60分
(約3Mbps CBR)
352×480ピクセル
std.mpg
(2.87MB)
DVD-RFINE約30分
(約6Mbps CBR)
704×480ピクセル
LPCM約30分
(約6Mbps CBR)
704×480ピクセル
STD約60分
(約3Mbps CBR)
352×480ピクセル
(ビデオはMPEG-2形式、オーディオはLPCMを除いて、MPEG-1 Layer2 48kHz 256kbps固定)
MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 DVD-RAMのXTRAの記録時間に幅があるのは、このモードだけVBRで収録するからである。またDVD-RにLPCMがあるのは、DVD-Rとしての再生互換を重視したものと考えられる。しかしDVD-Rの撮影では静止画記録ができなかったり、ディスクの途中から録画モードが変更できなかったりと、デメリットが多い。撮影時から一度しか使えないDVD-Rを使うというのもなかなか豪勢な話なので、これは編集して書き戻す際に使用すると考えるべきだろう。

 画質面では、XTRAモードでは、普及クラスのDVカメラと遜色ない画質が得られている。FINEではやや色のにじみを感じるがおおむね良好、STDでは解像度が低いため輪郭のにじみを感じる。全体的に発色は悪くないので、細かいところにこだわらない撮影では低ビットレートでも実用的だろう。

 面白いのは、静止画もDVD-RAMに書いてしまうところだ。管理面では撮影ごとに動画も静止画も含めてディスク1枚で済むため、わかりやすくなる。もっともDVD-RAMではA面とB面があるので、その辺は逆に面倒という一面もある。静止画記録メディアとして考えれば、8cm DVD-RAMの1.4GBというのは相当な量だ。そのため静止画に関しては、容量節約のための高圧縮モードのようなものがない。ビデオカメラの撮る静止画にしては、ノイズ感も少なくなかなか良好だが、絵作りとしてはビデオっぽい質感だ。

静止画撮影サンプル。ビデオ的な質感のまま静止画になるという感じだ

 しかし静止画が撮れるのは結構だが、PCに転送してみるとファイル作成時間が日本時間よりも9時間ズレている。これはUDFの仕様で、時刻がGMTで記録されているためだ。画像整理ソフトによっては撮影時刻でソートしたりするわけだから、他の画像との整合性を取るためにも、タイムゾーンに応じてファイル作成時間をシフトするような機構を設けるべきだったろう。




■ PCとの連携は超スムーズ

 MV-270は本体だけでも編集まで完結した環境を提供するわけだが、せっかく撮った映像をいろいろ加工することを考えると、PCとの連携が必要になる。記録したDVD-RAMメディアをケースから出して、PCのDVD-RAMドライブに突っ込めば一番話は早いのだが、そもそもDVD-RAMが読めるドライブがなければ話にならない。

 そこで従来のDVカメラにおけるDV端子のような存在が必要になるわけだ。MV-270ではUSB2.0でこれを行なう。PCとMV-270の接続には別売のPC編集キット「DZ-WINPC3」が必要で、これにはデバイスドライバを始め、動画用の「DVD Movie Writer SE for DVDカム」や静止画像管理ソフトなどが付属する。

 デバイスドライバを経由してPCと接続すると、MV-270はまったくの外部DVD-RAM/Rドライブとしてマウントされる。専用アプリケーションがなくてもOSレベルでストレージとしてそのまま使えるので、これはこれでいろいろと潰しが利きそうだ。カメラがかつてのMOドライブのような感覚で使えることになる。メディアもMOに似てるしね。メディアのフォーマットは、ソフトボートの「Instant Write」が付属するので問題はない。

 ではとりあえずDVD Movie Writerを使って画像の取り込みをやってみよう。「キャプチャ設定」でマウントしたドライブ(カメラ)の「DVD_RTAV」フォルダを指定しておくと、「ビデオをキャプチャ」ボタンのクリックでファイルを選択できるようになる。DVD-RAMにはVRフォーマットでレコーディングしているので、いくら繋ぎ撮りをしてもファイルは1つしかできない。

 ウィザードを次に進むと、ファイル内に格納されているシーンが選択できる。必要なシーンを選択し、PCへ取り込みを行なう。実際の取り込みは、実時間の半分ぐらいの時間で行なわれる。カメラのドライブ自体は2倍速Readなので、USB 2.0による伝送遅延はほとんど影響ないようだ。

PC編集キットに付属の「DVD Movie Writer SE for DVDカム」 VRモードで記録するので、ファイルとしては1つしかない その後、シーン別のサムネイルが現われる

 取り込んだ映像は、シーンごとに単独のMPEG-2ファイルになっているので、DVD Movie Writer以外のアプリケーションでも利用可能。もちろんそのままDVD Movie WriterでDVDを作成してもいい。このあたりの使い勝手はMV-270がどうこうというよりも、DVD Movie Writer次第だ。



■ 総論

 約2年の歳月を経て再登場した新DVDCAMだが、記録型DVDを取り巻く環境は2年前とは比べものにならないほど充実してきている。MV-270も待ち時間のない記録能力やPCの連携といったDVD-RAMメディアのハンドリングという面では、大幅に機能が向上しているのが確認できた。特にUSB2.0接続では、カメラをまるでリムーバブルストレージのように使えるのは非常にオイシイ機能だ。

 それが故に相変わらず惜しいのが、ビデオカメラとしての完成度、特に光学部の力量不足である。DVDに撮る便利さという点では十分な機能を持っているが、すでにDVカメラはそこそこ写りゃいいという領域から、「撮り味」みたいなところまで語れるまで来てしまった。MV-270もビデオカメラとしてはまあまあいい値段(キット込みで17万円程度)してしまうわけで、単純に価格と撮れる絵の出来を考えると、DVカメラではなくあえてこれを買うメリットは、8cmDVD-RAMというメディアにどれだけ未来を見いだせるかという点になる。

 それに直径8cmとはいえ、やはりそのディスク面積分のスペースは確保しなければならないわけで、カメラとしては将来的にもこれ以上小さくなりようがないのも気になるところ。現状でもサイズ的には、ちょっと野暮ったいぐらいの大きさなのである。これはむしろ「ほらDVカメラと同じですよ」「本体で編集できますよ」みたいなところで勝負するのはやめて、もっと大胆な発想でもいいのではないだろうか。

 例えばプロの現場では、ビデオカメラすべてがデッキ一体型のカムコーダになっているわけではない。カメラ部とデッキ部が別のものも、それなりにまた重宝するものだ。例えばドライブ部とカメラ部が別々に存在し、その間をUSB 2.0で繋ぐみたいな、普通に考えるビデオカメラとは全然違うモノとして進化するのもまた面白いだろう。デッキ部はそのままストレージとして使えるとかね。

 そう考えると実は意外に8cmDVD-RAMって規格は、今後面白いことになるかもしれないし、MV-270は値段次第ではかなりお買い得、と見ることもできる。実は筆者宅は小型ビデオカメラが壊れてしまって次なるものを物色中なのだが、あれ? 書いているうちになんかMV-270すごくイイような気がしてきたなぁ。


□日立のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□製品情報
http://dvd.hitachi.co.jp/product/cam250/index.html
□関連記事
【2002年7月26日】 松下、8cm DVD-R対応の「DVDデジカム」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020726/pana.htm
【2002年3月12日】 日立、8cmDVD-Rにも対応したDVDビデオカメラ
―既存のDVDプレーヤーでも再生可能
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020312/hitachi.htm
【2002年1月9日】【2002 CES】日立編:「8cm DVD-R」にも対応したDVDビデオカメラ、ほか
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020109/ces04.htm
【2000年12月5日】松下、8cm DVD-RAM採用のDVDビデオカメラ(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001205/pana.htm

(2002年8月21日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.