【バックナンバーインデックス】



第89回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その5:まとめと考察 ~


 4回にわたってオーディオデバイスの音質をチェックしてきたこのシリーズも、とりあえず今回で最後となる。シリーズ最終回は、これまで見てきたデバイスを考察するとともに、テスト方法やノイズの混入の仕方などについて改めて振り返りたい。


■ 反響が大きかった本シリーズ

 序章を含めると、これまで5回にわたってオーディオデバイスの音質のチェックした本シリーズ。予想していた以上に読者からの反応もあり、ご意見も数多くいただいた。その多くは「横並びで比較したものをこれまで見たことがなかったのでよかった」、「ノイズレベルがどの程度のものなのかよくわかった」といったものと、「データで示すのはいいが、実際に聞いた音がどうなのかを評価してほしい」というものだった。実際に聞いた音については、このシリーズではあえて避けている。もちろん、そうした要望はよくわかるが、私自身がオーディオ評論家ではないということと、アンプやスピーカーを通した時点で、さまざまな要素が絡み合い、本来の性能とは違うものになる可能性があると判断したからだ。そのため、今回は敢えて音は聞かず、信号を使った機械的なテストだけを行なった。

 また、読者からとは別にメーカーやベンダーからも意見や要望をいただいた。あるメーカーからは、「今回の評価の方法では、再生に注力して、録音のクォリティが再生ほどではない製品では、録音の実力に引きづられてしまい、製品として正しい評価とはいえない」という、ご指摘をいただいた。

 確かに、それぞれのデバイスで録音側と再生側を別々に測定し、結果を出すのが本来の検証法だろう。ただ、今回の実験は序章でも伝えたとおり、誰でも気軽に試せる実験ということで、録音性能と再生性能の双方を掛け合わせた結果のみを見るというものになっている。別々に行なうとなると、基準となる装置が必要となり、気軽に行なえなくなる。また、その装置と各デバイスの相性も出てくる可能性もある。こういった点を理解していただいた上で、結果を見てほしい。


■ USBでもノイズは乗る

 今回の実験を企画する段階で、実はあることが実証できればと考えていた。それは、「USBが必ずしも絶対ではない」ということだ。よくカタログや雑誌を見ると「USBオーディオデバイスはコンピュータの外部にあるため、コンピュータのノイズを一切受けることが無く、ノイズレスである」といった表現が出てくる。ある意味では正しいが、それが絶対とは限らない。また私が運営している掲示板にはよく「USBデバイスでレコーディングしているが、HDDやCD-ROMドライブのアクセス音のようなものがのるがなぜだろうか」といった書き込みが見られる。

 しかし、実際に実験してみると、予想していたのとはやや違う結果となった。まず、USBデバイスも、アナログで接続する以上、結果はアナログ回路に左右され、ノイズの大小が製品ごとに出ることがわかった。また、USBデバイスとPCIデバイスを比較した場合、どちらが良いとは言い切れないこともハッキリした。設計と品質が良ければ、PCI接続の製品でもノイズの少ない製品となる。

 ただ、これらのオーディオデバイスが「HDDやCD-ROMドライブのノイズを拾う」という予測は外れた。HDDとCD-ROMドライブを動かすために、Windows Media PlayerでCDをリッピングしながらチェックしたのだが、ドライブ類が動作していないときと全く差がなかったのである。これはPCI、USBに限らず、とりあげたすべての機材で同様だった。

 とはいえ、こうしたノイズに悩まされている人がいることも確かだ。今回の実験を見る限り、コンピュータ側の環境にもよるのだろう。テスト機は特別ノイズ対策を施したわけではなく、秋葉原で普通に購入した部品で組み立てたものだ。しかし、テスト機よりもはるかにノイズの多いマシンがあるのかもしれない。同じ実験をして、はっきりとノイズが乗るようであれば、どんな環境で行なったのかぜひ教えていただきたい。そういった結果を見ながら、ノイズ対策が打ち出せたら面白いかもしれない。

 もう1つ予想外だったのは、矩形波の波形についてだ。-20dBというレベルが大きすぎたのかもしれないが、マザーボード搭載の最も安いものからLynxTwoという20万円近い製品に至るまで、大きな差が見られなかったのだ。もしかしたら、スペクトラムに顕著な違いが出ているとか、より拡大すればある特性が見えてくるということがあったのかもしれないが、とりあえず差を見出すことはできなかった。これについては、また改めて方法を考えてみたい。

 逆に、違いがハッキリ出たのは、出力を無音状態で録音した際のノイズレベル、1kHzのサイン波を録音した際のスペクトラム、そしてスウィープ信号での結果である。スウィープ信号でもそれなりの差は出ていたが、レコーディングしている際の波形の動きを見たり、高周波数に移っていった際のスペクトラムの動きを見ると、製品によっては、最終的に掲載したグラフ以上にハッキリした違いが見える場合もあった。特に安いデバイスの場合、明らかなエイリアシング現象を起こしているものも結構あり、見かけ上高調波などによって24kHzまで出ているが、実際には24kHzになる前に折り返してしまっているものもあった。この辺の状況は、1kHzのサイン波のスペクトラムだけでなく10kHz、20kHz~24kHzでのスペクトラムなどもチェックすると実証できるかもしれない。

 今回、特に各デバイスに対しての順位を付けるつもりはないが、結果的には「ノイズの大きさは製品の価格に反比例」することがわかった。もっとも2~3万円の製品では、製品によってまちまちであり、必ずしも価格で決まるわけではない。


■ デジタル直結でも違いは出た

Sound Blaster Audigy2 Platinum
【2月26日更新】2月24日記事掲載時、設定方法にミスがあり、Audigy2側でアナログ音が混入し大きなノイズとなっていました。改めて実験をしなおし、結果を訂正しました。ご了承ください。(編集部)

 最後にもう1つだけやってみたかった実験があったので、試してみた。それはアナログではなく、デジタルの入出力を直結しての実験だ。「デジタルで繋げば完全に同じデータが入ってくるのだから、実験の意味はない」と思う人が多いだろうが、実際はそうではない。

 以下にSound Blaster Audigy2 Platinumと、RME 96/8 PSTで行なった実験の結果を示す。まず、ノイズに関してはSound Blaster Audigy2 Platinumも、RME 96/8 PSTも完全にゼロレベルでノイズはまったくない。

無音状態のノイズ
Sound Blaster Audigy2 Platinum RME 96/8 PST

 また矩形波を見ると、ともにオリジナルとほぼ同じものとなっており、ギザギザのないキレイな波形となっていることがわかる。しかし、スペクトラムを見ると、2つのデバイスで初めて違いが見えてきた。Audigy2は、かなりきれいなグラフとなっており、高調波もごくわずかに見られる程度。しかし、RME 96/8 PSTにおいては高調波は存在しない。まさにオリジナルと完全に一致している。つまり、デジタル接続により、完全なコピーが行なわれているということになる。

矩形波
Sound Blaster Audigy2 Platinum RME 96/8 PST

 efu氏のフリーウェアでウェーブファイルのビットごとの相違を見るWaveCompareにかけてみると、Audigy2ではオリジナルとの違いが出る一方で、RME 96/8 PSTは合致する。その原因は何だろうか?

WaveCompare
Sound Blaster Audigy2 Platinum RME 96/8 PST

 それはAudigy2の場合、途中にミキサーが入ったり、サンプリングレートコンバータが入っているということにあるだろう。本来S/PDIFを使った場合、ボリュームコントロールという概念はなく、入ってきた信号をそのまま取り込むはず。しかし、Audigy2の場合は入出力ともにミキサーがあって、レベルコントロールができるようになっている。したがって、これはAudigy2の設計上、こうした誤差が出てしまうのだ。こうしたことは、Audigy2に限らず、オーディオカードではなくサウンドカードと呼ばれる機器の場合、多くがそのようになっている。

 したがって、音質上それほど気にするものではない。完全にビットごとで見ても一致させたいのか、ノイズがなければいいのか、といったところが1つの選択基準になるだろう。


□関連記事
【2月17日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その4:業務用オーディオカードを試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030217/dal88.htm
【2月10日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その3:USBのオーディオデバイス3製品を検証 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030210/dal87.htm
【1月20日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その1:USBオーディオ、M/B、サウンドカードを検証 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030120/dal84.htm
【1月6日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ 序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030106/dal83.htm

(2003年2月24日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.