■ 切って切って切りまくれ 2001年春にDVD-R for Generalのドライブが登場して以来、筆者はただひたすらMPEG-2ファイルを綺麗にぶった切ることに執念を燃やし続けていたような気がする。編集すると全体を再エンコードするようなソフトはハナから問題外だが、GOP単位でスパッとカットするソフトウェアが徐々に増え始めてきたのは喜ばしいことだ。 この手のMPEG編集機能を使ってやりたいことは、なんだかんだ言っても一つしかない。録画した番組からのCMカットである。多くのキャプチャカードでは、シーンチェンジを検出してIフレームを挿入するので、CMの先頭と番組の先頭には必ずIフレームが存在する。だからGOP単位での編集でも、CMカットが目的ならばむしろ効率的なのである。 しかし多くのMPEG編集ソフトが抱える問題のひとつに、レスポンスが遅いというところがある。番組をキャプチャしたファイルは、だいたい1時間とか2時間とかといった長尺になりがち。すなわち3GBとか4GBといった巨大な1ファイルをさくさく扱うというのは、なかなか難しい話のようである。 しかしそういうことをやってのけるソフトウェアが登場した。あのTMPGEncの姉妹品とも言える、TMPGEnc DVD Author(以下 T.D.A)である。基本的には名前の通りオーサリングソフトであるが、映像のエンコーダとメディアへの書き込みエンジンを持たない。まさにオーサリング作業に徹したソフトウェアだと言える。
■ DVDからも読み込める
入力できるソースはMPEG-1およびMPEG-2のほか、SONY VAIOのビデオキャプチャ環境であるGigaPocketで録画したビデオカプセルも直接入力することができる。これは最近のVAIOにはMPEGエンコーダとして「TMPGEnc DVD Source Creator for VAIO」が付属しているので、その関係による副産物的機能だろう。あるいは次期VAIOにT.D.Aもバンドル、というレールができているのかもしれない。 またユニークな点として、DVDに書き込んだ映像も読み込み可能となっている。VIDEO_TSフォルダを指定すれば、INFOファイルから情報を引っ張ってきて再編集できるというものだ。もちろん市販のDVDビデオが読み込めるわけではなく、自分でライティングしたDVDに限る。
この機能で惜しいのは、DVD-VRフォーマットで記録されたものに対応していない点だ。VRはT.D.Aのヘルプの中でも「レコーダ開発各社間でのVRF再編集の互換性が低い」という記述がある。もともと追記や再編集を可能にするために作られたのがVRフォーマットなのだが、この再オーサリングが難しいというのはなんとも皮肉な話だ。 複数のソースを読み込んだ場合、構造としては次のようになる。まず大きなくくりとして「トラック」がある。トラック内には複数の「クリップ」を読み込ませることができる。具体的にはこのクリップがMPEGファイルだ。各クリップ内には、「チャプタ」による分割を行なうことができる。つまり全体としては、トラック>クリップ>チャプタという構造になる。
ただしメニューに現われる単位としては、トラックとチャプタだけだ。ファイルの単位であるクリップは、あくまでも素材の単位であるので、1つのチャプターとしてDVDの構造に吸収されることになる。
■ 編集機能は快適 クリップを読み込んだら、編集機能を試してみよう。TMPGEncに「ソースの範囲」という範囲指定の機能があるが、基本的にはそれを強化したような感じになっている。
現在地点を示す画面の下にはフィルムロールが並んでおり、カットの変わり目がすぐにわかる。フィルムロール内のサムネイルがIフレームのところだ。サムネイル下のスライダーで大まかに位置を進め、特定のサムネイルをクリックすると、その位置がセンターへと移動する。「前へ」、「次へ」ボタンは、GOP単位での移動だ。センターの青いラインが編集点となる。 カットしたい部分の先頭で「開始フレームに設定」、カットしたい最後で「終了フレームに設定」ボタンを押して範囲指定し、「カット」ボタンを押すとその範囲が削除される。繋いだポイントで自動的にチャプターが打たれる。 特筆すべきは、そのレスポンスの良さだ。例ではキャプチャのために1分程度のファイルを使っているが、実際に先週の土曜日に放送されたゴールデンシアターの「ロビン・フッド」(2時間24分録画)で試したところ、それでもスタコラと動いてくれた。 また洋画を録画してDVD化するときに強力な機能がある。二カ国語音声それぞれをDVDのオーディオトラックに振り分けてくれるというものだ。二カ国語放送では、Lchに日本語、Rchに原語を放送しているのはご存じだろう。多くのテレビキャプチャ装置ではこれをそのまま録画し、再生するときにどちらか選択できるようになっている。 しかしMPEG-2ファイルを直接引っ張ってきてDVDオーサリングする場合には、この右と左で違う音声が入っているというのが問題になる。DVDでは言語の違うLRの音声を1トラックに入れてしまうと、後でどちらか一方を選ぶことができないため、左右から違う言語を喋るDVDができあがってしまう。
しかしT.D.Aでは、音声のLchをDVDの音声トラック1に、Rchを音声トラック2に自動的に振り分けるという機能がある。市販のDVDでは、オーディオトラックをユーザーが自由に選択できるが、これと同じことができるわけである。
こういう気のきき方というのは、やはりテレビ番組をちまちまとDVD化するという作業を本当にやってこなければ、生まれてこなかった機能だろう。
■ 最低限のメニュー作成機能 T.D.Aのもう一つの魅力が、簡単なメニュー作成機能だ。「ソースの設定」画面で構造を作っておけば、そのとおり自動的にメニューができあがっている。メニューデザインは、メニューなしも含めて6つから選ぶことができるが、そのうち2組はバリエーションなので、実質4種類だと思っていい。ただし背景には好きな画像を入れられるので、バリエーションで不満に思うことはあまりないだろう。 そもそもテレビから簡単にDVDを作ることを目的とした場合、いちいちメニューに凝ったりしないものである。多くのユーザーはメニュー作成に多機能を求める傾向にあるが、実際には面倒でほとんど使っていないと思う。サムネイル画像の入れ替えや、メニュー内にどのチャプタを表示するかの選択といったユーザーが欲しいだろうと思われる機能は搭載されているので、これで十分なはずだ。
メニューができあがったら、あとはビルドしてファイルに書き込む。T.D.Aでは、映像を再エンコードしないのでそれほどの時間はかからない。ただしオーディオは二カ国語放送をトラック分けするなどの場合は再エンコードを行なう。ちなみに前出の「ロビン・フッド」をCMカットしてファイルに書き出すまで、Pentium4 1.7GHzのマシンで45分ほどであった。
■ 総論 最近ではテレビキャプチャカードにも簡易的な編集とオーサリングのツールが付属するようになったが、これホントにテストしたのかよと疑問に思うぐらいうまくいかないケースが多い。編集点でうまくGOPが繋がらずに画面が乱れたり、ヒドいときにはそこで止まったりする。 こういった現実が積み重なって、「箱には簡単にDVDができるって書いてあるからみんなできるのかもしれないけどナゼかオレだけできない」と思っている人も案外多いのではないだろうか。 TMPGEnc DVD Authorは、こうしたテレビキャプチャしたファイルからDVDを作る際に横たわる現実的な問題を、ことごとくクリアするソフトウェアだ。以前、TMPGEncの開発者である堀 浩行さんにインタビューしたことがあるが、その時にMPEGの編集機能はぜひやっていきたいとおっしゃっていた。それが形になったのがTMPGEnc DVD Authorということだろう。 筆者がこれを「最強のCMカッター」と呼ぶのを、堀さんは心外に思われるかもしれない。だがMPEGの部分カット機能のレスポンスと安定性にかけては、現時点で最強のツールだ。テレビのこと、そしてMPEGのことをよく研究している。テレビからDVDへの最短コースを約束するツールと言えるだろう。
□ペガシスのホームページ (2003年4月23日)
[Reported by 小寺信良]
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