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第68回:ベータ派だって泣けるかも?
資料性も高い「陽はまた昇る」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ さすが東映邦画、いまどき珍しい1枚組み5,200円

陽はまた昇る

価格:5,200円
発売日:2002年12月20日
品番:JVBF-52001
仕様:片面2層1枚
収録時間:本編約108分
       特典約25分
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:日本語(ドルビーサラウンド)
字幕:英語
発売元:日本ビクター株式会社
販売元:ビクターエンタテインメント株式会社
 今週紹介するのは、2002年12月20日発売の「陽はまた昇る」。AVファンなら作品の存在はもうご存知だろう。'70年代後半に勃発したベータマックス対VHSの規格競争、いわゆるビデオ戦争を題材にした作品なので、公開当時、気になっていたAV Watch読者も多いのではないだろうか。

 原作は佐藤正明氏による同名ノンフィクション。VHSの開発に尽力した日本ビクターの高野鎭雄氏の奮闘ぶりを描いた作品で、ベータ対VHSにとどまらず、その後のVHDとレーザーディスクの戦い、ビデオメディア対ハリウッドの激闘などが細かく綴られている。これを読めば戦後のAV史が一通りわかるという点で、個人的にも勉強になった1冊だ。

 公開作は同書を基にしたものだが、主役以下、すべての設定をアレンジしている。ストーリーは、VHSを発売するまでの一番おいしい部分に特化し、わかりやすく再構成された。また、原作ではほとんど触れられることがなかった主人公と家族の絆も描かれており、ドラマとして楽しめるストーリー進行に変更されたという。

 DVDは2002年12月20日に発売。価格は5,200円と高価だ。タイトルに魅力を感じるも、廉価な洋画タイトルが店頭をにぎわす中、さすがに5,200円は手を出しづらい。そのため今まで購入を保留していたが、「壬生義士伝」を見てにわかに邦画ファンになったこともあり、先日、勇気を奮ってレジに持っていった。



■ 上映開始14分、ビクター社員が「ソニーはいいよなあ」

 日本ビクター開発部長の加賀谷静男は、不採算部門のビデオ事業部長へ突然異動になる。当時のビデオ市場はU規格を中心にした業務用機の世界。人員削減を回避するため、加賀谷は家庭用ビデオ「VHS」を極秘に開発する。先行するベータマックスに対し、規格統一による家電連合を組織しようとする加賀谷。しかし他社は、VHSではなく独自規格のVX2000を発売した松下電器の動向が気になる。

 そんな中、ベータマックスを想定した規格統一を通産省が指導。VHSが幻の規格になろうとするとき、加賀谷と次長の大久保は、VHS採用を松下幸之助相談役に直訴するため、大阪に向かう。

 映画では主人公の名前が変わり、原作とは異なる人情味豊かな指導者像が描かれている。厳格で頑固一徹の高野氏に対し、部下に優しくどこか気弱な加賀谷。視聴してしばらくはその差異が気になってしようがなかったが、主人公を身近に感じられるだけ、結果的には映画版の方に感情移入できた。私自身、ビデオ戦争の時代に生きていたわけではないが、仕事にかける主人公達の熱い思いが、小説よりも等身大で感じられた。また、ビクター社員がぽつりと言う「ソニーはいいよなあ」というセリフなど、コチコチのノンフィクションである原作にはない、生き生きとした表現が面白い。


■ 日本映画らしい画質は良好。ただしドルビーサラウンドが痛い

 パッケージは標準的なトールサイズ。ただし、ジャケットが一風変わっており、書籍のような腰巻が巻かれている。そこには観客の熱い感想が。いわく、「もう一度、情熱を持って今の仕事に立ち向かっていこう、と元気が出ました」(43歳男性)、「映画が始まってすぐに目頭が熱くなりました」(42歳男性)、「きっと月曜からの私はまた変われるかもしれない」(36歳女性)などなど。まるで単行本を思わせるような演出で面白いが、ちょっと恥ずかしい。

 本編は108分。画質は、いかにも邦画らしいローコントラストなもので、温かみを感じる色温度が全編続く。最近のハリウッド作を見慣れた目からはどうしてもフォーカス不足で単調に感じるが、見慣れるとしっとり感が懐かしくて気持ちいい。平均輝度の低いシーンも多いが、総じてノイズは少ない。

 また、意外にも動きの多いシーンがほとんどを占めている割には、破綻も感じられない。ただし、32V型のプラズマテレビで見ると、階調がつぶれ、顔がべたっとするシーンが何回かあった。この問題は28型ワイドのCRTではさほど感じられなかったので、ディスプレイの差がはっきり出たかたちだ。改めて、中間調の表現力の重要さに気づいた。一見地味ながら、ディスプレイを選ぶ作品なのかもしれない。

 パッケージによると、この作品は「極道の妻たち」や「鉄道員」の大御所カメラマン、木村大作氏による監修テレシネ、ハイビジョンマスターを使用している。平均映像ビットレートは6.95Mbpsだった。

DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4でみた平均ビットレート

 音声はドルビーサラウンドのみ。これにはがっかりだ。ドルビーデジタルEXやDTS-ESまでは求めないものの、現在の標準仕様といえるドルビーデジタル、またはDTSのディスクリート5.1chで楽しみたかった。

 ひさしぶりに聞くドルビーサラウンドは切れがない上、レンジの狭さも気になった。この作品、雷雨、乱闘、火事など、サラウンドの聞かせどころには事欠かないし、騒々しいビデオ研究センター、粛とした社長室、寒々しい通産省の会議室など、ストーリー上重要な場所も様々だ。せっかくなので、その場にいるような臨場感をもっと感じたかった。


■ 当時の縮小版カタログに感激

 特典は約25分のメイキングと、特報、予告、テレビスポット、フォトギャラリー、ポスターギャラリーなど。ごく一般的な内容といえる。

 ただし、AVファンとしては、「VHS資料室」というコンテンツが魅力的。単なる静止画コンテンツだが、試作機の写真2点のほか、開発のキーとなったという「開発マトリクス」の本物も写真で収録。これは家庭用VTRの必要条件と技術をまとめたもので、特に「ホームビデオの条件」と題された13項目が重要な役割を果たしたという。いわく「市販テレビとの結合」、「録画時間は2時間」、「共通性(互換性)」、「生産性」、「合理化」など。長年に渡って利用されたVHS規格の特徴が、開発段階で明確化されている点が興味深い。DVDの限界か、細かい文字まで解像していないのが残念だ。また、どうせならもう少し静止画の点数を増やしてほしい。計4点では寂しすぎる。

 映像特典でないが、特典で一番驚いたのが、パッケージに初代VHS製品「HR-3300」の縮小カタログが入っていたこと。DVDを買うといろいろなオマケが特典として付いてくるが、これほど資料性の高いものは初めてだ。もう1人の主人公であるVHSを強烈にアピールしたものだろう。VHSロゴも現在と同じ。もちろん、カタログの機種は劇中にも登場する。

 カタログによると、2時間録画、新ヘッドの採用、チューナとRFコンバータの内蔵、低消費電力などがHR-3300の魅力としてアピールされている。ただし、タイマーが別売りだったり、マイク端子が付いていたりと、今では考えられない点も多い。

 ちなみに原作によると、HR-3300は'76年10月に発売。当時の価格はベータマックスより2万円安い、256,000円だそうだ。発表から20日後、ソニーはベータマックスを4万円値下げしている。


■ 技術をめぐる良質な人間ドラマ。AVファンならコレクションにぜひ

 この作品、当時を知らない世代でも、AVファンなら妙に感慨深さを感じるはず。昨今のデジタルレコーダの台頭と比べると、なおさら遠い昔に感じる。原作と比べて経済状況や技術説明に物足りない部分もあるが、ソニーのベータ撤退の発表があったところだし、戦後のAV史の記念碑として購入するのもよいかもしれない。画質も古きよき映画の世界を思わせる良質なもの。こういう高画質もたまにはいい。

 惜しいのは5,200円という価格と、音声がドルビーサラウンドだということ。ひょっとすると、ドルビーサラウンドは当時の映画の雰囲気を出すためにわざと採用しているのかもしれない。が、それにしてもあんまりだ。ぴったりはまるモードがなくて、久しぶりにAVアンプの設定で苦労してしまった。もっともこの作品の場合、DVD版ではなく、VHS版で観るのが本当の楽しみ方かも・・・・・・。

●このDVDについて
 購入済み
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前回の「バイオハザード」のアンケート結果
総投票数813票(2月4日現在)
購入済み
365票
45%
買いたくなった
314票
39%
買う気はない
134票
16%

□日本ビクターのホームページ
http://www.jvc-victor.co.jp/
□製品情報
http://www.jvc-victor.co.jp/movie/dvd/product/JVBF-52001.html
□関連記事
【2002年8月27日】ソニー、民生用βデッキからの完全撤退を発表
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020827/sony.htm

(2003年2月4日)

[AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]



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