■ 待望の新モデルは2タイプ 昨年11月にデビューしたCoCoonの第1号機「CSV-E77」は、まさにSONYらしいセンセーショナルな製品であった。チューナを2つ用意して、自分で予約したものだけではなく、勝手に好みに合いそうなモノを裏で録ってくれるというコンセプトは、今までのビデオレコーダの常識を根底から覆すものだった。 しかしCoCoonという製品は、なにもこの機能のみを指すわけではない。第1号機からCoCoonというのは、次世代ビデオレコーダのコンセプトイメージであるということは明確に謳われていたのである。当然全く別コンセプトのCoCoonの登場もあり得るということが予告されていた。そしてその予告通り、別コンセプトのCoCoonが2タイプ登場した。1つはDVDレコーダ機能搭載の「NDR-XR1」、もう1つはホームシアターシステム「NAV-E900」および「NAV-E600」である。 SONYは早くから「Clip-On」というHDDレコーダシリーズを展開しており、それが最終的にCoCoonというコンセプトに行き着いたわけだが、これらは今までリムーバブルなストレージメディアを持たなかった。つまり「見たら消す」というタイムシフター的な要素が強かったのである。そして業界ではSONYがいつDVDレコーダを出すのか、そしてそのフォーマットは「DVD-」なのか「DVD+」なのか、はたまた最高に裏切ってRAMだったらどうしよう、いやいやSONYのことだから+RAMとかわけのわからねぇ新規格を引っさげて業界大激震だったりするとスーパー楽しいなぁなどといった無責任な憶測が飛び交っていたのである。まあそんなこと言ってたのは主にっていうかオレだけなんですが。 というわけで筆者的な注目はやはり、DVDレコーダ機能搭載の新コクーン「NDR-XR1」(以下XR1)なのである。今回はこのレビューをお送りしよう。
■ 新しいデザインキーワード まずはいつものように外観からチェックしていこう。CoCoon 1号機であるCSV-E77は、そのコンセプチュアルなデザインが目を引いたものだが、今回のXR1はわりとノーマルなDVDレコーダのデザインとなっている。 筐体はほぼ樹脂製だが、塗装技術はすぐれており、シルバーメタリック塗装にアクリルの透明感を貼り合わせた艶やかな質感はさすがだ。またフロントパネルのデザインには、今までになかった発想が見られる。DVDドライブ部を含む下半分が一段手前にせり出した感じになっており、基本操作ボタン類はそのせり出したトップ面にあるというものだ。
従来SONYのレコーダ製品では、斜めに切り出したラインを用いたり、オーガニックな曲面を用いるなどのデザイン的キーワードを持っていたが、このようにガッチリせり出した、しかも水平面にボタン類を配置したというのは珍しい。LED類も小さなポイントでまとめられており、大きく主張しないディスプレイ部とともに統一感がある。 唯一そのムードをぶちこわしているのが、ドライブトレー部に着いている銀ピカのバーだ。ドライブモノのデザインとしてはちょっと古くさい手で、ほかのデザインキーワードとどーも合わない感じがする。これだけはSONYデザインらしくない。 フロント下部のパネルを開けると、追加の操作ボタンと外部入力、それからメモリースティックスロットが出てくる。メモリースティックスロットは、デジカメなどで撮影した写真をスライドショーにして見ることができるというものだ。
では背面に回ってみよう。特徴的なのは、放熱ファンを2つも搭載しているところ。大きい方は電源部のファンで、手をかざすとやや暖かめの排気を感じる。小さい方は筐体内の放熱だろうが、常時回るわけではないようだ。ファンの排気音は、普段は電源部のほうだけしか回っていないこともあって、静かなほうだ。 端子類は整然と配列されており、アンテナ系は地上波とアナログBS。アナログAV入力は背面に1つと前面に1つの計2つで、前面にはDV端子もある。出力はアナログAVが2系統のほか、D1/D2端子が1つと光デジタル出力が1つある。
そのほかの端子としては、番組表へのアクセスといった特徴的なサービスにアクセスするためのEthernet端子、用途は決まっていないが将来的な機能拡張用として、USB 1.1端子がある。 リモコンは、CoCoon1号機のものとは趣を異にしている。メニュー操作のジョイスティックと、映像操作のレバーが別にあるところなどは、先日出たブルーレイディスクレコーダ(BDレコーダ)のリモコンと同じ感じだ。今回のリモコンは、高級感という意味ではBDレコーダほどではないが、機能が良く整理されている。また録画ボタン類は一段低くなっており、誤動作による録画がされにくいように工夫されている。
■ Web中心の予約システム クリップを読み込んだら、編集機能を試次に予約システムを見ていこう。CoCoon1号機では番組表はEPGから取得していたが、XR1ではこの手の情報源をネットワークに求めるといった方向に大きくシフトしたため、インターネットの番組表を使うことになる。リモコンの「番組表」ボタンを押すと、CoCoonのホームページとも言える「カモン! マイキャスター」内に設けられた「テレビ王国」の番組表が表示される。
表示内容自体はEPGの時とあまり変わらないのだが、本体内のバッファに貯めた物を表示するEPGと違って、Webの番組表はどこかへ移動するたびにいちいちロードし直すので、レスポンスは悪い。また広い範囲の番組表をいっぺんに俯瞰することができないので、番組表を眺めながら予約番組を探すといった使い方にはあまり向いていないようだ。 その代わりに、キーワードによる検索ができるのは、なかなか面白い。試しに「かに」で検索してみたところ、てっきり紀行物や料理物が引っかかるかと思ったら、出演者の「コリン・カニン」を探してくるあたり、なかなかどうしてヤッてくれる。また「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」なんてのが引っかかるので解説文を読んでみたら、「何者かに~」の「かに」を見つけたようだ。
この検索を「ダメじゃん」でかたづけてしまうのは簡単だ。だが筆者は、こういうものはそんなに賢くならなくてもいいんだと思う。例えば書店で本を探すときなんかは、その店独自の適当なジャンルわけがいい具合に自分にヒットするということがあるだろう。こういう適当な検索機能は、まさにそんな感じで思いがけない掘り出し物を引き当てる可能性がある。ちゃんとした検索をしたければ、それなりのキーワードを入れればいいのである。
チューナ部は、デジタル3次元Y/C分離回路や3次元DNRは有するが、ゴーストリダクションはない。画質設定は、HQ、SP、EP、SLPの4種類で、録画時間は以下のようになる。
画質に関して言えば、HQはもちろん問題ないレベルだが、それ以下となるとちょっと厳しい。最も使い出があるSPモードでは、全体的に輪郭が甘くなる傾向が強く、あまり積極的にお勧めできないのが正直なところ。これは以前から指摘していることだが、SONYのレコーダは画質面で他社に遅れを取っている。すべての機能がNo.1であれというのは酷な注文だとは思うが、バランスとしてもうちょっとMPEGエンコーダや、アナログ回路をがんばった方がいいと思う。
■ 注目のDVD録画機能は? さてこのXR1は、CoCoonの中で唯一DVD記録ができるモデルだ。この部分を最大のポイントと見ている方も多いことだろう。 XR1で使用できるDVD記録メディアは、DVD-RとDVD-RW。SONYでは独自にDVD±R/RWドライブを開発しており、この5月にもDVD±RW/Rによる記録が可能なDVDレコーダ「RDR-GX7」の発売を予定している。また同社のVAIOシリーズにもDVD±R/RWドライブが搭載されている。しかし今回のXR1ではDVD-R/RWだし、CESで発表されたDVDハンディカムもDVD-R/RWとなっている。 同じ社内でも製品によって搭載ドライブのフォーマットがまちまちという状態は、どう考えるか難しいところだ。同社内で派閥があるのか、あるいは単にコストの問題なのか、あるいは製品にバリエーションがあったほうがいいと考えたのか。いずれにしても、市場の混迷をより深めることになるだろう。 XR1に話を戻そう。DVDの作成だが、XR1の場合はHDDに予約録画したのち、整理してDVDに書く、というのが基本になっている。それというのも、XR1ではDVD-VRに対応していないので、メディアへの追記ができないから、という理由からだろう。 録画した番組の編集作業を見てみよう。XR1でできることは、タイトルにチャプタを付ける、タイトルの分割、タイトルの結合、タイトルからプレイリストを作る、といったところ。DVDレコーダの機能としては平均的である。また「オートチャプタ」という機能を使えば、録画時に5分おきや10分おきに自動的にチャプタを付けることがでできる。 難点を上げるとするならば、再エンコードしてもいいからDVD1枚に納めてくれるという機能がないところだ。実は2時間ほどの映画を録画したのだが、HQモードで録画してしまったためにDVD1枚には入らない。しかたがないので、途中で2つに分けて、DVD2枚に保存することにした。
これが民放ならばCMカットポイントで分ければいいのだが、あいにくなことにNHK BS2からの録画なので、そうもいかない。映画本編の中で正確なポイントにチャプタを付けるには、繊細な動画コントロールが必要になる。XR1のコマ送りはリモコンのレバーを使って行なうのだが、これがわりとおおざっぱにしか動かない。東芝のRDシリーズがきちんとフレーム単位でコマ送りできるのに比べると、シーンの変わり目を探すのはかなり困難だ。 そうも言ってらんないので、なんとか適当に2つに分けてオーサリングしてみた。オーサリングは非常に簡単で、ユーザーが行なうのはメニューのテーマを選ぶことぐらいだ。メニューのテーマは結構種類があり、それなりに魅力的なものが揃っている。
メニュー内のサムネイルはタイトル単位となっており、表示する画像はチャプタのサムネイルから選択するようになっている。タイトル内のチャプタを表示するサブメニューは作れない。
■ 総論 XR1はSONY初のハイブリッドレコーダとなるわけだが、CoCoonの名を冠している割にはDVDを積んじゃったら急に平凡になっちゃったナ、という印象を受けた。前モデルで特徴的だったダブルチューナや「おまかせ・まる録」といった機能がないからだ。またHDD容量も80GBと、DVDに出せるにしても従来製品に比べると平凡なスペックという気がする。 Network Digital Recorderというぐらいだからネットワーク機能はそこそこ力が入ってるのかナと思ったら、相変わらずネットワークで映像を配信するホームビデオサーバーのような機能はない。いわゆるLANに対してではなく、WANに対してのネットワーク機能なのである。WEBがテレビでそのまま見られるのはユニークといえばユニークだが、それがものすごく快適かというと、パソコンでの表示に慣れている人の目から見ればそうでもなかったりする。 肝心のDVD書き込み機能も、やはりHDDレコーダがベースになっているというところもあって、「とりあえず番組をDVDに退避できるようになりました」といったレベルで留まっている印象しか残らなかったのは残念だ。 だがネットワーク機能を大幅に重視したことで、今後のバージョンアップなどの管理は格段に楽になるだろう。内部的にはLinuxマシンなので、ソフトウェアの改良や機能追加などもあり得る話だ。また、「ブロードバンドAVルータ(HN-RT1)」を用いたIPv6接続実証実験などが示すように、今後のAV家電のあり方を考える意味でも大きな注目ポイントである。 もし「将来的にここまで機能がアップします」なんてプランがあるならば、145,000円という価格は先行投資として、まあそんなものかなぁという気がする。だが現在のところ、そういったプランは、示されていない。現時点での機能でも悪くはないが、競合製品の多いハイブリッドレコーダとしてコストパフォーマンスを考えれば、ずいぶんと割の合わない買い物のような気がする。
□ソニーのホームページ (2003年4月30日)
[Reported by 小寺信良]
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