■ カタチから入る デジタルカメラぐらい、いろいろな形が可能な製品も珍しいだろう。しかし最近の傾向として感じるのは、どうもスタイルが徐々にフィルム式のカメラの形、すなわち真ん中にレンズが出っ張っていてボディが平たく両側に張り出しているようなフォルムに集約化されつつあるのではないか、と思っている。バカモノめ、写真を撮るにはそれが一番洗練された形なのである、という意見も一理あるとは思うが、筆者などは写真にそれほどイノチ賭けてるわけではないので、どうせならデジカメらしい形や機能が欲しいところだ。 デジカメの可能性ということを広く考えていくと、動画も撮れるという方向性に動いてきたメーカーもある。このあたりは三洋が力を入れていた分野だが、筆者がそういうモデルにあまり興味を持たなかったのは、やはり「カタチ」だ。本業が静止画なので致し方ないかもしれないが、いかにも動画が撮れそうなカタチをしてないのである。 そんな中、「これはやってくれそうかも」と思わせたのが、富士フイルムの「FinePix M603」だ。すでに昨年11月に発売済みということでちょっと時間が経ってしまったが、一度じっくり使ってみたいと考えていた。 富士フィルム特有の縦型で、本格的な動画撮影機能を搭載したという、ちょっと毛色の変わったこのモデル。ビデオカメラは今までたくさん触ってきたが、デジカメで高い評価を得ている富士フイルムの動画というのはどんな感じなんだろうか。その動画性能をじっくりテストしてみよう。
■やけに四角い まず最初に気になったカタチだが、縦型でかなりまっ四角である。デジカメとして見れば厚みは結構あるほうだろう。しかし一般的なデジカメとは違って、かなり大きめの2.5インチ液晶を装備しており、光学ビューファインダはない。以前はポルシェデザインなど採用してがんばっていた富士フイルムなだけに、もうちょっとなんとかなりませんでしょうか感が漂う。
レンズはフジノンの光学2倍と、普通のビデオカメラとして見れば、ズームが無いのも同然だ。またCCDは310万画素の1/1.7型、スーパーCCDハニカムである。 カメラ操作系はすべて本体左側に集中しており、メニューをはじめとするファンクション類はすべて背面にまとめられている。基本的にはオートで使うカメラという雰囲気であり、ボタン類は少ない。 持ってみた感じはまっ四角なだけあって、人間工学的に持ちやすいということはない。手の方をむりやり合わせ込んで持つ、といった感じだ。
付属品として液晶フードがあり、簡単に付け外しができる。ビューファインダがなく、すべてを液晶モニタに頼るので、その配慮だろう。またホールディングを改善するためのアクショングリップも付属している。しかしフードとこのグリップを取り付けると、あんまり馴染みのないスタイルなだけにかなり大仰な感じになってしまい、これで撮っていると「一体ナニゴトですか」という雰囲気が漂ってくるのが難点か。
記録メディアとしては、microdrive、xD-Pictureカードが使えるが、動画であれば速度と容量の問題から、microdriveが一番現実的なところのようだ。
■ 撮れる絵が斬新 というわけで早速撮影に出かけた。この日は晴天ではあるが非常に風の強い日で、めっちゃ寒い。体感温度はおそらく0度以下か。そこで図らずも問題になったのが、M603の持ちにくさだ。手がかじかんで、うまく持てないのである。かといって手袋をしていてはボタン類が小さくて操作できないしで、もう指ツリそう。アクショングリップは大げさかと思って持ってこなかったのだが、やはりこれはあったほうがいい。スキー場などに持っていこうと思っている人は、このあたり気を付けて欲しい。 動画を撮影してみた感じだが、シャッター兼用のスタートボタンが横にあり、人差し指の力だけで横方向にうまく押し込む必要がある。ビデオのスタートボタンは軽く押しても反応するものが多いのだが、シャッターボタンは半押し状態から録画押し込みまでのストロークが短く、クリック感が強い。何度か押したつもりで半押ししかしていなかったことがあったので、このあたりの感覚の違いに若干とまどった。 思いの外役に立ったのが、液晶フードである。単に明るい場所でも見やすいというだけでなく、折りたためば液晶モニタのガードになるので、前面のレンズガードと合わせて前後の守りが完璧になる。コートのポケットにザクッと突っ込んでおいても平気なのはありがたい。 動画撮影には、以下のような3つのモードがある。いずれのモードも光学ズームは2倍まで。なお、どのモードでも液晶モニタの表示はすべて30fpsで行なわれるため、撮影時に画質などを確認することはできない。とりあえず撮影サンプルをいくつかご覧いただこう。
静止画と比較すればわかるが、動画の時にはガンマが異なるようで、発色の感じが大人しくなってしまう。このあたりは「敢えてそうしている」のか、それとも「そうなってしまう」のかはわからないが、写真っぽい動画を期待していたのでちょっと残念。 仮に「動画のほうはNTSCに合わせている」と言うことであれば、もうすでに静止画も本体からビデオ出力が出てしまう時点でアウトなはずである。動画をわざわざビデオっぽい絵として作る必要性はまったくないので、ここはやはり思い切って静止画と同じガンマで、が望まれるところだ。 とは言えそれでも通常の単板CCDのビデオカメラよりはずいぶん発色が綺麗で、輪郭のキレがいい。また明るいシーンでもコントラストも高く、暗部から明部までダイナミックレンジいっぱいいっぱいに撮れる。このようなシーンでは、ビデオカメラでは暗部が浮いてしまうものが多いのだが、なかなか個性的なタッチの映像だ。
惜しいところは、やはり光学部がビデオ向きにチューンされていないところだろうか。スミアやフレアは、ちょっと太陽に向けるとすぐに出てしまうが、静止画モードでは出ないのである。 またアイリスだが、明るさをオートアイリスでフォローしてしまうため、録画中にアイリスが変化したのがはっきりわかってしまう。静止画ではまったく問題にならない部分だが、動画モードでは連続して撮るというところをもう少し意識したアルゴリズムが必要だろう。 一方で、ズームが光学2倍というのは、考えようによってはそれほど不便とは言えない。というのも最近のビデオカメラはズームにばかり注力しすぎで、撮る側がラクをするあまり、自分の足を使って撮ることを忘れがち。ズームに頼ったショットは、客観的で冷たい絵柄になってしまうため、筆者はこういう傾向は常々よくないと思っていたのである。 デカく撮りたいならそこまで自分で歩いていく。単ダマ撮影並みの機能で修行するのも、いい機会である。
関心したのは液晶モニタだ。実はこれ、フルフレームで表示しているのである。民生用ビデオカメラでは、ビューファインダも液晶モニタも、約90%内側のテレビフレームで表示されるため、後でパソコンに取り込んだときに「あんだよ電柱見切れてるよ」みたいなことが起こりがちだ。このあたりは常にフルフレーム勝負の静止画用として作られているところが、逆にいい感じになっている。 バッテリの持ちは、あまり良くないようだ。microdriveを動かしながら、かつ大きめの液晶モニタを使用しているというあたりが原因となっているのかもしれない。標準で付属するのは少容量なので、動画撮りを中心に行なうのであれば、大容量バッテリを別途購入したほうがいいだろう。
■ 総論 動画に注力したというM603だが、最初の期待としては、写真のようなテイストの動画が撮れたら面白いな、というところであった。そしてその期待には半分だけ応えてくれた、といった印象だ。動画屋から見れば、面白いカメラである。 フィルタをかけたような白の飛び具合なんかは、ビデオカメラではあまり出ないテイスト。このあたりを「ビデオカメラとしてダメだろう」と考え出したら、このカメラのおもしろさは一生理解できない。こないだのPanasonic「AG-DVX100」もそうなのだが、ここ何年かの大きな動きとして、ビデオの世界では「脱ビデオ風味」が合い言葉となっている。そういう意味では、現状のM603ではまだまだだが、このままの路線でもう少しクオリティを上げていけば、ビデオ屋がちょっとした味付けが欲しいときに手軽に使える武器となり得る可能性は十分にある。 今後はMPEG-4が本格化していくこともあり、ビデオカメラではない動画カメラというのは、大きな目玉になっていくだろう。しかし筆者としては、MotionJPEGベースの本格的な動画カメラを期待したい。 というのも、MotionJPEGはフレーム間圧縮がないため、編集がしやすいというメリットがある。ビデオ屋が使う場合において、編集なしということは考えられないからだ。またmicrodriveも4GBの製品がそろそろ出るということで、1時間記録も可能になってくる。さらに富士写真フイルムグループである富士写真光機はプロ用ビデオレンズなども製品として持っている。もうDVカメラの対抗となりうる材料は揃っているのである。 デジカメでスチルカメラの概念を大きく変えたように、ビデオカメラっぽくない動画カメラが作れるのは、案外富士フイルムのような会社なのかもしれない。
(2003年2月5日)
[Reported by 小寺信良]
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