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第87回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その3:USBのオーディオデバイス3製品を検証 ~


 先週は、普及価格帯PCIオーディオカードでの実験を行なったが、今回はUSBのオーディオデバイスを用いて同じ実験を行なう。取り上げるのはオンキヨーの「SE-U55X(S)」、クリエイティブメディアの「Sound Blaster Extigy」と、初回にチェックしたEDIROL「UA-700」もあわせて検証した。


■ トラブル続出で実験は難航

 今回の実験では、予想以上のトラブル続きで、実験そのものがかなり難航した。読者の参考になるかも知れないので、まずは、その状況を説明しておこう。

オンキヨー「SE-U55X(S)」 ヤマハ「CTS-20USB」 クリエイティブメディア「Sound Blaster Extigy」

 実は当初取り上げようと考えていたのは、SE-U55X(S)(実売価格:約17,000円)、Sound Blaster Extigy(同23,000円)、ヤマハの「CTS-20USB」(5.1chスピーカー付属・標準価格45,000円/実売価格32,000円)の3機種だった。しかし3機種のうち、何のトラブルもなく、スムーズに実験できたのはSE-U55X(S)のみ。Exitgyについては、原因はよくわからないが、従来から行なってきた実験方法ではどうしてもうまくいかず、別のツールを利用することでなんとか完了。CTS-20USBにおいてはハードウェアの仕様で、今回の実験方法は不能であることが判明し、断念することになった。

DigiOn Sound 3を使うと実験は成功した

 もう少し具体的に説明しよう。これまで、実験はアナログの出力と入力を直結させるとともに、Sound Engineというフリーウェアを用いて複数の波形データを再生。その音を、同時に立ち上げているSound Forgeを用いてレコーディングし、レコーディング結果からいろいろ分析するという手法をとっていた。

 しかし、Extigyにおいては、それがうまくいかない。Sound Forgeでレコーディングしていると、途中で急にレベルが落ちてしまったり、音が途切れるなどしてしまう。PC側の問題かと思ったが、ほかのデバイスではなんら問題なく動作するのに、Extigyのみうまくいかない。念のため、マシンをフォーマットし、OSを再インストールしてExtigyのみを接続したクリーンな環境で同じ実験を繰り返したが、それでも結果は同じになってしまった。考えられるのはUSBの転送速度が追いついていないということ。入出力ともに24bit/48kHzで行なっていたので、そこがひっかかったのかもしれない。

 試しに、Sound ForgeではなくデジオンのDigiOn Sound 3を使ってレコーディングしてみたところ、なぜか成功。今回はやや環境は異なるが、基本的に差はないはずということで、ExtigyのみはDigiOn Sound 3でレコーディングすることにした。なお、Extigyの場合、入力はRCA端子があるが、出力はAudigy2などと同様にステレオミニしか用意されていない。仕方ないので、ケーブルはこの実験で標準に用いているプロ用ケーブルのVital Audio Professional Cable Seriesではなく、民生用のオーディオテクニカのHi-Grade GOLD LINKを用いた。

 CTS-20USBの方はもっと根幹的な問題であった。CTS-20USBというのは「ホームシアターサウンドシステム」と銘打たれており、YAMAHAのサラウンド対応アンプで、USBとの接続も可能というタイプの製品。

 今回の実験の趣旨からすれば、ステレオミニの入出力を使って接続するしかないなと思っていた。しかし、実際にやってみると、CTS-20USBは基本的にUSBで音を再生しながら、同時にアナログソースから入ってきた信号をPCでレコーディングすることができないとわかった。

 この回避策としてUSB-MIXというモードがあり、USBで録音と再生を同時できるのだが、この場合ほかの信号もミックスしてレコーディングするようになっている。そのためか、レコーディングレベルが非常に制限されており、最大レベルに設定しても-6dBで送った信号が-30dB程度でしか入ってこず、まったく実験として成立しなかった。

 結局、今回はSE-U55(S)とSound Blaseter Extigyの2機種および、以前に行なったUA-700の結果を並べて検証することにした。


■ サイン波の実験で各デバイスの差が明確に

 では、その結果を見ていこう。まずは、アナログ部の入力と出力を直結した状態で出力を無音にし、その状態で録音した際、ノイズレベルがどのくらいあるか計測した。

 SE-U55X(S)、Sound Blaster Exitgy、UA-700の結果をご覧いただきたい。SE-U55X(S)は見た目上、平均で-85dB程度、ピークで-78.3dBとなっているのに対し、Extigyはもっとノイズレベルは大きくピークでー72.2dBとなっている。ともにDCオフセットはほとんどない模様だ。一方、すでに実験を済ませていたUA-700は少しDCオフセットがあるが、レベル的にはSE-U55X(S)と結構似たものとなっている。

無音状態
(CD-ROM、HDD非動作時)
SE-U55X(S) Sound Blaster Exitgy UA-700

 続いて行なったのが、HDDとCD-ROMドライブを動かしている際のノイズがどう変化するかという実験だ。この結果を見ると、やはりこれまで同様あまり変化はない。この実験に影響が出るのはPC側の問題が大きいのかもしれない。

無音状態
(CD-ROM、HDD動作時)
SE-U55X(S) Sound Blaster Exitgy UA-700

 その次は-20dBの矩形波をレコーディングした結果、波形がどの程度歪むかという実験。3機種間には、それほど違いはないようにも思えるが、よく見てみると、それなりに違いもある。波形の上底部分のギザギザに注目してみると、ノイズレベルが大きかったExtigyが一番ストレートに近く、ノイズレベルの小さいUA-700がもっともギザギザしているという結果となった。つまり、単にノイズレベルが追加された結果ではないようだ。

-20dBの矩形波
SE-U55X(S) Sound Blaster Exitgy UA-700

 さらに、-6dBのサイン波を基に、これまでと同様の実験をして周波数分析を行ない、そのスペクトラムを見た。この実験では、各デバイスの差がハッキリと出てきた。

 まず、もっともキレイなのがUA-700。確かに倍音成分は出ているが、明らかに整数倍のものが見えているのに過ぎない。それに対し、Extigyは1kHzのピークはキレイに出ているものの、低域から高域に至るまで、幅広い範囲でノイズが出ているのがわかる。一方、SE-U55X(S)は、この2つとはまた違う特性が出ている。1kHzの周辺で音が出ており、1kHzジャストの信号レベルが低くなっている。測定ソフトであるWaveSpectraの表示するS/Nは、Extigyが72.41dBと3つの中で一番良くなっているが、波形を見る限り一番ノイズが多いようにも見えるのが興味深い。

1kHzのサイン波
SE-U55X(S) Sound Blaster Exitgy UA-700

 最後の実験はスウィープ信号を用いた際の、ピーク値を表示させるというもの。これを見ると、高音でのノビがないのがSE-U55X(S)。比較的低い周波数から減衰がはじまってしまう。それぞれそれほど大きな違いが出ているわけではないが、こうした点はブラインドテストなどでは大きな違いが現れるかもしれない。

スウィープ信号
SE-U55X(S) Sound Blaster Exitgy UA-700

 今回は、トラブルもあったがUSBデバイスを検証した。次回は、PCIバスのハイエンドオーディオデバイスの検証と、「PC用オーディオデバイスの音質をチェックする」シリーズの総括を予定している。


□オンキヨーのホームページ
http://www.onkyo.co.jp/
□製品情報(SE-U55X)
http://www2.onkyo.co.jp/product/products.nsf/view/72D59994EC1AE0BC49256BBF002AFB2F?OpenDocument
□クリエイティブメディアのホームページ
http://japan.creative.com/
□製品情報(Sound Blaster Extigy)
http://japan.creative.com/products/soundblaster/extigy/
□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□製品情報(CTS-20USB)
http://www.yamaha.co.jp/product/av/prd/cinema_st/cts-20/
□関連記事
【2月3日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その2:普及価格帯PCIオーディオカードの実力 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030203/dal86.htm
【1月20日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その1:USBオーディオ、M/B、サウンドカードを検証 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030120/dal84.htm
【1月6日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ 序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030106/dal83.htm

(2003年2月10日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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