■ 「あの」Premireの新バージョン ビデオ編集をやろうって人の間では知らぬ者のないアプリケーション、「Adobe Premiere」がバージョンアップして6.5となった。変更点などはこのへんに書いてあるのでそれを読んで貰うことにしてだな、気になるのは「Adobe MPEG Encoder」と銘打った新規搭載のMPEGエンコーダである。 この分野としてはかなり後発となったAdobeのエンコーダ、そのクオリティはどのようなものだろうか。今回のElectric Zooma! は、このMPEGエンコーダに注目してみよう。また新しい機能として、auの「ムービーケータイ」向け動画コンテンツの直接出力を可能にするプラグインもリリースされた。auのページから無料でダウンロードできるこのツールも試してみよう。
■ DVDit!と連携しないわけでもない さて、今回のPremiereのバージョンアップは、見た目には大きな変化はない。本体機能としては、エフェクトなどがリアルタイムで確認できるようになったところぐらいであろう。このリアルタイムプレビュー機能、今まではビデオカードなどのハードウェアアクセラレーションを用いて行なっていたバージョンもあるのだが、完全にソフトウェアだけでリアルタイムプレビューができるようになった。 それはそれでいいことではあるのだが、実際には低価格ビデオ編集ソフトではとっくにできていたことなので、それほど画期的というわけではない。むしろ他社ソフトを使っている人には「今頃かよ(笑)」的な感想であろう。 それからタイトル支援ソフトが、以前の他社製品バンドルから自社開発製品になった。ざっと見た限り、この部分に関しては他社製品のおいしいところをよく研究してAdobeインターフェイスに詰め込んだといった感じで、本質的な機能にはそれほどの違いはないように思える。 さっそくこないだ撮影したテープからキャプチャを行ない、ぺぺっと30秒のムービーを作ってみた。これをAdobe MPEG Encoderで出力してみよう。エンコーダは、[タイムラインの書き出し]内に専用メニューができている。これを選ぶと現われるのが、Adobe MPEG Encoderの設定パネルだ。
大まかにDVD用、VideoCD用、SuperVideoCD用のプリセットがあり、これらを選んで[書き出し]ボタンを押すだけで簡単に出力できる。ダイアログ下には付属のDVDit! LE 2.5.2への連携ボタンがあり、これをチェックしておくと書き出しが終わった時に、ワラワラとDVDit!が起動する。起動時のDVD設定を完了すると、映像と音声がデマルチプレックスされた状態で素材として登録されている。 まあ全然なにもしてくれないよりはムービーの1つもロードしておいてくれた方がマシだが、これだけで「統合されています」というのはいかがなものか。
■ 優秀なエンコーダ、その秘密は
参考までに、DVD NTSCの低、中、高ビットレートの3種類でエンコードを行なってみた。映像の動きが少ないせいもあるが、低ビットレートでもかなりいい結果が得られている。三脚を付けて撮影した落ち着いた絵なら、低ビットレートで全然OKだろう。
Adobe MPEG Encoderでは、完全にマニュアルでエンコードパラメータを設定できる。[ビデオ設定]タブぐらいの内容なら筆者にもわかるが、[詳細ビデオ設定]の追加設定の詳細なパラメータはすごい。もしこれらに対するヘルプがあれば、かなりMPEG圧縮技術に詳しくなれるだろう。しかしあいにく本日試用しているのはPremiere6.5のプレス用GM版であるせいか、ヘルプファイルが同梱されていなかった。製品版では同梱されることを期待したい。
さて、このエンコーダを使っていて気になることがある。こんなマニアックな仕様というのは、どうも最近のAdobeらしくないのである。設定ダイアログにあるPowered by MAIN CONCEPTというロゴが気になったので、調べてみた。 MAIN CONCEPTという会社は、ドイツが本社のソフトメーカーで、有名なところではLinux/Windows用ビデオ編集ソフト「Main Actor」がある。よく見ると、MPEGエンコーダも作っているようだ。早速デモ版をダウンロードして起動してみる。
トップの画面こそ違うが、[Details]-[Advanced]と進むと、なんだか見慣れた画面が(笑)。Adobe MPEG Encoderの正体は、MAIN CONCEPT社のMPEG Encoderに若干のフロントエンドを追加したもののようだ。
■ ezmovieも試してみる Premiere自体の新機能ではないのだが、auのezmovie形式に出力するためのプラグインがリリースされた。auの専用ページから自由にダウンロードできるというので、早速試してみよう。 同サイトでは、単体で動くエンコーダ「ezmovie作成ソフトLite(Ver1.4)」と、Premiereのプラグイン「ezmovie作成ソフトLite for Adobe Premiere」の2種類を配布している。ちなみにPremiereのバージョンは5.1以上であれば動作するが、Premiere LEでは動作保証しないとのこと。このあたりをどう考えるか難しいところだが、Premiereフルバージョンを買ってまでezmovieを作るかというと、普通の人はまずやらないだろう。そういう意味でPremiere LEでこのプラグインが使えるかどうかは重要だと思うのだが、裏を返せばPremiere LEは案外短命なのではないか、そのためサポート外としているのではないか、といった勘ぐりもできる。まあこのあたりはそのうち結論が出ることだろう。 ezmovieへの出力は、[タイムラインを書き出し]-[ムービー]という、普通にAVIなどを書き出す手順で行なう。ここの設定でファイルの種類、すなわちコーデックを[au Mobile Creator MP4] にして書き出す。すると拡張子.amcのファイルができる。これがezmovieのファイルだ。有効期限や再生回数などの制限も付けることもできる。 ムービーはこのままでもいいが、スタンドアロンのezmovie作成ソフトLiteには、ムービーにテロップ(文字)を入れるための「ezmovieテロッパLite」が付属している。これも使ってみよう。 Premiereから出力したamcファイルを読み込んで、テロップを入れたい範囲を決め、テキストを入力する。基本的に作業はこれだけで、もう一度amcファイルに書き出すと、テロップ入りのファイルができる。テロップといってもテレビのように画像の中にインポーズされるわけではなく、画面の下に表示されるものだ。
ファイルサイズは30秒のムービーで271KBとなった。筆者はauユーザーではないので、自分で作ったムービーをテストすることができないが、実験可能な人は試しにダウンロードしてみてほしい。
■ 総論 結局のところ、Premiereの進化というのはもうある程度限界に来ているのではないかと思う。後はいかにしてバンドルソフトを増やし、顧客を引き寄せるかというマーケティング的な部分に比重がかかってきている感じがする。著名アプリケーション商売としては、そのような方向もあるだろう。しかしバージョンが変わるたびにバンドルソフトが変わるようでは、ユーザーとしては安心して使うことができない。 一例をあげると、前バージョンの6では、タイトル作成支援ソフトとして、Inscriber Technologyの「Title Express」とPinnacle Systemsの「Title Deko」がバンドルされていた。ところが今回のバージョンでは、タイトル支援ソフトが自社製品のものに変更されたため、これらのバンドル製品が付属しなくなったばかりか、6.0のユーザーが6.5にアップグレードした場合、バージョン6.5で上記2製品を使うことはライセンス違反になるという。 べつにイイじゃないか、バンドルなんだから、と思われるかもしれない。しかし上記のソフトで番組タイトルのテンプレートを作って毎日、あるいは毎週の運用していたユーザーは、また新たにテンプレートを作り直さなくてはならなくなるのである。通常の番組運用形態を全く理解していないで「プロフェッショナル仕様」とは恐れ入る。 今回バンドルのDVDit!との連携も、かなりお座なりな感じである。DVDブームがこのまま続けば当然Adobeでも自社製オーサリングツールをリリースしてくるだろう。それまでの繋ぎ的雰囲気が濃厚に漂ってくる。 今回付属のエンコーダの性能はなかなかいいが、気に入ったのならMAIN CONCEPTのサイトから149ドルで別に購入するという方法もある。英語版となるが、Premiere 6.5と心中してしまいかねないバンドル版よりも、ライセンス的に永久に使えるもののほうがいいという考え方もできる。 そろそろ我々消費者も、アップグレードやバンドルソフトといったものが、我々にとって長い目で見て本当にお得なのか、そのあたりの根本的な部分に疑問を持ってもいい頃だろう。
□アドビのホームページ (2002年10月30日)
[Reported by 小寺信良]
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