NS-P436は、サテライトスピーカー5本とセンタースピーカー、サブウーファを組み合わせた6.1ch用スピーカーパッケージ。構成するスピーカー自体は、発売済みの5.1chパッケージ「NS-P430」(38,000円)と同じものなので、NS-P436はNS-P430にリアセンター1本を追加したシステムといえる。 現在、ドルビーデジタルEX、DTS ESといった6.1ch収録のDVDビデオが増えてきており、とりわけ洋画の大作で目に付くようになった。また、エントリークラスを含めた国産AVアンプのほぼすべてが6.1ch(または7.1ch)での再生に対応してきた。以前にも増して6.1ch再生へのニーズが高まっているが、スピーカーパッケージ、あるいはアンプ付きのシステムとして6.1ch環境を提供している製品はほとんどなかった。そのため、同系統の音色のスピーカーを6本揃えるには、単品スピーカーのシリーズを軸に、リアセンターを加えるのが最も実際的な方法だった。 NS-P436は、こうした6.1chへのシステム入れ替えに格好な製品といえる。とりわけ、安価な5.1chシステムを使ってきたユーザーの次のターゲットとしては、価格も手ごろ。これにエントリークラスのAVアンプを組み合わせれば、5.1chシステムからの脱却が可能になる。
今回は同社のAVアンプの中から、下から2番目のクラスに当たる「DPX-AX540」を組み合わせて試聴した。3月上旬発売の新製品で、標準価格は49,000円。この価格で、80W×6ch(定格、6Ω)の出力と、DTS 96/24以外の主要フォーマットすべてに対応している。
AVアンプのフォーマット競争も行き着くところまで行き着いた感があり、デコードできるフォーマット数だけなら、エントリークラスでも過不足はない。アンプの仕事はデコードだけではないが、ようやく買い換えに大きなリスクが感じられない時期になったといえる。
■ 主な特徴 サテライト、センターともに密閉型で、サテライトが5cm径同軸2ウェイ+5cm径フルレンジ各1という構成をとり、センターは、5cm径フルレンジをもう1つ加えた3スピーカー。インピーダンスは6Ω。サブウーファを含めて、どのスピーカーシステムもコンパクトだ。しかし、エンクロージャにMDF(Medium Density Fiberboard)を使用するなど、本格的な作りとなっている。もちろん、すべてのスピーカーが防磁型だ。 サテライトは87×147×184mm(幅×奥行き×高さ)、重量1.2kg(1台)とかなりコンパクトなので、単体での設置は比較的たやすい。また、「SPM-5S」などの壁掛けブラケットも使用できる。部屋のコーナーに置けないリアセンターは、軽量さを活かして壁掛けで対応するのも手だろう。
サブウーファは上位モデルと同じく、同社独自の「A-YST(アドバンスド・ヤマハ・アクティブサーボ・テクノロジー)」を採用し、さらに、底部のピラミッド型拡散板へ下向きに放射するという「QD-Bassテクノロジー」を搭載している。この組み合わせは同社の上位モデルと同じ方式。さらに上位モデルをそのままミニチュア化したデザインのため、音質も期待ができる。 前面のバスレフポート上には、電源スイッチ、B.A.S.S.モード切替スイッチ、レベル調整つまみ、クロスオーバー調整つまみが並ぶ。B.A.S.S.は、「MOVIE」と「MUSIC」を切り替え可能で、MUSICにすると音楽再生に余分な低音がカットされるという。MOVIEでは30Hzからの低域再生が可能で、クロスオーバーは50~150Hzの連続可変。入力端子は、RCA(L/R)1系統を搭載し、低域信号にあわせて作動する3段階(切/弱/高)のオートスタンバイ機能も備える。
6.1ch AVアンプのDSP-AX540は、ドルビーデジタル、ドルビーデジタルEX、ドルビープロロジック II、DTS、DTS ES(ディスクリート/マトリックス)、Neo:6、AACに対応。さらに、再生音に対して「Sci-Fi」、「Spectacle」といった、同社製AVアンプでおなじみのシネマDSPおよびHiFi DSPをかけることができる。 さらに、ヘッドフォンでシネマDSPを再現するという「サイレントシアター」や、臨場感を損なうことなく音圧を抑えという「ナイトリスニング・モード」などを装備。プロセッサ/デコーダ部は、ハイエンド向けの「DSP-AZ1」などと同じYSS-938を採用する。 デコード機能だけ見れば、2002年のラインナップにおける「DSP-AX1300」(標準価格88,000円)と並ぶ。しかし、アンプ出力数が80W×6chなので、本格的なホームシアター用途としては少し不安を覚えるのも確かだ。また、樹脂を多用したフロントパネルやスイッチ類、自照ボタンや液晶ディスプレイのないリモコンなど、上位モデルとの差別化はあらゆる面に出ている。
■ 6.1ch再生時の実力 まず5.1chの再生を、ソニーの5.1chシステム「SA-PSD5」と聞き比べてみたが、さすがに格が違う。小口径なので音圧やスケール感はさほどでもないが、サテライトの発する情報量は、SA-PSD5に比べて大きく増えている。リアもクリアになったためか、臨場感も生々しくなった。多少、中低域が薄く腰高で、幾分かさついた音に感じることもある。しかし、価格とコンパクトさを考えると、個人的には十分納得できる範囲だ。 さすがにセット製品だけあって、サブウーファとのつながりもスムーズ。「スター・ウォーズ エピソード 2」に入っていた「THX OPTIMIZER」を試してみたが、クロスオーバーの継ぎ目をほとんど感じさせなかった。ただし、あまり下までは再生できていないようで、LFEの再生能力に関しては今一歩といったところ。オンキヨーのサブウーファ「SL-507」とも比較したが、「ジュラシック・パーク III」での恐竜の足音や、「U-571」の爆発音などは、SL-507よりも幾分軽く聞こえるケースが多かった。サイズを考えると致し方ないところだろう。 現在DVDの6.1chソースとしては、ドルビーデジタルEXとDTS ESが入手できる。それぞれのラインナップをざっと挙げてみると、ドルビーデジタルEXが「ハリー・ポッターと秘密の部屋」、「スター・ウォーズ エピソード 1 ファントムメナス」、「同エピソード 2 クローンの攻撃」、「A.I.」、「ブレイド 2」など。ワーナー・ホームビデオ製品が多いのに気付く。 一方、DTS-ESは、「セブン」、「千と千尋の神隠し」、「グラディエーター」、「ロード・オブ・ザ・リング コレクターズ・エディション」、「サイン」など。2002年7月発売の「千と千尋」がESなので、同ソフトの購入を機に、DTS ESの導入を考えた人も多いのではないだろうか。このほかにも、「実はDTS ESだった」というソフトがDTS収録ソフトにいくつかある。「モンスターズ・インク」もその1つだ。 また、ドルビーデジタルEXとDTS ESの両方が入っているソースもある。確認できたものとしては、「E.T. SPECIAL EDITION」、「ロード・オブ・ザ・リング スペシャル・エクステンデッド・エディション」、「ターミネーター2 スペシャルコレクション」、「アヴァロン」、「ラッシュアワー2」、「五条霊戦記」がこれに当てはまる。 DSP-AX540で6.1chソースを再生するには、リモコンの「6.1/5.1」ボタンを押して、ディスク中のフラグに従う「AUTO」にするか、もう一度押して、強制的に6.1ch化する「Matrix 6.1」を選択しなければならない。「Matrix 6.1」は、フラグを検出すると、それぞれ「Matrix EX」、「Discrete ES」、「Matrix ES」に変化する。 ただし、手持ちのドルビーデジタルEXソフト(上記ソフトすべて)については、フラグがなかったのか、Matrix 6.1にする必要があった。すると前面パネルは「Matrix EX」という表示になり、リアセンターから音が出るようになる。一方、DTS ESはフラグの検出に成功することが多く、AUTOの状態でもそのまま6.1chでの再生が可能だった。 5.1chの状態から6.1chに変えると、ドルビーデジタルEX、DTS ESともに臨場感が大幅にアップする。後方の移動音は当然ながら、ソフトによっては環境音がリアルになった。例えば、DTS ESソフトの「サイン」では、トウモロコシ畑をかき分けて進むシーンが強烈。周りから圧迫するような虫の声も、場面の効果に役立っているようだ。5.1ch時でも同じような雰囲気を味わえたが、臨場感ではDTS ESの方が明らかに上だった。
また、ドルビーデジタルやDTSといった5.1chソースを強制的に6.1ch化することもできる。リアセンターにより後方の定位が安定するためか、ソフトによっては大きく様変わりする。特に「エネミーライン」などのアクション作品は、強制6.1chの効果が高い。せっかくリアセンターがあるので、常時6.1chの状態にしておくのも面白いだろう。 こうしたストレートデコードに、シネマDSPを適用することも可能。映画用のモードは「Spectacle」、「Sci-Fi」、「Adventure」、「General」、「Enhanced」が用意されている。どれもヤマハAVアンプではおなじみの名前だ。それぞれに奥深い効果があり、ディレイ値などのカスタマイズも可能なので、ベストの設定を探す楽しみもある。 なお、2chソースに対しては、ドルビープロロジック、ドルビープロロジック II、Neo:6、Enhancedを選択できる。ドルビープロロジック II、Neo:6についてはさらに、「Cinema」と「Music」を選択可能。ただし、このままではリアセンターのない5.1ch再生になる。2chの6.1ch化は、HiFi DSPプログラムの1つ「6ch STEREO」だけが対応する。前後とも同じ音量で再生されるほか、高域と低域が少しだけ強調されているようなモードで、5.1chの「Disco」にリアセンターを加えたような印象だ。
■ まとめ 単品スピーカーしかほぼ選択肢がなかった6.1ch環境が、こんなにも安価に構築できるのことに驚いた。6.1ch再生に興味のある方はもちろん、これらからマルチチャンネルを始める人にもおすすめだ。6.1ch対応のAVアンプも驚くほど低価格になり、6.1chソフトも増えている。特に数年前の安価な5.1chシステムのユーザーなら、ステップアップに最適なパッケージだと思う。 なお、サブウーファは単品でも「YST-SW015」という型番で発売される。標準価格は2万円。RCA入力だけでスピーカーターミナルはないが、コンパクトなサブウーファが欲しかった人にはうってつけだろう。
□ヤマハのホームページ (2003年3月27日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
|
|