■ ようやく買いたくなった ここのところ日立の人にお会いする機会が多い。いやもちろん発表会などに行っているからなのであるが、その度ごとに「マジ買いますから」と大宣言しているのが、3月発売になったDVDCAM「DZ-MV350」(以下MV350)なのである。 日立のDVDCAMは、このMV350シリーズを以て3世代目に突入する。最初のMV100、2世代目のMV270と触らせて貰っているが、どうしても自分で買う踏ん切りが付かなかったのは、現ユーザーには大変申し訳ないが、「技術的には面白いがビデオカメラとして格好悪い」からであった。 しかし今回のMV350は違う。最初に見たのは今年初めのCESだったのだが、新型メディアを採用し、サイズもぐぐっと小さくなった。またカラーリングもシルバーとブラック、そしてメタリックブルーのアクセントがなかなかかっこいい。CESで知った情報によると、従来機で今一つ不評だったCCDも、新開発のものを採用し、画質もだいぶ良くなっているという。 そうなれば実際に使って違いを確認してみたいもの。さっそく製品をお借りしてテスト撮影してみた。さて、筆者は本当にコレを買うのだろうか。
■ サイズはイマドキのビデオカメラ並み CESのレポートで皆さん、形はだいたいご存じだとは思うが、一応ボディチェックしてみよう。前モデルの「MV-270」もZooma!でレポートしたことがあるが、日立がどれだけ今回デザインをがんばったかがわかる。 まずサイズとしては、横型カメラとして常識的な大きさになった、という印象。やはりドライブ部が丸く大幅に小さくなったことで、イメージがかなり良くなった。ドライブ上部が少し出っ張っているが、持つときにはここがちょうど指を引っかけるのにいい感じになっており、ホールドの安定性向上に貢献している。
ま、それはそれとして、日立のサイトにあるここの一番下にある写真、これモデルさんの手でけぇヨ!(笑) 必要以上に本体が小さく見えるのだが、実際のサイズは、自分で実物を見てほしい。 レンズ部は光学10倍ズーム。35mm換算で40.9mm~409mmとなる。ちょっとワイド端が不足気味に感じるが、前モデルではワイド端が44mmだったので、少し改善されたことになる。MV350ではVGAサイズの静止画も撮影できるが、この場合も画角は同じだ。 新開発のCCDは68万画素で、撮影時の有効画素数は34万画素。手ぶれ補正は電子式だが、試したところ画質劣化はかなり少なく、この部分で不満に思うことはないだろう。 ドライブ部は、上部が開く方式になった。メディアを差し込むのに必要な程度しか開かないので、オープン時にグリップベルトに引っかかることもない。また蓋の部分には静止画保存用としてSDメモリーカードスロットが新装備された。 本体のボタン類はシンプルで、液晶側の表面に出ているのは主にメディアのコントロール系だ。液晶モニタを開くと撮影時に必要なコントロール系が出てくるが、調整できるのはフォーカスと露出ぐらい。基本的にはオートで撮るカメラだと言える。
注目の新メディアは、円形と言えば言えないこともないが、メディアの露出部があるため、ガード部分のイメージはU字型に近い。あきらかに従来メディアと思想が違うのは、メディアを取り出せることが前提の構造になったことだ。「OPEN」と書いてある部分のレバーを両側から摘むと、簡単に蓋が開いてメディアが取り出せるようになっている。
新型メディアがどのぐらいのペースで市場に出回っていくのかまだ未知数だが、とりあえずこのケースが1つあれば、既存の四角いメディアの中身を入れ替えて使うことも可能だ。ただしガード部の作りはかなりヤワで、ちょっと力を入れると簡単にポリッといっちゃいそうなので、扱いは慎重に行なった方がいいだろう。
■ 画質が向上したCCD では実際に撮影してみよう。DVDCAMではDVD-RAMとDVD-Rに記録できるが、ライトワンスのRでいきなり撮影することは大してメリットもないので、ここではDVD-RAMでの撮影にのみ言及することにする。DVD-RAMでの撮影では、画質モードがXTRA、FINE、STDから選択できる。
XTRAとFINEでは、ぱっと見はあんまり画質の差が無いように見えるが、遠景の木々のディテールでは差が出る。どんなシーンでもとりあえず後悔しないようにと考えれば、実際はほとんどXTRAモードでの撮影になるだろう。ただし水面のような全面がランダムに動くような場面では、XTRAモードでもブロックノイズは出る。撮影の際には、MPEG-2の限界として認識しておく必要がある。
前モデルに比べると、やはり新しいCCDが効いているのか、強い色の発色はずいぶん良くなっている。花の色味などは、結構派手目だ。スミアに関しても、以前のモデルならカメラの教科書に載せたいぐらい豪快なスミアが出たものだが、今回はかなり出にくくなっている。
しかしCCDが良くなった分、目立ってきたのがレンズの力不足だ。例えば意地悪して右のような絵を撮ったりすると、ハレーションでもうメタメタである。
せめてレンズフードでもあればもう少し救えるのだが、今のところオプションでも専用レンズフードはない。
その代わり、といっては変だが、DVDドライブ部は良くできている。こないだの土日に家族でスキーに行なったのだが、気温1度という悪条件の中、滑りながらの撮影というかなりヘビーな振動を与えても、メディアへの記録エラーは一度もなかった。据え置き型のDVDドライブのことを考えれば驚異的な安定性であり、ビデオカメラとしての耐久性を十分に満たしている。おそらくバッファを潤沢に取っているのであろう。
いろいろな条件で撮影していて一番気にいったのは、テープのように撮影のエンドを意識しなくても、再生したり撮影したりといった行為がシームレスに行なえる点だ。収録した映像を上書きすることが絶対にないので、こまめに撮影したものの確認が行なえる。 その反面気になったのは、液晶モニタの出来である。視野角が非常に狭く、ちょっと上からのぞき込むとすぐにコントラストが反転するし、ちょっと下から見ると白飛びして見えてしまう。また輝度が低く、回りが明るいスキー場みたいなところではまあ仕方がないとしても、普通の天気のいい昼間でもあまり役に立たない。
これは数年前のDVカメラでは問題になっていた部分だが、最近ではバックライトの強いものを採用したり、あるいは反射液晶を採用したりして、もうここが問題になるカメラはほとんどなくなっている。そのレベルから考えると、ここがMV350の弱点と言えそうだ。
■ 編集機能をチェック 筆者は前段で「実際はほとんどXTRAモードでの撮影になるだろう」と書いたが、収録時間が片面18分、両面で36分程度では少ないのでは、と思われる方もいらっしゃるだろう。実際にこないだの土日、スキー場にて普通のお父さんが撮りそうな使い方をしたわけだが、気に入らなかったり失敗したカットはその場で消せるし、1カット内の必要な部分だけを残すといった整理がカメラ本体でできるので、それほどは困らなかった。 もっともこれは、筆者が元々ビデオ編集マンであり、撮ったものをバリバリ編集してしまうことに対してあまり抵抗がないという要因が絡むかもしれない。そういう意味では、このカメラは編集重視の人間に取っては、とてつもなく強力なアイテムなのである。 本体での編集は、ほとんど十字スティックだけで行なえる。一般的なビデオ編集のようにIN・OUTを決める方式ではなく、クリップを2分割していらない方を捨てる、という方式だ。ただ編集重視で考えると、メニューの並び方が今1つ洗練されていないように思う。決して頻度が高いとは思えない「スキップ」や「フェード」が先にあり、最も頻繁に使う「分割」が下から2番目という中途半端な位置にある。
またクリップを削除するときに、いったん削除モードに入ってしまったらクリップを再生して映像の中身を確認できないのがおっかない。なぜならば、「再生」ボタンが削除の「決定」ボタンを兼務してしまうからだ。削除はミスをすると取り返しが付かないので、単に「削除しますがいいですか?」みたいなダイアログを出すぐらいでは、まったく安全措置にならない。「切って」→「消す」という流れがもっとスムーズにできるようなメニュー構造だともっと良かっただろう。 一方パソコンに接続して編集する方法としては、前モデルのMV270からUSB 2.0に対応したことで、カメラをPCの外部ストレージのようにストレスなく使えるようになった。前モデルでは編集キットは別売だったのだが、今回のMV350ではケーブルやドライバ、ソフトウェア類は同梱である。編集ソフトは、以前の「DVD Movie Writer SE for DVDカム」から、「DVD-MovieAlbumSE 3」と「MyDVD 4.0」という汎用性の高い組み合わせに変わった。 DVD-MovieAlbumは一見簡単そうに見えて、使い方が飲み込みにくいソフトである。DTPできる人が年賀状作成ソフトの前で頭抱えるのと同じようなもの、とでも言えばいいだろうか。例えばプレイリストを作成するときには、映像のイン点アウト点を決められるのだが、設定時には映像の再生をポーズしなければならない。映像を動かして見ながらバンバン設定していくことができないのである。しかもイン・アウト間のデュレーションすらわからない。使っていて「なんだよそりゃ」と苦笑する場面が多い。MPEGの書き出しができるので、機能的には便利なのだが。 そのほかユーティリティとして、DVD-RAMの内容をHDDにコピーするツールも付属している。バックアップツールとして使えるだろう。ただしコピーしてくれるのはVR記録のビデオ部だけで、静止画を撮ったフォルダはコピーしてくれないので、注意が必要だ。 また本体には同梱されていないが、HDDにコピーした録画内容を見るには、PowerDVD XPなどのDVD再生ソフトを使うと便利。これらのソフトはVRフォーマットにも対応しているので、IFOファイルを開けば普通に再生できるほか、サムネイル表示によるクリップ選択も可能だ。
■ 総論 MV350は、敢えて点数を付けるならば「究極の80点カメラ」ではないだろうか。ずば抜けて光るところはないが、全体的に家電らしく手堅くまとまっている。カメラ部だけを見れば70点ぐらいなんだが、前モデルからここまでやった日立のがんばりと、ディスク記録の優位性を評価して10点オマケである。 本機には静止画が撮れる機能があるが、メガピクセル機ではないので、個人的にはこのモデルにはなくても良かったんじゃないかと思う。そういうのは、それが得意なメーカーがやればいいわけで、んーでもなぁ、そういうところにこだわる人もいるんだろうなぁ。 MV350はオートで気軽に撮れることを重視しており、高画質を求めたり、「撮ること」にこだわっている人にはあまり向かないかもしれない。基本的に性能買いをするカメラではなく、コンセプト買いをするカメラである。 気になる価格だが、ネットでは11万8,000円から一斉にスタートして、現在11万円台半ばといったところ。これから値段がこなれて10万円に近づくと、DVカメラの入門機と肩を並べるようになるので、かなり魅力的に映るだろう。 では筆者はどうするのか。今回のレポートではいろいろ厳しいことも書いたが、1週間ほど使ってみて、その安定性には十分満足した。今年5月にはメガピクセル機のMV380が出るが、筆者はDVDCAMに高性能を求めるよりも、小型故の使いやすさを取るので、次の旅行なり学校行事なりの前にでも購入するつもりである。少しでも待ってれば安くなるだろうしね。
(2003年3月5日)
[Reported by 小寺信良]
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