DVD-S75は、高さ52mmのスリムなプログレッシブDVDビデオプレーヤー。DVDビデオや音楽CDに加え、DVDオーディオ、MP3、WMA、JPEGなど、多彩なフォーマットの再生が可能。さらにDVDプレーヤーとして初めて、Microsoftと松下電器がリリースしたデジタルコンテンツ用のオーサリング規格「HighMAT」に対応している。PCと家電の再生環境の違いについては、頭を悩ませているAVファンも多い。HighMATに期待を寄せる人も多いだろう。 DVD-RAMの再生も可能で、これは「DIGA」などDVD-RAMレコーダとの連携を意識したもの。2001年11月の「DVD-RP91」(79,800円)以来、同社製のDVD製品でおなじみの機能となっている。しかし、据え置き型単体プレーヤーでは「DVD-H2000」(35万円)の登場以後、長らく新製品が現れていなかった。DVD-RAM再生機能を求めていた人にとって、S75は待望の新製品といえる。
そのほか、「字幕の位置指定」、「音声付き遅見再生」、ハイサンプリング機能の「ダブル リ.マスター」など、この価格帯の製品としては珍しい機能が搭載されている。字幕の位置指定や音声付き遅見再生は、おそらくプレーヤーでは初の搭載例だろう。また、ハイサンプリング機能は、単体のCDプレーヤーや、高級DVDプレーヤーに搭載されている機能だ。最近は価格競争が激しくなったためか、DVDプレーヤーの新製品といえば、似たような機能やデザインの低価格機が多い。それだけに、S75のような製品の登場は歓迎したい。
■ 薄い本体にコンポーネント出力を2系統装備 本体の薄さは驚異的で、テレビラックのちょっとした隙間にも押し込める。同社はこれまでにもDVD-XP30/XV10という薄型DVDプレーヤーを発売しており、今回のS75はその流れを汲むもの。XP30の薄さに、最近の同社製DVDレコーダの要素を組み入れたデザインといえる。 さらに驚いたのが透明パーツを採用したディスクトレイだ。ちょっと力を入れただけで割れてしまいそうな印象を受けるが、実際の使用に不安感は少なかった。なお、カートリッジ付きのDVD-RAMはセットできない。 プログレッシブ出力は、背面のコンポーネント端子(RCA)とD2端子から出力可能。このクラスの製品でコンポーネント出力を2系統装備するのは珍しい。テレビとプロジェクタの同時接続ができるので、プロジェクタユーザーにも歓迎されるだろう。
音声出力は同軸デジタルと光デジタルに加え、DVDオーディオのマルチチャンネル再生用の5.1chアナログ出力端子を装備する。なお、下位機種のS35は、5.1ch出力と同軸デジタル出力が省かれ、DVDオーディオのマルチチャンネル再生が不可能になっている。また、ダブルリ.マスターやデプスエンハンサーなど、一部の機能が省かれている。
リモコンは、ほとんどの機能をダイレクトに実行可能。ボタンの配置や大きさに不満はないが、裏面が角張っており、慣れないと手のひらが少し痛いかもしれない。また、自照ボタンや蓄光ボタンがまったくないので、シアター用途では使いづらい。 早送り/早戻し、スロー再生は各5段階。コマ送り/コマ戻しもカーソルボタンの左右で行なえる。スロー再生やコマ送り時の字幕表示にも対応。また、コマ送りは一時停止ボタンにも割り当てられている。特に、約7~10秒前に戻る「クイックリプレイ」が意外に便利だ。レコーダに良くある「30秒スキップ」とは逆の機能だが、セリフを確認するときなどに役立つ。音楽CDなどすべてのディスクで使用でき、JPEGディスクの場合は5枚ほど前の画像に戻る。 プリセットの画質モードは、「ノーマル」、「ソフト」、「ファイン」、「シネマ1」、「シネマ2」の5種類。ユーザー設定も1モード登録でき、設定項目は、「コントラスト」(-7~+7)、「明るさ」(0~+15)、「シャープネス」(-7~+7)、「カラー(色の濃さ)」(-7~+7)、ガンマ(0~+5)。これらに加え、「デプスエンハンサー」(0~+4)、「3次元NR」(0~+4)、「ブロックNR」(0~+3)、モスキートNR(0~+3)も設定できる。デプスエンハンサーは背景ノイズを低減し、3次元NRは画面全体のノイズを除去する。また、3次元NRを+4以上にすると「ドットNR」になり、色の境界に見られるドット状のノイズが目立たなくなる。ノイズリダクションの効きは強力で、テレビ録画したDVD-RAMの再生でも効力を発揮する。 ビデオDACは10bit/54MHz。そのせいか108MHz DACを採用する最近の製品に比べると、画面全体が若干にごりがちに感じられる。しかし、色ノリや発色の良さは高レベルで、印象としてはDVD-RP91に似た雰囲気。2万円台という価格を考えると十分満足できる品質だ。
なお、DMR-E20で録画したDVD-RAMを再生してみると、E20と同じようなプログラムナビが表示され、プレイリストもそのまま利用できた。読み込みに多少時間がかかるものの、ロードしてしまえば操作は快適。リビングとは別室のサブプレーヤーとして利用できそうだ。もちろん、番組の削除や編集は行なえない。また、編集部で確認したところ、DVD-RWのVRフォーマットで記録したディスクも再生できた。ただし、松下電器ではDVD-RW VRフォーマットの再生互換を保証していない。
■ 今のところ利用価値が低いHighMAT。今後に期待
HighMATに関しての解説は、関連記事の各記事を参照してほしい。S75が対応するのはレベル2で、WMA、MP3、JPEGの再生が行なえる。現状での対応機種は、DVD-S75と下位機種の「DVD-S35」、5CDチェンジャ付きオーディオシステム「SC-PM77MD」だけ。互換性という点での魅力はまだない。 HighMATディスクの作成には、Windows Media Player 9を使った。「デバイスへ転送」の画面中、右側の「デバイス上の項目」のプルダウンメニューを「CDドライブ-HighMAT」にすることで、HighMATディスクの作成が可能になる。後は、書き込みたい音楽ファイルを左上のプルダウンメニューから選ぶか、エクスプローラからドラッグ&ドロップして転送リストを作成し、「転送」ボタンを押すことで、書き込みが始まる。 作成したHighMATディスクをS75で再生すると、プログラムナビとプレイリストの両方で再生曲を指定できる。プログラムナビでは、「再生リスト」、「アーティスト名」、「アルバム名」、「ジャンル名」から絞込める。ただし、プログラムナビ上では曲単位で選択できず、アルバムやアーティストの先頭から再生が始まってしまう。その後、スキップボタンなどで目的の曲を探すことはできるが、できることなら目的の曲まで一貫したGUIを用意して欲しかった。
一方のプレイリストは、「プレイリスト」、「グループ」、「コンテンツ」で分類され、画面左側のタブを切り替えることで各分類を移動できる。この3つは階層構造になっており、プレイリスト、グループ、コンテンツの順で曲を絞り込める。しかし、各階層の基準が不明瞭で、1回しか書き込んでいないアルバム名がリストの2カ所に存在したりと、慣れないうちは理解に苦しむことが多かった。
最も致命的なのは、プログラム再生とランダム再生が行なえないことだろう。DVDオーディオや音楽CD、MP3ディスクなど、ほかのディスクでは可能なだけに、かなり残念だ。 使ってみて感じたのは「規格としてまだ未成熟」だということ。確かに、HighMATが狙う「PCのような操作性」での絞り込みはある程度実現できており、動作も非常に速い。しかし、最近のHDDオーディオプレーヤーやMP3 CDプレーヤーに比べると、UIや機能で劣る部分も多い。HighMATディスクを書き込んだWindows Media Player 9でも怪しい挙動が多かった。本領を発揮するのは、Microsoftのより本格的なライティングソフト「Shell Burn Wizard」や、各社のHighMAT対応ライティングソフトが出てからかもしれない。 なお、HighMATではなく、データCDとして記録したMP3、WMA、JPEGの再生にも対応する。HighMATディスクでのUIは使えなくなるが、プログラム再生やランダム再生は可能。曲検索も、前方一致検索やツリー表示があるのでそれほど問題はない。VBRのWMAにも対応。ただし、MP3、WMAともタグではなく、ファイル名で曲を表示する。ファイル名はJIS第1水準の漢字やひらがなを表示でき、表示も高速。これまでのMP3再生機能付きDVDプレーヤーに比べればかなり高機能だ。 HighMATディスクも初期設定で「HighMAT再生しない」にすれば、データCDとして再生できる。その場合、タグには対応せず、ファイル名のみが表示される。
■ 地味だが便利な機能を装備 S75の再生機能でユニークなのは、「字幕の位置調整」、「音声付き早見/遅見機能」、「ズーム機能」の3点だ。 まず、字幕の位置移動は、字幕を下方向に60段階で移動するもの。うまく調整すれば、字幕を映像の外に追いやることが可能だ。同時に、字幕の明るさを10段階で変更することも可能。暗いシーンでの字幕はまぶしくて目障りに感じることがあるが、この機能を使えば、目立ちにくいグレーへと明るさを落とすことができる。さらに、背景にあわせて明るさを自動調節する「オート」も設定できる。
「音声付き遅見機能」は、「DIGA」にも搭載された「音声付き早見機能」とは反対に、そのままの音程でゆっくりと再生する機能。速度は0.8倍速、または0.9倍速を選択できる。マルチチャンネルの場合、2チャンネルにダウンミックスされるという制約はあるものの、音声自体に不自然な感覚はまったくない。洋画ソフトでは早口の英語のセリフがしっかり聞き取れるのがうれしい。英語学習に利用できるかもしれない。 ただし早見、遅見とも、DVDビデオとDVDオーディオの動画部分(共にドルビーデジタル)のみに適用できる。DVDビデオのDTSやリニアPCMでは利用できず、DMR-E20で作成したDVD-RAMでも動作しなかった。テレビ番組を録画したDVD-RAMにこそ使いたい機能なので、この制限は非常に残念だ。 「ズーム機能」は、一般的なものとかなり異なり、画像の縦幅をテレビ画面にあわせたまま拡大し、黒帯をなくすというもの。いうなれば「プレーヤー側で指定するパン&スキャン機能」といった機能だ。リモコンの「ズーム」ボタンを押すたびに、切り出すアスペクト比が「4:3」→「ヨーロピアンビスタ」→「16:9」→「アメリカンビスタ」→「シネマスコープ1」→「シネマスコープ2」へと変化する。元ソースの縦横比が変わらないため、ワイドテレビの「フル」や「スムーズ」のような違和感は感じない。その代わり、上下左右が若干カットされてしまう。 そのほか、オーディオ面ではハイサンプリング機能の「ダブル リ.マスター」、映像信号の出力をオフにする「オーディオオンリー」など、志の高い機能を搭載している。ダブル リ.マスターは、44.1kHz、または48kHzのリニアPCM 2chソースを、それぞれ88.2kHz、96kHzにハイサンプリングする。音楽CD、DVDビデオ、DVDオーディオ、DVD-RAMで使用可能で、WMA、MP3にも適用できる。
■ まとめ 再生対応ディスクが幅広く、多彩な使い方に対応できるのがうれしい。この価格帯では久しぶりに面白い新機能を搭載した製品だ。NTSCへの変更機能はないものの、PAL信号も出力できる。また、漢字表示やダブル.リマスター機能により、MP3/WMAプレーヤーとしての機能もトップレベルにある。残念なのはHighMATの機能性の低さだが、非HighMATディスクとして読み込めば、とりあえず検索などの機能が使用できるようになる。 画質も価格帯を考えれば納得できるレベル。むしろこのクラスとしては無難にまとめられている。操作性もこなれており、数多い機能がうまくまとまっているのはさすが。後は、周辺環境を含めたHighMATの完成度が上がることに期待したい。
□松下電器のホームページ (2003年4月17日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
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