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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第104回:NAB2003レポート 2
~ 新世代の兆候が見られる放送機器 ~


■ 今年のNABは……

 先週はNAB2003取材のため渡米していたわけだが、どうやら無事に日本に帰って来られた。1週間留守にしていると、筆者の知らない間に水面下でいろいろな仕事が決め込まれており、いったいなにから手を付けたもんかわからない。とりあえずもう1回すべてを忘れて旅に出てやろうかと思ったのだが、それはあまりにもヒトデナシなので、とりあえず忘れないうちにNABレポートをまとめておこう。


■ SONY

巨大なSONYロゴも健在
 SONYに関しては前回もお伝えしたが、もうちょっと情報を整理してみよう。今回の大きな目玉は2つ。1つはハイエンドなHDフォーマット「HDCAM SR」の製品群、もう1つは青紫レーザー技術を使ったオプチカルディスクに映像を記録する報道用システムだ。

 まずはHDCAM SRだが、録画方法としては2つある。1つは4:2:2の1/2.7圧縮で記録する方法、もう1つは4:4:4の1/2圧縮で記録する方法だ。具体的な製品としては、先日もお伝えしたスタジオレコーダの「SRW-5000」、収録ではカメラの「HDC-F950」、ポータブルレコーダー「SRW-1」、プロセッサーユニット「SRPC-1」がある。

 SRW-5000はスタジオ収録や編集での使用を想定したデッキ。MPEG-4スタジオプロファイルによる記録で、オーディオトラックが12chあり、2カ国語放送でそれぞれが5.1chサラウンドといった使い方を想定している。発売予定は2003年10月で、国内での販売予定価格は900万円。コンシューマーからすれば目玉の飛び出す価格だが、初期のD1 VTRが1台2,500万円もしたことから考えれば、それほど高くて困っちゃうという値段でもない。

スタジオレコーダSRW-5000 同機背面パネル

 カメラのHDC-F950は、前モデルF900の光学部はそのままに、HDCAM SRに対応させたモデル。4:4:4撮影時は変則的で、2本の光ファイバーで映像を伝送する。1本は通常の4:2:2を、もう1本は0:2:2を出力し、プロセッサユニットSRPC-1でマージする。これを記録するのがポータブルレコーダーSRW-1で、4:4:4収録の際はテープが倍速で回る。すなわち通常の50分テープで25分収録できるわけだ。このときエンベッデッドされたオーディオも合わせると、トータルで伝送されるデータは1.2Gbpsにも上るという。

CineAltaシリーズの頂点に位置するHDC-F950 上部がポータブルレコーダーSRW-1、下部がプロセッサユニットSRPC-1

 もう1つの目玉、オプチカルディスクシステムは、青紫レーザーで記録するディスクメディアを使ってSD記録する報道用製品群。記録メディアはコンシューマーのブルーレイディスクと似ているが、フォーマットは全く違っており、ブルーレイとは互換性がない。

 このシステムの最大の特徴は、撮影時にプロキシデータという高圧縮の画像データを同時に収録する点。プロキシデータはインターネットなどの既存インフラを使っても高速に転送できるため、撮影現場からプロキシデータを局に転送し、撮影班がディスクを持って戻ってくるまでに編集作業をやっておけるというのが特徴だ。

 このようなシステムは、実は'96年に発表されたBetacam SXでも実現されている。このときは衛星回線を使ってプロキシデータを局に伝送するというシステムであったが、これが実現できたのはUSだけで、日本では電波法の関係から衛星伝送ができなかったという経緯がある。現在はインターネットというインフラがかなり高速に使えるようになったので、それを利用しようというわけだ。

 具体的な製品としては、まずカムコーダの「PDW-530」と「PDW-510」がある。530の方はDVCAMとMPEG-IMXの両フォーマットが切り替えで使用でき、510の方はDVCAMフォーマットでの記録のみとなる。内蔵の液晶モニタ上で簡易編集も可能という、ちょっとコンシューマー機っぽい機能もある。

 モバイルデッキ 「PDW-V1」は、ロケ先で簡易編集を行なうためのモニタ付きラップトップエディタ。カメラ用バッテリでもACでも使用できる。

オプチカルディスクカムコーダのPDW-530 モバイルデッキ PDW-V1。バッテリでも動作する

ハーフラックサイズのコンパクトデッキ PDW-1500 こちらはラックサイズのスタジオデッキ PDW-3000

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□関連記事
【4月8日】ソニー、業務向けのPC内蔵型青紫色レーザードライブ
-36万円で今夏よりサンプル出荷を開始
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030408/sony.htm
【4月7日】ソニー、放送市場向けの新開発光ディスクシステムを正式発表
-NABで展示。CNNやNBCで採用が決定
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030407/sony3.htm


■ Avid

SouthHall 1階の顔となっているAvidブース
 SouthHallの1階入り口で大きなブースを構えるのがAvidだ。米国におけるノンリニア編集システムとしてはダントツのシェアを獲得しており、常に多くの人でごった返している。

  • Avid Xpress Pro with Avid Mojo
 「Avid Xpress Pro」は、Avid Xpress DVの次世代バージョンとも言える編集ソフトウェア。カラーコレクション機能がかなり強力で、他社の編集ソフトを大きく引き離している。またPanasonic DVX100の24Pモードにも対応している。

 「Avid Mojo」は、折りたたんだノートパソコンぐらいのサイズのビデオインターフェイスユニット。アナログコンポジット、S-Video、DV入出力を装備し、PCとの接続はFireWireで行なう。

カラーコレクション機能が充実しているAvid Xpress Pro Avid Mojoは、小型の入出力インターフェイスボックス

 Avid Xpress Proはソフトウェア単体での発売も予定されており、USでの価格は1,695ドル。Avid Mojoも単体で販売され、価格も同じく1,695ドル。したがってAvid Xpress Pro+Avid Mojoの組み合わせでは3,390ドルになる。

  • Media Composer Adrenaline
 「Media Composer Adrenaline」は、Media Composerの新世代となる製品。3UのインターフェイスユニットではSDIなどのプロ用コネクタにすべて対応している。PC本体との接続は、Mojoと同じくFireWire。来年にはHD対応ユニットのリリースが予定されており、Avid独自コーデックで1/7、1/4圧縮によるノンリニアHD編集環境がいよいよ現実のものとなる。

Media Composer AdrenalineのI/Oボックス。上部に乗っているのはその背面 ドラフトモードでは8レイヤーのリアルタイム再生が可能

 SDフォーマットでは非圧縮での編集が可能。ドラフトモードで8レイヤー、通常モードで5レイヤーのリアルタイム再生ができる。ただしパソコン側のCPUパワーに依存する。

 ソフトウェアとハードウェアのセットで、USでの価格は24,995ドル。日本ではおそらくターンキーシステムでの販売になるという。

  • Avid DS Nitris
 「Avid DS Nitris」は、HDが編集可能なハイエンドノンリニアシステム。10bit非圧縮で2ストリームのリアルタイム再生が可能。SDでは非圧縮8ストリームが再生可能。元々Softimage|DSだった製品なだけに、合成にもかなり強い。製品ラインナップには、3D合成機能を省いたAvid DS Nitris Editorというシリーズもある。

 ハードウェアとしては、インターフェイスボックスのほかに、PC本体に専用プロセッサカードとコーデックカードを入れて使用する。インターフェイスボックスとPCとの接続は、専用ケーブルを使用する。USでの価格は14万ドルとなっている。

編集も合成もこれ1本でこなすAvid DS Avid DS NitrisのI/Oボックス I/Oボックス背面

□Avidのホームページ(英文)
http://avid.com


■ GrassValley

 フランスのメーカーThomsonに買収されたスイッチャーメーカーの老舗GrassValleyだが、放送機器のブランドとして名を残すことになった。同社はスイッチャーだけでなく、ビデオサーバーの製品群が充実してきている。そんな中、今回発表になったMシリーズ iVDRは、ビデオサーバーではなく、ビデオレコーダに相当する製品。

 記録レート別に3シリーズが予定されており、今回初お目見えしたのは一番低価格のDVCPro25フォーマットで記録するモデル。今年中に上位のDVCPro50/MPEG-2フォーマット対応モデル、来年にはHDモデルをリリース予定。今回のモデルでは入出力を2系統づつ持ち、基本的にはSDI入力が原則。オプションでDV端子も増設できる。

GrassValleyの新ディスクレコーダ、Mシリーズ iVDR iVDRは、フロントパネル下部にUSB 2.0端子がある iVDRの背面パネル

 Intelligent Video Digital Recorderを略して「iVDR」というだけあって、フロントパネルにある液晶モニタがタッチパネルになっており、本体だけで編集作業が可能。もちろん編集機に繋いで普通にVTRとしても使用できる。

 内部のアーキテクチャは、ほとんどPCに近い。DVD-R/RWドライブやMOドライブを増設して映像データをバックアップすることもできる。またUSB 2.0端子も装備し、テンポラリな外部ストレージも接続可能。

 スイッチャーの新製品としては、SD用小型スイッチャー「KayakDD」が登場した。16のプライマリ・インプットを持ち、1M/Eながら4Key、4DVEを内蔵できる。本体はたったの2Uというサイズ。

新スイッチャーのKayakDD 本体(下部)は2Uしかない

 旧GrassValleyのエンジニアと、同じくThomsonに買収されたオランダPhilipsの放送機器部門のエンジニアが初めて共同制作したのが本スイッチャーで、クロマキーヤーはGrassValleyの技術であるChromatteが採用されているが、パネルデザインは旧Philipsの流れを汲むという変わり種。

□GrassValleyのホームページ
http://www.thomsongrassvalley.com/


■ Adobe

 デザイン系のソフトウェアとして欠かせないのがAdobe Systemsの製品群だ。今回発表した「Encore DVD」は、プロ用のDVDオーサリングソフト。最初のリリースはWindows版のみとなる。

クリエイターに人気の高いAdobeブース 廉価ながら本格的なDVDオーサリングが可能なEncore DVD

 インターフェイスもAdobeの旧来の製品を知っていればすぐにわかるようになっており、画面デザインとタイムラインが配置され、リンクなどがドラッグ&ドロップで簡単に設定できるところなどは、AfterEffectsを彷彿とさせる。デザインツールを作り慣れているだけあって、ボタンの複製や配置も合理的に作業できるようだ。またボタンのデザインなどには、PhotoshopのローカルフォーマットであるPSDがそのまま使用でき、PhotoshopとEncore DVDを連動してデザイン修正が可能など、Adobeならではの使用感だ。

 現在ハイエンドなDVDオーサリングツールとして手軽に使える価格帯のものは、Appleの「DVD Studio Pro」ぐらいしかなく、Windowsで不自由な思いをしていたユーザーも多いことだろう。USでの価格は600ドル程度ということなので、価格面でも期待できそうだ。

□Adobeのホームページ(英文)
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■ Serious Magic

 ベンチャーで面白いものを見つけたので、ご紹介しよう。Serious Magicは、PCベースのスイッチャー/ノンリニアシステムのTrinityを作っていたPlay社が倒産した際にスピンアウトしたソフトウェアエンジニアが起こした会社。

 Visual Communicator Proは、たった350ドルだが、PC内に取り込んだビデオファイルやビデオカメラからの映像をスクリプティングして、簡単に自動送出するソフトウェア。例えばオープニングタイトルを出した後にエフェクトでスタジオカメラでキャスターが喋り、キャスターの原稿が終わるとトピックのビデオを出す、といった一連の操作を自動的に実行してくれる。

 さすがに地上波の放送局などでは使わないだろうが、CATVのローカルニュース番組などではかなり便利なのではないだろうか。

数少ないベンチャーとして気を吐くSerious Magic ちょっとした番組収録には便利なVisual Communicator Pro

いい加減な照明でもかなり綺麗に抜けるUltraKey
 「UltraKey」は、簡単な設備でクオリティの高いクロマキーをリアルタイムで実現するソフトウェア。現在はまだベータ版だが、デモではものすごく適当に当てた照明の中でもなかなか綺麗に抜けており、設定も簡単だ。

 リアルタイムでの使用だけでなく、ビデオクリップにも使用できるため、ノンリニア編集の補助としても使える。価格は795ドルと、クオリティの割には安い。リリース版で細かいカスタマイズがどのぐらいまで可能か、興味あるところだ。


■ 総論

 今回会場でよく聞かれたのが、「今回のテーマはなに?」ということである。全体を総括する言葉を探すのであれば、今回のNABは「HDノンリニア前夜」といったところだろう。

 今のところノンリニアでHDに対応できる製品は、かなりハイエンドなシステムに限られる。USではデジタル放送だからといって、コンテンツすべてがHDである必要はないと割り切っているので、HDの編集システムはそれなりにお金のある仕事ということになる。だからハイエンドなシステムしかなくても、あまり困っていない。

 しかし日本では普通のニュースからバラエティに至るまでHDでやろうとしているので、標準的なHD編集システムの価格が勝負になってくる。今のところ一番期待が持てそうなのは、来年HDに対応するというAvidの「Media Composer Adrenaline」かもしれない。もしくは専用ハードウェアでよければ、GrassValleyの「M iVDR」も簡易編集システムとして使えるだろう。

 今年末から地上波デジタル放送はスタートしてしまうわけだが、おそらく安定して使えるHD編集システムが出てくるのは来年後半から再来年になるだろう。とりあえず1年間、デジタル放送が評判を落とすことなく凌ぐことができるかどうかが、日本の放送業界の正念場だと言える。

□NAB2003のホームページ
http://www.nab.org/conventions/nab2003/
□関連記事
【4月9日】【EZ】NAB2003レポート
~ 速報性の高いニュースをピックアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030409/zooma103.htm
【2002年4月17日】【EZ】米国ブロードキャストに何が起こったか
~ NAB2002に現われた大きな変化を考える ~
【リンク集】NAB2002レポートリンク集
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/nab2002.htm

(2003年4月16日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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